Photo Diary : Sense of Wander  -夢幻放浪記- 05   Topへ戻る            前へ   次へ   

No.60: 3,August 2003   <小台の謎を解け> 東尾久

荒川線に直行する形で、尾久橋、尾竹橋と橋の名前を冠された通りがいくつかある。荒川を越えるそんな橋の一つ小台橋を見た後、周囲の路地へと舞い込んだ。にぎやかな通りがあるわけではない。しかし、そのたたずまいにはどこかしら普通でないものが感じられた。まずはいくつもの住宅の塀が、上端不ぞろいなレンガで連なっており、ついにはふさがれたトンネルの跡まで現れた。古い煉瓦工場でもあったのだろう。しかし、それ以上の何かがあったようだ。古い質屋、そして玉の井や吉原にも似た人家。繁栄の痕跡は、明白であった。

帰宅して、ネットで尾久の歴史を検索にかけてみたところ、かつての三業地域であったとのこと。かの「阿部定事件」の舞台となったのも実はこのあたりだった。映画や文学の解説というものが、いかに人の心にしみこんでいないかを、改めて思い知ったのであった。

Fine Pix A203 2003/7/28 17:29

No.59: 3,August 2003   <下町の時間はゆっくり流れて・・・> 堀船
都電荒川線には、梶原という駅がある。実は徒歩5分程度で、上中里駅にもでてしまうこのあたりは実は北区に属している。しかし、多くの名所・旧跡をかかえつつも激しい交通によって、町のたたずまいの失われた場所が多い北区の中で、このあたりは最後の荒川区的な下町エリアである。ショッピングロード梶原と呼ばれる商店街は、どこかしら他と違っている。店の一つ一つは下町風でありながら、道幅が広く、車の通りがない。その分、自転車が異常に多く、人々の足として使われている。そのたたずまいは、ちょっとハイカラな昭和三十年代の商店街、藤子不二雄のアニメの舞台に出てきそうな感じで、どこかしら親しみを感じてしまう。その通りを抜けて、右に少し進むと白山神社がある。正面から見る限り、周囲が高い塀や木立ちで覆われているわけでもなく、あけっぴろげで、隣接する公園では母親が子供を遊ばせていた。周囲の人家でも、猫が屋根の上、軒下と、ところかまわず昼寝している。商店街はどこもせわしない部分があるが、下町の時間はゆっくり流れるのが本当だと私は思った。
Fine Pix A203 2003/7/28 16:29

No.58: 3,August 2003   <三の輪を見て死ね> JOYFUL三の輪
数ある商店街の中で、どこが一番好きかと言われたら、迷わずJOYFUL 三の輪のと答えよう。巣鴨地蔵通り商店街を「おばあちゃんの原宿」と言うなら、この長大なアーケード商店街は「おばあちゃんの銀座」ということになるのだろう。実際、以前この場所は三の輪銀座と呼ばれていたようだが、いささか観光地化してしまった巣鴨に比べ、この場所は普段着の下町の姿が見られ、しかもいつも活気に満ち溢れている。アーケードのわき道は鉢植えが並び、猫の昼寝する路地へと連なるが、この場所はどこかしら、それを越えた部分がある。近くにあるエキセントリックな建物が際立つ、円通寺などあの世を具現する道具立ても豊かであり、さらに最後の都電、荒川線の終着駅でもある。梅沢写真館下のトンネルは、あたかも江戸川乱歩の世界への通路のようでもあるし、逆にくぐるときには山谷のドヤ街や、日本最大の下町資源を誇る北千住方面への通路ともなる。

虚飾に満ちた世界に疲れたら、三の輪を訪れるとよい。心の中に秘められた扉の一つが開くことだろう。

Fine Pix A203 2003/7/27 17:12

No.57: 30,July 2003   <十条にはまる> 十条銀座

もちろん十条には日暮里を越えた部分もある。中央通りや富士見銀座の存在は谷中銀座に似た存在かもしれないが、文字通り十字に組んだ大規模なアーケード街、十条銀座の存在は、日暮里にはない存在感を誇っている。埼京線の通る十条駅はこの街を同時に池袋より五分のベッドタウンとして位置づけ、そのため手押し車を押すおばあちゃん同様、家族連れや若いカップルの姿もバランスよく客層を構成している。その結果、チェーン店のたこ焼き屋やサンマルクカフェなど新しい時代の息吹きを感じさせる店も少なくない。黄昏時の仲通り商店街の表情は谷中銀座に劣らず美しく、庶民的な活気がみなぎっている。
Fine Pix A203 2003/7/26 17:06

No.56: 30,July 2003   <もう一つの日暮里> 中十条
十条は不思議な空間である。ほとんどのメディアはまだこの街の魅力を十分に把握していないようだが、エネルギッシュであるだけでなく、都内有数の特異性を備え空間である。それを端的に表せば、日暮里〜鶯谷あたりのパラレルワールドということになるだろう。高低差のある二つのエリア、風俗のいかがわしさを寄せつけない健全な庶民性を誇る山の手の下町とバーリトゥード(何でもあり)的なワイルドさを漂わせる下町の下町から構成され、その境界線の台地に腰をかけたような駅舎がある点も極似している。丘の上には寺もあれば、それなりの規模の神社も存在し、古めかしい木造家屋や銭湯の存在も際立っている。しかし、それ以上に独自の表情を与えているのが坂道の存在である。この高低差の与える異空間性はたとえば数百メートル離れた東十条駅の二つの改札口より中十条方面に侵入するだけで十分実感できるはずである。
Fine Pix A203 2003/7/26 16:39

