FAQ on ambient





仮想FAQ。質問者は架空の人物で、これまでメールを頂いた中から出てきた
質問、というものでもありません。自問自答の現在の形です。




それにしても世間ではいろいろな音楽にアンビエントという言葉が
あてられているのを頻繁に目にしますね。

ええ。そういった無数の材料(音楽)からヒントを得て、結晶を取
り出すようにアンビエントを成立させうるような要素を見つけるこ
とが有効なアプローチだと思います。
あながち極端な言い方ではないと思うのですが、「自称アンビエン
トはすべてアンビエント。他称するアンビエントもそう」でいいの
ではないかと思います。「これはアンビエントでそれは違う」とい
う仕分けをするのではなく、音楽が持っているどんな形態(「どん
な形態の音楽がアンビエントか」ではありません)をアンビエント
的と呼んでみましょうか、という幅を持たせたいのはそのためです。

とにかく、アンビエントは、はじめからそう呼ばれているもの以外
の音楽からも聞き取ることのできる響きの状態である、とは少なく
とも言えると思います。



え、じゃあ、テクノはともかく、あのニューエイジもアンビエント
なんですか?


そう呼ばれる可能性を持っている音楽が、そのようなカテゴリには
多いと思います。あるいはヴォーカルのある音楽、さらにはある種
のクラシックにもアンビエント的なものはあると言えるでしょう。



○○○をアンビエントなんて呼びたくないんですが。
あれはやっぱりただの「BGM」だと思います。

×××こそ、アンビエントの真髄だと思うんですが。

△△△のことをを「あんなのはアンビエントだよ」って言う人がい
てムカつきました。アンビエントなんかじゃないと思います。


最初と次の方は「アンビエント」を敬称のようにお使いですね。
最後のあなたは「アンビエント」を差別語、蔑称のようにお考えで
すね。

私が思うに、アンビエントという言葉は「響きのありかたの説明」
にすぎず、本来えらいださいの価値判断を持っていないと思います。
ほわんと心地よい、何となく聞き流してしまえるレコードがあると
しましょう。このレコードが大好きな人は「アンビエントみたいに
聞き流すなんて」と怒るかもしれません。
あるいはまた、ショパンの夜想曲のような実は複雑な響きを持った
「芸術音楽」として認知される作品であっても、その表面的な心地
よさからBGMにすることも可能です。スーパーでもかかってます
し。ストリングスアレンジですけどね。

とにかく、アンビエントという語法に近いテクノであったりニュー
エイジだったり、ある種のクラシックにアンビエント的感触を感じ
取ったりという、リスナーの得た感触という結果が問題なのであっ
て、音楽自体の価値に応じて称号のように与えられたり反対にバカ
にするために使われるカテゴリ名ではない、ということにしておい
たほうがいいと思います。
「ジャズの名盤」や「駄作のジャズ」という言い方には誰も異論は
ないのに、「アンビエント」ばかりをカテゴリそれ自体の高尚さだ
の安っぽさだのの代名詞としてなぜ判断するのでしょうかね。

たぶんそれは、このカテゴリ自体の歴史が長くなく、いまだ未知数
であり拡張を続けている過程にあること、もうひとつは聞き流せる
と同時に思索や研究の対象になりうる可能性を持っているかもしれ
ないという点では、他のカテゴリと何ら変わりない多様性(=みん
ながいろんなことを言うだけの広さ深さ)によるのかもしれません。
ちょっと月並みなオチですけど。

→この項目に関する別稿がこちらにあります。



「アンビエント」と「環境音楽」とはどう違うんですか。

結論から言って、違いは呼び方程度のものと考えていいと思います。
と言ってしまうとこれはちょっといい加減な答えなのですが、つま
りはリスナーの目的を想定した制作サイドによる呼称が実際のとこ
ろその音楽をあまり上手に説明しきれていない、曖昧なままで内実
にはそう大差ないことが多いということなのです。しかしなぜこう
いう名前が付いたのか、原点のようなものを見てみることにはある
程度の意味はありそうです。

'ambience'と'environment'はともに「環境」の意味を持っていま
す。ところで、前者には取り囲むこと(もの)の意味が強く、一方
後者にはその意味は希薄であるようです。例えば音響関係の用語で
「アンビエンス」というと「アンビエンスが深い」などというよう
に、残響時間が長い空間(これは何かに囲まれている必要がある)
のことを言うようですし、一般に言う「環境」たとえば「環境問題」
は'environmental problems'となります。

