ルーナは自分が何をされているのか判らなくなっていた。
それは確かに接吻の筈だったがそっととは言い難くかなり強引に重ねられた上、最初の触れ合いが長く続いた後は鳥が軽く啄む様に唇で唇を挟まれ、なぞられ、そしてぬろりと舌で唇を舐め回される驚きに巫女姫が驚き瞳を見開くのにも構わず守護騎士の指は頬を耳朶を柔らかに撫でる。小動物を宥める様な優しい指の動きはこそばゆく、だが擽られるのとは異なり何故か秘めたくなる…例えば他の誰かに語るのを躊躇われる不思議な恥ずかしさに胸が高鳴り、全身にもどかしい甘い感覚が広がっていく。それなのにどこか怖い。唇が僅かに離れる間に騎士の息遣いを感じ、呼吸をどうすればいいのか判らなかった少女はそれに合わせて息をつく。至近距離で息をつきあう為に男の吐いた息を吸い込む形になり胸の奥に相手を受け入れていく感覚に、処女の巫女姫には未知の口内を舐り回す舌の甘くいやらしい蠢きに、腰の辺りまで何も身に纏わぬ騎士の腕の中で全裸の少女は蕩けていく。
「ぁ……ん」
ゆっくりと離れた唇の間に唾液の糸が伝い、頬だけでなく全身をほんのりと桜色に上気させた少女はどこか満足そうな男をぼうっと夢見心地の表情で見つめる。
「何を…なさっているのですか……?」
「……。接吻ですが」
「違いますよね? ――いつも何方となさっていらっしゃるのですか?」
何か言葉を間違えている気がしたのだが自分の知っている知識では補えないそれを、自分の守護騎士が殆ど存在していなかった筈の自由時間に他の相手と何やら行っているのかと思うと少し胸に痛みが走った。親愛や好意を伝える手に行う口付けとはあまりにも異なる淫靡な行為の過剰な甘美さに、何故か精神が不安定になる居心地の悪さにルーナは視線を逸らす。
「十五年程御無沙汰です」
「十五年、ですか?」自分が二歳の頃だとこの男性は十八歳…今の自分より一歳上で既に十分結婚適齢期だった筈…と、不意に相手が既婚者である可能性に気付かされ、慌てて騎士を見上げる。「奥様がいらっしゃるのですか!?」
「……。初めての求愛ですが」目の前の騎士にはもしかして自分と同い年位の子がいてもおかしく衝撃の事実と肯定としか思えない言葉に改めて距離を置かねばならないと身を引き締めたルーナの頬を、男が撫でた。「貴女が」
「はい……?」
考えてもみなかった情報に思考が追い付かず小首を傾げるルーナを抱きかかえたまま消滅しつつある魔獣の前から元いた鎧等を置いていた場所へと歩を進めた男が、草の上にあったマントを足の爪先に引っ掛け敬意を微塵も感じさせない仕草でふわりと蹴り上げ広げさせた。
夜空を思い浮かばせる深い藍色の地の背の中央に聖白銀の糸で刺繍が施されているマントの上に全裸のルーナを横たわらせ覆い被さる騎士に、ふと巫女姫は大神官のみならず神殿でのこの守護騎士の評価が悪い事を思い出す。聖典の全編を諳んじて聖白銀の鎧と長剣の所有者である巫女姫の守護騎士は本来聖騎士の称号を授与されてもおかしくはない筈だった。しかし彼にそれが授与される事はなかった…信仰心の足りない男、そんな評価の男が神殿で好意的に受け入れられている筈がなく、そんな彼が聖白銀の鎧を身に纏う事に今でも不快感を示す者は多い。
先程マントを敷物代わりにして横たわっていなかったのは彼のそれを汚す事と宗教的に躊躇いがあったからである。だがその持ち主は爪先で引っ掛けて広げた上、あっさりとルーナをその上に横たわらせてしまう。だが持ち主とは違い巫女姫は宗教的な禁忌感よりも何かいけない事をしている危機感と、覆い被さってくる守護騎士の切なくなる程複雑な、労りと罪悪感と真剣さと…そして戦場で見せた獲物を前にした狂戦士の昂ぶりが混ざった、それでいて表面的には穏やかな表情に全身がぞくぞくっとざわめき男のマントの上で僅かに肘を張り後退る。先刻の異常な接吻を思い出し甘えてしまいたい衝動があるのに怖くなる。
「あの…何を……?」
「貴女は閨の事など『女は麻袋に入れられて交わる』程度にしか知らないでしょう」
皮肉気に口の端を歪める守護騎士の影が姫巫女の顔に落ちる。彼が生殖行為を語っていると判りまだほんのりと上気し過敏になっている少女はびくっと身を震わせた。月のものがある以上そこに男性を受け入れ子を産むのは判っているが、彼の言う通り女は頭から麻の袋を被りその場所に開けた穴から男性を受け入れるのだとしか知らない…だがこの場に麻袋はなく、そして自分は全裸であり、騎士は半裸であり到底生殖行為を行える状況ではない。ましてや自分と彼は婚礼を行っていないのだから彼が今それを仄めかす意味が判らず、しかし不安が増していく。
