サウダージの香り
〜Salvador〜

CENTRO
古都サルヴァドールはブラジル最初の首都として、1549年からおよそ200年間栄えた町です。
住民は主にアフリカから連れてこられた黒人の子孫が多く、 そのためアフリカ音楽の影響の濃い独特の音楽文化持っています。
サルヴァドールのあるバイーア州は、ブラジル音楽の源と言っても過言ではありません。 ジョアン・ジルベルトをはじめ、カエターノやガル・コスタなど、 多くのミュージシャンの故郷でもあります。
日本人がどうしても苦手とされるあのリズム、そしてノリ、 歌詞に多く唄われるバイーア、サルヴァドールという言葉の持つ意味...
10数年前には治安が悪すぎて観光客など立ち入れないと言われていたこの町に、せっかく行けるのです。 言葉では説明できない何かを、きっと感じることができるだろうと思い、旅立ちました。


(左)下町と上町を結ぶエレベーター。1回5Cで利用できる市民の生活の足。
(右)Mercado Modeloの前にて。右上の建物がある所が上町。

サルヴァドールのセントロは下町(cidade baixa)と73メートル上の上町(cidade alta) にわかれています。 これらはエレベーターで結ばれていて、他にはバスやタクシーで行き来をするのが安全です。
というのも、徒歩で行ける道・ラデイラ(坂道)があるにはあるのですが、ここは危険で通っては いけないことはあまりにも有名。 私が行ったときは、警官が入り口に立ち、鎖でふさがれて立ち入り禁止状態になっていました。
歩いて行けないというのは何とも不便な気もしますが、ラセルダと呼ばれるエレベーターは 本当に手軽に乗れるので、そんなでもないようでした。

下町(cidade baixa)はかつて栄えた商業地区で、 トドス・オス・サントス湾が広がる港、そして 商店も豊富です。
エレベーターの真前には2階建ての大きな民芸品市場(Mercado Modelo)があり、中には 所狭しと土産物屋が並んでいます。 ここはビリンバウの置物やバイアーナと呼ばれるバイーアの民族衣装を着た女性の人形などの民芸品、 Tシャツ、ブラジル原産の宝石の原石などなど、安くてかわいいものがたくさんあったので、 私はお土産などはぜんぶここで購入しました。 結局リオではぜんぜんこういうものにはめぐりあわなかったので、ここで買ったのは正解でした。
ただ、ちょっと見てるとすぐにお店の人が寄ってきて、とにかくしつこい!
ラテン気質なのかもうすぐ買うものと思われてしまうので検討するということができません。 「みてるだけだから」と言っても「見てるだけでいいよ、ほらこれは?これもあるよ、こっちもあるよ」 と追いかけられんばかりの勢い。特に楽器関係の店は楽器を持たされてセッションさせられる始末...
こうなるとなんだか買わないと悪いような気になってしまうんですが、 そこで負けたら相手の思うツボだと思い、「いらない」「考えます」「また来ます」を連発して逃げたので あります。 国内外問わず、こんなに土産物屋で断わりの言葉を言うのは初めてでした。

これは商店に限らず、タクシー運ちゃんもすごかったんですよ。
「ブラジルは初めて?」「今晩ここでパレードがあるよ」「きれいな浜辺があるよ」からはじまり、 ここへ行ったか、あそこへ行ったか、ここはいいよ、きれいだよ...等など。 乗っている間中話しかけられてヘトヘトです。
連れてってやると言われてもタダじゃないんだし、はぁーなんて返事をしてると降りる時に 「じゃあ、明日は何時にする?」なんて言われてしまうので、これもはっきり断わらなくてはなりません。
でも断わっても、「気がかわったらホテルの前あたりにいるから声をかけてくれ」 (ホテルから乗ってるタクシーなので)とか、携帯電話の番号まで教えてくれちゃったりして 親切すぎる...のか。みんな気さくで、商売上手なんだよなー
リオは事務的であまり話しかけられることもなかったので、逆にちょっとホッとしました。


