2020余所自作84『邪法・序』

表TOP 裏TOP 裏NOV 83<84>85 BBS

 勝ちたい。
 名前通りの晴れやかな笑顔、明るくてあかるくて誰からも愛される陽。
「漣ー」
 いつも明るい日差しの中振り向いて私に手を差し伸べる姿ばかりが思い出せる。そう、私は陽の後ろにいる…何時もいつもいつもいつも。失敗しても笑っていて、失敗しても許されて、敗北感や屈辱感には無縁な笑顔。そう陽は天才だった。大して興味のない呪法も一度で憶えて成功して皆を驚かせる。愛すべき陽。愛される陽。
 白衣の胸元を掴んで叫びたい。大嫌い。死ぬ程貴女が嫌い。何もかもを手に入れる陽。死ねばいい。そんな焦りが私を導く。社の中にある裏世界…修行の為に捕らえられている鬼の犇めく地下世界、そこは修行の場だけれど巫女は立ち入りを許されていない場、でも私なら小鬼…いや鬼の数匹ならもう仕留められると漣は焦る。挫いた足は既に完治して、後は勘を取り戻すだけ。それなのにまだ社の外に出るのを許されない。こうして過ごしている間に陽との差が開いてしまうのに。
 祠の奥の井戸の底、梯子を下りた漣はぞくりと身体を震わせた。
 何なのだろうその場所は。梯子を下りている間は丘程度の空間にしか感じられなかったのに今辿り着いてしまうと遙か遠くまで広がっている気がする。月も星もない暗い…だが青みがかった鈍色の夜空。木々は生い茂っているけれど実りは一切感じられず、作り物の様な不気味さが際立っていた。そして、鬼の気配。一匹二匹ではない無数の気配だが近くはない。出会した時に着実に狩ればいい。不安を誤魔化す様に漣はふうっと息を漏らす。たかが小鬼でも倒せばそれは着実に漣の力になる。そう、自分は強くなれる。
 この世界に用などのない天才退魔巫女の眩しい笑顔を思い出し、漣は暗い森を歩き出す。