まだ腰から下は亜麻布の洋袴と聖白銀の鎧を身に纏ったままの守護騎士が動くとかしゃんと涼し気な金属音が鳴り、それが自分が全裸である事を今更ながらに意識させルーナに乳房と腰を何となく隠させる。異性の目に裸体を晒すのは恥知らずだと判っているものの生まれつき侍女に入浴などの世話をさせるのが当たり前な上、異性との接点が希薄な巫女姫にはその実感が薄い…だが守護騎士の半裸を目にしてからは何かが異なっていた。恥ずかしい。魔獣の傷から毒を吸い出していた時には平然と触れてしまえた身体はどうしようもない位筋肉質で、胸板も腹筋も瘤の様に盛り上がった峰の連続であり、少女を落ち着かなくさせる。身体を捻り、畔に畳んでおいた巫女装束を手に取ろうと動く。
「姫。そのままで」
「でも……」
かしゃんと音が鳴りそれが聖白銀の鎧を脱いだ音だと気付かされ、何故だろう少女は不安になる。藍色のマントの上で上気した身体を少しでも隠そうと身を縮込まらせる柔肌に男の視線が注がれているのがはっきりと伝わり、びくっと巫女姫は甘く危うい感覚に身を震わせた。甘く上擦った震えた吐息が漏れ、逃げ出してしまいたいと同時に守護騎士の胸に縋り付きたい衝動が鬩ぎあい、恐らくは習慣になってしまっているのだろう、自分だけの騎士に縋る視線を向けてしまった少女の瞳に洋袴も脱ぎ全裸になってしまった男の身体が映る。
全身がどくんと脈打つ。何一つ無駄なく削ぎ落されたしなやかな長身の下半身は上半身と同じで大小様々な傷…刀傷や矢傷が幾つもあり、傷一つない巫女姫の肌がどれだけ甘やかされて育ったのかを思い知らされる…いやそれよりも純粋な、鍛練を重ねた身体の凶暴な美しさに魂が抜けた様に見惚れてしまいかけ、その腰の正面にある器官に気付いた瞬間、全身をびくっと大きく強張らせ顔を逸らせてしまう。
自分は今何を見てしまったのだろうか。
麻袋の穴の外から子を恵まれるのだからそこから何かが与えられる筈であり、体内に差し入れられるのは想像がつく。だが、だが、まさか今目にしてしまったものを迎え入れる事になるのだろうか?天に向かって反り返った棍棒の様な太く長い硬そうな物…それは腰の位置にあり、迎え入れるべき場所との位置関係的にはおかしくないと思えるが、しかし、暴力的な猛々しさを一瞬で少女に感じさせた。――いやでもこの場に麻袋はないのだから問題はない。そう思うものの、不安と怯えは消えてはくれない。
陽光の下恥じらう事もなく堂々と、まるで少女に余裕を持って見せつける様に動く守護騎士が藍色のマントの上で裸身を縮込まらせている巫女姫の手首をそっと握り、仰向けに向き直らせた。横たわったままの自分の細い腿を跨ぎ覆い被さりはしても体重をかけてはこない男の体躯を間近に感じ、少女は速過ぎる胸の鼓動を整えようと震えながら深呼吸を繰り返す。長身な上筋肉が綺麗についている身体の重みをかけずにいてくれるのに、何故かとても重圧感を感じてしまう。まるで大きな肉食獣に食まれる直前の様な息が詰まる圧迫感と、純粋に凶暴で強い肉体の威圧への陶酔感に胸が早鐘を打つ。騎士の身体を温めるために暫く身体を重ねている時間の方が長かった筈だが、触れている箇所が少ないのに今の方が恥ずかしいのは何故だろうか。
「何をなさっているのですか」
ルーナの問いに男がくすりと微かに微笑み、額に軽く口付ける。
「房事ですよ。閨でないのは姫に申し訳無いですが」
基本的に神に身を一生捧げる巫女姫であった為、性の知識に乏しいルーナは男女の睦事を語られても判らずきょとんと首を傾げてしまう。
「あ…。それよりお待ち下さいませ」
守護騎士が全裸になった為にどうしても目に付く魔獣の傷に巻いた布にルーナは再び口付けようとした動きを避けた。
「それより……」
やや憮然としながら覆い被さる体勢を解いた騎士を座らせ、巫女姫はその隣に並んで座り白い手を血の滲んだ布の上に翳す。瞳を閉じ治癒を祈念する…本来ならば浄化と同じで一瞬で癒せたそれが、まるで一滴一滴水を絞り出す様に拙く無力なものに変わっていると実感し、それでも騎士の傷を癒そうと念を込め続ける。
「姫……」
「先程は治癒を使わないでごめんなさい。――私がもう無力だと一番貴方に知られたくなかったのです」
「いいえ。貴方が私を癒そうとした事に変わりはない」
どれだけ治癒出来ているのか…恐らく傷が塞がるまでは至らず、だが解毒の仕上げと止血程度にはなってくれればいい、そう考えながら瞳を開けた巫女姫の視界に大小の弱い光が指先と布の間で頼りなく揺れているのが映る。魔獣の浄化よりも更に弱い光に、物心ついてから当たり前の様に行使していた力が尽きていくのを実感し、まるで寒風に一糸纏わぬ姿で放り出され全身の熱量を失っていく感覚に僅かに身を縮込まらせる乙女を、男の腕が抱き締めた。
「神力などどうでもいい」
大切そうに、触れるのも恐れているかと思える程、脆く儚い物を抱え込む様に柔らかく抱き締めてくる男の唇が巫女姫の唇を塞いだ。穏やかに重なる唇にそっと瞼を閉じる少女の身体から力が抜け、しっとりと重なる身体の間で男と女の呼吸が絡み合い、やがて男の舌が小さな唇をなぞり、そして口腔に捻じ込まれる。
