他人との関わりを最低限に抑え、一人で生きていくことを望む青年、沢村司(変更不可)。横暴で変態な上司の命令で一人の訳あり少女を拾ったことから、司の生活は変わり始める。排他的なはずの彼の周りになぜか人が集まりだしたのだ。それも幸福とは言えない境遇の人間ばかりが。
司は反発する。集団の中心にいながら事態は彼の望まぬ方向へ進んでいたのだ。寄せ集めの人間が今を凌ぐための相互互助計画、家族計画に司は引きずり込まれようとしていた。
前から気になっていたところに、「PUSH!!」に掲載されていたデモを見て購入を決意。センスの良いデモとボーカルに一発で骨抜きになりました。
システムはオーソドックスなアドベンチャースタイル。演出も含めて特に目新しい点はありません。強いてあげれば、画面を揺らせて「めまい」を表現するのが妙に多用されているかと。他のエフェクトは他ゲームに比べて少ないくらいかも。
プレイ時間は初回で12〜14時間とかなり長めです。そもそもプロローグ的な部分がほぼ三分の一を占めていますからね。ちなみに初回プレイがバッドエンドだと10時間ほどで終了します。
今作は大きく分けて3つのパートから構成されています。ひとつは家族計画が動きだすまでの共通パート。ひとつは選択肢で展開が微妙に変化する準共通パート。最後のひとつは個人ルートのパート。これを仮にA、B、Cパートと呼びます。
Aパートは特に問題ありません。ちょっとした問題があるとすればBパートです。繰り返しプレイをするには選択肢により展開が変化するここからになります。
システム構成的にはBパートの役割は個人ルートの決定です。選んだ選択肢により好感度が上下し、誰のルートに進むかが決まります(三女の春花だけは不可欠の選択肢あり)。どのように選んでも誰かのルートに進むなら問題はないのですが、バッドエンドというものが存在しています。選択肢による変化が希薄であるため、バッドエンドを迎えても何が悪かったのか良くわかりません。プレイ時間が長いこともこの場合は裏目に出ているように思います。
もう一つは順調に選んでいても各キャラ固有のイベントが少ないこと。Bパートの総量に対してこれの占める大きさがあまりにも小さく、メッセージスキップを使用した場合、スキップの合間にわずかな文章を読む、という感じになってしまいます。初回プレイとそれ以降のプレイであまりにも時間的落差が生じてしまうのですね。
そしてCパート。ここでは選択肢がありません。Bパートでの変化が少ないだけに単純な読み物になってしまっているのは少し残念です。
このあたりは重箱の隅つつきレベルです。逆に言えばそれくらいしか書くことがありません。
足回りは充分に安定しています。メッセージスキップは既読と未読の双方が用意されています。スピードは速いですが、文章量が多いので相対的には遅く感じられるかもしれません。
メッセージの巻き戻しは中程度。シナリオ総量の割合で考えるとあまり戻れません。メッセージウインドウ単位で巻き戻します。ホイールマウスに対応していますが、通常のマウスでは戻せません。その場合はキーボードに頼る必要があります。
シナリオはあっさりとした文体でありながら実にしっかりと細部まで書かれています。状況描写に不足を感じることはほとんどありませんでした。
高屋敷家で繰り広げられる他人同士の家族模様はじんわりと心に染み込んできます。「家族」をテーマにした作品の中では間違いなく最高峰に位置するでしょう。「とらハ2」とは対極の良さを持っていると思います。
また他ゲームでは存在しない父親役によって秀逸な日常会話が構築されています。印象に残る会話が多く(シリアスなシーンに限らず)、笑いでも引けをとりません。
CGはパッケージにもあるようにかなり頑張っています。タイトル画面を初めとして、味わいある背景画が強く印象に残ります。
イベントCGは非常に丁寧に描かれています。顎がやや尖っているカットも幾つか見られますが、どうしても気になるほどでもないでしょう。原画の福永ユミ氏の柔らかいタッチが非常に魅力的です。
立ちCGはイベントCGに比べるとややパワーが弱いように感じられます。もう少しポーズ変化をつけても良かったのではないでしょうか。冷淡な青葉が最も多彩な立ちCGを持っているというのもね。重要なサブキャラである景に立ちCGがないのはやはりマイナスです。
オープニングデモはD.O.ではなく、神藝工房が担当。プログラム制御ではなくムービーですが、なかなかセンスよくまとまっています。自社で作らなかったのは正しい判断かと。
音楽はかなりレベル高め。ギャグ、シリアスなどシーンに沿った曲が用意されています。耳に馴染みやすい曲が多いように思います。
ボーカルはオープニングとエンディングの2曲。メッセージ性よりも日常のイメージを重視した曲作りが光ってます。I’veの中でもかなり意欲的に作られているのではないかと。
ボイスはありません。魅力的なキャラだけに聞いてみたい気もしますが、あったら大変なことになってしまうでしょう。プレイ時間は20時間くらいか?