 息が切れる。
 瞞しの草木で無数の切り傷がついた脚をもつれさせながら漣は駆けていた。もう五十匹程度は小鬼を狩っている筈だった、だが小鬼の群れは途絶える事なく、いや群れの数を増して漣を襲ってくる。息が切れ集中も解かれ呪文詠唱の時間ももう与えられない。何故。新人退魔師達の話と違う。もっと臆病な小鬼達の筈が、明らかに興奮して漣に襲いかかってくる…何よりも悍ましいのは全ての鬼が股間のモノを滾らせている事だった。気持ち悪いきもちわるいきもちわるい。巫女は当然処女であるべきであり、いつか誰かと結ばれる事はあっても異形の存在の肉棒など不浄の物でしかないそれを滾らせて襲い掛かってくる小鬼の群れに漣は鳥肌立つ。だが無駄な恐怖に怯えはしない。着実に小鬼を退治し続けていた…最初は。
 青黒い陰影の幻の様な森の中、何度も転び、何度も隠れている間に漣は唯一の出入口である梯子の位置を見失っていた。
 虫の鳴き声もなく風が微かに吹くだけの夜の森は、いつの間にか小鬼の気配で満ちていた。十や二十ではなく、そしてどれだけ漣が駆けても同じかそれ以上の速さで追ってくる。ぞくりと全身を悪寒が襲う…小鬼に襲われた集落を見た事がある。食い千切られた手足、乱雑にしゃぶられた骨にこびりついている血肉、質素な家屋の中に飛び散る血、漣の腰の高さ程度の小鬼に握力は強く、人の手足など簡単に?いでしまうのも知っている。人を食い物だと思っている。だからこそ狩らねばならない。――それなのに、今、漣は逆に狩られている様に思えるのは、気のせいではない。
 涙が込み上げてきて視界を滲ませる。食いしばり続けている歯と顎が痛い。神の加護を何度願っても神力が満ちてくる気配がない…集中出来ない、胸の中が空洞になっているかの様に何もない。
「嫌……このまま、死ぬのは…嫌……っ」
 青黒い森の中で漣の涙で滲んだ視界に眩しい光が重なる。いつもその中央にいるのは陽だった。伸ばした両手を広げてくるくると踊る、曇りのない笑顔、何の苦渋もない……。
 ぐきっと音を立てて漣の足がおかしな方向へと捻じれ、少女の身体が地面に転がった。悲鳴をあげそうになりながら何とか堪えて手元の石を拾い上げ、すぐ後ろで追ってきていた小鬼に投げつける。だが石一つでどうにかなる事態でないのは判っている。それでも投げずにいられなかった。次の石を拾い上げようとした漣に、何匹もの小鬼が飛び掛かってきて地面に押し倒される。臭い。風呂に入る習慣などない化け物の饐えた臭いに息を詰まらせる漣の白衣を小鬼が掴んだ。
 腕を?がれる、そう思い顔を引き攣らせた漣の白衣がいとも容易く引き千切られた。
 ああ、服は食べられないのだから。
 そう頭の隅で考える漣は、無数の鬼に服を引き千切られ、徐々に悍ましさを感じ始める…喰おうとしていないのではなかろうか?白衣の胸元を割り開かれ、緋袴を裂かれ、そして褌を毟り取られた瞬間、それは確信に変わる。これは肉を喰らおうとしているのではなく…犯そうとしているのだと。夜盗などが村の女を犯す事は見知っている。それは子供を孕ませる為でなく快楽の為だと知っている。だが小鬼の様な存在が食欲より快楽を選ぶのだろうか?そう考えた瞬間、昔、そう漣が修行に入る前の心得で教えられた知識が頭に蘇る『鬼に孕まされた女は鬼を産む』。物心がついた頃の知識は昔話に近く、狩る腕が身に付いた後ではその知識の意味もなく…ああいや違う。何人か見た…見た時は師匠がその場を離れて他の被害がないか確認しろと命じられて漣は離れてしまっていた。あの妊婦は、常軌を逸した大きさに腹を膨らませた狂女は、あの後どうなった?
 一気に嫌な汗が全身に滲み、漣は大きく瞳を見開き反射的に周囲を見回してしまう。何十匹もの小鬼が自分を中心に集まりきいきいと不快な鳴き声をあげている。涎を垂らした小鬼が剥き出しになってしまった乳房にむしゃぶりつき、そして、白いものが二本、宙に突き出されている。それは、漣の脚だった。
「――いやああああああああああああああああああああああああああああ!」
 不意に漣の身体の中心を何かが勢いよく穿つ。ずぶりと女体の奥底まで一気に貫いた物の正体は何十匹もの小鬼の股間が否応なく見えてしまうのだから判ってしまう。小柄な漣の腰ほど…いやそれより身の丈の小さな小鬼だと言うのにそれは不格好な程大きく人の男のものと大差ない。巫女として守るべき処女をたかが小鬼に奪われた衝撃に半狂乱になり必死に小鬼を振り払おうとする漣を嘲笑う様に、無数の小鬼達が巫女装束を滅茶苦茶に裂かれた白い女体に群がり穢していく。膣だけでなく窄まりにも口腔にも小鬼らしからぬ剛直が捻じ込まれ、怪力で揺さぶられる。激痛に悲鳴をあげる事すら出来ずに異形の怪物達に犯される少女の両脚が、青暗い森の中で宙を掻く。穢されては巫女ではいられない。穿たれてしまったとしてもせめて鬼の種を孕まされるのだけは避けたい、そう願う少女の破瓜の直後の血塗れの膣を汚らしい小鬼の肉槍がずぶずぶと犯し、初々しい処女地の肉襞に凶悪に張り出した鰓の裏のくびれに溜まった垢等を擦り付けるみたいに白い腿の間で化け物の腰が気の狂った様な速さで動き続ける。
 陽。自分は何を間違えてしまったのだろうか。懸命に藻掻きながら脳裏の少女に漣は問いかける。必死に噛み千切ろうとしても適わない気味の悪い肉棒の饐えた臭いが鼻腔だけでなく肺腑の底まで溜まっていく中、どぷりと漣の喉奥で小鬼の肉棒が子種汁を迸らせる。気味が悪い…口腔を犯しているのは一匹だが少女の喉を今まさに何万もの子種が、小鬼の種がうようよと漂い漣を穢しているのだ。当然吐き出したいと言うのに小鬼に地面に押さえつけられている漣はせめて首を振る事すら出来ずに喉奥に子種汁を流し込まれ続ける。量が多い。とんでもなく量が多い。小さな身の何処からそんな量を出せるのかと疑問に感じてしまう程の粘つく熱い子種汁が肉棒だけでもいっぱいの口腔を更に満たし、頬を膨らませ、呼吸を詰まらせる。いっそこのまま死んだ方がマシだと思いながら噎せた漣の鼻腔にまで子種汁が流れ込み、鼻からも溢れ、そして、噎せ込んだ少女の食道にもそれは流れ込む。汚らしい子種汁は溶く分量を間違えた葛湯の様に重く粘り気が強く、巫女の顔半分をべっとりと絡み付いて溜まり、糸を引く。嫌。こんな汚らしい液体は嫌。巫女として女としてでなく少女としての潔癖さで泣きだしそうになる漣は、ずんっずんっと激しく膣を突き上げている小鬼の肉槍が最奥で爆ぜた感覚に、全身を跳ねさせる。
 処女として射精に気付けるかと言う話ではなかった。肉槍の根元から切っ先へと何かが塊の様に押し上げられてきて膣奥にどぷりと広がる、広がってしまう。膣奥で粘液の塊が拉げて延びる。濃い。濃過ぎる。液体と思えないものがべったりと溜まる。小鬼の、子種汁。あの昔話はどうなった?あの妊婦はどうなった?『大鬼の仔なら1〜3匹、小鬼なら何百匹も一度に孕まされる』どぷり、どぷり、どぷり、どぷりと、何度もなんども漣の膣奥で小鬼の子種汁が爆ぜる。小さな化け物の腰から送り込まれる粘液の塊が、漣の膣口から膣奥へと圧し拡げ、そして少女の牝肉に既にたっぷりと貯められた子種汁の沼が更に嵩を増す。
 化け物の仔は、一度で孕んでしまうのだろうか?もう、自分は、孕まされてしまったのだろうか?
 最後の一塊まで送り込む様に腰を密着させている小鬼の下で、もう一匹の小鬼が漣の窄まりの中で同じ様に子種汁を吐き出していた。
 勝ちたい、負けたくない、振り向かれたくない。――そう、いつも笑顔で振り向かれているから、逆光の中の陽しか知らない。
 ――陽、助けて。
 漣は、一度として横に並んで手を繋げていなかった。