崖の上にいるのだろうか鳥の囀りが聞こえてくる。穏やかな風が微かに肌を撫で、滝の水音に紛れて愛しい人の鼓動と熱が伝わり少女は男の体温に安堵する…毒の爪を受けた冷えた身体を温めていた時の不安はまだ完全に消え去ってはおらず、無意識に白い肌を自ら男に寄せてしまう迂闊な乙女を咎める様な表情で見下ろした後、彼女のただ一人の守護騎士がマントの上に守るべき巫女姫の組み敷いた。
泉の畔で甘く甲高い声とくちゅくちゅと液体を掻き混ぜ続ける音が細やかに続いている。
麗らかな陽光に白い裸身を晒している乙女の下腹部に顔を埋めている男の舌が異性の身体が初めて触れている膣口を執拗に舐め回し舌先を捻じ込み続けていた。閨ですらない屋外で、神域の畔で、膣口に男の舌を受け入れている巫女姫の身体はいつの間にか汗ばみしっとりと濡れ、身を割り込ませている守護騎士の逞しい身体の左右で小刻みに震える華奢な脚がぎくしゃくと跳ね、白い指が深い藍色のマントを掻き毟る。膣口から溢れた液体は下腹部だけでなく尻肉を伝い聖白銀の守護騎士にしか許されていない滑らかなマントに吸い込み切れない粘液の池を作り出し、男の口元から顎をぬらぬらと滑らせてた。
何度哀願しただろうか、地が崩れた様な奇妙な浮遊感とこそばゆさを限界まで高めた様なもどかしい疼きに全身が弾けてしまいそうな少女が舌を、歯を、愛撫の手を止めてと鳴いても決して男は止めてはくれずにいる。物心がついてから親すら抱き締めてくれる事がなかった身体を、その寂しさを埋める様に男は撫で、口付け、抱き締め続けてくれていた。だが、今はそれがどこか怖い。舌が膣口を軽く抉じ開ける度に何かが欠けていく…それは巫女姫として当然守るべき純潔なのかもしれない。確かにもう自分には神力は殆どないが、それでも十七年間精神的主柱であった信仰心は簡単には失われるものではなく精神に根付いてしまっている。人が望んでも手に入れられない神の愛に背き男を愛した愚かな女と人に蔑まれる身で何をと嗤われるかもしれない、それでも何かが乙女を不安にさせ泣きじゃくらせる。
「お嫌ですか?」
ふと気付くと、守護騎士が優し気に頬を撫でていた。ひくんひくんと膣口が小刻みに跳ね続けているのを熱い何かが受け止めており、体温より僅かに熱いそれがあの棍棒の様な物だと本能的に感じルーナは頬を染めた。
もしかして、やはり騎士のあの棍棒の様なあれは閨で交わる為の箇所なのだろうか…だとすれば創造主は何の試練を乙女に与えるのだろうか?あの様な猛々しい物を受け入れさせるとは。そこまで考えかけ何の為に夫婦の交わりに麻袋が必要な理由に少女は思い至る。見ずに済めば怯えずに済む、そんな配慮なのかもしれない。円滑な行為の為の神殿としての配慮の教育。成程あの様な猛々しいものが自分を貫くのだと判れば怯えて拒絶してしまう者は多いであろうと納得出来る。
「姫?」
しばし意識が逸れてしまったのかやや困惑した様な男の声に、びくっと少女は我に返る。
今拒めば守護騎士は止めてくれるだろうか、だがここで止めて、その後もしも離れ離れになったとしたらもう二度と会えないと直感が囁いている。もしもこれから守護騎士と男女の営みで結ばれてしまえば純潔の巫女の処女を奪った大罪を犯したとこの人は咎められてしまうのだろう…だがそもそもの罪は自分にあるのを押し付けてしまうに他ならない。しかし巫女姫として人々に畏敬の念をもって隔てられ育った少女には優しく触れる恋しい男の手の温もりは余りにも手放し難かった。
僅かに身体が強張る。自分の甘えが一人の男の人生を壊してしまう事が、しかもそれがただ一人恋した相手である事が許せないと何度も深呼吸を繰り返し終わりを告げる勇気を振り絞ろうとする少女の唇を男が再び塞ぎ、舌を捩込まれる。
「!」
今日まで知らなかった接吻だが余りにも種類が異なり乙女はその度に驚かされる。優しく重ねられるもの、小鳥が啄む様なもの、ゆっくりと口腔を舐り回すもの…。今は、まるで獣に貪られているかの様だった。がちっと歯が当たるのも構わず深く唇が重ねられ舌が捩込まれ、唾液が絡まり口内をたぷたぷと満たす中、熱くしなやかな舌が少女の口の全てを弄り、啜り上げ、流し込まれて蕩けていく。んっんふっと甘えた呼吸が小鼻から漏れ、男の腕に抱き締められた身体がびくびくと跳ねくねり、男の指に背筋をなぞられ乳房を揉まれる甘い疼きに腰の奥がとろりと熟れていく。
鳥が囀る。空が青い。美しい世界の中で、巫女姫のまだ男を受け入れていない膣口がはしたなくくぱくぱと弛緩と収縮を繰り返し、愛液が溢れるその下腹部に重ねられている守護騎士の猛りきっている肉棒が腰の動きでゆっくりと引き戻され、そして角度を直され先端に先走りの汁を滲ませている傘の切っ先が押し当てられる。
「私が貴女を逃すと思いますか? ――怖がるのならいいですが、逃しはしません」
「――ぁ…ぐ……!」
