父、母、妹。血の繋がった家族全てと記憶を失い、簸川五樹(変更不可)は生まれ故郷のとうかんもりに帰ってきた。共に暮らすのは血の繋がらぬ母と妹。記憶を取り戻そうとする中で赤袴の少女に出会う。これが始まりであり、また終わりでもあることに五樹は気がつかなかった。
ライアーソフト第6弾は初のシリアス系アドベンチャー。ここのソフトはデフォルト買いの対象ではありますが、送付されてきた体験版をプレイして気に入ったこともその一因です。
初回特典は「行殺(はぁと)新選組」以来、久々に復活の修整ディスクとそれに関するお詫びのチラシ。体質はまだ完全に変わった訳ではないみたいです。それでもかつてはディスクの中身が空だったことを考えれば飛躍的な進歩といえるかもしれません。それでもバグは残っていて「盲点」(後述)の再生パートがおかしかったり、場合によっては音楽が鳴らないこともあるようです(CD−DAなのに)。加えてmovフォルダが空なのでムービーが存在しません。どこにも。これはバグというにはあまりにも大胆すぎるのではないかと。
現在、この症状を改善する修整ファイルを作成中で3月5日から公開予定とか。2月26日以降に出荷されるものは第2ロットなので改善されているようですが、外から見てそれがわかるのかどうかは不明。
システムは「痕」に代表される同じ時間をループすることによって真相に迫っていく構成。ただし「痕」や「果てしなく青い、この空の下で…」のような「しおり」はなく、フォルダを変えるなりしなければ、同時に複数の進行度合いのデータを持つことは出来ません。
今作はループの果てにスタッフロールに到達すると「本編からはじめる」(他ゲームでいうところの「最初からはじめる」が意味としては近く、それにあたる)を選んでも物語を進めることが出来なくなります。
それではどうするかというと、初めからやり直すにはコンフィグで「記憶を失う」を選ぶ必要があります。これはCG鑑賞やシーン再生などコンフィグに関するデータ以外の全てを初期化するものでセーブデータも消滅します。
セーブデータが消えるというと不安に感じるかもしれませんが、今作のシステムではフラグによってセーブデータが事実上改変されることがあり(ロードしても同じことが再現できるとは限らない)、保存しておくことにあまり意味はないのです。むしろデータが残っているとプレイヤーが混乱しやすいかと思われます。
さて、システムが一風変わっているとはいえ、こうして丁寧に書いたことには理由があります。先程、システム構成のことを「痕」に例えましたが、実際的には「痕」というより「この世の果てで恋を唄う少女 YU−NO」の方がずっとこれに近いです。ある意味ではA.D.M.Sのない「YU−NO」と言えるかもしれません。上述した、データをロードした時に以前と状況が異なるケースがあるというのもズバリ、これをイメージしてもらえば間違いありません。
で、「YU−NO」と今作の違いというか、問題点はエンディングに到達してもそれだけでは達成度が不十分だということです。「YU−NO」はエンディングを迎えればCGは全て埋まりますし、基本的にはそれ以上プレイする必要はありませんでした(あくまでも基本的には)。
ところが今作の場合、どのようにプレイしても一度では全てのCG、シナリオを見ることは出来ません。A.D.M.Sがないのでシナリオのどの部分に未見の箇所が残っているのか非常にわかりづらいのです。
「痕」でも最後におまけシナリオがありました。これはタイトルからではなく、ゲーム中のある箇所に存在するというタイプでした。しかし、ヒントがあったので悩む人は少なかったと思います。もしこれがノーヒントだったら、と考えたら少しはわかるかもしれません。まして、今作はおまけではなく本筋なのですから。
足回りにも関係があります。メッセージの巻き戻しは問題ないのですが、メッセージスキップがありません。あるにはあるのですが、Ctrlまたはスペースキーを押しっぱなしにしなければならない上に既読未読を判別しません。パネルには次の選択肢へ飛ばす機能がありますが、これも同じシナリオの周回内でしか既読未読を判別しません。「記憶を失う」を選択するとクリアされてしまいます(修正ファイルでは仕様変更されるようです)。選択肢と選択肢の間が長い傾向にあるため、さらに未見の箇所を探すのは困難になっています。コンフィグで未読を飛ばすに設定すると、結果として見た覚えのないCGが登録されることに……。
総合してシステムはシナリオを楽しませるための配慮に著しく欠けていると感じました。この手の雰囲気重視のゲームは無駄な周回を繰り返すと冷めやすいのでもう少し考えて欲しかったです。そもそも幾度もエンディングに到達しなくてはならない仕様にする必要があったのか、大いに疑問。
コンフィグにある「盲点」はライアーらしさを示す遊びで、デフォルトではオフになっています。雰囲気重視の人はそのままでプレイするのがいいかと。反対に1時間以上ギャグがないゲームなんて耐えられねぇ! という根っからのライアー野郎はオンにしましょう。きっと笑えると思います。
