途方に暮れていた藤島匠(変更不可)は怪しい2人組に追いかけられていた男と正面衝突してしまう。それは運命の出会い。匠の目に映っていたのは毎朝、鏡の前で見るものと同じであった。男の名は兼元朱里。
身を隠す理由があった朱里は匠に影武者を依頼する。生活に困窮していたこともあって匠は朱里のために身代わりを引き受ける決意をする。
その日から匠の生活は一変した。あまりに常識の異なる世界で使命を全うできるだろうか。
ゆずソフトの新作は「王子と乞食」を思わせるような入れ替わり(に近い)アドベンチャー。
購入動機は同日発売予定であったリーフの「星の王子くん」が延期されたため。それから何か代わりのものを、と思って視界に入ってきたのが本作でした。過去作「ExE」のことがあったのであまり期待はしていませんでした。
初回特典は特になし。予約キャンペーン特典は線画&ラフ画集のあーと☆わーくすとお目覚めCDもーにんぐ☆わーくす。前者は珍しいことにSD原画のラフまで掲載されています。こもわた遙氏の外注らしい書き込みが興味深いです。
修正ファイルが出ています。それほど重要ではないようですが念のためにあてておいた方がいいかもしれません。
ジャンルは定番のアドベンチャー。
足回りは素晴らしく進歩しています。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です。次の選択肢まで飛ぶ機能と前の選択肢まで戻る機能が装備されています。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。いつでも使用することが可能で最初まで戻ることができます。加えてこの画面上から好きなシーンへ一瞬でジャンプすることが可能。アイコンにカーソルを合わせるだけで当該シーンの様子が画面上に表示されます。とても便利です。選択肢のジャンプ機能ともども全く時間を要しません。ちょっと驚きです。
シナリオは複数ライター制の弊害がきっぱりと出ています。キャラクターの言動や本質が異なるケースがあるため、萌えゲーとはいえ戸惑います。特に国広ひなたシナリオはひとつだけ別世界と言っても過言ではないほど。世界に対する認識が違います。
全体的には細かいことを気にしない人ほど楽しめる作りです。基本として本作のセレブ世界にツッコミどころは多く、それを飲み下せないと気になって先に進めません。
けれども、雰囲気はけして悪くなく、日常の掛け合いも(話題は極端に限定されますが)それなりに盛り上がり楽しめます。元ネタのあるような会話は少なく、本作の中だけで完結しているものがほとんど。ただし、笑いはメイドさんに集中しており、この2名が出なくなると途端に成分が不足してしまいます。
惹かれ合う過程はやはりライターによってよって差があります。あってもご都合主義なケースが多いので期待のしすぎは禁物です。
本作は構成に難があります。影武者設定が状況を作り出すことでほとんど終わってしまっているため、物語開始以降に上手に活用されるケースが事実上ありません。正体露見に対する緊張感はほとんどなく、エピローグも信じられないほど薄いです。各所のフォローがありません。また、同様に影武者設定のためにイベントの構築に制限が課されていて閉塞感を感じるようなところも。個別ルートに入ると当該ヒロイン以外がほとんど出なくなるのもそれと無関係ではないと思います。
属性的な面を考えた時には疑問も。いわば本作はお嬢さまゲーと言っていいと思いますが、どういう訳か生粋のお嬢さまが1人しかいません。残りはいずれも変化球で特殊です。通常の作品ならば多様性は歓迎するところですが、ある程度でも絞ったゾーンを狙った作品となると……、難しい問題だと思いますが。
Hシーンは独断と偏見で各ヒロイン2〜4回。ここもライターによる差がハッキリと見てとれます。淡白であんまりエロくないものからねちっこいものまで様々です。全体的に見れば純愛系にしては十分すぎるほどエロいと思います。
CGは購入意欲を喚起するにたるクオリティです。可愛らしくてエロいと立派に使命を果たしています。数は少ないですが若干、構図が怪しいカットが見受けられたのは残念。
立ちCGはイベントCG以上と言ってもいい完成度で掛け合いの楽しさを何倍にも高めています。ひとつのセリフで4〜5回表情が変わるなんてのは珍しくもなく、本当に色々な表情を見せてくれます。迂闊にボイスを飛ばせません。お嬢さまらしくなのか表情変化は大きいですが、ポーズ変化は小さめです。後ろ姿も用意されています。
SDカットもそれらに負けず劣らずの存在感を放っています。可愛らしさでも拮抗しています。しかし、だからこそ枚数の少なさが惜しいです。多くが共通シナリオに集中しているあたりも。