ぬるぬると濡れた膣口に大きなモノが押し込まれたと感じた次の瞬間、ずぶっと限界を超えた痛みが少女の腰を貫いた。男の舌がずっと舐り回し広げてくれていた膣口をそれよりも遙かに大きな傘がこじ開け、じりじりと奥へと送り込まれていく…聖白銀の刺繍を施されている藍色のマントを巫女姫の爪が掻き毟り、握り締め、酷い痛みにまるで磔にされたかの様にぴんと伸びた脚の先で白い踵が布を踏み躙る、その中央で、生白い柔肌の処女地に赤黒い太い肉棒がずぶずぶと埋もれていく。まるで絶命したかの様に大きく瞳を見開き呼吸もままならずに全身に汗を滲ませ震える少女を愛しげに見下ろす男の手が頬を撫でる。上半身だけを見れば優しく恋人を労るその腰が、華奢な白い脚をじっくりと押し開き尻肉を僅かに上げさせ肉槍を更に奥へと受け入れさせていき、やがて彼女を守護すべき牡の切っ先が窮屈な牝肉の最奥にずんと重く当たった。
余りの痛みに涙が止めどなく溢れる娘の頬を男の指が撫で、そっと口付ける。
これで結ばれたのだと、結ばれてしまったのだと激痛の中実感するが、ルーナの身体は強張り指一本として自分の意志では動かせそうにない。心が千々にに乱れる。国随一の剣士を罪人にしてしまったのに、神の加護を完全に失ったのに、民を裏切ったのに、それなのに、恋しい人に純潔を捧げられたのが、身体の奥深くまでその人を迎えられた事が嬉しいなどと。
巫女姫だった娘を守護騎士だった男が貫いたまましんと横たわった時間が暫し流れる。強張った身体の痛みは消える事なく、だが互いの鼓動を至近距離と身体の芯で感じる不思議と穏やかな感覚の中、少女はぎこちなく手を動かし男の頬に触れる。
「好き…、好きです……。貴方が好き……、とてもとても…好き……」
他にもっと賢そうな言葉も伝えるべき言葉もある筈なのに辛うじて紡げた言葉はとても拙く、少女は頬を染める。そんな少女をこそばゆそうに見下ろした男が再び唇を軽く重ね、そして困り顔になった。
「――大変申し訳無いのですが、まだ終わりではないですよ」
「え?」
「まだ私は、その…射精していないので。それに姫を悦ばせていない」
「はい……?」
「少し手荒に扱ってしまいますがお許し下さい」
「え?あの、何を?」
神殿で教わったものとは異なっていたが男女の交わりを終えた何処か後ろめたい達成感を否定されてしまった気がし、戸惑う少女の腰に手を添え膣奥に傘を押し当てたまま身を起こし膝立ちになった男に、処女喪失をしたばかりの膣がぐりっと激しく擦られる。思わず歯を食いしばる少女と男の結合部から溢れる潤滑液には破瓜の血が混ざり白い尻肉へと広がっていく。静止していた間は少しだけ楽になっていた激痛がぶり返し、思わず眉間に皺を寄せてしまう少女の腰が長身の男の膝立ちに引き摺られ浮き上がり豊かな乳房が常とは異なる方向への重圧に歪に撓む。
片手で少女の腰を押さえつけている男のもう一方の手の指が、結合の前に膣口と同じくして執拗に可愛がられ続けた肉芽を軽く撫でた。
「――ひ…ぁあああんっ!」
肉芽から頭の芯や爪先まで一気にばちりと稲妻が突き抜け白い身体ががくんと跳ねる。ねちょりと膣が肉棒を痙攣の様に絞りたて弛むのを実感する余裕もなく、乱れた浅い呼吸を繰り返す不慣れな牝を愛しげに見下ろしながら男の指がずきずきと疼いているクリトリスを優しく捏ね回す。愛液と唾液に濡れた小指の先程の鴇色の肉芽をねちょりねちょりと撫でられる度に白い身体が中途半端な逆さ吊りの状態のまま震え跳ねくねり、白い乳房が前後左右に淫らに弾む。自分に何が起きているのか判らない混乱の中、膣全体を埋めて尚余りある大きな肉槍に怯えながら身体が脈打つ度、クリトリスの強烈な刺激で火花が全身に散る度、ぞくぞくぞくっと少女の頭の中に牡に身を委ねる奇妙な安心感が植え付けられ浸透していく。
声が溢れ仰け反り喘ぎ身をくねらせる度に膣をぎっちりと埋める恋しい人の肉槍に抉られ激痛が走る、それなのにその存在感を愛おしく感じてしまうのは子を産むのはもっと大変だと知っている為なのだろうか。懐妊で死ぬ事はないが出産での死亡は少なくはない…だが自分はこの騎士の子を産めるだろうか、神力を失い始めてから体力が徐々になくなってきているのが判る。神力は奇跡を生むが神力の器だけでなくそれを支える身体に負担を与えるものでもあり、体力を補うのも神力なのだがそれが失われれば…恋をしてからずっと気付かされていた残酷な現実が神を裏切る罰として重くのしかかっていた。長生きは出来ない。密かに落ち延びて健康な妻として共に生きるのは叶わないであろう。――だからこの人を巻き込んではいけないのに。
騎士が僅かに歯痒そうな表情をし、再び少女の身体をマントの上に横たわらせた。
陽を背にして自分を見下ろす男の表情が不愉快そうにも見え不安に駆られた少女は破瓜の激痛がまだ収まらない中、戸惑いつつ口を開こうとして口籠る。彼はもしかして後悔しているかもしれない。放っておけば神力が勝手に尽きる巫女姫などもう敵国からも狙われる事もなく魔物の餌程度の存在でしかない…いや彼は、聖白銀の守護騎士はその様な人柄ではない、ならば何がいけなかったのだろうか?
