森川恭一(変更不可)が日課の愛犬タロウの散歩から帰ると家の前には不審人物の姿が。何度もインターホンを押しながらぶつぶつと独り言を呟き、果ては泣きまで入れる少女はタロウに構われるとリアクション芸人のような激しい反応を示した。なかなか面白かったがそろそろ体裁が悪いかも、と思っていたところに両親も帰宅。さらりと爆弾を投下した。
曰く、「今日から恭一くんの妹だから」
反対の声も黙殺され森川家には居候が加わることに。主夫でもある恭一の苦悩の日々が始まった。
大々的に発表会まで行う2004年のlightの攻勢第3弾(「しすパラ」DVD版を含むならは第4弾)は徐々にお馴染みになってきたくすくす氏の原画にNYAON氏のシナリオという組み合わせの学園アドベンチャー。
くすくす氏の原画とシナリオに「PARADISE LOST」のライター正田崇氏が係わっていると知って購入を決意。あとlightの意気込みをそれなりに買ってということも。
初回特典はいつものようにサントラ。lightの音楽は一作ごとに確実に上向いているので嬉しい限り。今回はボーカル曲もきちんと収録されてますし。他にもユーザーIDカードのイラストも初回限定だとか。
本作は新たな試みを行っています。ユーザーIDカードの同梱がそれで、これでオンラインユーザー登録をすると色々とダウンロードが可能になる寸法。現在は壁紙のみですが、メインとして事前人気投票を行ってその1位となったキャラクターの追加シナリオを製作するという企画が立てられました。一見、良い企画のようですが考えてみると実際にゲームをプレイした上での意思は一切、反映されていないという微妙な面も。色々と事情はあるのでしょうけど、個人的には発売後に締め切りを設定して欲しかったところ。ちなみに1位獲得はメインヒロイン久城麻衣で可能性だけなら主人公やその両親もあったようです
修整ファイルが配布されています。ゲームが進まなくなるような致命的なものはないようですが、せっかくですので落としておきましょう。
システムは特別変わったところのないアドベンチャースタイル。
足回りはもう一歩。メッセージスキップは既読未読を判別した上で標準程度の速度を維持。しかし、「PARADISE LOST」と同様に小イベントが終盤まで同一の文章でもルートが異なるとスキップしてくれないのでやや不便に感じます。
バックログはウインドウ単位で行います。残念なことに戻れる量はわずか。ボイスのリピート再生もできますし、マウスホイールにも対応していますがミスクリックのフォロー程度にしか活用できないでしょう。
全体的にもうちょっとレベルアップを望みたいところ。修整ファイルでは改善されていないバグも時折、見られます。スキップすると強制終了することがあるとか。
シナリオは非常に完成度が高いです。ファンタジーや伝奇など特別な要素を一切持たずにここまで高いレベルを実現した作品はちょっと記憶にないくらいです。まさに学園恋愛の王道。
テキストも実に読み応えがあります。日常会話の掛け合いが楽しく、ただ読んでいるだけで楽しい印象を受けました。ネタ的にも一部ゲームキャラの枠を逸脱した発言があるものの、ほとんどはゲーム内で完結するもので勝負していてライターの手腕を感じます。
ギャグの面もなかなか優秀で爆笑度は押さえ目、断続的にほどほどの笑いのネタを提供してくれるといった感じです。特に親父殿のキャラが笑いの面では際立ってます。
肝心である主人公のキャラも良好。エロゲーのデフォルトである本気で鈍いのではなく、見栄と自分をさらけ出す恐れから鈍いふりを装っているという性格が親しみやすいと思います。
シナリオのレベルが1本だけでなく総じて高いのも本作に驚かされる要素です。複数のライターでこれを実現しているのですからユーザーとしては頼もしい限り。スタッフロールにもシナリオの分担の表記はないので詳細は不明ですが、ライター同士の文章のすり合わせも見事。違和感というものをほとんど感じることなく融合を果たしています。
欠点らしい欠点はほとんどないんですが、あえて言うならシナリオ中盤で前ぶれなく唐突に日付が飛ぶのはやや気になりました。それまでは1日も欠かすことなく描写があるだけに。
