天文学会には個性的なメンバーが揃っている。メンバーに共通する特徴は星を見ないこと。そもそも基本的な活動内容ですらない。よって学園祭が迫ったこの時期にあっても学生会のトラブル解決が主なお仕事。そんな秋山奏(変更不可)の学会における役割はツッコミであったが、果たしてそんな彼にはどんな未来が待っているのだろうか。
ABHARの遺産である本企画を紆余曲折の末に拾い上げ発売にまでこぎ着けたのがTRUMPLEという新ブランドです。どの程度スタッフが被っているのかよく知りませんが。
購入動機はやはり原画買いですね。おまけとしてABHARのデビュー作「水平線まで何マイル?−Deep Blue Sky&Pure White Wings−」と同じ世界観ということも。パッケージに「感動の物語」とあったのでちょっと嫌な予感がしました(買ってから気付いた)。
初回特典は設定資料集。
修正ファイルが公開されています。しかし、修正内容が明快ではないので使用の有無がよくわかりません。
ジャンルはごく普通のアドベンチャー。ただし、各ルートを視覚的に見ることができます。あくまで大雑把にでイベントの詳細が確認できる訳ではありませんが。
足回りはデビュー作らしいと評されてしまう出来です。メッセージスキップは既読未読を判別してくれるとは言い難く2周目以降、既読と思われる箇所で幾度も止まります。また同義のテキストが繰り返される機会も多いのですが、当然スキップされません。イメージの悪化に繋がります。また、選択肢後にスキップを継続するという機能も不安定で作動したりしなかったりします(スキップアイコンを再クリックすればスキップ可能)。次の選択肢へ機能があるのが救いですが使用に関しての既読の判定自体は変わりません。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。それなりに戻ることはできますがロード直後には使用できません。
クイックセーブ&ロードも何かと不便です。選択肢表示の際にウインドウが消えてしまうので使用できず、タイトル画面からロードすることもできません。クイックの意味があんまり……。
コンフィグ画面にある本作独自のY.U.I.S(初期は???で伏せられています。マニュアルにはあっさりとした記述あり)はあまり意味がないように感じます。少なくともセーブやロードと同じ画面に並ぶものではないような。
シナリオは壮大な設定と奥深さがあると思わせて実は張り子の虎です。
日常会話は賑やかさを醸しだそうとしていますが、その実態は空虚で意味あるキャッチボールがほとんどできていません。印象に残る事例がないと言っていいほどです。人物についても性能を語るばかりで実際に発揮される場面(それも説得力を持って)がほとんどありません。
これらは起承転結の「転」における溜め不足に繋がっています。感情移入するにはあまりに描写が足りていません。
作中に提示される謎もお粗末なもので興味を引かれないどころかプレイヤーの予測をあっさりと下回ってくれます。それでいて解決までには随分と引っ張り続けます。中でも気になったのはこれに対して期待してはいけない、という予防線にもとれる趣旨の発言をキャラクターにさせていたこと。ライターにそんな気はなかったのかもしれませんが、個人的にはそう受け取れてしまい大層がっかりしてしまいました。
本作は主題以外のシナリオが極端に薄く、全体で見た場合にも肉付け不足に感じられます。よって主題部分の障害をクリアしてしまうエンディング付近では驚くほど何も残りません。余韻はなんだか寂しい感じです。物語に全く意味を持たない(名前もない)柔道部員の立ちCGが2人もあるという事実が一端を示しているでしょう。
惹かれあう過程もなかなか厳しいものがあります。ゲーム開始時点でヒロイン側に好意が形成済みであることが基本なので。
Hシーンは各ヒロイン3〜4回程度。尺は全体的に短めです。性格に沿った内容が用意されていると感じました。やや蛇足っぽく見えるものもありますが。エロ度は純愛系にしては頑張っていると思います。
CGは疑いようもなく本作一番の要素です。背景込みで全体を通して美麗の一語に尽きます。原画買いの人間を裏切らないだけのクオリティを維持していました。
イベントCGはそれぞれのカットを壁紙にしたくなるほど見応えがあります。時間帯による彩りも実に多彩。レベルが高いがゆえに大きな特典に見えます。当然、Hシーンにも恩恵があります。
立ちCGはイベントCGにけして引けをとることはありません。仮に長いことイベントCGが出ずともそれをなかなか気付かせないだけの密度があります。悩ましいカットも多数ありました。