Hシーンは時にテキストの淡白さを補うほどにエロいです。ただし、フェチっぽい傾向が強いせいか、トータルで見ると半脱ぎを基本としながらも露出度はやや低めに見えます。
音楽はセレブの学園という世界に相応しいゆったりのんびりとした曲が中心です。よって激しい曲を求める方には物足りなく感じる可能性が高いです。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は問題なく男女とも安心して聞くことができます。
まとめ。目的地が見えにくい作品。萌えゲーでいいのか、その先を目指しているのか、どうもうまく伝わってきません。基本は良いだけに応用が不足気味で物足りなく感じやすいです。
お気に入り:兼元灯里、月山瀬奈、長光麻夜、源茅明
評点:70
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、兼元灯里
細かいところにツッコミどころはありますが、基本的には良いお嬢さまです。努力家で負けず嫌いなのは好感が持てますが、学業的な実力はそれほどでもないようで麻夜のことを羨ましそうに話してみたり、館の描写がある時は基本的に部屋にこもって勉強中と外見とは逆に至って地味だったりします。ちょっと穿った見方をすれば手抜きではないかと思いたくなるほど徹底されています。
最初はな〜んにも知らなかったというのに瀬奈さんの英才教育によって驚くほどエロくなっていきます。子供の作り方を間違って覚えていたほどだというのに恐ろしいお嬢さまです。エンディングカットもたいへん危険でこんな姿を見せていては何回戦こなしてもなかなか終わりませんよ?
個人的には妾腹なのが気になるところ。仮にもパッケージ中心にいるお嬢さまなのだから変化球に走らず王道でいって欲しかったですね。庶民の暮らしに理解があるのもちょっと肩透かし。
2、月山瀬奈
衝撃のメイドさん。こんな人(しかも、着替え中)に出会ったら間違いなく人生を踏み外しそうです。あまり強調されていませんが全身これ勘違いさせる要素満載。ぐるぐるまなこのエロ妄想垂れ流しも間違いなくそれに貢献しています。まぁ、作品的には貴重な笑いどころなんですけどね。ミラクルな言葉のチョイスが。
その胸はもはや暴力というしかなく、あまりの威光に全てのお嬢さまがひれ伏すほど。だってそのままではひざ枕による耳掻きができないほどの山脈っぷりですよ。しかも、本人はあんまり自覚していないのだからタチ悪いです。ただ、立ちCG(寝間着姿とかエロいです。胸のせいで隙間が)や通常のイベントCGに比べるとどうもHシーンはパワー不足気味。構図にもちょっと残念なものが含まれます。このへんは灯里お嬢さまの方に軍配が上がるかなぁ。
影武者設定のためにお嬢さまではないのにイベントに自由度がないのは残念なところ。
3、正宗静流
本作では言うなれば最後の砦。彼女がいなければエセっぽいお嬢さまゲームになってしまうところです。本当にどうしてこんな設定のお嬢さまを揃えたんでしょうねぇ。
恐らくはライターがJ・さいろー氏ということで妙にねちっこいです。ほなにー@「ゆのはな」から続く系譜の1人といっていいですが、焦らした挙げ句に本番が2回、それもあっさりということで締めが残念な感じに。
それと結局、主人公がとてもヒモに見えやすいというもっともすぎる問題が困ります。未亡人の若奥さまのスワローと同レベルです。萌えゲーだからなのか、本作は窮地からの脱出が温すぎるんですよね。
朱里と主人公の入れ替わりに気付いた理由がないというのはやっぱりもったいない。どうしたって盛り上がりに欠けますから。
4、長光麻夜
隠し事は全くもってバレバレすぎて意味がなく、実質的にも影響が薄くてやっぱり意味がない。せっかくの設定なのにどうにももったいない感が強かったです。極道対お嬢さま、みたいな展開があれば楽しそうだったのになー。そうすれば灯里や茅明さんにもっと活躍の場があったのに。
ひなたシナリオでもそうですが、虎鉄の存在が困ります。調子のいいことを言っていながらとる態度が本当に酷い。信用ならないのは間違いなくあなたの方ですよ、と。
麻夜は魅力があるんだけど、トータルで他のヒロインに押されている感じかな。売りが機能していないのと猫好きなどのポイントがシナリオと連動していないのがもったいないです。
5、国広ひなた
本作の足を引っ張る存在。裏切りの勲章とか持ってそう。エンディング手前のだらけた姿に腹が立ちました。
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