Brian Eno
Ambient#4−On Land
(Editions EG,1982)
このディスクでイーノは、1曲ごとに疑似環境を作り出している。
それぞれの曲にはテーマとも言える特徴的な音が含まれていて、そ
れらの変形を伴う繰り返しから音楽が構成されているが、音の発生
と動きは不規則な印象が強い。混沌とした音響空間がそれ以前のア
ンビエント作品以上に指向されているように聴こえる。各トラック
それぞれが特徴的で、通して聴き進めると全く別の場所から場所へ
とリスナーが移動し、多様なサウンドスケープに取り囲まれる感覚
が得られる。以下、主な音素材についていくつかのトラックを選ん
でメモしてみると、
Track 1 低いドローン、水中の音、動物の鳴き声のような音
Track 2 波のように繰り返される風の音、カラカラいう音
Track 6 鳥、カエル、低いベース、うなりを持つドローン
ディスクを実際に聴いてみることで、それぞれの曲の持つ強烈なト
ポス性(固有の場所の感覚)が体験されるだろう。水や動物など、
タイトル通りまさに「土地」の響きである。強調しておきたいこの
「土地」というものが、このアルバムの鍵である。それは「場」と
いうものを設定することとアンビエントを作ることは、時には同義
であるからだ。
ところで、固有の音環境を再生させるこのアルバムは、リスナーが
いる環境(リスニング・スペース)に存在する音との融合はある意
味で難しいかもしれない。そういった点を考えると、この音楽はア
ンビエントと呼んでしまうよりも、それ自体が「アンビエンス」
(ここでは「環境」の意味)としての自律性を持っているのではな
いだろうか。誤解を承知で言えば、これは例えば自然音を収録した
CDなどと近い性質さえ持っているのではないかと筆者には思われ
るのである。
もちろん、「せせらぎの音」などを自室で再生する際に避けること
のできないある種の無理、オーディオ装置の限界によるその自然環
境音のリアリティの低さといったつまらない問題とは徹底的に無縁
であることは言うまでもない。『オン・ランド』の価値は音楽家イー
ノが音素材を吟味して、熟慮の結果作り出した魅惑的な響きにある
ことを無視する類の話ではない。この魅力がすべての前提であるこ
とは言うまでもないだろう。
この終始はっきりした旋律を持たないアルバムを「音楽」というよ
りもずっと抽象的な響きの世界として捉えることも可能であるだろ
うし、もちろん音楽・音響作品としても楽しめる。旋律的素材がこ
れまでのアンビエント・シリーズ中最も抑制されたことによる、
<音響による疑似環境生成>と<音楽>との狭間を往復する実験が、
ここで行われている。
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