1999年
渋谷
おもちゃ箱をぶちまけたような街
高いビルの屋上から見下ろす
綺羅綺羅と光が明滅する街
天を仰ぐ
星は見えなかった

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1989年
私は女の子を護れなかった
好きだの愛だの恋だの言っておきながら安寧に身を任せていただけだった
彼女が自殺する様を初めから終わりまで眺めていた
結局のトコロ自分が一番可愛いのだ
荒くれの餓鬼どもをはり倒すくらいは訳無い
しかし、あくまで格闘術では秀でているからに過ぎない
それは勇気じゃない
力の強い物が力の弱い物を相手にしているだけだ
相対的に自分に危険が無い相手を張り倒しているに過ぎない
恋に殉じた師に追いつくどころか、蔑まれても仕方ない
自分より強い者に立ち向かったことは少ない 本当に少ない

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1999年
世紀末の夜
さながら不夜城の街
眠らない街は、終電を過ぎた頃からより物騒になる
他人のトラブルに無関心になる
そのトラブルも別に珍しいことでは無かった
背の高い男が前を歩く三人に殴りかかった
まともに拳が入る
つんのめる仲間を見て残りが振り返る
「あ、てめっ!」
どうやら顔見知りのようだ
男がもうひとりに蹴りを入れる
なかなかの回し蹴りだ
顎に入る
当てようとして蹴ったのは初めてなのか、それとも理性に怒りが勝っているのか容赦のない威力を乗せていた
だが其処までだった
最後の奴は既に拳を振りかぶっていた
蹴りを出した不安定な姿勢の男にはその拳が防御出来なかった
顔面に喰らう
痛そうな音がした
最初に不意打ちを食らった奴が怒りも露わに腹を殴る
うっと前屈になった男の髪を掴み鼻に膝が入る
男も、三人の方も武術を学んでいる動きだ
そして少なくとも、三人の方は喧嘩慣れしている
「ざけんなっ!糞ったれっ!」
男を引き倒して蹴りを入れ始めた
いわゆる、リンチという奴だ
「ケーコの事で怒ってンのか?」
「テメェの女じゃねーだろーが!」
「殺すぞ!こらっ!」
本当にこういう連中は語彙が少ない
そして熱中するとまるで周りに注意が行かない
私が先刻から眺めていることにも気づいていないだろう
尤も、気配を殺しながらだから目視されない限り気づきはしないだろうが
男はサッカーボールよろしく頭をガンガン蹴られ、腹につま先を入れられていた
小動物をあざ笑い玩ぶように三人は男の自尊心を陵辱していた
何より愚劣だったのは三人は楽しんでいた
きっと恐怖を味わったことがない
男は鼻血を出しながらまだ牙を剥いた
「テメェらがむかつくんだよ!」
一瞬、嬲る手が止まる
反撃は一撃だけだった
横凪ぎに手套を打つだけ
その手も踏みつけられ、更に怒りを買う
三人は愉悦の表情を浮かべた
「おい」
低く、声を掛ける
三人が振り向く
完全に振り向く前に中央の馬鹿に肘鉄を食らわす
返す手で裏拳を右の男に放る
男達は困惑していた
多少の喧嘩慣れが私の実力を認めてしまったから余計だ
左の奴の頭を掴み壁に押しつける
眼鏡が歪んだ
手を離して右で殴る
無言で三人を殴り続ける
反撃を試みた奴は特に入念に殴る
恐怖を教えてやる

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独り、ズタボロになっていた男が私を見上げている
三人は追い払われ、私と二人だけ
男は警戒を解いていなかった
そこに手を伸ばしながら訊いた
「闘う手段が知りたければ教えてやるが、どうする?」

男は私の手を握り返した

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to be continued

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