34   Wind−a breath of heart−(minori)
 
 丘野真(変更不可)は妹ひなたを連れて戻る。記憶さえ不確かな懐かしき故郷へ。故郷の名は風音市。この地で人々はなぜか不思議な、ほんの些細な力を振るうことが出来る。しかし、その理由を知るものは誰もいないのだった。
 
 minoriの第二弾。発売前に新海誠氏制作のたいへん美しいオープニングが公開されて話題になりました。私が一作目に続いて買う気になったのもこのデモを見たがゆえ、です。しかし、あまりの出来に肝心の本編に一抹の不安を感じていたことも確か。
 
 初回特典(?)はスペシャルディスク。中身はデモの高画質Ver(要クイックタイム)、ボーカル曲のフルコーラスVer、それに新海誠氏の最新作「ほしのこえ」予告編が収録されてます。
 で、真実の初回特典は強制終了を含んだ諸々のバグ。残念ながらそれなりの頻度で発生します。ここもどうやらそういう体質の持ち主であるようです。修整ファイルが公開された時には私はすでにコンプリートしていたのでどの程度、治っているのかは検証していませんが、取りあえずあてておきましょう。セーブファイルは継続して使えるようですし。
 
 システムは前作と同じくオーソドックスなビジュアルノベル。マニュアルにはインタラクティブ・ノベルとありますが、どのへんがインタラクティブなのか私にはわからず。このあたりも前作と同じ。
 構造的には一本道だった前作とはさすがに違って、共通シナリオ+ヒロインごとの個別シナリオに分岐するお馴染みのスタイルになってます。
 足回りは「BITTERSWEET FOOLS」のものを踏襲、改変したものを使用。デザイン的にも同様。これを手抜きと見るか伝統ととらえるかは微妙なところ。個人的には作品の雰囲気に応じて変えるべきだと思うので、マイナスイメージ。フィレンツェと日本で同じ雰囲気ってことはないでしょうし。
 使い勝手は前作よりも明らかに向上。しかし、メッセージスキップは不思議な仕様。アイコンによるスキップは異常なまでに遅く、既読未読を判別しない上にどういう訳か律儀にボイスを再生しながら進行します。オートモードとも違いますし、一体これはなにがしたかったんでしょうか。スタッフに質問したくなりました。
 Ctrlキーによる強制スキップは他作品に比べて早くもなく遅くもなくというところ。当然ながらプレイ中はこちらを使わないと勝負になりません。ちなみに私はコンプリートしてからこの事実に気付いて枕を涙で濡らしました(つまり、それぐらいアイコンによるスキップは遅いってことです)。
 メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。表示されたメッセージをクリックすれば音声を再生することも可能。ホイールマウスにも対応してくれたのは親切かと。
 各キャラクターごとの音声のON/OFF設定が可能。後述しますが、ボイスがあまりにアレな方がいるので、この機能はたいへん重宝しました。
 