大変長くなりましたが、ようやくシナリオです。
田舎の鉱山町(すでに廃坑)を舞台に腐りゆく4日間を書き束ねるシナリオは独特の味わいがあり、その巧みに表現された世界に浸ることが出来ます。
しかし、主人公にも大きな秘密があるため、プレイヤーは感情移入するというより、物語を極めて客観的に眺めることになります。このあたりで好き嫌いが分かれるかもしれません。
作中の謎が全て明らかになる訳ではないのに、キャラ単位のストーリーで事実かどうかわからない情報が錯綜するのはどうかと思いました。全体像がぼやけてしまいますし。
ループ系でありながら同じ文章を極力使わないのは評価できます。労力も大変なものでしょう。しかし、個人的には同じ日々を同じ文章で繰り返し、プレイヤーに不信感を持たせ、それが募ったところで違う描写を見せるといったあたりにひとつのカタルシスがあるとも思うので難しいところ(その方が作り手にとっては楽ではあるんですが)。
「YU−NO」に似ているのはシステム的な面だけではありません。シナリオの構成もどこか通じるものがあります。詳しくはネタバレなので伏せますが、「YU−NO」同様、終盤で評価が変わる可能性があるとだけ書いておきます。
CGはやや特殊。黒をメインとした深みのある色使いの背景はそれだけでとうかんもりの世界を作り上げることに成功しています。
立ちCGは背景の中に溶け込むように遠近感を持って配置されているため、ポーズも視線も縮尺も様々です。時には足しか描かれないということもあります。これらのカットがモノクロで、主人公の方をしっかりと向いている時だけカラーで描かれた(通常の立ちCGのように)、プレイヤーの方を向いたカットになります。
イベントCGも世界観を忠実に表しているので暗い色彩のものが多いです。また背景プラス立ちCGの表現力が豊かであるためか、Hシーン及び回想シーン以外のイベントCGはかなり少なめになっています。
音楽は今作も雑音工房NOISEが担当。歴代ミュージックに負けないほどの完成度を誇っています。まるで真綿で首を絞めるようにじわじわと心に浸透してくる曲の数々は背景CG同様、「腐り姫」の世界をこれ以上ないほどプレイヤーに訴えかけてきます(誉めてるつもり)。
ボイスは今回もあったりなかったり。今作は特に雰囲気が重要なのでフルボイスでないならいっそ無音の方がいいのではないかと思います。まぁ、演技は捨てがたいものがあるのでやはりフルボイスですかねぇ。
まとめ。ゲームとして備える器としては何の文句もありません。間違いなく業界トップクラス。馬鹿ゲーだけでなくシリアスな作品も作れることを見事に証明しました(まぁ、コアなライアーファンにはわかっていたことですが)。
個人的にはシナリオが徹頭徹尾を貫いて欲しかったというか、画竜点睛を欠いたように感じました(でもきっと初めからこういう作品)。また、バグを差し引いてもシステムはマイナス評価。
それにしてもこのゲーム、よくソ○倫のチェックを通りましたねぇ。不思議でなりませんよ。
お気に入り:キャラというより世界観なゲームなのでなし。
評点:82
以下はシナリオに関する考察……、ではなく単なるぼやき。ネタバレ全開なので要注意。
まぁなんというか、「腐り姫」に対する一番の不満はシナリオの全体的な流れ。まとめでも抽象的に書きましたが、それまで腐りゆく世界を描いていたのが、4章の蔵女篇に入ってガラリと変わってしまったのがどうも。まるで火曜サスペンス劇場かミステリー小説(いずれも近親相姦ネタ)がいきなりファンタジーな転生モノ(それもラブラブ編)になってしまったように思えてなりませんでした。
また、この展開によって3章までのシリアスなストーリーの細部がどうでもよくなってしまったのが気になります。
例えば樹里と蔵女が似ている訳は(もしかして樹里は蔵女なのか)?
気にしても仕方ない気もしますが、蔵女は五樹になにをしていたのか(なにをしたかったのか)?
また、ああしなければ五樹は目覚めなかったのか。さらにはどうして五樹が蔵女と同じ存在なのか(これは「なった」のかそれとももともと「そう」だったのか)?
芳野さんに首を絞められた樹里はどうして無事だったのか。そしてなぜ、それ以後は諍いとならなかったのか?
樹里はどうしてあんな狂気としか思えない独占欲を抱くようになったのか?
五樹が受け入れたのか、それとも樹里が受け入れたのか。どちらにせよ一線を越えた理由(契機)は?
朱音が蔵女のために道標として五樹を待っていたってどういう意味(どうやって)?
クロはどうしてあんな化け物じみた姿になったのか。それも今頃になって。
……などなど気にし始めるとキリがありません。他にも父に関する疑問もずいぶんとありますし。このような疑問の数々も最終章の前では意味を失ってしまいますからねぇ……。つーか、シナリオの辻褄合わせやオチに困ったら宇宙人を使え、というのは馬鹿ゲーの鉄則だと思いマス。
正直、良いところと同じかそれ以上に不満な点があるゲームです。レベルが高いだけに余計に気になるというか。
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