(左)昔の町並が残る上町。石畳で坂が多い。
(右)民族楽器ビリンバウを型取った公衆電話。他にヤシの木に見立てたものも。

上町は植民地時代の町並がそのまま残り、多くの教会や宮殿などがあります。 狭い道の両側にパステル調に塗られた壁のまるでディズニーランドのようなかわいい家が並び、 それらの多くはレストランやお土産物店などになっています。
中心地から少し離れると、実際に住居となっている所が多いようでしたが、2階建ての 小さな家々は本当にかわいい!
でもそんな中、警官の数の多いことには驚きました。 町の角々には必ず2人1組の警官が立ち、またパトロールの車も巡回しています。 その他にも、2人1組で歩いて巡回している警官もいて、必ずそばに警察の目あり、なのです。
だからペロウリーニョのあたりはかえって安全で、夜もこの地域に入ってしまえば まるでここがサルヴァドールであることを忘れてしまいそうなくらいでした。
でも、裏を返せばそれだけ警察がいないと危険ということで、なんとも複雑な気分でもあります。 バス強盗なども後を断たず、これは乗客を狙うのは稀で多くは車掌のつり銭狙いだそうで、 被害額は1回2000円程度なんです。それが1日に10数件起きているのだから... たった2000円程度の金額のために、です。
でも貧富の差は本当に激しいのです。 高級住宅地の建つすぐそばにファベーラ(スラム街)があるのはリオも同じでしたが 特殊な環境でした。ファベーラはガレキのようなとにかくすごい家...
タクシーから見た光景では、裸足の人もいて、子供は高速道路を走って渡ったりするんですよ! ここでは学校は3部制という話で、昼間に働いている子供も多いということでしたが、 実際には子供の就学率は低く、どうしてこんな時間に子供が...ということも。
そういえばメキシコに行った時も同じような気分になりました。 日本の子供も別の意味で大変だけど、ちょっぴり考えさせられてしまいますよね。

さて話は戻って、上町には有名な建物や広場がたくさんあります。
ペロウリーニョ広場など、皆さんも聞いたことありますよね? このあたりの事は音楽の項で詳しく述べるとして、まず多いのが教会。
サルヴァドールには365の教会があるといわれ、1日1つお参りしても1年かかるわけです。 とにかくあちこちに教会。 特にサンフランシスコ教会は内部が金ピカの豪華絢爛な教会で、私が行った12月にはそれにもまして クリスマスの飾り付けが始まっていて華やかでした。


(左)クリスマスムード高まるサンフランシスコ教会
(右)改修中で残念ながら中に入れなかったボンフィン教会。

そして下町からもちょっと離れた丘の上にあるボンフィン教会。 ここには願掛けリボンというのがあるんですよ。
願い事をしてそのリボンを自分の手首に巻きつけ、それを絶対に外してはいけないのです。 それが自然に切れる時、願い事が叶うというものでボンフィン教会のそばや色々な 土産物店でもカラフルな色の12本セットで1Rくらいで売られていました。
タクシーではバックミラーから12本全部をたれさげたまま走っている車が多く、私も帰国してから 早速真似をしたのですが、バックミラーだと、真ん中からビラビラしててちょっと邪魔だったので、 助手席の日除けに結びつけました。
願い事の方は手首だと生活に支障もあるしということで、ピンクのリボンをギターに結ぶことに しました。私のライブの時にもし覚えてたら「あ、あれだな」って思ってくださいね。
そして今回、私は中に入ることができなかったので実際には見られなかったのですが、 ボンフィン教会には、自分の傷つい部分の完治をマネキンに託し、お願いをするという風習もあります。
天井から手や足のマネキンがぶらさがり、壁に写真なども張られているそうです。 この手足のマネキンのキーホルダーなどもお土産にありましたが...

他にもペロウリーニョ広場に面した大きな青い建物ジョルジュ・アマド記念館、市立博物館や アフロ・ブラジル博物館など博物館系統、またエレベーター乗り場があるソウザ広場にそびえる リオ・ブランコ宮殿なども、なかなか素敵な建物です。
セントロはそんなに広いわけではないので、徒歩で充分あちこち見て廻れますし、 またお店なども豊富なのでとても楽しめます。


HOTEL
プロローグにも書いた通り、ホテルはセントロに一番近い「トロピカル・ダ・バイーア」に宿泊しました。
5ツ星ですが、高級感あふれるという感じではありません。”昔からある5ツ星”というのが わかりやすいかな?と思います。とはいえ、フロントの方々も親切だったし、何しろセントロまで近く、 タクシーで約5〜6分、料金も5Rで済むんですからありがたい話です。 もちろんバスなら1人50C〜70Cでたどりつけます。
リゾート感覚で泊まりたいなら、バーハ海岸よりも先の海辺に建つ5ツ星ホテル群がおすすめなようです。

私の泊まった7階の部屋の真下はプールで、朝は7時頃からホテルのトレーニングジムが主催の エクササイズが行われていました。
毎朝、およそサルヴァドールにはふさわしくないようなロックに合わせて、大きなおばさま達が 発砲スチロールの浮き道具を使ってプールに浮かんでいるのが見えます。
このプールは宿泊客も自由に入れるので、私も海で泳いだあと潮抜きがてら入ったりしたんですよ。


