芳村理(変更不可)はバラの花束を手に立っていた。そこは失意のどん底にいた彼に生きる意欲を与えてくれた女性の住まい、テラスハウス陽の坂の前。今度こそ幸せな道を、と意気込むものの、出迎えてくれたのは存在的には大きく、見た目的には小さな娘さん。理の想い人は娘の美都子ひとりを残して失踪していた。
紆余曲折の末、理はテラスハウス陽の坂の住人となり、母親不在の間、美都子の保護者となることに。小さな小さな大家さんはなかなか認めてくれないけれど。
HERMIT3年ぶりの新作は歳の差カップルホームコメディADV第2弾。前作「ままらぶ」はこれの第1弾でもあったようです。同時にひとつ屋根の下愛情たっぷりADVというジャンル名も持ち合わせていましたが。
初回特典はドラマCD+サウンドトラック。脚本はもちろん本編のライター丸戸史明氏ですが、あまり期待しすぎてはいけないかも。
購入動機はシナリオライターが丸戸史明氏であるから。まあ、今のところはHERMITだからでもいいようです。私にとっては数少ない他要素のほぼ全てを無視して購入しても問題のない特別な名前。
システムは基本に忠実なアドベンチャースタイル。ただし、前作のアメリカンホームコメディを意識した各種演出、システムは本作では採用していません。
足回りは標準クラス。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、選択肢間が長いため相対的にはやや遅く感じます。シナリオのプレイ順によってはスキップ使用率に大きな差が生じるので使い勝手は二重の意味で人それぞれです。
バックログは別画面にて行います。それなりに戻れますが、なにぶんテキスト量が量なので1話分とかは戻れません。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。
シナリオは最大で15話。基本的に連続したストーリーなのであまり各話完結という感じではありません。オープニングがあってエンディング及び予告はなし。細部は違えど基本フォーマットはこれまでのHERMIT作品と同じです。
シナリオの構造は電車的。骨子となる物語が1ラインあって、中盤以降にクローズアップされるヒロインを選ぶことで分岐、終着点が変わります(選択肢が出なくなる)。選ばなければ物語は続行され、次のヒロインがクローズアップされていく仕組み。
テキストはライター買いに応える精緻さでプレイヤーを楽しませる配慮を随所に感じました。落語ネタや中部地方ネタなど知らなくとも楽しめる、思わず知りたくなる、そんな新しいスパイスが振りかけられています。もちろん、時事ネタや過去作品ネタ、作品内で完結するネタなど従来の魅力も兼ね備えています。
多人数による日常会話はおよそ違和感とは無縁でまさに流れる川のよう。苦もなくさくさくと読めてしまうのでますますライターの苦労を感じられなくなりそうです。ただ、本作は主人公にボイスが用意されているのでボイスを全て聞く派にはややテンポが悪くなっています。
同ルート2周目に入るとサブキャラの活躍がより詳細にわかる追加シーンが出現。楽屋裏を見ているようでなかなか面白い試みではないでしょうか。
歳の差カップルは前作とは組み合わせが反対になりました。そのため常識に責められるのが主人公側になったので本作はとても空気が重いです。丸戸史明氏の軽妙なテキストで厳しい局面の直後にオチをつけるなど丁寧にフォローがされていますが、全体を覆う重苦しさはエンディングまで晴れません。エピローグもあまり余韻を感じさせることなく、わりとあっさりと終わっているので爽快感に欠ける嫌いがあります。
本作の売りはある意味でNGな面々です。彼らの繰り広げる七転八倒は負のイメージが強いので人を選ぶ可能性があります。受け入れられればその営みは愛すべきものとなるのですが……。
Hシーンは各ヒロイン3〜4回。エロゲーだからこそのHシーンというよりも、感情の高ぶりを示す一例としてのHシーンという意味合いが強いです。だからといって全てのHシーンが物語にとって必要不可欠である訳でもないのが微妙な難点。
CGはイベントのそれよりも立ちCGやSDカットの方が強く印象に残っています。イベントCGはヒロインの登場、Hシーン、エンディングを除くと数えるほどしかないのに加え、シナリオ分量の問題からその間がとても開いているのでどうしても記憶に残りにくいです。
反対に間を繋ぐ立ちCGは豊富な素材で縦横無尽に暴れ回りキャラクターの魅力をアピールしてきます。繋ぎどころかこちらの方がメインではないかと思うくらいに。さらに立ちCGでは難しいくだけた和みをSDカットが提供。間違いなくプレイ中の楽しいという感情を引き出すことに貢献しています。ただ、SDカットは意外と使いどころが少なく、アイキャッチのみでしか使っていないものが多くもったいなく感じました。
音楽は前に出すぎることなく、静かに舞台を支えるような曲が多いです。普段は忘れていても、聞けばどんなシーンで使われていたか、詳細まで思い出すような。
ボイスは主人公を含めてほぼフルボイス。キャラの個性を尊重したキャスティングと声優陣の演技は見事。特にテンポの良い掛け合いで真価が表れているように思います。主人公のボイスは声が裏返るところにその必要性を強く実感しました。ちなみにHシーンには主人公のボイスはありません。
