「ToHeart2 AnotherDays」。1人目はシルファ。
うーん。これはこれは。評判がよろしくないのもむべなるかな、という仕上がりですね。ある程度、知っていた分だけダメージは少ないというか免疫じみたものができていたので良かったですけど、知らないで臨むとこれはキツイなぁ。
原因はパッケージの「それは語られなかった もうひとつの季節」なんてとこにあると思います。まぁ、これは一例ですけど、要するに「ToHeart2」から独立した一個の作品だと思わせていたところにありそうです。内容がどうであれ、値段がフルプライスであれ、本作は結局ファンディスクなんですよ。「月姫」に対する「歌月十夜」、「AYAKASHI」に対する「AYAKASHI H」のような。つまり、世界観は似ているようで一部違ったりするし、シリアスな雰囲気を壊しかねない設定やギャグがあったりするし、本編のヒロインは主人公に高い好意を寄せていると。ま、普通ならそれはわりと当たり前でプレイヤー側も受け入れやすいんですけど、本作は色々な事情からそうもいかなかったと。
まず第一に本編のヒロインは攻略済みではないがある程度は仲良くなっている。通常のファンディスクなら例え本編にそんなルートがないとしても、あたかも全員を同時攻略したかのような境遇は普通に見られます。ところが本作はそこが中途半端。攻略はしていなけど、スタート時の関係でもないという。強いてわかりやすい解釈をすればバッドエンドに突き進む途中というところでしょうか。
第二にファンディスク的な筆致でありながら形式としては独立しているような作品として進む。ひとことで言うならご都合主義が過ぎるんですよ。主人公がモテる理由に「世界一のヘタレ力」といういかにもファンディスク的なお馬鹿設定を用いていながら物語はそれなりとはいえ普通に進むとか、ヒロインたちの立ち位置や言動がすごくいい加減であるとか。
第三に主人公。恐らく前作が発売された時に主人公のヘタレっぷりは大きな批判を浴びたと思うのですが、まるでそれで開き直ったかのようなライターの暴走ぶりが窺えます。前作では天然だったかもしれないそれはむしろ作為的であるとさえ感じました。あたかもヘタレ要素を極めようとしているかのように。
まぁ、それだけならまだ良かったんでしょうけど、困ったことにキャラクターのご都合主義的な言動や行動は主人公にも及んでいるのです。例えば本編の主人公は寝ている女の子にキスしておいてなお言い訳するような人間だったでしょうか。女の子に優しくする方法を自分の中で確立していて、それを意図的に実行するような人間だったでしょうか。女性が苦手である、という設定を残したままでこういうところだけ変わっているのでプレイヤーは戸惑うばかりです。
こんな感じで製作陣の諸々に対する取捨選択がいい加減であるからこのような出来になったのではないかと思います。正直、まじめに書いたようにはあんまり見えませんね。
さてシルファシナリオです。
何か大事なものが一本抜けているようなそんなシナリオに感じます。プレイしているとそんな違和感がずっと拭えません。まぁ、それもそのはずで引きこもりメイドロボのシルファが主人公宅に送りつけられて始まるこの物語、主人公とシルファがくっつくことが大前提すぎるんですよ。建前は主人公の影響を受けることでシルファの状態が改善すれば、なんですけど実際的にはお荷物のシルファを主人公に押しつけてしまえ、というようにか見えないという。普通ならせいぜいがそういうこともあり得るかもね、ぐらいのはずなのに主人公とシルファが恋仲になることに誰も疑問を呈することがないという不思議情景。それはメイドロボと人間だからという以前の話です(ちなみにこの問題は華麗にスルーされてます。はるみシナリオでも)。
実際のところ、鈍感なはずの主人公がなぜシルファの想いに気がつくのかちぃともわからなかったですし、互いになぜ好きになったのかもわかりませんでした。そんなですからHシーンに及んでいる理由も全くわからないまま。
シルファよりもわかりやすい好意を向けてくるはるみを理由なく袖にするあたりもかなり謎です。そもそもどうやって振ろうかとか悩みさえしないというあたり、ここでも本作のいい加減さが出ています。料理対決で突然、はるみの料理の腕がレベルアップしているあたりにもテキトーっぷりが窺えます。はるみが身を引くあたりの描写に至ってはもう溜め息しか……。
2人目は河野はるみ。
本作のテキストには慣れるまで奇妙なところがあります。それは主人公がサトラレ状態にあること。以前に他作品にもありましたが、まるで息をするように主人公のモノローグとヒロインが会話。もう慣れるしかないんですけど、慣れるまでは戸惑います。
ある意味でシルファシナリオと対になっているということで、こちらではいっそ見事なほどにシルファの存在がシカトされています。中途半端に共通シナリオがあるものだから違和感もより拭い難いものになるという。まぁ、基本的にメンドーだからライターはあんまり考えていないのだと思われます。
主人公のポリシーの変化ははるみシナリオでも健在です。はるみを部活に勧誘する人間の列整理を自ら率先して行うとか本編では逆立ちしてもあり得ません。
しかし、あり得なさについてはなんと言っても彼のヘタレ度です。交換日記の代筆を依頼する、その内容に不満を持つ、代筆内容にはるみが喜んだら嫉妬する、代筆依頼という行為に後ろめたさを感じない、相談に乗ってくれた相手に隠し事をする、これらの行為を弁解可能だと思っている、などまさにキングオブヘタレの称号に相応しい偉業のオンパレード。はるみに大嫌いと言わせる驚愕の才能の持ち主です。
この後の顛末を見てもどう考えたって雄二の方がいい男であると真剣に思います。はるみの主人公に対するあてつけに律儀に付き合い、主人公に見せる気遣いは尊敬に値すると思いますよ。それにひきかえ主人公は……。
終盤の展開はどうなのかなー、と個人的には思います。このはるみシナリオは本来、前作においてみっちゃんとのやりとりを気に入っていた、あるいは朧げながらも覚えていた人向けだと思うのですが、そんなシナリオで思い出は別に失ったっていい、という内容を選ぶのはどうなんでしょう。ただでさえ、好きになる過程が希薄な作品なのにせっかくあったそれさえも捨ててしまうのは駄目すぎるかと。同時にそれはみっちゃんである自分を告白できないという問題をなかったことにしているのですから。
それでもなんとか考えるならスタート時の設定がいけないのかも。好感度マックスの姿はみっちゃんと落差を感じるし、自分の魅力で主人公を振り向かせてみせる、くらいの微妙にストイックな姿勢の方がキャラ的にも各シナリオ間のバランス的にも良かったのではないでしょうか。その方がメイドロボであることを言い出せない姿がより鮮明になりますし。
ああ、好きなキャラなんで随分と長くなってしまいました。
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