上倉浩樹(変更可能)はやる気のない美術講師。かつての絵に懸ける情熱は今では見るかげもない。同居している従妹のエリスにどれほど叱咤されようともそれは変わることがない。
そんな日々の中、新たに赴任してきた体育講師と学園が特別授業に招いた画家は浩樹にとって因縁深い相手であった。二人との再会が大きな転機となって運命を再び動かしていく。
「Canvas2」はおよそ予想することのなかった続編タイトル。というか、RPGやSLGならともかくエロゲーに続編は素直に珍しい。しかも、3人の原画家のうち残っているのはわずかにサブが一人。これではなにゆえ続編を作るのか、というくらい。
初回特典は設定資料集。以前はマニュアルと同じ冊子だったのですが、時代の流れかいつの間にかこうしたものが初回専用の特典に。個人的には主題歌が非常に良い出来であったのでサントラをつけて欲しかったところです。
購入動機はライター買いということになります。前年の「木漏れ日の並木道」だけでなく、前作の氏が担当したシナリオもお気に入りであったので。
システムは説明不要なくらいにオーソドックスなアドベンチャースタイル。取り立てて変わったところはありません。
足回りはいつものF&C仕様。メッセージスキップは既読未読を判別した上で必要充分なスピード。コンフィグを調整しなくとも未読スキップも可能です。
バッグログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、リピート再生も可能ですが、相変わらず戻れる容量は少なめ。
シナリオは残念ながら退化しています。日常会話が単調かつ冗長。ヒロインに会うための選択肢の出現タイミングが昼休みと放課後開始直後に固定されているため、話題が同じようなものになりやすく飽きやすい面が否定できません。前作にもこうした傾向はありましたが、魅力的なヒロインとの微笑ましい会話がそれを覆い隠していました。しかし、悲しいかな、本作のヒロインにはそこまでの破壊力はありません。
いかに接点が多くないとはいえ、ヒロインのキャラが立っていながら複数人による会話がほとんどないのはもったいないところ。たまにあっても意味の少ない業務連絡のような内容ばかりでは如何ともし難く。明らかに複数ライター制の弊害がそのまま出てしまっている模様。
テーマである挫折からの復帰の表現ももう一歩というところ。何がなんでも駄目という印象を与えていた前半の主人公の態度を変えさせるほどの契機を用意しているとは言い難いです。特にメインでないヒロインについては主人公の事情を知らないまま、その行動によってやる気を取り戻させなくてはならないので必然的に苦しくなりがちです。心情描写も肝心なところで丁寧さが欠けています。特に主人公に顕著。この辺りは新人ライターさんだから仕方ないのでしょうか。
一部のヒロインについてはHシーンへの導入が唐突かつ乱暴。恐らくはエロ度向上のためなんでしょうが、それにしてもと思わずにはいられない無茶っぷり。あまり良くない意味で純愛ゲームとは思えません。結ばれたところでエンディングという基本姿勢をそのままにしてエロ度を上げようというのはあまり賢い選択とは言えないのではないでしょうか。
前作との繋がりというサービスはなかなか旺盛。関係者が登場したり、ヒロインのその後が紹介されたりとファンには嬉しいところかと。しかしながら、継続して仕事をしているライターが一人だけなので情報はとても偏ってますし、やや親バカに見える面も。
ゲーム全体に漂う優しい雰囲気のようなものは今回も健在。こうしたところがFC01の持ち味であり、欠点があってもそんなに悪い印象が残らないポイントなのかも。
CGは本作最大の売り。塗りの傾向は前作とは異なりますが、世界観を表すような優しく丁寧な塗りがされているかと。原画家が3人いても特に違和感なく融合していたように思います。
立ちCGは大きなポーズ変化なく表情で勝負する方向性。キャラの性格に合った喜怒哀楽が描かれています。その出来はイベントCGにもけして引けをとりません。特に美咲菫は出色の仕上がり。ただ、中にはあまり効果的でないカットも。
音楽はサントラが同梱されていないことが悔やまれるほどに良い曲が揃ってます。中でも主題歌は耳に馴染みやすく何度でも聞きたくなるようなオープニングに最適の曲かと。早めにどこからかサントラが出てくれないものでしょうか。フルバージョンもぜひ聞きたいところです。
ボイスは全体的に地味な印象。あまり聞いた覚えのない名前の声優さんが多いので新人を起用したんでしょうか。演技力は及第点以上かとは思いますが、個性という点では弱いキャラが多いです。そんな中にあって萩野可奈役の声優さんは甲高い声でありながら、あまりうるさく感じることのない、記憶に残りやすい良質の演技をしていたと感じました。
まとめ。無難というのも苦しい続編。名前負けに近いものがあるかと。1はプレッシャーを感じるほどの名作ということもないと思うんですが。
シナリオの向上という前作及び近作からの願いは叶えられず。絵買いが妥当なところかと。FC01にしてはパンチ力に欠けると言わざるを得ません。
お気に入り:美咲菫
評点:58
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、鳳仙エリス
悲しいほどに無個性。ハーフであるという一面もほとんど機能しておらず非常にもったいない感じ。ライターがあまり筆が進まなかったというのも当然。お兄ちゃんに依存という以外の行動原理を一切持たないのですから。絵を描く以外に生活がないのでは動けるはずもありません。
例えば、外人に当たり前のように話しかけられて動転、といったようなシーンでもあれば設定も説得力を持って生きてくるし、様々な行動に繋がってくると思うのですが。
七尾奈留氏の絵は絵画に向かないなぁ。あの入選作はどうにも苦しい感じ。もうちょっとくらいは通常のイベントCGとは違った感じが欲しいです。あとエンディングカットのエリスは口紅が似合わなさ過ぎ。
それにしても、よもやあれだけ好き好き光線を出しているエリスのシナリオで失敗するとは思いも寄りませんでした。甘く見てたんですかねー。むしろ、菫なんかは失敗するかとドキドキでセーブ&ロードの嵐でしたが。
2、桔梗霧
こちらも個性が致命的に弱い。親友や酒飲み友達型のヒロインとしては仁村真雪@「とらハ2」を筆頭に他ブランドの作品の方が強力メンツを揃えているだけにどうしても見劣りする印象が。ハッキリ言えば柳がいうほどの魅力を感じないんですな。
霧の立ちCGはどうかと思いますわ。常に今にも笛を吹きそうな姿というのは。廊下で会っても、美術準備室で会っても、屋上で会っても、食堂で会ってもこれですよー。それに相応しいはずの部活時はイベントCGに切り換わってるし。ちぐはぐですなー。
3、鷺ノ宮紗綾
パンチ力不足。妹に比べると天然の中に垣間見える力強さというものがどこにもありません。それなくしてはただのお嬢さまキャラですよ。売りが高速道路でHではねー(違)。
4、萩野可奈
キャラはいいのにHがねー。紗綾もすごかったけど、可奈はある意味それ以上。私にはなぜああなったのか理解できませんでした。
可奈シナリオは全体の中ではまとまりもあってそれなりにうまく書けていたと思います。ただ、主人公はいつの間にそれほどプロとしての可奈を認めていたのかという点は気になりますが。
5、美咲菫
菫はビジュアル面が実に魅力的。魚氏の絵は確実な進歩を見せていますな。つり目であるだけに照れた時の表情はかなり可愛いです。序盤が無表情であるだけに打ち解けてきた中盤以降の笑顔が本当に嬉しく感じます。いつの間に好きになったんだか、という疑問は果てしなく残りますが。
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