Brian Eno
The Shutov Assembly

(Opal/Warner Bros.,1992)945010-2



イーノにしてはそれと分かる形でシンセらしい音を堂々と使ってい
るし、音の密度も濃く(沈黙がほとんどなく、常に「何かが鳴って
いる」)、緩やかなので気付きにくいけれど旋律的な曲も含まれて
いる。彼のアンビエント的作品の多くが実はそうなのだが、これも
「アンビエント」と名乗ってはいない。それでも掴もうとすると逃
れる不定形な響きのかたちと、霧のようにリスニング・スペースを
包み込む空気は、ここでも継承されている。

選択的聴取というのがイーノのはじめのアンビエントのアイディア
だった。聴いたり聴かなかったり、あるいは部分的に聞こえなくな
ることを積極的に新しい音楽の聴き方として肯定するような音楽だ。
例えば最も長い演奏時間(16分)の「IKEBUKURO」を聴
いてみると、この曲のテーマとも言えるG# のオクターヴの2音の
モティーフの後に、遠くから聞こえるバイクのエンジンをふかすよ
うな音が現れる基本型が繰り返され、延々と持続する。この音の背
景には前述のテーマを引き伸ばしたような流動的なドローンが流れ
ている。「ディスクリート・ミュージック」同様、大きな変化を持
たない音楽である。つまり、ところどころで聴いたり、他の生活音
にかぶったりする音という、イーノが想定したアンビエント本来の
目的に適った音楽になっている。しかし、その生活空間への溶け込
み方が、これまでのアルバムとは異質だと思える。

かなり高い周波数帯域の音が多く含まれていることが、その要因の
ようだ。冷蔵庫のモーター、ハードディスクのファンの音などに近
い電子的な連続音が頻繁に聴かれる。だからこそ、このディスクは
現在私たちが置かれるすっかり電化された生活空間に同調しやすい
かもしれない。人間の声の帯域に最も近い楽器と言われるチェロに
暖かさを感じるのと同様、こういう音にやすらぎを感じてしまうこ
ともあったりするのが「今どき」、ということなのかもしれない。


・Evening Star ・Discreet Music ・Ambient #1 ・Airports by Bang on a Can
・Ambient #2 ・the Pearl ・Music for Films ・Apollo ・Ambient #4

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