96   Clover Hearts(ALcot)
 
 南雲家の双子の兄弟、白兎と夷月(変更不可)は数年前から深刻な断絶状態にあった。母を早くに亡くし、父は外交官として飛び回り全く家に戻らない、執事はけしてその分を越えてくることはない。そんな冷えきった南雲家にある日、双子の姉妹が来ることになった。それは拒否権のない事後承諾。父の考えなど二人には何の興味もなかった。果たして双子同士の接触がもたらすものとは。
 
 当初はSoundTailブランドから発売予定であったものが色々あったのか、タイトル名も変わって新ブランドALcotから出ることに(販売はSoundTailのままですが)。「月陽炎」のスタッフが多く関わっていることを知り、資料の類を一切見る前から購入を決意。我ながらこういう買い方は危険だと思いマス。
 
 システムは4章構成のアドベンチャー。どのような結末にせよ、章が終わるごとにタイトルに戻るスタイルを採用。この際に色々なアイテムを取得することによって各種鑑賞モードが閲覧できるようになり、タイトル画面上にも変化が起こって見た目にもわかるようになっています。えー、この時点でわかる人にはお分かりかと思いますが、本作は随所に「月陽炎」譲りの仕様を備えています。それはもうコピー&ペースト大作戦を発動しようかと思うくらい同じだったりします。ということでせっかくだから対比して書いていこうかと。
 メッセージ表示に関しても「月陽炎」同様。メッセージ枠というものがなく、主人公のものはいつも通りの画面下部に表示されますが、ヒロインたちのものは立ちCGに重なるように表示(イベントCG内でも同じ)されます。1人の場合は画面横幅を全て使いますが、2人になると中央で分割した表示に。
 足回りはかなり安定しています。メッセージスキップは既読未読を判別した上で充分に高速。ただ、シナリオサイズがそれなりにあるため相対的に遅く感じる可能性あり。贅沢を言えば選択肢単位のスキップが欲しかったです。
 メッセージの巻き戻しは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能でかなり戻ることができます。スクロールバーがあれば戻りやすくてさらに良かったかと。
 
 シナリオは萌えが全て。良くも悪くもそれが作品全てを支えています。本作は○○属性というよりも「萌え」そのものに対する適性が印象を大きく左右するように思います。私のように適性が低い人間には厳しい面もありました。
 個人的に「月陽炎」が良かった点として主人公とヒロインが惹かれ合う過程の丁寧な心理描写というのがあったんですが、そのあたりどうも弱くなっているように感じました。メインヒロインたる双子は一目惚れでもしたかのように最初から主人公たち双子の片方しか見ていません。さながら互いの担当をあらかじめ決めていたかのように。このあたりの自分の理屈だけを押しつけてくる言動が気にならなければ、健気にすり寄ってくる双子たちは実に魅力的なのですが。
 ホームページによると対視点型コミュニケーションAVGとあるのですが、どうも名が態を成していないように思います。恐らくは2人の主人公を通して2つの視点からすれ違う感情を描こうとしているのでしょうが、まず交差するポイントが非常に少ないです。その視点の違いも効果的に描かれているとは思えませんでした。さらに物語の都合で片側の主人公にしか存在しない展開があるのもどうかと。特に物語として大事な4章が全く違う話で対視点でなくなっているのが残念。
 本作と「月陽炎」の最大の違いはやはり方向性ではないでしょうか。「月陽炎」が主人公がヒロインを変えていく物語であったのに対し、本作はヒロインが主人公を変えていく物語。主人公のデザインがショタであるのもその一端が現れています。実際、Hシーンにもそうしたものが幾つか見られます。
 長いシナリオにあって章立てにしたのはなかなかうまかったように感じました。章ごとのテーマも絞りやすく、また飽きにくくなっていたのではないでしょうか。様々な趣向のHシーンも盛り込みやすかったでしょうし。
 極めて個人的なポイントとしては気に入ったキャラクターがいずれも非攻略対象であるのが残念でなりませんでした。サブヒロインも所詮、サブなのだな、という扱いでしたし(それでもサブヒロインとしては「月陽炎」よりもフォローされているとは思いますが)。
 
 CGは変わらずの美しさと横長の画面を意識した意欲的な構図が好印象。Hシーン数の向上によって通常イベントCGが減ったのは致し方ないところでしょうか。「月陽炎」に比べ繊細さが減って、代わりに描線が太くなって迫力が増したような印象も。
 立ちCGはイベントCGにも負けない愛らしさ。長時間見続けても飽きることのない表情、ポーズが用意されています。各ヒロインの個性を立ちCGだけで表現することに成功しているかと。この充実度は他メーカーにも見習って欲しいところ。
 Hシーンは驚きの大充実。純愛ゲーでここまで多いのはまだまだ珍しいのではないでしょうか。規模としては「月陽炎」+「千秋恋歌」というところ。スタッフの気合が最も感じられるポイントかも。
 
 音楽はそれほど自己主張が強くないながらも耳に残る旋律が多いように思いました。大正時代と現代という違いはあるものの、根底ではどこか「月陽炎」に通じるものがあるようにも。作曲者が複数であるせいか、方向性も違いが出ているんですが、聞き比べているとどうもそれぞれが得意な曲調を担当しているように感じました。
 ボイスは基本的にフルボイス。2人の主人公も自分の視点でない時にはボイスが収録されています。声優陣のレベルは総じて高いのですが、どうもサブキャラの方が演技の巧みな方が配されていたような気がします。
 
 まとめ。「月陽炎」の遺伝子を引き継ぐ力作。スタッフが自分の得意分野に力を注いだ、という感じを強く受けました。個人的にはストーリー面において「月陽炎」と同程度であったのが残念。更なる進歩を期待していたので。
 お気に入り:榊円華、乃木坂久遠、飛鳥凛
 評点:68
 
 キャラ別感想がないのはお気に入りキャラから察してください。


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