1994年
名前は弥生
年齢は私より上には違いない
正確には知らない
井の頭公園で出会った
私はベンチに座ってスケッチしていた
やがてスケッチを覗きこんで、隣に座った女性が居た
それだけ、だったハズだった
数日後の深夜に再会した
近所に住んでいるらしい
深夜、男女が二人でベンチに座っていれば恋人にも見えるだろう
普通は三人で威圧すれば小遣いくらい稼げるだろう
しかしそれは私が相手で無ければ、の話しだ
当然鼻血吹く程度はぶん殴る
その程度で止めてしまった
それがいけなかった
それから何度か再会した
約束は取り付けず、井の頭公園で、逢えれば、逢った
妙な胸騒ぎ
彼女が見あたらない
思いつく場所には全て足を運ぶ
見つからない
逢えなくて当たり前
そんなルールは当然理解している
しかし、そうではないという勘が私を動かした
居所を割り出すのに3日掛かった
つばひろの帽子を購入
丁度良い長さの板きれをロングコートの内側にしまう
マンションの呼び鈴を押す
顔を覗かせるのはいつかぶん殴った奴の一人だ
足でドアに挟んでやる
歯の数本位は折れただろう
顔面に拳をたたき込む
それからドアを開けて土足で上がり込む
中に居るのは糞虫一匹
もう一匹足りない
糞虫は異変に気付かない
SEXに夢中だったからだ
板きれで糞虫の横面を殴りぬける
女にコートを掛けて板きれで電球をたたき割る
暗転
当然、糞虫は裸にガラスのシャワーを浴びる
裸足にガラスが食い込むだろう
私は産まれて初めて殺意を持って人間を殴った
先ずアゴに裏拳を入れる
次に利き腕で思い切り傾いたアゴを押し上げる様に殴る
脊椎にダメージを与えるつもりだった
しかし、不意に視界が揺れる
後ろからぶん殴られた
振り向きざま肘鉄を食らわせる
まともにガラスの上に倒れ込む
糞が手にした工具についているのは私の血だろう
今度は全裸の糞虫だ
腹に鈍痛
何かを刺された
構わずぶん殴る
突入から3分が経とうとしていた
階下の住人辺りに通報されていたらそろそろヤバイ時間だ
女をコートごと背負う
泣いている様だった
裸の女担いで頭から血を流し、腹に万年筆を生やしてマンションを出る
映画のようにぽたぽたと血が流れる
マンションから殆ど移動できずに、私は倒れ込んだ
気が付くと見知らぬ男に助けられていたらしい
公安委員会の端末と名乗った
この一件に関して彼女を生け贄にしたままにしていれば私の暗躍生活はそこで終わっていただろう
しかし女の子を犠牲に暗躍を止めるわけにはいかなかった
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1995年
糞虫を見つけた
彼女を拘留しただけの同じ時間、ひたすら殴り続けた
幸福を感じる言葉を囁きながら
肉体的苦痛と本来幸福を感じさせる言葉を脳みそで直結させる
結果その躯が収容されたのは精神病院だった
そして良い事も悪い事も総て終わった状態がまだ続いている
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1994年
SEXは快楽だった
それは怠惰な安寧であり、生きている事を実感する方法だ
しかし私が安寧より闘いを選ぶ事を弥生は見抜いていた
だから二人で別れる事にした
いい女だった
弥生は井の頭公園を散歩しなくなった
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2000年
私はあの時と同じベンチに座っていた
いつかの再現の様に、弥生が隣に腰を降ろした
結婚したという事だった
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to be continued
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