「……。――漣?」

 社の奥の座敷牢の中で、漣は湯呑を割った。
 ぎいっぎいっと無数の化け物が鳴いている。三日前に孕まされた小鬼の仔達が、漣の膣口から溢れ出て床の上でのたうっている…その中でも最初に産んだ仔は漣の乳が欲しいのか身体を攀じ登ろうと藻掻いている。
 ぐしゃりと、湯呑の大きな欠片で漣は化け物の仔を潰す。たった三日とは言え自分の腹で育んだ子とは一欠片も思わなかったし、人には似ても似つかない、そのまま小鬼を小さくしただけの存在。ただ、自分の羊水に塗れた無力な化け物が蠢いているだけ。紫がかった体液。子種汁の主そっくりの不気味な存在を虚ろな瞳で見下ろしながら、漣は湯呑の欠片を振り下ろし続ける。何回潰しても何十回潰してもまだいる。まだ腹の中にもいる。暗い座敷牢の板張りの床にぶちまけた様な漣の羊水と、無数の小鬼の仔の死骸と、まだ潰し切れていない産まれたての仔…そして今この瞬間も、ぐちゃぐちゃに濡れた漣の広がった膣口から小鬼の仔が産まれ落ちてきていた。
 瞳を閉じて祈れば胸の中に存在を感じ取れた神力は、もうない。
 その洞に、何かがある。
 ふつふつと滾る毒に似た何かを感じながら、漣はまた仔を潰す。
 どれだけ潰せば終わるのだろう。どれだけ自分は孕んだのだろう。1匹目の小鬼の子種汁ですら夥しい量だったのに、あれから何十匹何百匹と犯され子種汁で腹が膨れ上がってもまだ犯され続けた自分は…何故生きているのだろう。
 ぎいぎいと鳴く小鬼の仔に湯呑の欠片を突き立てる漣の瞳には、明るい少女の姿は映っていなかった。

Next 85『Trick or Treat』
FAF202010252202

■御意見御感想御指摘等いただけますと助かります。■
評価=物語的>よかった/悪かった
   エロかった/エロくなかった
メッセージ=

表TOP 裏TOP 裏NOV BBS