合焦したところの絵の浮き加減はしっとりとしていて,ハイライト部分には滲んだようなふくらみをするレンズです。この時代のものは,コーティングがされていないので,逆光には弱い部分が隠せません。カラー撮影の場合は,硝材の関係からかかなり黄色寄りの発色をします。ボケかたに関しても,2線ボケ(2線以上かもしれません)が著しく,バックの処理を考えさせられるレンズでもあります。
同じヘクトール7.3cm (73 mmではありません)で,製造番号120242のものを所有していました。そちらは何故か薄いアンバー色のコーティングされていて,コントラスト等の面から現有のものより近代的な写り方を見せてくれました。 けれども,ハイライトの滲み方が現有の コーティング無し のものの方が美しく思えたのでこちらを選択しました。経年変化・個体差があることは否めないと思いますので,撮り比べを楽しむにはもってこいのレンズです。
上の黒鏡胴モデルと異なる点は,専用フードやヘリコイドなど外装が全てクローム仕上げということ,またヘリコイドが直進式だというです。
ヘクトール 7.3cmには,いくつかのバージョンがありますので,お店等で見かけられたらいちいちチェックしてみると面白いと思います。
いきなりCarl Zeiss Jena(CZJ)製の中望遠レンズを割り込ませてしまいました。
このレンズは純然たるライカ・マウント(M39)を持つツァイス製レンズです。
85mmのゾナーやプラナーは,比較的多く耳にされる(目にされる)かと思いますが,このレンズのように75mmの焦点距離でライカ・マウントというのは,珍しい部類に入ると思います。実際,このレンズに関して記述されている資料を見たことがありません(でした)。
[2003.5.20更新] 『ノンライツ・ライカ・スクリューマウントレンズ』の著者M.J.Small氏に直接伺ったところ,「本レンズはTenax用に製造されたレンズです。」との情報を頂くと同時に,製造年についても 「1940年製のはずです」とご叱正いただきました。 下記のとおり正しい情報に変更しておきます。 1940年といえば世界大戦中ですが,戦時下のドイツにおいてどのようにしてこれが製造されたのか,知るべきことがまだまだありそうです。
フィルター: E35.5mm
このレンズはなぜか人気がなく,あちこちのカメラ店でひっそりと棚の後方に控えていることが多いようです。
ヘクトール135mmならびにエルマー135mmの面白いところは,非レトロフォーカス・レンズの長焦点レンズであるが故にイメージ・サークルが大きい点があげられます。
望遠レンズというよりも寧ろ長焦点レンズと言うべきで,ビゾフレックス用のヘリコイドや,マウント・アダプターを介して,ペンタックス645などの中版カメラはもちろん,4x5判までもカバーするイメージ・サークルの大きさを持っています。
この大きなイメージ・サークルのごく一部である35mm判サイズだけを使わせる設計,ぜいたくの極みですよね。
一般的にレンズの中心部を通る光は収差の影響を受けにくく,故にシャープに結像するとされています。逆に言えば,レンズの中心から外れるほど収差の影響を受けやすいわけで,にじみやひずみの原因になり敬遠されがちです。
ところが,ライツ社は,レンズ中心部の光を敢えて通さないようフィルター(写真右)をかけるようにし,収差の大きいレンズ周辺部だけで結像させ独特のボケ味が出せるレンズをつくったのです。
レンズ中心部の光を遮るかどうかは,フィルターの取り付け・取り外しで自由に選択できます。この場合光量が変わりますから,絞り目盛はフィルターの有無に応じ2通り刻んであります。
このにじみは,一見通常のレンズにソフトフォーカス・フィルターをかけた時の写りに似ているようです。が,タンバールのような(球面)収差から来るにじみ方と,平面でつくり出したフィルターのにじみ方とでは,ピントの芯とハイライトのふくらみ方が明らかに異なります。
ベロスチグマット 90mmは,1945年~1950年の間に造られた テッサー・タイプの長焦点レンズです。
ウォーレンサック (Wollensak)がレンズを造り,ニューヨーク・ライツ (E.Leitz NY)が鏡胴の製作とアッセンブリング(組上げ)を行ったと言われる,米国製のライツ・ブランド・レンズです。
鏡胴の根っこにあるプレートには,"Made in USA"と彫られているあたり,ライツ・レンズに分類するにしても,ノン・ライツ・レンズに分類するにしても,少々変り種であることに違いはありません。
焦点距離を示す"mm"が,"MM"と大文字になっている点も面白いです。
そもそもドイツ製エルマーの供給が間に合わず,ロチェスターで造り始めたというのが定説でもあることでもあり,次に挙げるエルマー9 cm とほぼ同等品と考えて良いのではないかと思います。
ただし,米国製レンズらしく色目が派手だというハナシもあるようですし,フィルターもE34mmだと大きすぎて使えません (A36を使うしかないようです)。