不意に騎士が先刻語った十五年ぶりとの言葉を思い出し処女喪失の最中の少女の胸の奥にぽつりと不快な何かが浮かび上がる。神殿では象徴たる巫女姫として上質な衣を身に付け髪も肌も丁寧に整えられてはいたが、贅沢な衣装であっても神殿のそれは国内の貴族の令嬢や諸外国の姫君達の様な華麗な装いには程遠い…高く結い上げる髪、乳房を強調する色とりどりのドレス、女性的な魅力と遠い所にある自分では殿方は喜べないのではなかろうか?自分が嘆いているから見るに見かねて肌を重ねてくれたがやはり悔いてしまったのではなかろうか?そんな人ではない、そう判っていても他の女性への劣等感と残してしまう騎士への罪悪感が処女を捧げ僅かに誇らしい胸を咎める。
「姫」
至近距離で聞こえた声にびくりと身を震えさせ見上げた少女の唇に守護騎士の唇が重なり、もう当然の様に口内に差し入れられる舌が甘くいやらしく舌に絡み付いてくる。くちゅくちゅと口内で絡められる舌の動きの悩ましさと膣内で猛々しく存在を主張する守護騎士の肉棒に激痛を堪えながらうっとりと身を委ねている少女は、破瓜の痛みが僅かに薄れているのに気付く。確かに身を裂かれる痛みはあるものの鈍くなりつつあるそれに代わり、徐々にほんの僅かに感じられるのは男に肉芽をくじられ舐められ撫でられる度に感じた脈打つ様に押し寄せてくる弾けそうなもどかしい快感だった。痛みと同時の先刻の残滓の快感に戸惑う少女の頬を男が撫でる。
「何故貴女はそうも……」
「?」
騎士の表情が苦しげで、少女は躊躇う。
もしこれが慰問か何かで例えば民の子供が泣きそうなのであれば抱き締めて理由を聞く事も出来たが、自分より遙かに年上の大人の男性を抱き締めるのは、ましてや思いを寄せている人にどう接すればいいのかが処女を捧げたばかりの元巫女姫には判らない。守護騎士としての付かず離れずの護衛の距離感で十五年過ごしてきた相手に恋をし、今身体の奥深くに彼を迎え入れている現実だけで…いいやそもそも性の営みにおいて全裸で抱き合う事自体が理解の範疇を超えている、何故愛しい人はこんな事をしているのだろうか、触れて貰えるのはとても嬉しいのに混乱して泣きそうになってしまう少女の頬を再び撫でた男が、ゆっくりと腰を動かした。
「ぁ……っ!」
ぐちゅりとあからさまな音を立てて引き戻される肉槍に膣奥から掻き出された愛液と破瓜の血液がどろりと結合部から溢れ出し、傘が完全に引き抜かれる寸前でまた膣奥へと捻じ込まれていく。筋肉質な男の引き締まった腰が華奢な白い脚の間で大きく動き、男と守護騎士のマントの間で身を強張らせる少女の豊かな乳房が男の胸板に捏ね回される形で揺れ動く。たった一度の抽挿ではなく男の律動は繰り返し続けられ、少女の具合を探る様な腰の動きは肉槍の擦る角度や速度を変えさせロゼワインよりも赤い粘液が絡み付く男と女の下腹部で褐色の柔毛と灰色の剛毛が掻き混ぜられ、傘の先端を膣奥に強く押し当てたまま腰を擦り付ける動きにクリトリスを強かにくじられた瞬間、小さな唇から甲高い鳴き声が溢れた。
びくん、と白い身体が跳ねる。
敏感な肉芽の刺激が弾けた僅かな後、ぎゅっと膣が愛しい男性の分身を拙く喰い締め波が押し寄せては引く様に繰り返し搾っては緩める蠢きを自分の意思とは関係なしに勝手に続けている。戸惑った鳴き声を頼りなく零す少女を至近距離から見下ろす男の目が不思議な程優しく、そして満足気なのが羞恥心を煽った。白い華奢な腰を擦り潰す様な弧の動きがクリトリスを転がしながら膣内をみっちりと満たす牡肉の存在を刻み付け、ぐちょっぐちょっとあからさまな淫猥な音が泉の畔に鳴り響く。自分は何をされているのだろうか?これは何なのだろうか?迎え入れたのだからもう子は成しているのに? そんな疑問が頭の中を埋め尽くしている間も男の腰は動き続け、膣奥まで男を迎え入れたままクリトリスを捏ねられる動きも、小刻みに膣奥を突き回される動きも、膣口のすぐ内側を鰓で柔らかに掻かれる動きも、まだ処女喪失したばかりの少女の淫らな弱点の全てを暴く様に牡肉が舐っていく。
やぁっと幼子の様な舌足らずな鳴き声をあげる少女の唇に深く己の唇を重ねる男の舌が口内粘膜を舌を捏ね、唾液をじゅるりと啜り、そして時折涙を吸う。破瓜の激痛がじわじわと溶けていく中、自分を裂いた愛しい人の肉槍の存在が変質していく…純粋な肉体的な怯えの対象だけでなく、自分が覚えてはいけない何かを、越えてはいけない何かをそれが教えてくれるのではないかと仄かに芽生える期待と本能的な恥じらいに翻弄される心と裏腹に、悶える身体は逞しい男の腰の左右で白い腰を徐々に動かし始める。すらりと伸びた脚の爪先が深い藍色のマントをくじり、少女の腰の下にある聖白銀の刺繍がねっとりと濃さを増す情事の粘液に混ざる破瓜の血に染まっていく。
声が溢れてしまうのが恥ずかしいと遠回しに行為の中断を哀願する少女に男はその身体を軽々と抱えたまま禊の滝へと向かい、その裏側で立ち止まった。
「……」
禊の滝と言っても小さなものであり滝壺で溺れる程でもない、が、水流は少ないものの幅二メートル高さ三メートルもあればそこそこのものではある。直前まで麗らかな日差しに晒していた火照った肌には庇われながらも軽く被ってしまった水が心地良いが、滝の裏側はひんやりとしていて微かに暗く、その中で互いの身体だけが…特にずっと少女を貫いたままの守護騎士の肉槍が熱い。