 シナリオはもうなんと言っていいやらわからない出来。突っ込むところが多過ぎてどこから手を着ければいいやら悩むくらいです。
 まずシナリオライターのレベルはかつてないほど低いです。少なくともシナリオ重視を謳うゲームでは。
 ライターは純粋に書いたことのある文章の絶対量が少ないのではないでしょうか。記述が統一されておらず、形容表現もところどころ意味を間違えて使用しているのが見受けられます。さらにあまり多くの人間が読んでチェックしていないのか、相互に矛盾する情報も多いです。
 プロットはそれほど悪くはないと思うのですが(実はそもそも存在するかが疑わしい)、だからといって本文が良いとは限らない、実現するにはそれなりの能力が必要という好例となってます。
 ゲームは4月からだいたい夏休みくらいまで。初めは毎日の様子が描かれますが、しばらくすると期間をおいての話になっていきます。
 日常会話に重きを置こうとしている姿勢は評価できるのですが、そこで交わされる会話はとてもセンスがいいとは言えません。たいした意味もなく長文だったり、突発的なネタ振りを多用したり、あげくに中間テストと期末テストで全く同じ内容を使ったりとなかなか極まってます。初めて見た時にはバグかと思ったくらいですから。
 やたらキャラクターの語りが多いのも今作の特徴。誰かが唐突に喋りまくり、他の人間(おもに主人公の役目)は合いの手すら入れることが出来ません。というより会話になっていないように思います。
 別に語りを入れるのが悪いとは言いません。しかし、日常会話でも使ったり、まるで台本でも用意しているような型にはまった長広舌はどうかと思います。
 不完全な日常会話に隠れるように主人公とヒロインの仲が近づく様子が描かれているのですが、こちらはそもそも分量が足りません。圧倒的に。
 主人公が自分の気持ちをヒロインに吐露することがないので(プレイヤーにも、ですが)、ひたすらヒロインがアピールするだけになってます。中にはそれを逆手にとったようなシナリオもありますが、これのために主人公の態度をゲーム全体にわたって徹底させたのならいっそ尊敬しますが、そんな訳ないでしょう。そんな技巧が使えるくらいなら、こんなシナリオになっていないと思います。
 設定にも大きな難があると言わざるを得ません。冒頭のあらすじにもあるように、キャラクターたちはなんらかの力を使えるのですが、これが物語を都合いいように進める小道具としての役目しか持っていません。個人的にはあまりにもあからさま過ぎて、力を使うシーンが来る度に興醒めしていました。この設定はもちろんシナリオ本筋にも絡むのですが、それを踏まえてなお設定の意義を疑いました。
 そもそも本当にこんな都市があったら、他の都市とは隔離されて自由な出入りとか出来ないと思うのですが。住人は研究機関のモルモット扱いは必至でしょうし。
 また、詳しくはネタバレなので伏せますが、オチが「BITTERSWEET FOOLS」と同じというのはどうなんでしょうか。
 キャラクターの言動や事実の記述、それに設定にも関することですが、今作は説得力というものが決定的に欠けています。
 キャラクターには重みが感じられず、情報は統一されておらず、設定は穴だらけ。これらが合わされば説得力や(お話と踏まえた上での)リアリティがなくても当然でしょう。
 さらに今作では主人公が全くと言っていいほど成長しません。これはかなりの痛恨事かと。物語の面白さの半分がないも同然な訳ですから。
 総合してシナリオライターに尋ねたいのは、書き上げた自分の文章を読み直しましたか? イエスならそれに満足しましたか? ということ。どんな答えが返ってきても私は満足しそうにないですが。パッケージにある「心を豊かに描き出すシナリオと声」は絶対に嘘だと思います。
 
 CGは緩急、あるいは落差があり過ぎ。イベントCGは非常に美しいですが、まるでその反動のように立ちCGは酷い仕上がりです。どのくらいかというと、同じキャラクターとして認識するのが厳しいくらいでしょうか。個人的にはこの絵はイベントCGに対する侮辱と判断します(まぁ、立ちCGの担当者が描いたと思われるイベントCGもありますが)。あとは彩色の問題もあるかと。
 皮肉なことに、立ちCGは見ている時間も長く、ある意味でイベントCGよりも大事ということを再確認しました。
 ムービーは前述したように新海誠氏制作のものが2本入ってます。残念ながら画質はあまりよくありません。スペシャルディスクには入っていますが、そういう問題ではなく。せめて選択方式にしてくれれば。
 見応えある2本はどちらも痺れるような出来です。才能の煌きというものをまざまざと見せてくれます。本編とのギャップに泣きそうになるのが玉にきずですが。
 
 音楽は前作よりも良い感じの17曲。今回は自然に流れているような曲(「BITTERSWEET FOOLS」参照)ではない模様。
 ただ、ゲーム中に数回しか使用しない曲を含めてこの曲数なので、どうも同じ曲ばかり聞いていたような印象が残りました。
 ボーカルは3曲。挿入歌は全てのヒロインで同じような使われかたをしていたので最後の方では少し飽きてました。というか、せめて1キャラ1回にすれば良かったように思います。
 ボイスの平均点はかなり低いです。メインヒロイン役は今、最も忙しいエロゲー声優なのではないかという、春野日和さんなので何の問題もないのですが、その他の方々があまりにも微妙な、まさに当落線上に位置する実力の持ち主ばかりなのでかなりツライです。
 今作は主人公以外はフルボイス。個人的には男性にも声を望むので、そのこと自体は嬉しいのですが、主人公の悪友のあまりのうるささに閉口しました。開始1周目のエンディングを待つことなく彼の声は永久に封印されることに。
 