Hシーンはシナリオ本体に比べるとコメントに窮するところ。ひと昔前の純愛ゲームのお約束のように1人1回のみと厳密にルールを遵守しています。さらに総イベントCG枚数の関係からかその枚数も少なめ。複数回Hも視野に入れてもうちょっと頑張って欲しいです。
CGは全ての面において強い存在感を持っています。
イベントCGは原画のくすくす氏の魅力を最大限に引き出す塗りがなされています。枚数は66枚と正直、少ないんですがテキストと立ちCGの良さのせいであまりそれを感じさせません。また印象的なカットも多かったように思います。ただ、主人公の顔を描いたり描かなかったりとどっちつかずなのはやや気になりました。
立ちCGはキャラの性格に応じた喜怒哀楽がしっかりと用意されています。中でも各ヒロインの照れた表情は素晴らしくイベントCG同様に絵買いにしっかりと応える出来であると感じました。
本作において忘れてはならないのが背景。地味すぎず派手すぎず、他作品と比べてある程度の差別化、さらに立ちCGとの自然な融合と、およそ背景として大事なものを全て満たしている稀有な例だと思います。これがあることによってCGだけで世界観を構築することに成功しているかと。
音楽は冬の舞台を盛り上げるしっとりした曲を多数用意。サントラの同梱が嬉しくなるレベルに到達しています。
ボイスは見事としか言いようのないキャスティング。キャラの性格に相応しい声優の抜擢はそれだけで責任者を褒め称えたいくらい。特に久城麻衣役のかわしまりのさんと北沢都香役の九条信乃さんの演技が素晴らしいです。印象度が抜群でちょっと忘れられそうにありません。
まとめ。学園恋愛ものの傑作。これに比肩する学園純愛ものはかつてあったでしょうか、というくらいの領域に達していると思います。メインライターであるNYAON氏は「Sultn」からかなりの進歩を果たしたのではないでしょうか。今後にも期待大です。あとはもう少し足回りの向上が見られると良いかと。
余談として。購入するまで気付かなかったのですが、本作品は税込みで8800円なんですね。通常は税込みで9240円。気にするメーカーは気にするんですねぇ。
お気に入り:北沢都香、久城麻衣
お薦めプレイ順序:黒崎小麦or永村冴香→栗原月夜→久城麻衣→北沢都香(早い話がシナリオの出来が良い順。後ろに行くほど良いかと)
評点:82
(追記)ダウンロード追加シナリオ:久城麻衣
エンディング後を描いたミニシナリオ。容量が5MB程度と非常にコンパクトなのであまり大きな期待をしてはいけません。CGは2枚+差分にボイスはなし。CGモードにも登録されません。
ライターは正田崇氏ということなんですが、麻衣シナリオの担当は恐らくNYAON氏。その理由はともかく(人気投票だから誰に決まっても正田氏が担当だった?)、麻衣のキャラが明らかに違います。自宅前で初めて会った時を増幅した感じ。
Hシーンも入ってはいるんですが、その導入といい、所詮オマケであることを痛感させられました。普段からMalieシステムに接している人にはこれくらいで予想通りなのかも。
個人的にはこれならディスクを郵送する形でもうちょっとましなものを作って欲しいと感じました。面倒な登録をしてまでのものとはとても思えず。ゲーム本体が良い出来であるだけにガッカリ度も大きいです。よそのメーカーはもっと気軽な形で充実したオマケを用意してくれてますし。
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、久城麻衣
「にゅ」という反射的な言葉が受け入れられるかどうかがボーダーライン。個人的には「うぐぅ」や「がお」に比べれば全然問題ないとは思うのですが、世間的にはどうなんでしょうか。
追加シナリオにはぜひともどてら姿を希望したいところです。ラブリーな柄のものをなんとか。