声が溢れてしまう行為への恥ずかしさに出来るだけ身体を縮込まらせようとする少女に顔を上げる事を促す様に、ゆっくりと守護騎士が両手で抱えている華奢な腰をぐいと己に密着させ小刻みに弧を描かせる。
「ん…はぁああっ!だめ…ぇ……っ、それ…だめぇ……っ」
肉芽をごりごりと擦られ男の腕の中で少女の身体が大きく跳ねた。もうずっと、ずうっと膣内を犯し続けている猛々しいものに否が応でも牝肉は馴染んでいってしまっていた…まだ痛むが裂かれたばかりの鋭いものではなく傷口を広げ続けている重く鈍い痛みへと変わっていく中、奇妙な、恥ずかしい思いが密かに胸の奥で大きくなっていく。巫女姫として幼少期から子供らしく親からも抱き締められる事がなかった少女は、当然の様に自分の身体に触れ続け抱き締める男に恥ずかしさと同時に心地良さを覚えてしまう…人が人に触れ抱き締める行為の温かさや安堵感は、純潔であり尊いとされていた十数年の間彼女にこそ与えられていないものだった。人に神からの愛と人同士の安らぎを唱えている間には得られなかった温もりはまるで強い酒の様に急激に酔い痴れさせる依存性の強いものであり、温かいからこそ躊躇いながらそれに少女は溺れていく。
滝の裏側の濡れた岩との僅かな空間は先刻までの陽光下と異なり冷えて薄暗く、まるで神の目から逃れた様ですらあり、寒さからも身を守ろうとする本能なのか白い手足は男に少しだけ密着しようとしてしまう。だがそれは男を求め慣れている女の行うものより当然拙く、触れ合う事に不慣れな娘の手つきはぎこちない。一度与えられその温かさを覚えてしまった様は凍えて覚束ない動きで人の足に擦りよる痩せた子猫に似ているかもしれない。離れれば凍えて死んでしまうかもしれない不安に必死になりながら、迷惑だと拒まれ振り解かれはしないかと怯えてしまう…冷静になれば彼に何の益もないのだから。
つい見つめてしまうその男らしい顔が、常は無表情な人が、ふわりと困った様に微かに笑う。
「ここでしたら、誰にも聞かれませんよ」
「ん…あ!」ずっと貫かれたままだった…泉の畔での哀願で抽挿を中断してくれても絶対に抜いてはくれなかった肉槍は滝の裏側に辿り着くまでの一歩一歩すら処女を失ったばかりの拙い牝肉を荒々しく犯し続けていた、が、真下から串刺しにする剛直を再認識させる様にゆっくりと白い腰を上げていく男に少女の身体ががくがくと震える。「ぁぁぁああああ…っ、ぃやぁ…っ……それ…いやぁぁぁぁぁぁ……」
じっくりと味わわせる様に引き戻されていく肉槍に男の腕の中で腰肉がびくびくびくびくと切なく震え出し、膣奥から掻き出される潤滑液が結合部から溢れるのを強く実感させられるのは初心な元巫女姫には堪らなく恥ずかしいものだった。苦しくなる程熱く硬い長大なモノが膣内にあるのは生殖行為としてあるべき姿なのかもしれない、だが、だが、引き抜かれる事に切なさを覚えるのも、そしてこの後に絶対に行われる行為も、誰にも知られたくはなかった…愛しい、自分を抱くこの人にさえも。
膣口のくねりの辺りまで引き戻された鰓が狭まりに引っかかった瞬間、ぞくんと妖しい予兆に少女の息が止まる。
小刻みに、ゆっくりと男の腰が揺れる。膣口のすぐ内側で強烈な存在感を訴える鰓が熱く蕩けた牝肉の短い一画を緩く擦り立てられていくと、肉芽を掻かれるのとは異なる急速に膨らんでいくいけない感覚が押し寄せてきて少女は男の腕の中で身を強張らせてしまう。こんな場所で覚えたくない尿意に全身がぶるっと震え、せめてここに移動する前に正直に話して茂みの陰で用を済ませた方がよかったかもしれない、だが出来ればこの人にはそんな話をしたくない。
「ご…ごめんなさい……離して…、ぁの…すこし……」
「どうしました?姫」
何故だろう男の声には若干楽しんでいる様な響きが含まれていた。察しの悪い人ではなく子供時代から不思議と配慮してくれる印象があったのだが今日は、いや告白してからは妙に言葉が伝わらないのが歯痒く、思わず少女は男を恨めしく睨んでしまう。
「……。――そんな顔で睨んでも、男を煽るだけです」
困った様な笑みが、こそばゆそうな嬉しそうな、だがどこか凶暴なものに変わり、唇が重ねられそのまますぐに舌を捩込んでくる濃厚な口付けに移りながら、腰の動きは続けられる。ぞくぞくぞくっと尿意が切迫したものへと変わり嫌いやと泣き喚きそうな声が重ねられた唇の間から溢れるが、男は一向に構わずに膣の一角を鰓で軽く撫で続けていく…このまま漏らしてしまったら男の身体を汚してしまうし何より恥ずかしいのに何故判って貰えないのだろうか。
「もれちゃ……ぅ……っ、はなしてぇ……っこわいの…やあぁっ」互いの唇の間から唾液が垂れ流されてしまうのも構えずに上擦った鳴き声を漏らす少女の下腹部で切羽詰まった灼熱感が高まり、思わず爪を男の肩に立て白い内腿がぎゅっと男の腰を挟み込む。膣口が連動して男の鰓のすぐ下の太い幹をぎちぎちと絞り上げるのにも構わず男の腰は構わずに他愛なげに動き続け、少女の白い薄い腹部から太腿までががくがくと激しく小刻みに痙攣し、不意に、崩壊する。「――ぃやいやぃやいやいやぃや…ぁぁぁぁぁぁぁああああっ」
