Re: 魏誌韓伝の国名

投稿者[ 游惟 ] 発言日時 [7月19日(金)07時53分50秒]

元の発言 [ 魏誌韓伝の国名 ] お名前 [ ピクポポデミ ] 日付 [ 7月17日(水)19時04分08秒 ]

>>韓国人は現代でも、語頭のrをnにしてしまうようですが、逆に中国人がnをrに間違ったか・・・

現代朝鮮北部(北朝鮮)では語頭のr音をきちんと発音するようです。例えば地名の「羅津」は韓国では「ナジン」ですが北朝鮮では「ラジン」。

また、朝鮮固有語には語頭にr音が来るものがない、といっても、韓国人が語頭のr音を発音できないわけではなく、r音とn音を聞き間違えたりするわけでもありません。現に「己」(リウル)というr・l音を表す子音字が15世紀のハングル制定の時から存在します。また「語頭にr音は来ない」というのもあくまで標準朝鮮語(ソウル方言)の話であって、どこかの方言においては語頭のr音が発音されている(いた)可能性もあります。
それに対し、中国人でも広東語話者などはr音とn音の区別が殆どできません。(「区別が出来ない」というのは「意識的に聞き分け、発音し分けることができない」ということで、前後の子音や母音との関係で条件異音としてはnもrも発音しています。)従って、朝鮮語を音訳した中国人がそういう方言を話す者であったとすれば、朝鮮語のnとrを聞き間違えた可能性もあります。

朝鮮語の歴史は1443年にハングルが制定される以前のことは殆どわかっておらず、ごくわずかな音訳文字文献によって断片的に知られるだけですが、その音訳文字で朝鮮語を記述した人間が、中国人であったか朝鮮人であったか、また中国人であればどの地方の方言を話す人間であったかによって、用字法は大きく異なるはずです。

私はかつて韓国に四年半、香港に三年住み、現在台湾に住んで二年になりますが、一口に「中国語」といっても、北京語・広東語・客家語・福建語・上海語・山東語・ビンナン語(台湾語)等、各方言で音韻体系や漢字音は大きく異なり、一般に言われるような「呉音」「漢音」「唐音」程度の大雑把な区別で音訳漢字を論じることは危険だと思っています。
ちなみに、日本の万葉仮名(借音仮名)に用いられている「呉音」というのは、おそらく山東省あたりの方言漢字音が朝鮮語に入り(つまり山東省出身の中国人が朝鮮人に漢字音を教えた)、それが朝鮮経由で日本にもたらされたものだとにらんでおり、今研究中です。

問題を整理すると、
@朝鮮語側の問題
現代朝鮮語話者は語頭のr音を発音出来ないわけではないから、三国志時代の朝鮮人たちが語頭のr音を発音していた可能性は否定できない
A中国語側の問題
朝鮮語を音訳した中国人がr・nを区別できない方言の話者であったとすれば、朝鮮人の語頭のnをrと聞き間違えた可能性もある。
B朝鮮語話者以外が朝鮮半島に住んでいた可能性
高句麗は元々ツングース系民族が建国した国であると言われるように、満州語その他のツングース系諸語を話す人々が起源1〜3世紀頃に朝鮮半島に住んでいた可能性も否定できない。(ただ、満州語などもやはり語頭のr音はないと言われている)

こんなところでしょうか。
いずれにせよ、朝鮮語もツングース系諸語も10〜12世紀以前のことは資料がほとんどなく、文献学的方法でこれらの仮説を検証することは無理であり、方法があるとすれば、テープレコーダーを持って各言語・方言を録音してまわり、それをまた中国の各方言話者に聴かせてどのように音写するか実験する以外にないでしょう。





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