宿泊した部屋(1泊2人で約120ドル)と、公園カンポ・グランジ。
建物は比較的裕福な人々が暮らしているらしい高層住宅。

サルバドールはリオより赤道に近いので暑いはずなのですが、ホテルは風通しがよかったのか 少し窓をあけておけば、エアコンなしで快適でした。 滞在中、一度もクーラーをつけなかったほどです。
また、ホテルの前にはカンポ・グランジという大きな公園があり、野外特設会場が組まれていて、そこでは 毎晩なんらかのショーが行われていました。これが全部、無料なんです。
到着した日にはクラシックのコンサートがあるらしく、真昼間からオーケストラのリハーサル中でした。 長時間のフライトでフラフラだった私は、うるさくて寝られやしないなどと思ったのですが、 続くバイオリンの音色を吟味する暇もなく、あっという間に眠ってしまいました。アッパレ。
次の日にはミルトン・ナシメントのコンサートがあり、ものすごい人でした。 とにかく、ステージが見えないほどの人です。
しかも予定開始時刻は21:00から。でもそこはブラジル時間ですから、実際に始まったのは22:00頃。 その日、さんざんセントロを散策した私としては、人ごみに立って長時間待つ元気もなく、 ホテルの部屋からショーを楽しみました。特設会場は部屋の窓から裏側しか見えないんですけど、 音はバッチリ聞こえますからね。
他にも、近所の小学校なのか幼稚園なのか、夜の9時すぎにパレードの練習をする子供の歌声や、 街角で演奏するパーカッションのリズムなど、とにかくずーっとどこかで太鼓の音がしています。
ラテンのリズムが体に刻みこまれる訳です。それを真似しようったって、一朝一夕でできる わけがないですよね。
ここでも土壌の違いというか、根本的な違いをまざまざとみせつけられた気がしました。


MUSICA
音楽の町、サルヴァドールといえばペロウリーニョ。 細い道を下って行くと、ぱっと目の前が開けてたどりつくこの広場は、写真で見るよりも かなり急な坂になっています。
とてもいい感じに見えるこの場所も、昔はポルトガル人に拷問を受けたブラジル人奴隷の血が流れ 赤く染まったといいます。その話をきいて、ドイツのローテンブルクにとてもよく似ていると思いました。 ビールを飲む仕掛け人形がある建物の前がやっぱり大きな広場で、そこで血で地面が赤くなるほどの 争いが起きたとか確かガイドさんが言っていました。
狭い石畳の道も、並ぶかわいいお店や家々も同じ様な感じです。 歴史には逆らえませんが、かつてそんなことがあった場所だと思うと、手放しにかわいいなんて 言ってはいけないような気にもなります。


(左)ここがペロウリーニョ広場。半分は改修工事中
(右)夜になると見かける猫たち。レストランの脇で子育て中。

...そんなペロウリーニョ広場では曜日によってパレードの練習を見ることができたりします。 バトゥカーダはあちこちでやっていましたよ。嘘みたいにいつもどこかで聴こえています。
かなり大きな音なのに、夜でもぜんぜん平気みたいですね。日本だったら苦情が来そうな時間でも 思いっきり叩いていました。
若い人のグループが多くて、まだ練習中といった様子なのですがそれでもかなりのハイレベルで驚きました。 だいたい20人前後のチームで、みんな真剣です。


(左)夜のソウザ広場で練習中のバトゥカーダ。アマチュアとは思えない。
(右)こちらは女性だけのチーム。なかなかの迫力!

私はこういうのを実際に聴くまで、正直な話、ただパーカッションだけの音というのはつまらないんじゃ ないかと思っていたのです。 カバキーニョやヴィオランが入らないんじゃあ、最初はいいけど飽きちゃうよなあなんて。 でもうまいとそんなことないんですね!
お腹のそこから響き来るスルドの音は心地よかったし、何よりもリズム感の良さは圧巻です。 思わず体が動くってこういうことなんだなあと思いました。
これが本物のサンバのカーニバルとなれば、もう恍惚状態というのもわかる気がします。 私は元来人ごみが大嫌いなので、江戸っ子のくせにお祭や御輿かつぎとかダメなんです。 だからサンバを観に行きたいと思わないんですが...やっぱり観ると変わるかなあなとぼんやり思いました。 でも観るより、自分も演った方が楽しいでしょうね。
実は私、日本でもの凄〜く嫌なことがあって、死にたくなったらやろうと思っていることがあるんです。 それはバンジージャンプ!うら若き頃、ニュージーランドで怖くてできなかったバンジーをやりに行こうと。 それに今回、サンバも加えようと思います。 死んでもいいなら、これをやってみてから考えても遅くはないですよね。