まとめ。うたい文句に誤りのない秀作。人を選ぶ要素がそのまま魅力でもある作品かと。相性が良ければ最高に楽しめる作品になりえるかも。
お気に入り:香野麻美、沢嶋姫緒
評点:85
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、陽坂美都子
父性本能を刺激されるか、欲情するか。まさに運命の別れ道。あまりにも狙ったようなロリコンタイプでないのも結果を微妙にするかもしれません。人間としてはともかく、ゲームとしてより楽しむには後者の方がいいんでしょうねぇ。残念ながら(?)私は前者でしたが。おかげで美都子が縋ってくるイベントCGが怖いのなんの。原画家の狙いはうまくいっていると思います。
終盤になれば忘れてしまいますが序盤の流れは意外と説得力不足。全体を見渡しても何もないまま数日経過、でも事態は推移している(情が移っている)、なんてのはここくらい。
基本的にいい子だとは思うんですが、彼女を取り囲む状況が状況だけに素直ないい子だけでいられないのは気の毒。すくすくと負の感情が育っていくのはいっそ憐れ。
個人的には手を出さずとも美都子の秋泉大付属の制服が見たかったです。
2、香野麻美
おみやげとハイヒールのことで美都子にチクリとやられたのはその後への伏線だったんですねぇ。まさかそれがダンナにも格好をつけて本当の姿を見せないことに繋がっているとは。子供のことがなくても離婚していたかもと思わせてくれますよ、この設定は。
しかしながら、ダンナにさえもしっかり者のできる人間だと思っていてもらいたいという麻美の心理は実に可愛いものがあります。そりゃ、もう一度、会うようになれば惹かれもしますわ。終盤の諦め悪いグダグダっぷりも良い感じ。まして、職業を考えるとなおさらに。
美都子への啖呵が大人げなくもずしんと心に響きました。「ダンナ愛してて何が悪い!?」以降のセリフは理に聞かせたいくらい圧倒的な想いが詰まったましたよ。
結婚式のCGが素晴らしい笑顔でとても簡単に引き込まれました。こんな顔されたら、恐怖も吹き飛ぶってもんです。
3、天城夏夜
四天王最弱とあって貧乏くじを引きまくり。終盤ともなれば、いつの間にやら献身的にライバルたちの面倒を見る立場におさまっていて泣けてきます。ではせめて自分のシナリオでは報われるかといえば、むしろ株を下げる方向への活躍が約束されているという切なさ。シナリオ分量も少ないし、ホント本作ではフォローの難しい存在です。過去の女といういつものポジションも麻美にとられているしなぁ。
4、沢嶋姫緒
見かけ倒しという言葉が愛しく感じる、そんなヒロインもなかなかいないのではないでしょうか。お嬢さまらしい姿というのが様になっているようで意外とそうでもないという。精神年齢もヒロイン陣の中では最も低いので鬱要素も最も低い。よって本作の清涼剤のような役割を果たしています。
ツッコミの厳しさは随一。迂闊な発言はすぐに的になります。彼女の舌鋒の鋭さはプレイ中の密かな楽しみでありました。
SDカットは全キャラ中でもかなりの可愛らしさを誇ります。もっともっと数多く見たかったです。
5、陽坂穂香
色々な意味ですんげー人。諸悪の根源という言葉が残念ながら相応しい。美都子は死ぬまで苦労させられると思います。
同じ年齢不詳でも涼子さん@「ままらぶ」とはえらい違いです。この相似はやはりわざとなんでしょうね。
6、佐々木
番頭さんの愛称が可愛いがゲイ。主人公は貞操を守りきれるのか。その意味では姫緒さんと結ばれていた方が良いような悪いような。お約束担当であるので普段は笑わせてくれますが重要な時にはやっぱり退場してしまう。
7、長谷川倫子
親友が間違った道に進みそうだからといって策を弄して自分の望む道に戻そうとする。本人に無断で行う時点で親友の資格無し。彼女が新興宗教にはまればもちろん、美都子や真鶴を引き込もうとするでしょう、当然無断で。だってそれが正しいと信じているだろうから。
剛志と節操なく付き合い始める点といい、あらゆる意味で信用に値しない人間。
8、本田真鶴
実のところ、頭の良さが違うだけで実質的には倫子といい勝負。自己中ぶりは少しも変わらない。美都子は友達には恵まれていませんね。
9、尾関剛志
人の話を聞かないサッカー小僧。悪い奴ではないが別段、それほどいい奴でもない。
10、上坂喜兵衛
年の功というわりにはあんまり役に立たない。最後に権力を濫用するが知恵の方をこそ見せて欲しかったところ。
11、熊崎吉則
まぁ、設定通りのお笑い担当。善良な住人であっては意味が薄れるのでこれでいいのではないかと。
12、八須永丈太郎
七色の声色の持ち主。実際的な芸ではないのだから、もうちょっと本人ならば絶対に言わないようなセリフを言って欲しかったところ。3人は2周目以降にちょっと出番が増えますが、それでも全体的な出番は少なめ。特に後半に激減するのが寂しかったです。
13、木下さん
噂好きのOLを地で行くヒト。彼女のおかげで姫緒さん修行編はかなり面白さが増したと思います。何気にSDカットにも出てます。
14、平木副部長
上司がデネブ@「仮面ライダー電王」。なんだか素敵な響きです。困らせた時の声がお気に入り。
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