背景は立ちCGを引き立てる形で前に出すぎず、それでいてしっかりと存在感を示しています。中には「水平線まで何マイル?−Deep Blue Sky&Pure White Wings−」のものや構図を変えた同じ場所の背景などもありました。
音楽は悪くないどころかとても綺麗で耳に残る旋律ぞろいなのですが、一部でシナリオと噛み合っていないと感じられました。まぁ、テキストやイベントとの絡みの問題であるんですけど、場面を主として考えると勇ましすぎる曲が一部のシーンで採用されていたように思います。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方はメインキャラのレベルが総じて高く感心するほど。中でも支倉愛理役のかわしまりのさんと華宮凪沙役の民安ともえさんの2人はキャラとの親和性も高く思わず聞き惚れることもありました。これでセリフがもっと全体的に洗練されていたら……。
まとめ。狙いは理解できるがどうも机上の空論で終わってしまったような作品。やはり、シナリオは作品の核であると感じさせてくれます。なんとなく発売までの変遷の影響も感じられますね。今度はゴタゴタなく作品を完成させて欲しいです。取りあえず、原画とCGは固いので。
お気に入り:佐々木佳織、支倉愛理、華宮凪沙
評点:60
以下はキャラ別感想。ネタバレとても注意。
1、佐々木佳織
お母さんの詩織さん含めて好きなキャラなんですけどねぇ。主人公の理解者的な様子は色々と見ていて微笑ましいものがあります。しかし、むしろそれを感じるのは他のヒロインのシナリオなんですよねぇ。本人のシナリオではあまりにも重たい面ばかりが強調されているような気がします。ゆいのためのかませ犬に感じる人も少なくないと思います。
外見的なデザインもとても好きなだけに残念ですよ。事故のせいか他のヒロインにはあるデートとかもあんまりパッとしませんし。本作はやっぱり4人のヒロインが同じくらい優遇されてないとダメだと思うんですよね。ゆい一人勝ちみたいなオチなのですから尚更です。
しかし、事故を防ぐのにゆいが全く関係ないってその時点で計画が失敗しているのがなぁ。あと事象を観測できる人間っていないはずなんですけど、このあたりすっごい不思議ですよね。少なくとも世界を跨いだ記録をゆいが残せるようには見えないし。だってもしできているならゆいを初めとした人間の行動が間抜けすぎますよ。
2、支倉愛理
途中まではすげー気に入っていたのですけど、Y.U.I.Sシステムが起動したあたりでねぇ。言うことはもっともですけど、それでも今更言われたくねぇよ、と。ただでさえ、「君が望む永遠」を彷彿とさせるところがあるというのにさらに加速させる展開を用意しなくてもねぇ。さしずめ愛理は緑と青の役割を一身に、というところでしょうか。
2周目に入ると突然、態度が変わる愛理は可愛いけれども違和感がありました。露骨にフラグが立ちました! という感じで。しかも、本作の場合それが因果律への干渉で説明できないこともないあたり……。
束縛好きに武闘派ってなんとも因果な組み合わせです。主人公も「酷いことしたかと思ったら労ったり」ってそれはDV男の特徴デスヨ?
3、華宮凪沙
アナザーエンドとしては一番まし、かなぁ。まぁ、それも無理矢理な持ち上げですけど。というか、そのせいで本作の弱点が思い切り露呈していますよね。もはや佳織のことなんて明後日の方へ行ってしまいましたよ。
ごっこではあってもデートは先輩のとが一番、楽しかったですね。キャラの魅力もよく出ていましたし、特別感も高かったと思います。ラブホテルで止まれる主人公はどんだけ調教されているんだよっていう。普通ならレイプまがいの事件が発生しているでしょうよ。
隙を見せると弱いという一面が良かったです。弱点があってこそ普段の無敵さが映えるというものですから。しかし、野生でそこにたどり着くケニーはすげぇな。
4、古川ゆい
せっかくの青山ゆかりさんもなんだか宝の持ち腐れな感じ。ほぼ終始、感情のこもらぬ演技構成のためなんとなくストレスが溜まってしまいます。もっといつもと違う声でこなすならいいと思うんですけどねぇ。
個人的にヒロイン最下位なもんでどうにも終盤はテンション下がり気味でした。繰り返されるつまらんシナリオも熱を奪うには十分すぎました。
あと彼女のせいではないけど、SF設定がいつでも世界はひとつに統合されるというものなので、他のヒロインエンドが正式になかったことになっているというのがねぇ。なんか前座とか捨て石とかそんなイメージがありました。
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