麻衣のシナリオはかなりの出来かとは思うんですが、最後の最後がやや残念。血縁の有無を確かめる家族会議において結果がどちらに転んでも二人が別れるという流れはどうかと。少なくともこれの前にそんな悲壮感は二人の間になかったと思うんですが。あそこは本来、血が繋がっていなかったのだから、家族になれないのは残念だけど恋人になれることを喜ぶシーンのはずなのに。一足飛びに本当の家族の元へ行くか、という話になるのは性急すぎるように思います。
声優のかわしまりのさんは麻衣のような可愛い系のキャラから士道不覚悟ぉ! な鬼の副長までこなす多才な方ですが、個人的にはあまり購入するソフトで合うことが少ないのが悲しいところ。もっと(私の買うようなソフトに)出番を、と常日頃から願ってます。
2、北沢都香
実に良いキャラです。キャラ自身の魅力もさることながら物語にとってもとても重要な役割を果たしています。もうその一挙一動に楽しませてもらいました。友達でも恋人でも貴重な存在ですよ。
他キャラのシナリオであっさり義理チョコをくれるものだから本人のシナリオでのそれにどこまでも焦らされました。だから最後にくれたのは本当に嬉しかったですよ。ゲームのチョコがあそこまで嬉しく感じたのは初めてかも(また痛めの発言を)。
声優さんも持ち味を存分に発揮しています。「それは舞い散る桜のように」をプレイした人ならばお馴染みの九条信乃さんのボイスは都香という存在に欠かせないものとなっています。
全キャラで唯一といっても過言ではない甘々な展開が一部に用意されていたのも見逃せないポイント。望みを言うならもっとイチャイチャさせて欲しいところですが。
そんな彼女に苦言を呈するならこの一点。どう見ても貧乳には見えませんよ? ちゃんと大きく見えるんですけど。真面目な話、麻衣や月夜とそこまで差がありますかと。
3、栗原月夜
誰が見ても気になる額のその印。タトゥーってことですが、最初はファンタジーものかとばかり思ってました。これのせいで目をつけられるのはもっともですが、それよりさらに気になるのは最後までそれがなんであるかわからないという点。まさかスルーとは思いも寄りませんでした。
いじめの問題に関して主人公が月夜に恐怖を抱きそうになり、それを恐れる描写はなかなか良かったです。彼女を理解していく過程としてよく書けていたと思います。ただ、一方で能力を発動させるための安易なアクシデントの発生はどうかと。どうにも都合が良すぎて不幸と感じられないのがツライところ。
4、永村冴香
設定だと主人公宅に入り浸っているはずなのですが、本人のシナリオを除けばそんな素振りはどこにも見えず。このあたりに彼女のキャラとしての悲哀があるように思います。恐らくは上記3人とここから下の2人のヒロインはライターが異なると思われ、そこからこういった扱いの差が生まれているのではないかと。小麦と冴香にだけ不自然に絡みがあるのもそんな感じを想起させます。
5、黒崎小麦
どこから見てもギャグに特化されたヒロイン。演出までがそれを手助けしています。このシナリオは笑うためにあるのだと。
真面目な方向では小麦シナリオはパンチ力不足。麻衣の代わりに冴香が恋敵(未満?)ということもありますが、一番はその境遇。自ら嘆くその境遇は麻衣、都香、月夜らに比べるとぬるま湯に思えてなりません。小麦は親から暴力を受けている訳でも、親が死んだ訳でも、進路を誘拐まがいの方法で阻害された訳でも、イジメを受けている訳でも、異能に悩んでいる訳でもありません。ついでにロリータ小説四天王が親な訳でもありません。
戸籍上の親は変人であるかもしれませんが、確かに小麦に期待しているし、そのための費用も惜しんでいない。天才の能力が発現していない訳でもない。単にいじけているようにしか見えないんですよ。細かいところでは主人公宅に泊まった翌朝の傍若無人な態度なんかもちょっと。思わず捨てたくなったのは私だけでしょうか。
ま、プレイする順番が悪かったというのが最大の不幸だと思いますが。思い切って最初にプレイしていればね。上の推奨プレイ順序もそんなあたりを考慮して書きました。最初のふたつは良くも悪くも尖ったシナリオなのでその意味では微妙なんですが。
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