In C (1964)

演奏者が複数であり、各奏者に求められる即興的要素が濃厚であり
ながらもカオティックにはならないのは、旋法(モード)に基づい
た53種類の旋律断片が用意されていること、終始保たれるC音の
パルスとによることは言うまでもない。と言うとつい「管理された
偶然性」というピエール・ブーレーズの言葉を思い出さなくもない
が、音楽の感触ははるかに自由である。これは楽器やモデュールの
反復回数などの制限がないことから、私たちがこの作品のいくつか
の、大きく異なった結果のヴァージョンをすでに聴いてきたという
こともあるだろう。しかしそれ以上に、ヨーロッパ前衛にかつて見
られたような、偶然の中にも「主体性」というものを何らかの形で
残そうという義務感と無縁であることが大きな要因であるのかもし
れない。ライリーは開かれた、確定されない音楽のフォルムのため
に、この作品を書いた。







Terry Riley "In C"
Steve Reich "Six Pianos"
Piano Circus
(argo,1990)

編成はグランド/アップライト・ピアノ、ローズ、ハープシコード
2台、ビブラフォン。小規模な室内楽といった雰囲気である。この
ピアノ・サーカスによる演奏では、比較的整然とした印象を受ける。
新しい音型はちょうどこのディスクにカップリングされているライ
ヒ『6台のピアノ』のように少しずつ現われ次第に音が増えていく。
その推移が決して作為的ではないがどこかシステマティックで、ミ
ニマル・ミュージック一般のイメージに近い。エンディングでは徐々
に音型が少なくなり、パルスのみが残され静かに閉じられる。この
ことが音楽に「循環」の形を与えているように思われる。








Terry Riley "In C"
David Mingyue Liang
"Music of a Thousand Springs"
"Zen (Ch'an) of Water"

Changhai Film Orchestra
Wang Yongji (cond)
(Celestial Harmonies,1989) 13026-2

中国伝統楽器アンサンブルによる演奏。ここでは中国楽器がカヴァー
をすることで「西洋音楽の普遍性を証明した」などというつまらな
い結果を示すこととの本質的違いを見せたことが、この録音の最大
の収穫ではないだろうか。音階は西洋式でありながらももとより非
西洋的な作品であり、当然の演奏結果が出たのである。つまり「こ
れはこれ」であって、それにどれだけ近いか、あるいは意外である
のかという比較対象となる「オリジナル」「正統」は存在しない
『In C』なのだから。

演奏は、時にシンコペーションを伴うC音のパルスを覆うように引
き伸ばされる笛、ハーモニカ類、そしてリュートやツィター系の撥
弦楽器と打楽器群による。上海フィルム・オーケストラと指揮者ワ
ン・ヨンジというクレジットからも窺えるように、指揮者を伴うア
ンサンブルの動きはやはり緊密であり、演奏者間のシンクロが聞き
取れる。例えば揃ってクレシェンドとデクレシェンドする瞬間が幾
度か訪れたり、楽器の参加が少ない間も留守にならないように響き
のテクスチュアを一定に保っておくなど、相互の協力関係が色濃く
存在する。そして最後にはゴングとともに一斉に終止するところな
ど、指揮というものの魅力である。前述の確定されないフォルムと
いう原形から、ひとつの明瞭な形が出来上がったと言うべき演奏と
なった。もともとこういう曲、に思えてくる。


2000.08.02 2000 shige@S.A.S.




・h o m e・ ・minimal・ ・Terry Riley・