Brian Eno
Music For Films
(Editions EG,1978)EEGCD 5
『オン・ランド』同様、架空の環境を作り出すかのような音楽が含
まれている。イーノが映画音楽として作曲した音楽を集めたこのア
ルバムだけれど、ほとんどが特定の映画のためのものではない。つ
まり不特定の映画(将来利用されることを待つ)のためにあらかじ
め書かれたものということらしい。すでにある映像や状況を特徴付
けるために後から付加される音楽ではなく、匿名的な場所や時間・
空間つまり「環境」が意識されている。
各曲はごく短く、三つの意味で映像的だ。一つは音楽が風景のよう
に、抽象的映像を呼び起こすこと。二つめはメディアに慣れ尽くし
た私たちがすでに知っている「いかにもな映画音楽」のステレオタ
イプであること。そして、映像を伴ってはじめて音楽の意味や効果
を実感できると思わせる、もうひとつのメディアのために余白を残
された簡素な音楽であることの三点において。
一般的な意味でのアンビエントの特徴、例えば10分を超える演奏
時間が聴き手の時間感覚を日常から切り離すといった効果は、ここ
では少し後退している。音色や音楽の構成を見ても、アコースティッ
ク・ギターがかなりはっきりとした形でメロディー楽器として扱わ
れたり(トラック2)、感情に訴えかける<情緒的な>曲であった
り(トラック5〜8)と、アンビエントという言葉を一度忘れて、
普通のインストゥルメンタル音楽として捉えることのほうが適切か
もしれない。
ところで、このアルバムが映像関係者へのプロモーションを兼ねて
いる(使用したい場合の連絡先が記されている)こと、スリーヴに
は「このアルバムはここ2、3年に録音された作品の断片の編集盤
である」*というイーノの言葉が載せられていることを考えれば、
多くは2分を超えないこれらの音楽が、実際にはもっと長いヴァー
ジョンから編集されたものであることが予想される。
演奏時間が短いことで、アンビエント的な始まりも終わりもないと
いう開放された時間、あるいは正反対にアンビエント的没入(この
この二面性がアンビエント一般を特徴づけている)に至る前に次の
曲に移っていく。カットせずに20分持続するヴァージョンがもし
あるなら、イーノによる他の多くのアンビエントと同質の響きになっ
たであろう曲も含まれている(筆者の印象では、トラック3と10な
どがそうだ)。
アンビエントとはなにか、を考える際に、演奏時間という要素を付
け加えてみることも有効ではないだろうか、と思わせるディスクで
ある。
*ライナーノーツより引用者訳。
・Evening Star
・Discreet Music
・Ambient #1
・Airports by Bang on a Can
・Ambient #2
・the Pearl
・Apollo
・Ambient #4
・The Shutov Assembly
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