なんて話がそれましたが、太鼓の底力を知った所で、やっぱりライブが観てみたい。
ここではボサノバは期待できないので、何でもいいからとりあえず観ようということで、 セントロ内に3つある無料ステージのスケジュールを見て、本日のライブのチエックをします。
他には新聞「O GLOBO」に、ライブ情報が出ていますが、わざわざ新聞を買わなくてもいいから ここは便利です。


(左)無料コンサートの1週間のスケジュール表。これを見て今夜のプランを練る
(右)Lo Borgesのショー。TVバイーアなどのカメラも多数来ていた

だいたい夜の8:00〜から始まって、がんばれば一晩に2ステージ観ることも可能です。
スケジュール表にはアーティストのジャンルも書いてあるし、1週間分がまとめて掲載されています。
その中のひとつであるLo Borgesのライブを観に行きました。 彼はジョビンの遺作「ANTONIA BRASIREILO」にも作品が入っている大人気のミュージシャンで、 もう若者で会場は溢れんばかりです。ヒット曲なのか、皆が知っている曲になると全員が歌い出し、ひときわ盛り上がります。
でもちょっと知らない曲なのかつまらなくなると、観客達はベラベラとおしゃべりしだし、その声で 曲が邪魔されるほどになります。が、また観客の好きな曲になると、彼等は一斉に歌い出だす...
どの曲も知らない私にはその様子の方がおもしろくて、演る方も大変だなあとつくづく思ってしまいました。 なんとなくフォークっぽかったですが、うまかったので楽しかったですよ。
開演時間はやっぱり40分ほど遅れたので、終わったのは夜中の12時近く。
私が訪れた時期のイベントはミナス・ジェライス州の生誕記念かなにかのものだったそうですが、 連日こうやって色々なライブがタダで観られるなんて、本当にうらやましい!!
サバスだってラフォーレミュージアム六本木だってブルーノートだって、会場は素敵だけど 高くてそうそう気軽には行けないですよね。そりゃあブラジルへ来るよりは安いけど...(笑) でも本物の音に触れられる機会は大切ですよ。ウン。

セントロには打楽器店もたくさんあって、これ、どうやって使うの?っていう顔をしていると お店の人が来てやってみせてくれます。
サルヴァドールだからって楽器はどれを買っても大丈夫かというとそんなことはなくて、 やっぱりお土産用のものというのがあります。
パンデイロなんてその差が歴然としてて、本気で叩いたら分解しちゃうんじゃないかというような いい加減な作りのものがたくさん売ってました。こういうのは本当に飾りものですよね。


(左)町角で店のコンガを叩く子供。
(右)ペロウリーニョ生まれのパーカショングループ、オロドゥンの本拠地

そしてそういうお店の商品を勝手に叩いている子供たちというのがけっこういるのです。
お店の人も「コラ」とかそんなようなことを言ってるようですが、そんなのぜーんぜん 子供は気にしていないようでした。 見ているぶんには、これは絵になるよーなんて思って楽しいです。
子供の頃からかたわらに打楽器あり...なんですよね。でもふと考えたコト。 苦手な子っていないのかな??
それからペロウリーニョで一番有名なパーカッショングループであるオロドゥンは、 メンバーの一人が感電死してしまい、ちょっと元気をなくしているようでした。
最新のCDを購入して音は今、日本で楽しんでいますが、フルの演奏を観たかった!!
他にもチンバラーダというグループもあって人気なのですが、そこはペロウリーニョから少し離れた所に 活動拠点があるので、タクシーなどで行かなければなりません。
どうしてもこれらを生で観たい方々は、日本から日程調整をして綿密なスケジュールで行くことを おすすめします。

あとはいわゆる観光者向けのサルヴァドール民族舞踏も観に行きました。
週に5回、TEATRO MIGUEL SANTANAというシアターでやっているお手軽なものですが、 カポエイラや火のダンス、サンバやカンドンブレーなど5種類の踊りを約1時間で見せてくれるもので、 それなりに網羅しているのでなかなかよかったです。
カポエイラは前述の民芸品市場の下の広場でもやっているので、観る機会はあるのですが いつも人だかりが多くて...ゆっくりは観られなかったんですよ。
カポエイラは想像していたよりもスピーディーでかっこよかったです。 リズム感と運動神経ってやっぱりつながっているんですね。

では続きは第2部にて。


**第1部 リオ編**

**第2部-2 サルヴァドール編つづき**

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