1951年
香港貧民街
男子が産まれる
李さんは弟に龍と名付けた
無論、強さを求めての命名だった
産後の措置がまずかったのか、程なく母親は死去
父はそれ以前に亡くなっていた
だから、まだ幼い李さんは独りで乳飲み子を育てる事になった
実質、抱いている事しかできない子供はどうしたか
人脈を広げるしかなかった
「中」の連中は敵に回す事は自殺行為だった
「外」の安っぽい優越感を擽り、食い物を得る
香港は観光地であり、外には浮き足だった観光客も多くかった
なんとか、なんとか生き延びた
兄弟共に強い生命力だった

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1970年
兄弟はそれぞれ組織の要員となっていた
兄はその希有な人脈構築テクニックを
弟はその希有な暗殺作戦テクニックを
兄は生を
弟は死を
対照的な兄弟だった

龍は当然武術を習った訳ではない
習得したのは暗器、つまり隠し武器の使い方
ソレは手品師を相手に喧嘩をする様なモノだ
鳩の変わりに袖口からナイフを飛び出させる手品師
いくら武術に長けたモノでも恐怖を感じてしまったらその技能を活用する事は出来ない
攻撃箇所についても同様だ 素手で衣服の上から攻撃する気にはなれない

その出目も一種独特な恐怖を内外に与える事に一役買っていた
組織内外に無言の強制力を働かせるに足だけに恐怖
畏怖

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1980年
組織.........李さんは華僑の信頼を取り込む事に成功
かつて無い規模の組織として大成した
しかし一方
闇の奥の闇
小心者が嘘の上塗りを重ねるように、龍は恐怖を確固たるモノにし続けていた
より強く、より恐れられる存在に
畏怖させるためにより巨大な畏怖を与え続ける
そして「誰も望まない事を強要する事は出来ない」として行動をしていた
麻薬も人豚もこの頃から使い始めた
それは大きな利潤を生んだ

この男が誰彼に求めたのは強さだった

私もそうだった

そして二人とも弱さに妥協する事を知らなかった
相手により試練を調整する事を知らなかった

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1985年
組織が二分する
一方、李さんの指揮する組織の骨子部隊
方や、龍の指揮する組織の実利益部隊
龍は暗殺部隊の長だった
無言の畏怖が決着を付けた
李さんは武術の心得がない
誰しも、龍の自信、畏怖の源である武術をうち砕ける者はなかった

李さんは朱美を連れて香港を離れる
中国........否、大陸では他の組織に狙ってくれと言うようなモノだ
だから日本にやって来た
いつの日か朱美が龍を諭すだけの力を付ける
闘う理由を憎悪以外に向けたとしても、龍より強くなれる事を悟らせる

他に方法が思い当たらなかった

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1987年
華僑の情報網は世界最高の調査範囲を持つ
故に朱美を鍛えるだけの情報はすぐに収集できた
そして朱美は自分のためにその仕事を片づけた
朱美は幾らでも強くなった
戦闘動機は違えども、龍に追いつけるだけの強さを得る事は出来るのだ

その仕事の一つ
朱美は雅美さんと出会った

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1989年
私が彼らの物語に登場する

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1994年
龍が直々に日本へやってきた
人豚の素材調達と麻薬の卸販売


月光を浴び、龍と対峙する
私が、走る
敵に護衛は無い
一撃で決める戦闘スタイルには打って付けの条件
私の最も得意とするところだった
しかし、あっさりと拳が、蹴りが空を切るだけに終わる
冷静さを失う
其処にナイフで応戦される
ナイフ?
いつの間にか手にナイフが握られている
得も言われぬ恐怖
私の知らない瞬間にナイフを握っている
隠し球がソレだけか判断着かない
完璧に虚を突かれている
恐怖
体が強張り、動きが自然と鈍くなる
それでも何とか矢継ぎ早に繰り出されるナイフと蹴りをかわす
いつの間にかナイフが仕舞われている
恐怖
龍の肘が入る
体が宙に舞う
海に落ちる

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1999年
数年ぶりに龍が海を渡る
目を付けた「可能性」は成長を続けていた
もう少しだった

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2001年
雨の中、断罪を待つ
殺すのは、お互いに簡単な間柄
それでも拳を交わす事を選ぶ
何に期待しているのだろうか
お互いに同じかも知れない

何のために強くある事を選んだのか
そして強くあるべき理由を賭けて、闘う

最初に出会った時は暗器に恐怖を隠せなかった相手
傷つく事を恐れた相手
そして今、見事に恐怖を殺した事を証明した相手

奴隷を得るには金を贖うか命を救えばいい

望んでいた結果なのかも知れない
否、結果は生きている内には出ないモノだろう
コレから何が出来るだろう
彼の願いを聞くにはまだ充分に命が持つはずだ
一度此方が奪わなかった命が、今この命を奪わずに居る
その願いを聞かない訳にいかない
それは、望んでいた結果なのかも知れない

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組織は在り続ける
滅びは大きな波紋を起こす
だから、組織の血を換える
少しずつ、ゆっくり
50年で育った組織の体制
100年かけて変えれば良い

組織は在り続ける

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to be continued

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