幼い頃の怪我によって視界に不思議な線が見えるようになった主人公、遠野志貴(変更不可)。彼を悩ます不可解なソレは「モノが壊れやすい線」だった。8年ぶりに実家に戻った志貴はそれまでの平凡な日々が嘘のような異常な現実に直面していく。彼がある衝動に駆られたことを発端にして。
生まれて初めて自分のお金で買った同人ゲームがこの月姫です。「ゲーム購入への道」のトップページで一時期、これのタイトル画面の圧縮画像が掲載されていて、その画面に一目惚れしたのが購入に踏み切った理由だったりします。
いやあ、面白いです。現時点(2001年3月)で早くも2001年の私的ベストゲーム筆頭です。純粋な欲求としてはこれを超えるゲームが出て欲しいですが、予想では難しそうですね。
ジャンルは伝奇ビジュアルノベル。選択肢によって5人のヒロインのルートに分かれます。
システムはややクセがあって慣れるまでは少々、使いにくいかもしれません。既読メッセージを読み返すことが出来ないのはミスクリックの多い私には少し辛かったです。メッセージスピードも選べますが、なにか一定していないように感じました。良かったのはすでに通過したルートをスキップする機能がついていることです。なにしろ長いゲームですから、この機能はたいへん重宝しました。
シナリオはこのゲーム最大のポイント。枚数5000枚のうたい文句に相応しいものが詰まっています。読みやすい文体によるシナリオはプレイを始めたら容易には終われず、睡眠時間をガリガリと削ってくれることでしょう。
翡翠シナリオをプレイした時はある理由によって激しい衝撃を受けました。この感覚は実に久しぶりでした(詳しくは後述のキャラ別感想で)。
CGは個人的には味があって好きですが、少し人を選ぶかもしれません。立ち絵は各キャラ毎に実に豊富に用意されていて、その変化だけでも楽しいです。よくありがちな、大げさなだけでテキストと合っていない、ということもありません。
背景は実写取り込みとなっています。個人的にはしっかりと用意して欲しかったところですね。贅沢を承知の上で。
音楽は曲自体はなかなか効果的ですが、10曲とこの手のものにしては少ないです。曲は作品を膨らますものですから、もう少し欲しかったです。
まとめ。間違いようもない傑作。これで2500円なんですから、文句などありません。8800円でも評価は変わりません(その際には、それらしい箱を望みますが)。他の大半のメーカーはこれを見習って少しは気合を入れて欲しいです。本当に。
お気に入り:誰がなんと言おうと琥珀さん。
評点:90
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、アルクェイド・ブリュンスタッド
白のイメージがこれほど似合うヒロインは他にはいませんね。
エンドはグッドの方がお気に入り。エンディング手前でヒロインが死んだかな、というゲームはたくさんあって、理由はそれぞれでもヒロインは生きている。アルクのエンドもそんなもののひとつ。でも、生きていたことが素直に嬉しくないゲームはこれが初めて。なぜならアルクが死んでしまった時と志貴を取り巻く環境が変わらないから。むしろ、アルクが本当に死んでしまった方が志貴にはとってはまだ救いがあるくらい。
結局、志貴はアルクを殺してしまった責任をとること出来なかったのだし、この先の人生において決して癒えることのない傷が残るのではないだろうか。アルクだってとても幸せとは思えないしね。
個人的には「人間と系統樹の異なる吸血鬼との恋」という部分にもう少し、結論らしきものが欲しかったです(未来も見据えて)。本編中でも志貴はずっとそのことを気にかけてましたし。
そういや、主人公に「おおばか」と連呼されてしまうヒロインを初めてみました。猫耳アルクは反則的に可愛いです。
2、シエル先輩
ツライですね。いや、彼女の月姫というゲームでの役割が。TYPE−MOONホームページの人気投票において、スタッフから5位か6位(!?)が規定の順位と思われていたあたり(しかもそれが実現してしまう)に彼女の薄幸ぶりが窺えます。
シナリオの序盤がアルクと共通というのもあまりにツライです。だってそこはアルクのシナリオ、それもファーストインパクトですよ?