「アンビエント=環境音楽」という印象のもうひとつの大きな要因
は、自然環境音を収録した効果音CDの存在でしょう。ここではむ
しろ先のように一般的な「環境」の意味、つまり 'environment'
であるということになります。これら二つの流れの存在が、「アン
ビエント」「環境音楽」という言葉へ集約されているのでしょう。
つまり、「アンビエント」の訳語として「環境音楽」が用意されて
いるというより、本来はむしろそれぞれが独立した存在なのではな
いかと思えるのです。両者が混同される以前は。

・「聴き手の場を包み込む環境を新たに作り出す音楽」
  (ambient music)
(ただしこれには環境改変のためのいわゆるBGMを含むことも)
・「ある環境にマイクを置いて収録してきた音源」
  (environmental music/sound)

という二つの原型的な傾向が見て取れます。

前者はその環境創出、包囲の度合にはかなりの強弱があり、通常の
音楽を流しておくBGMに最も極端な例を見ることができ(これは
アンビエントとは呼ばれませんが)、一方ではより控えめなものと
して聴かれる(ほとんど聴かれない)ことを想定したイーノに至る
までさまざまです。また、後者は上記の通りを意味するものです。
もちろん「環境音」は、そうして収録された現実音を加工すること、
あるいは音環境を収録時点で加工する(音響彫刻を設置するなど)
ことによって新たに創作された音楽として「作品化」される可能性
があります。

さて、こうして見ると 'ambient' のほうがなにか偉そうでありなが
ら、BGMまで含まれるとちょっと、という気がしたり、'environ-
mental' は安易そうな印象を受けるかもしれません。やはり、前項
で扱ったように言葉自体に価値判断を持たせることの限界をここで
も見て取れます。どういう名前であろうと、価値は作品自体、そし
て聴き手が決めてしまっていい問題であることをここで繰り返した
いと思います。名称の違いにこだわってみるのは、こだわらなくて
いいことをはっきりさせたいから、とも言えます。




ブライアン・イーノを通らないとアンビエントはわかりませんか?

回答者が「〜を聴かずして」という物言いが大嫌いだから、という
訳ではないのですが、必ずしもそのようなことはないと思います。
アンビエントというものをはっきりと言葉で説明し、それを音化し
たディスクを出したことでイーノは重要です。それにもちろん、手っ
取り早くアンビエントに近づこうという際には極めて見通しよくそ
れが可能となり、また楽しむことができるのが彼の言葉といくつか
の音楽であることは確かです。

そして、イーノが「無視できる音楽」と言ったこともポイントとな
ります。ただし、イーノ自身が実際にそのアイディアをもとに(そ
れも、従来のBGMとははっきりと差別化した)アルバムを作った
にしても、彼自身、自分一人をアンビエント作家とするのでもなく、
また始祖であることを主張している訳ではないと推測されます。な
ぜならイーノが言ったことはそれ以前の音楽に可逆性をもって適用
されるからであり、もちろん以後にもアンビエントは多く生まれて
います。ある音楽が無視できるものかどうか、という観点から作ら
れたのではなくとも。彼以前・以後を含めての音楽の「聴かれ方」
を提示したことは、「家具の音楽」のエリック・サティ、「環境の
芸術化」のジョン・ケージらと並ぶ、イーノの業績として記憶され
るべきものです。


以下、このサイトの内容に関して


「アンビエントの諸相」リストはどのように選択して編集してい
 ますか?

はい。音楽自体が持っている要素、演奏・エフェクトに関するもの、
リスナーの内的反応に関するもの、そして音楽とリスナーにとって
第三者である環境音について、取り上げています。特に環境音につ
いては、第三者と言いましたが、実際にはこれを音楽に取り込むこ
とを目的としたアンビエントもありますので、こう呼ぶには微妙な
場合もある、ということにポイントを置いています。つまり、「人
と作品、環境」との関係です。




あなたはあるディスクを本文中で何の前提もなしにいきなり「アン
ビエント」と呼んでいることがありますが、その根拠はどこにある
んですか?

「アンビエント、その一般的解説」にまとめたように、アンビエン
トに関するおおまかな合意事項が出来ていると思います。同ページ
にある要素を踏まえて、これはアンビエント的、と言う場合があり
ます。そして、前の質問での「諸相」では私なりに探したキーワー
ドによって、もう少しディテイルを詰めているという訳です。




1999.11.25,2000.08.21 1999-2000 shige@S.A.S.





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