聴覚刺激ツールとしてのアンビエント






あらかじめアンビエントを企図して制作されたブライアン・イーノ
のアルバム、モートン・フェルドマンの後期の作品群など、この類
の静謐な音楽に共通するひとつの機能として、<聴くこと>を促す
という要素ははずすことが出来ないと思う。「無視することも出来
る音楽」とはイーノ自身の言葉だけれど、それはひとつの音楽、音
響を付加することで環境を異化する働きをも持ち合わせていたので
はなかったか。つまりそのことによって可能となる、環境音をも含
めた、広く拡散した音全体の再発見、再聴である。音楽を無視する
ことは、思考や仕事などによってのみではなく、無視される代わり
に周囲へと向けられる聴覚をも意味していたのでは?

遡って1950年代、ジョン・ケージはそれを一つの作品で提示した。
あの『4分33秒』である。ピアニストが従来の演奏という意味で
は何らの音を発しない曲だ。ピアノがこれから鳴りだすことを期待
する、この<演奏>に立ち合った聴衆に肩透かしという形で代わり
に環境の音へと意識を向けさせるほとんど決定的な契機を与えてく
れた。ピアニストはいつまでも演奏を始めない。コンサートの最初
の一音が響く直前の最高度の緊張感は、いつのまにか音楽を聴く用
意の出来た鋭敏な耳によって、ホール内外の音に気付きはじめるこ
とへと変化することになる。


少ない音が置かれた音楽が、その少なさ故に音を注視すること、あ
るいはその間隙を縫うように周囲の音を聴き始めることを促す。
アンビエントのひとつの機能である。

『4分33秒』についてもう少し詳しくはこちらへ
ブライアン・イーノ
モートン・フェルドマン





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