No.55: 28,July 2003   <記憶の中の街 U> 永福町
そして、さらに記憶を先に戻すと、京王線沿線の杉並区西永福での生活に移る。もっとも、こじんまりとした商店街があるだけで、刺激の乏しいこの街を拠点とすることはかつてなかった。そのころ、もっとも魅力ある街であったのは、小田急線と井の頭線が交差する下北沢であり、今もその輝きは衰えていない。

日曜日ごとに買い物に出かけた永福町の駅で降りてみたが、あまりの変化のなさに驚くばかりだった。しかし、整いすぎたこの街はあくまで地元住人の町であり、私のような<よそ者>には、とりつくしまもなかったのである。

DSC-MZ3 2003/7/24 19:09

No.54: 28,July 2003   <記憶の中の街 T> 経堂  
 今から十二三年も前に住んでいたのは豪徳寺だったが、隣の駅である経堂までは買い物がてらよく散歩に出かけたものだった。変わったのは小田急線の高架に伴う工事中の駅だけであり、新幹線の駅のようになってしまったが、驚くほど町並みは変わってはいない。しかし、かつて立ち寄った喫茶店もなく、そのころには存在もししなかった名前のチェーン系のテナントがあちこちに見られる。人も店も移り変わりるが、街は残るのである。 
DSC-MZ3 2003/7/24 16:50

No.53: 28,July 2003    The Longest Walk Part 3 <欠けているもの・・・> 恵比寿ガーデンプレイス  
品川駅まで歩き、山手線で恵比寿へ。ガーデンプレイスまで歩く。
夜遅かったせいもあるが閑散としている。いつものことだが、この場所は素晴らしいスペースをつくりだしたまではよかったが、それを持て余している。考えることが高尚すぎて、人集めになっていない。この場所を人のあふれる活気でみなぎらせるために欠けているのは何か?手短に言えば、フェスタ(祭り)とマルシェ(市)である。
DSC-MZ3 2003/7/22 22:52

No.52: 28,July 2003    The Longest Walk Part 2 <品川の謎> 北品川  
品川神社前のラーメンを食べてから、品川宿へと引き返す。あたりにはすでに夜の帳が下りていた。品川の謎とは、今あるものばかり見ていては解けないだろう。むしろ、地下に埋もれたもの、失われたものを見なくてはいけない。それは、海であり、山である。この街道筋が、リニアで両側への路地的な脇道を多く持たないことは、実は海と山によって挟まれた狭い土地であったことを意味するのだろう。旧東海道の南側は坂になり、その先には古い建物はない。おそらく古地図を照合すれば氷解する疑問ではあるが、いつの日か、歩きながらさらに謎を解き明かせる日が来ることだろう。
DSC-MZ3 2003/7/22 19:30

No.51: 28,July 2003    The Longest Walk Part 2 <海が聞こえる> 富士塚  
長い石段を途中まで上ったあたりで、左手に富士塚の入り口があり、その頂上まで上れるようになっている。もともと小高い丘の上にある上に、築山自体もかなりの高さになるので、周囲が一望に見渡せる。しかし、高所恐怖症の人は遠慮した方がよいだろう。一合ごとの標識が見える上りは極楽だが、下りは足下に車の往来する通りが見通せる。つかまるべきものが目の高さにない時、二足歩行の人間は思わず足がすくんでしまうものなのだ。

この上で、汽笛の音が聞こえた。海はすぐ近くだ。    
そしてかつてはもっと近かったにちがいない。
 

Cool Pix 5000  2003/7/22 18:41

No.50: 27,July 2003    The Longest Walk Part 2 <猫の聖地> 品川神社  

品川神社の鳥居付近には数匹の猫が棲みついている。首輪をしている猫もいるので飼い猫の遊び場所なのか、捨て猫なのかはよく分からない。小高い丘の上にあるこの場所では、石垣の上などおよそ人間が素早く動けない場所を、のんびりとすり抜けてゆくだけでよいのだ。
DSC-MZ3  2003/7/22 18:35

No.49: 27,July 2003    The Longest Walk Part 2 <どこかしら・・・> 北品川  
板橋もそうだが、昼間の街道筋というのは、ある意味退屈であるということを知った。まるで博物館のように、歴史的な見所がリニアに並んでいる。たとえ地図やガイドブックを持たずとも、めぼしい被写体を撮り続けてゆくと、まるで地域の観光案内のようになってしまう。北千住のような迷宮性を持った場所、浅草のようなビビッドな生活感と、清濁併せ呑むような多様性を持った街はそう多くはないのだろう。昼ではなく、夜にこの場所を訪れた時、何か別の気配を感じたのだが、それを定かにつきとめることはできなかった。まだ明るさをとどめる黄昏時の光線下では、二股の通りの間にはさまれた一角に散在するポンプ井戸ものどかな住宅の風景にしか見えない。異界への通路は、品川のどこにあるのだろうか?
DSC-MZ3  2003/7/22 18:09