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■過去のESSAY■
・牛肉
(2002.10.23)

-- 牛肉 --

 狂牛病だ、BSEだ(同じだ)、牛肉の価値が下がる昨今。かつて食卓の主役だったというおじさま方の以降を無視して、牛肉という食材のブランドは下がる一方。巷には輸入牛肉があふれ、280円で食べることができるどんぶり、一人前380円のカルビ焼肉、とどめは75円で食べることが出来る100パーセントビーフと唱われるハンバーガー・・・。

 そんな激安ビーフは、さらなる牛肉ブランドの失墜を招く。牛肉本来のおいしさとは無縁の、化学調味料にまみれた極めて人工的な味付けの牛肉が、牛肉全体の価値として捉えられ、牛肉が豚肉、鶏肉、羊肉等と何ら区別されるすべがなくなってきている。

 元来牛肉は日本国土で食されていたわけではなく、食材として取り扱うようになったのは云々・・・
 
 と私は牛肉愛護協会(そんなものあるのか)に属しているわけでもないし、ハンバーガーの肉を生産するためにジャングルの奥地を伐採して食牛の牧地にしているメーカーを徹底的に批判するわけでもない(そうでもないか)。実際私が知っている格安価格が自慢の某焼肉チェーンを見ればわかるが、価格を下げながらも徹底した品質保証を実現するために寝る間を惜しんで努力している。そういう姿を見ると、こうした牛肉が手軽に口に入る環境は決して悪いことばかりではない。
 では、何がいいたいか。それは、本当にうまい牛肉を私がついこの前食べたと言う自慢です

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 私の彼女の知人であるH夫妻の「本当にうまい牛肉を食べさせてやる(横柄な感じで)」という言葉につられ、横浜馬車道に足を運んだ私・彼女・H夫妻。いざ店を目の前にしてみると、「準備中」の看板が・・・店構えも手入れを敢えて行き届かせないような気配りが感じられる。一言でいうと、「客、きてなさそー」てな感じ。前回の熱海アンダーグラウンドでの記憶がいやがおうにもフラッシュバックしてくる・・・
 しかしH夫妻は「これがいいんだよー」といわんばかりの笑みを浮かべて「準備中」の看板が掛かったドアを何のためらいもなく開く。妙に明るい店内、牛肉専門店なのになぜか寿司屋のネタを並べるガラスケース(カウンターに置いてある奴ね)、「当店ではNASAの水を使用しています」と少々こわばった手書きで記されたなんのメリットも感じられない但し書き画用紙。唯一私をその場に押しとどめていたのは、案外クレジットカードの利用に対応しているというレジの表示のみ。
 「帰るなら今だ!」心の中で絶叫し続ける私・・・。

 しかし、こうした横浜アンダーグラウンド牛肉専門店への不信感は、逆にこのあと出てくる牛肉料理の味わいに対する絶妙なアクセントとなった。

 オードブル。なかなかいい。


 刺身盛り。なぜ牛肉専門店なのに?と言う不安を感じさせないほどのうまさ。


 そして本番その1。
 牛刺し。


 なんということだ。生の牛肉ってなんてすばらしいのだ。グルメっこがよくいう「舌の上でとろける」なんていうレベルはとうに飛び越し、「舌で消える」と言った方が正確。その刹那的な感覚の中に嗜好の味わいが隠されている。刹那的だからこそ、価値があるうまさ・・・

 ついに登場。本番その2。
 しゃぶしゃぶ。



 ごめんなさい。こんなの食べてごめんなさい。
 食べられないみなさんごめんなさい。
 甘いんっすよ。牛肉って。甘いんっすよ。しかもくどくどした甘さじゃなくて、なんつーか、ナチュラルな甘さなんですよねー月並みな表現しかできませんが。でも私牛肉ってこんなに甘くてこんなに単体で味わいがあるものだということを、改めて感じさせられました。
 適度に湯に浸し、桜色に変色する瞬間、口の中にポン酢を少々つけてほおばる瞬間・・・
 最高です!!!

 何のためらいもなくしゃぶしゃぶ牛肉を追加した我々。初めて体験する牛肉という食材の甘さ、味わいの余韻に浸りながら食したきしめん、薄切り餅もまた格別。
 いやー本当にうまいものを食べると本当に人って幸せになれるんだなあと、本当にうまいものを食べてわかりました。ありがとうH夫妻、ありがとう横浜アンダーグラウンド牛肉専門店。

 入り口で出迎えてくれた「NASA水使用」の画用紙も店を出るときには一層の食材へのこだわりのように感じさせられながら、もう当分280円牛丼やら380円カルビやら食べられないなあと冗談いいつつ、合計金額を書いた用紙を見たら・・・

 一人10000円。

 甘い味わいのする本当にうまい牛肉の値段は、決して甘くありませんでした・・・

■J


2002.10.23.
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