1998年
私が普通の営業マンに就職して3年
高校卒業時にまるっきり普通の女の子とつき合って、すぐ振られてからは女っ気無しで通っている
単に、望んだ状況と言えば有る意味そうだが女という安全地帯、最終兵器、逃げ口、安定所が無いだけ
辛かろうが、哀しかろうが、死にかけて生き残って性欲持て余そうがどうしようもないだけ
ひたすらに、暗躍だけを続けていた時代
生き物は、子孫を残す
子孫が天敵に喰われる等、子孫を残せるまで成長する可能性は下等な動物ほど低い
だから下等な動物ほど子孫の数をばらまいて、全体数を増やす事により個体が生きる可能性を上げているのだ
人間も同じだ
他の動物ではなく、人間という枠内で殺し、殺されているだけだ
そして運の良し悪しで誰が殺されているかを決定されてるに過ぎない
可愛い女の子が居る
その娘が来年には結婚して綺麗な花嫁になるかもしれない
しかし全く同じ確率で明日にでも強姦されるかも知れない
相対的に花婿よりも強姦する人間が少ないから、花嫁になる確率の方が高いのは勿論だ
しかしここで扱うのはその可能性ではない
強姦する側が目的をその娘にするか他の娘にするかの可能性だ
故に、暗躍の基準は被害者に求めてはいけない
加害者をどうするか、その一点だけに絞って判断するのが暗躍の基準という物だ
機械なら何の疑問もないだろう
しかし、機械なら闘う動機もないだろう
運良く、強姦、殺人等に関わらなかっただけの、普通の、圧倒的大多数の一般人の幸せそうな顔が大嫌いだった
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1999年
最大級の暗躍
良い趣味の船だった
忘れる事の出来ない恐怖
龍が来ている
女に癒される事無く暗躍を続けて来た結果、戦闘で恐怖の感情を殺す事に大分慣れた
その代わり、ひねくれる
他者の幸福に触れると彼らの知るよしのない不幸を教えたくなる
そして、敵と見なした相手には容赦が無くなる
勿論、一番許せないのは女を物扱いする連中だ
そして最悪の事態の一つに「人豚」というモノがある
龍のビジネスだ
日本の素材を仕入れに、龍は来ていた
有る香港行き客船の一室
ゆらゆらと揺られながら全裸でパイプ椅子に座らされていた
力を持っていても、それ以上の力を相手が持っていたら無力と同然という事だ
全裸で気の強そうな女に身体を調べられるのも状況が違えば楽しそうではあるが、
状況より何よりその後で鞭を振るわれたのには閉口した
痛みで意識が遠のくなんて滅多に体験出来る事じゃない
極短い時間で開放された
私が提案した賭けの準備だったからだ
私の提案した賭けの内容
龍が指定した船室で、1時間過ごし、この船を沈める事が出来るかどうか
私が勝てば、人豚の禁止
私が負ければ、私も人豚に
中国人らしく、龍は易を信じていた
勿論統計学である易は私も信じるが.......
易というモノは運命の方向性を決めてもソコに向かう強さは個人に委ねられるとも信じている
その易を視るに私が龍の天敵であるらしい
そしてそれ以上に、私の略歴は龍個人の興味を引いていた
だからこそ、成立した賭け
私という存在が賭けの対象なのだから、双方とも大博打だ
しかし、その博打前の前哨戦で素っ裸に剥いて鞭振るわれると思わなかったが........
流石に一回の戦闘で私の手癖の悪さは見抜いたらしく、格技を封じたつもりらしい
船を沈めるには船底を破壊するか、機関室で圧をいじくるかすればするのが手っ取り早い
又は、結果的に船の重量が重くなりすぎれば良い
そんな馬鹿は戦時中の大和ぐらいなモノだが
入念に調べられた只の服が返却されて、船底に近い一室があてがわれた
ばたんとドアが閉められる
とりあえず服を着る 靴は履かないでコートの中に包む 背中に靴ひもで結いつけておく
それから扉にバリケードを作る脱出する時間も稼がないといけない
ガラスを叩く 硬質ガラスだ ちょっとやそっとじゃ割れそうにない
私がした事は単純で、簡単な事だった
椅子を引いて部屋の中央にある熱感知火災報知器に触っただけである
映画じゃ火をおこしたりたばこを使ったりするが実際は指の体温だけで十分なのだ
当然、火災報知が鳴り響きスプリンクラーが作動する
船は水を積んでいる その水を放水し始める 結果的に船としての総重量は決して増えない
しかし、船のタンクが空になったらどうするか?
海水をポンプで汲み上げて放水し続ける仕組みになっているのである
開始から僅か数分 乱暴にドアが叩かれる 流石に、気付くのが早い
当然、この船の性質から海上保安に無線を飛ばすハズがない
私は硬質ガラスと格闘中だ
放水を続けさせるために5分おきに火災報知器も触らなければならず、手こずる
幾ら硬質だろうがなんだろうがガラスはガラス
応力の集中している箇所は決まっている
拳、肘、蹴り 肉体限界まで攻撃を打ち込み続ける
ガラスは砕け散りなんとか人が通れる位の穴が空く
当然、寒中水泳
服を手渡される時に龍が言った言葉は真実だったと思う
人豚になる事すら希望する娘も居る
自暴自棄といえばその通りだが、結果として彼女らはマゾヒズムの最高快楽と安定を手にする
被害者が居るのか?
私は応えた
テメェがむかつくんだよ
可能性を殺しやがる
きっとその時、満ち足りた幸福感を得ていたら立ち向かう事はしなかっただろう
そして、それからも
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1999年
鏡羅と李さんを初めて会わせた時
その結果を聞けた
船は沈まなかったらしいが、新しい人豚は現れていないとの事だった
龍は紛れもなお私の敵であり、しかし一方で尊敬も同情もできる強敵だった
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to be continued
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