それが本当に尿意だったかは判らない。
唐突に込み上げてきた堪え難い甘く熱いうねりが擦られている場所から膨れ上がり、膣全体を包み込み激しく脈打つ…冷たいのか熱いのかも判らない正体不明な突き抜ける感覚に処女喪失の痛みが掻き消された。ぐびりぐびりといやらしく守護騎士の肉槍と絡み合い蕩けようとする膣全体が別の生き物の様に蠢き、幹の大半を露出している結合部のすぐ近くから半透明な液体がとぷりと溢れ既にぬらぬらと互いの下腹部に絡み付いている爛れた牡と牝の潤滑液に混ざっていく。腰から頭の芯まで一気に突き抜けた白い開放感に惚ける少女の精神とは逆に白い爪先までが電流が巡った様に縮込まり痙攣し、続いて柔肌がじわりと汗ばみ小さな滝の裏側に甘く淫らな少女の淫臭が漂う。
声らしい声も発せずに男の腕の中で震える少女の身体を、愛おしむ様に男が抱き寄せ首筋に顔を埋め何度か肌を擦り寄せた後、白い喉元を強く音が鳴る程吸い、赤黒くなる位にはっきりとした濃い吸い跡を刻みつける。
「上手にいけましたね」
「――ん…ぁ…ぁ…ぁぁ……っ!」
波打ち続ける膣奥へと送り込まれていく肉槍の圧倒的な存在感に弛緩しかけている白い身体が一度大きく跳ねる。処女地の時の閉塞感とは異なる、絞り上げる動きの牝肉を犯していく牡槍の猛々しさに本能的な怯えと陶酔感に鳴く少女の膣奥に傘の先端が押し当てられ、ずぐっと突き上げられる度に白い尻肉が痙攣し鳴き声があがる…それは快感だけでなく庇護者に甘えを求める無防備な幼女の様ですらあったが、男は突き上げる動きを止めはしなかった。
一定の間隔で膣奥を突き上げる男の動きの度に男の胸板に揉み込む様に少女の白い乳房が捏ね回され、男の腰の左右で白い足が宙を掻く。滝の裏側の狭い空間で、確かに徐々に馴染んでいく国最強の騎士の男の身体と身一つになってしまった処女を捧げたばかりの巫女姫の動きは互いを求め委ねる形へと変わっていく。清らかな滝の水音の中に確かに淫水を掻き混ぜ合う粘着音が結合部から沸き立ち、口付けを交わしてはまだ快楽に不慣れな牝を愛おしむ牡に翻弄させられる甘く拙い鳴き声が溢れる。一度膣内での快楽を覚え込まされた初々しい牝肉を牡槍が貪り、やがて激しい抽挿に男自身の獣欲を満たす為の熱が籠もりだす。少女の全身がびっしょりと汗に濡れても手を滑らせる事なく軽々と逞しい男の腕が抱え込み、上下に大きく揺さぶり、引き締まった腰が白い肉を突き上げる。止め処ない快楽に無防備に鳴く少女が達する度に首筋に付けられる跡がまるで花弁の様に咲き、やがて無尽蔵な体力を誇る男の肌が薄く汗ばみ、呼吸が僅かに荒れ始める。姫、と小さく呼ぶ声に何かがあるのだと朦朧としながら感じ取った少女が男の首に本能的に縋り付く。
もう数えられない程の緩急を付けた交わりに男のかたちを刻みつけられている巫女姫の膣内で肉槍が更に反り返り、大きさを増し、腰が砕けるのではないかと思える程の激しい抽挿に少女の腰の奥に頭の芯に全身に火花が散る。これは何なのかは判らない…だが自分と愛しい人にとっては大切な行為とだけは判る、そして自分を支配するこの頼もしい唯一の人との間に何か重要な事が起きる予感に、離すまいと縋り付く少女の膣奥が飢えた獣の様に荒々しく傘で突き上げられもう何度目かの絶頂に少女の嬌声が水音を裂き滝の裏側に反響した。
「――姫……っ」
逞しい腕が白い華奢な身体が砕けそうな程に強く深く抱え込み、楔を打ち込む様に荒々しく激しく男の腰が何度も突き上げられた後、膣奥に押し当てたその切っ先から熱い精液が何度も何度も繰り返し勢い良く放たれた。
身体が心地良く揺れている。
ふと目を覚ました少女は周囲が既に夕暮れに近いのに気付く。城への帰り道の道とは異なる見慣れぬ景色を夢見心地で眺めていると、徐々に意識が戻り魔獣の襲撃からの出来事を思い出し、夢ではないかと思いかけそして全身の痛みと怠さに夢ではなかったと確信する。
「目が覚めましたか」
自分を抱えて一人馬を走らせていた人の声に、少女はその腕の中でそっと男のマントを握る。――深い藍色の守護騎士のものではない黒のマントは安物ではないが見覚えはない…聖白銀の鎧姿でなく旅人の様な軽装に胸当てをつけただけの姿の男は不思議と清々としたどこか穏やかな表情をしていた。少女自身も見慣れない旅人風の服を着せられており、常の巫女服の純白でなく憧れていた令嬢達の様な愛らしい淡い桜色の服がどこか嬉しい。
「ここは……?」
「後少しの場所にある小屋で今日は休みます。転移石を使って距離はかなり稼げているから追っ手はまだ気にしないでいい」
男の言葉に少女は少し驚く。転移石は記録させた座標への転移門を開く事の出来る便利な道具だが非常に高額な上使い捨てであり気軽に使える訳ではない。そして男の肩越しに見える漆黒の長剣…あれは神殿の者達が彼を認めようとしなかった原因の一つである愛用の妖刀ではなかろうか。守護騎士の間は手にしていなかった武器を携える姿は不思議な程自然で、長年自分がこの男性を抑えつけていたのではないかと苦い気持ちが胸に広がるのを抑えられない。
