2000年

足音を潜め 息を殺す
ゴム製の薄い黒塗り手袋を填める
鍵は......良いぞ、開いてる
安っぽい倉庫の扉は蝶番が錆びてきている
蝶番を押さえながらゆっくりと扉を開く
光が漏れてくる............充分に目を慣らしてから中を覗く
調査資料は正確だった
一見すれば只の乱交
服は破られてはおらず、男連中のソレと一緒に畳んで置いてある
しかしその実は長期に亘る強姦、つまり性奴隷としての扱い、だった
資料では.......ふん 半年、らしい
流石に半年もたてば警戒心も緩むし、女も抵抗をしなくなる訳だ
初めから抵抗できればしているだろうし、な.......
良くあるのはいきなり強姦されて写真を撮られてというケースだ

さ、て 相手は三人
女に乗って此方を向いている奴が一人
その両脇に一人づつ立っている
この扉から10歩という所か
間合いまで8歩.........疾る!
先ず向かって右の男に蹴りを入れた
真横から膝に入った衝撃で派手に転ぶ
向かいに立っている奴の視線が此方を向く
きゅっ
私の靴底が軽い音を立てる
蹴りを放った右足をそのまま軸足に左の回し蹴りを放った
奴の咽に踵を当てる
きゅっ
やっと事態に気付いた男が顔を上げる
その顔面に振り下ろした裏拳が入る
髪を掴み膝を入れて鼻と前歯を折っておく
数秒で全員にダメージを与える事が重要だ
そして全員の服を後ろ手に放り投げる
コレで、私を倒さなければ全裸で逃げることになる訳だ
実際問題、ソレは出来まい
警察に保護されればそのままお縄頂戴となる事は明白だろう
女から鼻血を出している男をひっぺがし、ざっと女を観察する
ボディピアス......耳にも穴がないのに?
火傷の痕?.......タバコ、か
先ほど咽に蹴りを入れた奴が一番元気だ
呼吸が整えば何らか行動を起こすだろう
ゆっくりと近づき、のたうち回る男の喉笛を蹴り上げる
コレで2分は心配ない
最初に蹴りを入れた奴ががなり散らす
片足の関節にダメージが有るのだから立つことも辛いだろう
ナイフなんか持ち出してどうする気だ?
座り込んだ奴がナイフを振り回しても怖いハズがない
投げることを思いつく前に脳震盪をくれてやろう
ゆっくりと近づく
幾らでも叫ぶが良い
女も悲鳴をあげたことはあるだろう?
誰にも聞こえないのはお前らが一番良く知っているハズだ......
靴底で前頭部に蹴りを放つ

そして、常に私は立っている
奴らには尻餅を付かせておく
私は常に高い位置から見下さなくてはならない
常に強いモノでなければならない
力で支配してきた者は力で組み伏せるのだ
制裁は奴ら同士でやらせる
嗜虐には嗜虐を
ボディピアスにはボディピアスを
タバコにはタバコを
額にはバカと彫ってやれ
性器にタバコを押しつけてやれ
許しを乞うても耳を貸さない
女も許しを乞うたはずだから
女の人格を壊したのだから、此奴らは人格を壊されても文句は言えないハズだ
裁判所の判決によれば、レイプ犯人の罪はおおよそ2〜3年の懲役で精算されている
何食わぬ顔をして、執行猶予で悠々としている奴もいる
信じられないくらい刑期は短い
被害者の女性には一生苦しむ人も居るというのに
しかし、私は女性のために叩くのでは無い
この腐った快楽主義者を殴ること、それ自体が目的で闘っている
故に、未だ放心状態の女に興味はない
「ここから消えなさい 二度と此奴らの顔が見たくないのなら」

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「流石、いい手際ですね」
独特のイントネーションと含み笑い
10年以上日本に住んで居る大陸出の男
名を李という
日本読みで「スモモ」とも読めると教えたら面白がって通り名にした変わり種だ
「........でも、時々考えるよ」
「何か?」
「私のしている事は........罪状にすれば傷害、器物破損、不法侵入.....etcだ」
「関係ないでしょ」
「ああ......暴力は暴力で組み伏せる ソレが最良の手段と信じている
 私が考えるのは、奴らも私も結局は同じ穴の狢ナンだよな、と言う事」
「んー つまりは全て性格の違い、だけだと?」
「流石、明察だ
 連中も私もやりたいようにやってるだけで、その善悪基準が性格に因るだけなんだから」
「それはそれで良いでしょう
 貴方がソレを正しい事と思える限り
 思い切りやりたいように成されるのが一番です」
「闘う理由 いや、目的が私には無い」
「貴方が解放した方は喜んでいます」
「そう、か.......」
「そうです」

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適当に.......今日は品川駅の前だ.....車を止めて別れた
冬の風は冷たく、死んだ思い人を邂逅させる
少し、早足で家路を急いだ

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電灯をつけてコートをとる
コンビニで買ってきたレトルトのカレーを電子レンジに突っ込む
彼処の店員はいつも時間を間違えるので最近は自宅で温めていた
冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、そのまま口を付けた
咽から胃に冷たいお茶が流れていくのが解る
人心地が付いた
テレビを付ける
さして面白くもない人気タレントが手を抜いた番組を垂れ流していた
電子レンジをテレビの真上に備えているので画像が乱れている
ソレが止み、電子音が調理の完了を告げる
今日初めて買ったこのカレーは美味くなかった
珍しく電話が鳴る
とると宗教の勧誘だった
面倒なので受話器を置きっぱなしにして放っておいた
簡素な栄養補給が済んで受話器を耳に当てると電話は切れていた
受話器をかけ直してパソコンに灯を入れる
友達は居ない
少なくとも、予期せず電話を掛けてきてくれるような友達は
まっすぐ、電子メール用のソフトを立ち上げた
新着メッセージが一件
新しい仕事だった
返信ボタンを押して、承諾の旨を伝える
土曜、日曜で有れば問題は無かったから
回線を切断して横になった
気付かない内に微睡んでいた
起きると日付が変わっていた
今日は.......いや、昨日は日曜だ
もう一度目を覚ますと月曜だ
生活のため、会社に行かなければならなかった
そういえば納期遅れをしている物件があった
布団に入り、寝直す
私は昨日助けた女の顔を思い出せないことに気付いた

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会社の始業は9時だ
8時50分頃に会社に入り、仕事を始める
私の仕事ぶりはそれなりに評判が良かった
ただ、それだけだ
昼は面倒なので立ち食いそばですませる
その後、本屋に寄るのが日課だった
私は本が好きだった
何の準備も要らないし、開くだけで読める
時間や場所を選ばないエンターテイメントだ
マンガでも小説でも哲学書でも、兎に角好きだった
文庫本を一冊買って会社に戻った
7時まで残業
コンビニで弁当を買って家で温めて本を読む
そんな事を5回繰り返すと仕事の日になる
仕事は..........面白い
社会人という生活は、面白い
本当に成すべき仕事は、未だみえなかった
私は何をしたいのか
闇に紛れ、闇を狩る
それがどうした
私も闇だ
そして................どうなるのか
私は年をとる
闇は老いない

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to be continued

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