グッドエンドは個人的にハーレムエンドと呼んでいます(いや、なにかそんなイメージが)。
もし、第2回の人気投票において順位が上がっていたらその何割かは同情票でしょう。
3、遠野秋葉
初めて見た時に「アキバ」と読んでしまった私は間違えようもない駄目人間です。
取りあえず、頬を染めた顔は非常に可愛いです。でも、もし本当に血がつながっていたらこういう妹は大変そう。
この人だけ、エンドがトゥルーとノーマル。まぁ、確かにあれをグッドと呼ぶのは語弊がありますね。秋葉が言っているように志貴は良い方にも悪い方にも自分勝手で、だからこのようなエンドがふたつになったのではないかと。
個人的には秋葉との約束を守るゲームオーバーコースが(たとえ、それが弓塚さつきと同じ結末であろうと)もうひとつのエンドにしても良かったのではないかと思いました。
4、翡翠
2回目にプレイしたのですが、そのときは背筋が震えるような感覚に襲われました。
その理由は例の白いリボンの持ち主はどちらか、という序盤から中盤のくだりです。
翡翠が知らないと言い、歓迎会の料理時に琥珀さんの様子が微妙におかしい。ここで「もしやリボンをくれたのは琥珀さん?」と思って正解を想像しながらプレイしているとやはり違うという(この翡翠は琥珀さんだった訳ですが)。無念にもここで出勤の時間となってしまったので、涙を飲んで中断。会社ではずっと、「やはり想像は外れていたのか」などと考えていました。そして、会社から戻って続きをプレイ。衝撃が走りました。
普段、先の展開を予想するということをほとんどしない私には珍しい体験でした。秋葉のシナリオより先に翡翠のシナリオをやって良かったと思いました。順番が逆ではこの感覚は得られなかったと思います。
翡翠のシナリオはなんだか琥珀さんのバッドエンド(このゲームにはその概念はありませんが)のようで少し、気の毒でした。よく考えるとCGモードも琥珀さんのカットが結構ある訳ですし。
悲しいですが、翡翠のトゥルーエンドは好きです。翡翠の白い私服がとても印象的で。これを見たら琥珀さんを最後にすることは出来ませんでした。
5、琥珀さん
まさに真打ち。裏ヒロインか?という活躍の琥珀さんです。翡翠の項目でも書きましたが、もう駄目。降参状態でした。
そもそも第一印象から好きだったのに、実像はそれを軽く上回っていましたから。Hシーンも琥珀さんのものが一番、情感が現れていて好きですね。
秋葉の扱いを少し変えることで、紙一重の異なるシナリオ(展開)を作り出しているのは感心しました。
「誰が悪いわけでもない」という表現は他のゲームでも時折、使われますが、素直に頷けたのはこれが初めて。
エンドCGの向日葵のカットは月姫で最も印象的なものです。琥珀さんは月姫で最も幸せになって欲しい人です。
最終シナリオはてっきりこれの続きの「七夜」シナリオかと思っていました。っていうか期待してました。ああ、もっと私服の琥珀さんが見たかった。
そういや彼女たちの名前は本名なのかな? 名字の話は一切、出てこないけど。最初は偽名かと思ってました。
6、弓塚さつき
さっちんはCGモードが埋まるまで専用シナリオがあると信じて疑っていませんでした。秋葉の項目でも書きましたが、あの終わり方は気に入っています。特に志貴が自分自身の弱さから目を背けないところが。
でも、やっぱり彼女は生きて幸せにしてあげたかったです。
プレイ順番
アルクェイド>翡翠>琥珀>秋葉>シエル
お気に入り順位
琥珀>アルクェイド>翡翠=秋葉>さっちん>シエル
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