 まとめ。一番大事なものはやはりシナリオだと再認識させてくれる作品。外注スタッフの作ったムービーと本編は関係ない、でも可。
 ムービー、キャラクターデザイン(外見)、ボーカルの高いレベルに他の要素がついてこれなかったのが敗因。絵図面は良かったのかもしれませんが、出来上がったものは……。
 再びパッケージから引用。ちょっと不思議な学園ラブストーリー、とのことですが個人的にはこのゲームの出来そのものの方が不思議です。
 取りあえず、シナリオライターは顔を洗って一から出直してください。これはお金をとれる文章ではありません。
 お気に入り:春野日和さんの力でかろうじて鳴風みなも
 (「徒然なる日記」2002年4月9日、19日〜24日分にも関連文章あり。テキストの具体例はそちらを参照)
 評点:45
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、鳴風みなも
 最も突っ込みどころの多い愛すべき幼なじみ。「想いは遠く離れてても〜」というセリフを推定年齢6、7歳で発した天才児。詩人デスカ? しかし、脳の成長はそこで止まったとの噂も。
 神岸あかりのように髪型を変えますが、より幼く見えるようにモデルチェンジするのはどうなのか。確かに彼女は童顔なのでその意味では自分の特性を効果的に利用したのかもしれませんが、つるぺた体型ではありませんから微妙なところです。
 主人公とのカップル成立の過程はあまりにも馬鹿らしく、他人に知られたら石を投げられそうです。気のある素振りをしていたのは他でもないあなたでは?
 
2、丘野ひなた
 彼女もなかなかの不幸っ振りを披露してくれます。というより、丘野母に問題が。
 みなもと主人公の時には再会後の結婚の約束を取り付けさせ、ひなたの時には主人公に手を出してもいいんだとほのめかすあたり恐ろしいです。どうせ姉妹だからどっちでもいいや、とか思ったんでしょうか。なんつー怖い話だ。
 まぁ、素で兄に欲情している妹も妹なんですが。丘野母と血がつながっていないとはとても信じられません。
 
3、藤宮望
 なんかイメージとして、このゲーム最大の被害者って感じがするんですが気のせいでしょうか。血の繋がらない3姉妹のために人生を翻弄されているような感さえあります。
 イベントもHシーンもCGが少なく、出番も少ない。分量の関係からシナリオは相対的に妹のお下がりのような気分。おまけに自分と妹のシナリオでは死亡。本人のシナリオでは子供が生まれるのでまだましであるが、妹のシナリオでは当然それすらない。みなものシナリオでは生き残るあたり、かなりの不幸、不遇ぶりを感じずに入られません。一人だけ血もつながってないしネ。
 にしてもリトル望及び空の可愛さは尋常ではありませんな。「お父さんは娘をぞんざいにあつかいすぎだよ」はこのゲームのテキストで数少ないツボです。
 
4、藤宮わかば
 「おはようございますわ」という奇怪な言葉を繰るメガネ。せめてそこは「おはようございますですわ」なら苦笑いくらいで済ませられるのですが。
 感情の動きが最も謎。本当は望が嫌いなのではないかという疑惑有り。自分の死後、望と主人公の間に溝が出来ればいいと思っていたとしか考えられませんよ。あの一連の行動は。
 メガネは何を考えているかわからない、という私の偏見を助長するようなキャラ。
 
5、月代彩
 秋人(みなもの親父)が「かぐや姫」に対する妻の解釈を持ち出してきた時は彩がルナリアンかと思いましたよ。名字は「月代」ですし、このライターならいかにもやりそうに思えたんで。
 「障害でないものを確信もなく勝手に障害と思い込み苦労する」というのがマイノリティスピリッツであり、これからも続けるのでしょうか。世間的にそういうのは肩すかしの印象を与え、面白くないということに早く気がつくべきだと思います。少なくとも満足することはあり得ない訳ですし。
 やはり、この方の演技が一番キツイかなぁ。望も負けてませんけど、喘ぎ声はかなり痛い感じですよ。
 一番のつるぺた体型のためか、HシーンのイベントCGで気合の入りかたが尋常ではありません。シーン自体も2回ありますし。
 
6、紫光院霞
 Hシーンなし。いえ残念ではありません。メガネにしては嫌いではありませんが、なにより勤とのHシーンは死んでも見たくありませんから。
 ちなみにHシーンがないことはちゃんとマニュアルの一番最後にほのめかされています。最も精神年齢の高そうな彼女にこのゲームで出番があるはずもなかったのです。
 それにしても同じネタを再び使う、というのはこんなところでも発揮されているのですね。一度目は笑っても二度目はよほど文面に凝らないと面白くアリマセンヨ?


前のページ 目次 次のページ


| ホーム | サイトマップ | 更新履歴 | 徒然なる日記 | 不定期映画鑑賞記 | ゲーム感想 | 気になるタイトル | リンク |