「何処へ、向かうのですか?」
「貴女と離れずに済む場所へ。ネストバーンでも東方教国でも何処でもいい…姫は行ってみたい国はありますか?」
彼が口にしたのは敵国とまでは言わないが同盟国ではなく、巫女姫の資格を失った自分の身柄を母国に即座に引き渡されずに済む選択だとすぐに判るものだった…だが政治取引として可能性はゼロではないかもしれない。いやそもそも自分には既に利用価値はない、逆に母国の加護が潰えた証明であり戦争の火種に成りかねないと気付き少女は男のマントをぎゅっと握り締める。落馬しない様に片手で手綱を操りもう一方で少女を抱き留めている腕が優しく身体を更に抱き寄せた。
「仕官など考えていませんよ。とんでもない贅沢をしなければ二人で生きる程度の金はもう稼いでいますし、自分を抑えるのにも飽きました」
男のその口調には含むものが一切なく、何か言わねばと思いながら言葉が紡げず、少女は男の胸に顔を埋める。
恐らく自分は遠くない将来この人を残してこの世を去るだろう。それなのにそれを告げる勇気が今振り絞れない。少しでも一瞬でも長く傍にいたいと、この人に触れていたい触れられたいと心の底から願ってしまう…生まれてからのたった一つの願いは誰に祈ればよいのだろうか。
「――貴女がいるなら『冥府』でも構わない」
ぽつりと呟いたその言葉に、少女の身体がびくりと強張る。
『冥府』。敵国ですらないそれは魔族の領域であり悪魔が支配する世界だった。巫女姫の守護は『冥府』との門を開かせない意味も大きく、僅かな隙間をすり抜けて迷い出るか襲い来るのが魔獣であり魔族である…中には通常の騎士では敵わない不死の存在もいるがそれは到底人の類とは言えない、だが人より遙かに長い寿命や魔力…魔法使いの森羅万象の力を使うそれでなく悪魔の眷属の超越した力を持つ存在は確認されている。ぞくりと全身が鳥肌立ち、少女は小さく首を振った。生まれて物心がついてからずっと神力を顕現させる器として生きてきた身の、肉でない部分には今は空になっている器だけが残されており、人の身では支えきれないそれを満たし補う神力を失った今、器が徐々にひび割れ砕け散った時に命が尽きると感じ取っている…それを別の力で補おうなどとは決して考えてはいけない。ましてや利用されてもいけない。
「……。魔獣に深手を負ったのをもうお忘れですか?」
守護の力でどれだけのものを遠ざけていたかは判らないが、もうこの人が傷つく姿は見たくない。そう思い咎める少女を安心させようとしているのか優しく頭を撫でる。
「あれは…あの無様な真似はもうしませんよ」
「?」
「貴女の裸身で気が逸れました」
崖から飛び降りての魔獣との一瞬の交差にそんな油断があり得るのかと驚いて見上げてしまう少女に、男はにこりと笑った。
「これからは貴女を毎日じっくりと堪能させていただくのでもう動揺はしません。ご安心下さい」
冗談なのか判らない言葉にどう応えればいいのか判らない少女に、男が深い瞳で静かに微かに笑う。
自分の迷いや甘えや絶望を全て見透かしているかの様なその表情に言葉を失い、抱き寄せられるままに少女は男の腕の中に包み込まれる。――死ぬのは怖い。だが、この人の道を間違わせるのはもっと怖い…それなのに離れたくない。だが、唯一求められているものが、男が渇望しているものが自分だけなのだと今の目が告げていた。それが苦しく、嬉しい。
男の腕の中で眺める風景はありふれた森だった。夕暮れ前の金色の日差しが木々を山々を照らし、透き通る高い空は淡い金色から青紫を経て藍色の闇へと移り変わりつつある。馬上から後方へ流れていく空気は少し湿り気を帯びた草と土のにおいに何処かで咲いているのであろう花の香りを僅かに含み、時折当たる低い位置からの日差しはほんのりと暖かく、その熱を風がさらう。愛しい人の腕の中から見つめる景色は、どこまでも優しく美しい。それは特別でも何でもない景色なのだろう、晴れの日もあれば嵐の日もあり何処か変わりつつ、だが変わらない…例えば自分が死んだ後荼毘に付され土に還り小さな草木の養分になり雨露に混ざり空気に溶け、巡る様に。
もしも自分が命尽きてもこの人が絶望しません様に。一日でも一時間でも長く傍にいられます様に。幸せであります様に。こんなに幸せな時間をくれた人が悲しみません様に。少しでも、出来るだけ多くの何かをこの人に返す時間を下さい。どうか、どうか。
気付けば囁きの様な小さな声で歌を歌っていた。聖歌。神力の尽きた巫女姫が感謝の歌を歌うなど、置き去りにした人達が聞けばふざけるなと言われてしまうだろう。だが徐々に涙で滲んでいく美しい景色に、自分をここに存在させてくれる愛しい人に、この人を育んでくれた御両親に、自分を生んでくれた両親に、生かしてくれた出会わせてくれた世界のあらゆる存在全てに感謝する祈りとして溢れ出たのはその歌だった。
自分を離すまいとしている様に微かに力が籠もる腕の中の少女の歌を、風が運ぶ。
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93『温泉に入ったら』
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