まとめ。家族ドラマの傑作。もし絵に少々の抵抗があっても(あまりいないと思いますが)プレイすることを薦めます。それだけの実力を備えたトータルバランスの高い作品です。
個人的には今年の1位候補に急浮上しました。
お気に入り:高屋敷末莉、久美景
評点:90
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、高屋敷青葉
キャラが嫌いでないだけにシナリオには不満が残ります。他キャラのシナリオの方が姉の役割を果たしていて格好いいというのはどうも納得いかないです。
水浴びのCGとか高屋敷家の女王って感じで好きですね。
エンディングで妙に丸くなってしまった彼女には一抹の寂しさを感じてしまいました。
2、高屋敷準
苦手です。いえ、性格は好きなんですけど、過去の方があからさまに可愛いというのはどうにももったいない気がします。個人的には景の引き立て役になってしまっています(普通は逆デスヨ)。
固形物が食べられないのは胃に被った損傷の後遺症かと思ってました。そのせいか、エンディングではあんまり感動できなかったり。でもああいうのって条件反射的なものだと思うんだけどなぁ。
3、高屋敷春花
なんともやるせないシナリオです。頑張っただけではどうにもならないことが世の中にはあるのだと教えてくれます。同時にどんな事態でもそれに則した頑張り方はあるのだ、とも。
ある意味で最も感情を隠しているのが彼女だというあたり、悲しいものを感じます。
縁日のイベントとそのあとの特殊高級浴場ごっこがお気に入り。
4、高屋敷末莉
抜群にキャラが立っています。何気ない会話にも「らしさ」が出ていて楽しませてくれる愛すべき末っ子。
「うあん」とか「どうして私のような便所コオロギを気にしますかね」とか「わ、私、性犯罪を……」というような印象的(で笑える)なセリフが多いです。
いらん子だと思われたくないがために倒れるまで無茶を繰り返す様は私の心を捉えました。
個人シナリオの長さは随一。末莉に対する感情に悩む主人公の姿は素晴らしいものがありました。
5、高屋敷真純
意外にもおかんスキル高し。ある意味でそれが全て。母としては必要ですが、恋人としてはどうでしょうか。
「さんじゅうだけどな」には大笑いさせてもらいましたよ。
6、久美景
サブキャラにしては存在感あり過ぎです。準のシナリオならそれも当然でしょうが、末莉のシナリオでも不可欠の活躍ぶり。
「私の知っている司はペドフィリアじゃなかった」や「お金大好き」など準の似ていない真似が最高。
それだけに専用シナリオが欲しかったです。準シナリオからの分岐でもいいから。小夜ちゃんの父親になる話があっても良かったかと。
7、高屋敷寛
イカス中年親父。彼の存在なくして「家族計画」はここまでの作品にはならなかったであろうことは想像に難くない。
存在感のわりにCGが少ないのが残念。もう少しあっても良かったと思うのだけれど。
シナリオ順位
末莉>春花>準>真純>青葉
キャラ順位
末莉>景>準>青葉>春花>真純
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