ヘクトールやタンバールは、F値の明るい高速レンズでピントの合ったところの描写はすばらしいのですが,後ボケに多少の無理の跡が見られます。エルマー9cm (90 mmでない!)は,レンズの枚数を4枚とし,F値を4に落としてあるせいか,画面全体に均質感が感じられるレンズです。
事実このレンズは開放からシャープな写りをしてくれますし,小型軽量ですので,山歩きや散歩カメラ・ワークの際などには大変重宝するレンズだと思います。
この頃からレンズにはコーティングが施されてますが,ソフト・コーティングですので,拭き傷には十分注意する必要があります。
う~ん。このレンズは「ビゾフレックス」と言うアダプター専用のレンズなんです。これをLマウントの望遠レンズ編に入れるには,かなり異論のあるところでしょうが,堪忍してやってください。
邪道かも知れませんが,私の場合,これまたPentax645用のアダプターを付けて,6x4.5cmのフォーマットで使っています。なかなかヘビーなトーンが出て面白いです。
この長いフードと一緒になった銀色のズミクロンを見かけたら,じっくりと観察してみて下さい。だいたいお店では,「初期型ズミクロン」とうたっていると思います。
同じ形をしたMマウントのものがあるのは先刻ご承知のとおりでしょうが,ここで紹介しているのは Lマウント(スクリュー・マウント) の ズミクロン90mm です。
"Ernst Letiz Canada Ltd. Midland" と刻印されています。 自分の作品の出来とは全く関係ないですが,Midland(ミッドランド) と彫られているだけで,なんだかかっちょ良いですよねぇ~。
これだけ大きいレンズになると,バルナック型ライカにイマレクト・ファインダーをくっつけたぐらいでは,不釣合いな気がします。
こいつには随分泣かされました。愛用のIIIfにくっ付けてテスト撮影すると,とんでもなく前ピンになったのです。中間リングを足して事なきを得ました。いろいろやってみた過程で気付いたのですが,このレンズはピントが来る面が平面ではなく,おわんのようにふくらみを持った曲解面でピンがくるんですね・・・(?)。
ピントが来たところはもちろんシャープです。でも設計の古さは隠し切れないかな。
このレンズに限らず,これまでにカール・ツァイスと名のついたLマウントレンズをいくつか試してみましたが,まともにピントが来たのはゾナー75mmぐらいのものです。どうも私はツァイスから睨まれているらしいです・・・。
第2次大戦後旧ソ連は,旧東ドイツをベースとするカール・ツァイス・イエナ(CZJ)の技術施設を押収するとともに,技術者の多くも半ば連行するような形で写真に関する技術開発を行いました。
このため,ジュピターをはじめ旧ソ連時代の写真機器の殆どは,CZJの特色をそのまま受け継いでいるとされています。
1つ上で紹介したSonnar 85mm の写真と,このジュピター9を見比べていただけると,外観は殆ど同じと言えることに気付かれるでしょう。重量的には,ジュピター9の方がぜんぜん軽いです。
写り具合については,オリジナル(?)のゾナー 85mmよりもジュピター 9の方がメリハリのある描写をする気がします。
Carl Zeissの名刀と言われるゾナー85mm(上)をお手本に,旧ソ連で造られたレンズだそうです。
開放では少しフレアーがかかる傾向がありますが,意外と色のりが良く,絞り込んでも極度に硬くなりすぎない良さがあるレンズです。
本家となるゾナー85m/f2では,ライカ(ボディ)の距離計との相性の悪さを挙げました。このレンズも派手に外してくれます。
最短距離(1.15m)で距離計,実画像の両方でピントがくるようレンズ・ブロックの位置を調整した後,念のためと思ってちょっと外し(1.5mあたり)距離計と実画像のピントチェックをするともうぜんぜん合いません(無限で合わせると12m以下は論外というぐらいに外れます)。
フィルター径は49mmφ
ある方からキャノンの中望遠レンズを譲ってもらいました。絞り羽根の枚数が15枚と多く,見るからにボケ味が滑らかそうです。レンズ筐体は総金属製で,かなりドッシリとした感触が楽しめます。
当時のカメラは今よりずっと嗜好性が強かったことを推察させられます。鏡胴には惜しみなく良い材料が投じられているように思えます。バルナック型ライカにはこのまま,そしてM型ライカにはL/Mアダプターリング経由で使えるのはもちろんのことです。こうした文化遺産をそのままの形で受け継ぎ,そして実用とすることができる点はライカ(とライカ互換)カメラを使うことの魅力の一つだと言えるでしょう。
製品名称 Serenar 85mm F2
構成(群-枚)4-6
最小絞り F16
最短撮影距離(m) 1.07
フィルター径 (mm) 48
質量(g) 556
発売年月 1948年(昭和23年)
発売時価格 \34,520
*注:発売年月に関しては、tamura様より「1949年1月号の『CAMERA』に初めて出てきます。」とのご指摘を頂戴しております。これまで1948年1月としておりましたが、上記のとおり1948年とだけさせて頂きます(参考文献:双葉社,「使うキャノン」,竹中隆義,2000年6月)。
最終更新日:2006年1月10日