□environmental
Robert Henke
Piercing Music
(Imbalance Recordings,1994)
60分50秒のサウンドスケープ
その構成要素は、
・電子音
・水滴・雨音
・非常に低いドローン(波のように時折訪れる)
・パチパチはじける音
などである。
水の音に代表される現実的な音素材が用いられながらも、非現実の
風景が広がる。低音のうごめきは風のうねりにも聞こえる。音の質
感はリアルであり、人工的でもある。非常に抑制されていて耳障り
なノイズは皆無だ。明け方の蒼い空間に漂いながら微光を放つ何か
の粒のように、すき間を大きくあけて存在するいくつかの音。これ
らが入れ替わりながら1時間が経過するが、ひとつひとつの音があ
まりにも引き立つ、要素の少なさ。音素材が次々に現われては消え
ていく、この過ぎ去る時間はしかし、「ストーリー」と呼ぶには意
味性は弱いということが大きな特質であり、控えめであるという美
しさである。
これだけ空白の多い響きが普通の生活環境で聴かれるなら、外来の
音が容赦なく入り込んでくるだろう。そうなることはつまり、この
音楽と既存の音とが、相補的にそして立体的に知覚されることを意
味する。ブライアン・イーノが『ディスクリート・ミュージック』
で提唱したように、アンビエントとそれが聴かれる環境との関わり
というテーマがあるけれど、後の例えば『オン・ランド』では音の
高い密度によって、それ自体が完結したアンビエンスになってしま
う側面を持っていたことを考えれば、このディスクでのより希薄な
テクスチュアは、イーノ以上に現実の音環境との交換という点では、
あるいは成功しているかもしれない。この音楽の意図するところ、
アンビエント以外の芸術的意図がどのあたりにあるのかはライナー
にも記されていないし、このような視点のみから音楽を捉えようと
することは危険ではあるものの、リスナーに与えられた聴取の自由
として、ミックスする楽しみを指摘することは許されるだろう。同
時に完全な防音室で聴くことで全くの仮想現実を体感する喜びも想
像できることは言うまでもない。
同じレーベルからのリリース、Wieland Samolakのアルバム"Ste-
ady State Music" では、ドローンによるカーテン状の響きが生活
空間を包み込んだり、人工的な持続音、例えば冷蔵庫のモーターな
どと同調して中和させたりする効果を見い出すことができる。一方
このディスクは点描的で、およそ一般の環境には存在しないだろう
音の組み合わせによる、聴き慣れないサウンドスケープを発生させ
る。
帯状の響き−点描
現実空間のノイズと同調する響き−仮想環境。
これらは、対照的でありながらも共に、アンビエントを感じさせる
ファクターである。
2000 shige@S.A.S.
・h o m e・
・ambient top・
・b a c k・