夢を見る。母親が炎に包まれる夢を。伏見籐矢(変更不可)の目覚めはいつも同じだ。10年前に起きた病院の炎上は今も変わることなく籐矢を苛む。それでも起きている間の日々は平穏だった。育ての親と妹との3人暮らしは幸せそのもので文句のつけようもない。
しかし、飽きることなく続くと思われた平穏はいきなり終わる。10年前に根を残した企みが再び発芽したのだ。それは死んだはずの母親に襲われるという幕開け。非現実としか思えない事象に籐矢はまとわりつかれていく。
ゆずソフト第2弾は学園戦闘アドベンチャー。完全なる萌えゲーであったデビュー作から考えると大いなる飛躍を目指した挑戦であることは疑う余地がありません。
購入動機は原画というかキャラクターデザインがそれなりに好みだったから。
初回特典は特になし。
重大なものではありませんが修正ファイルが出ています。快適にプレイするためにあてておきましょう。ただし、それまでのセーブデータが使えなくなるので要注意。
ジャンルは上で書いたように学園戦闘アドベンチャー。システム的には特に目新しいところはありません。
足回りは標準クラス。メッセージスキップは既読未読を判別して普通からやや早いくらい。次の選択肢へ進む機能が用意されていますが、内部処理をしながら進む感じなので瞬時に飛ぶという感覚ではありません。選択肢まで近ければ早いです。
バックログは別画面で行います。ボイスのリピート再生が可能、ホイールマウスにも対応しています。戻れる量はそれなり程度。
シナリオはやはり初挑戦のジャンルらしい不慣れさを強く感じます。淡白で動きに乏しい戦闘シーン、大きな1本の物語を小分けにしたかのような各ルート、山と谷の高低差が小さい構成、盛り上がることなく終わる一部のシナリオ、各シナリオにおけるキャラクターの登場する、しないがとてもご都合主義的など問題点は多いです。反面、コメディ主体の日常の描写は経験が感じられ安心して読むことができます。
テキストによる世界観の構築が不十分。プレイヤーの信頼を得るほどの丁寧さに欠けています。主人公家の暮らしぶりなどところどころで疑問を感じることがありました。このあたりもやはりデビュー作には不要であった配慮の部分ではないかと思います。また、一部でフラグの関係か矛盾する描写が見られました。
アイデアの活用も弱いです。人体にバーコードなどハッタリを利かせるに十分なキーワードを用意しながら発展性がゼロというのはさすがにどうかと思います。
主人公はプレイヤーの相性問題を引き起こすほどの難物です。魔術など日常では遭遇しない事態に直面すると、激しく狼狽して誰彼問わず質問の嵐をぶつけます。自分がその事態を納得するまではとにかく聞いて聞いて聞きまくりです。理解すると今度は空気を読めないわがまま発言を連発します。敵味方が閉口するほどに。主人公の言動が明らかに物語のテンポを悪くしています。
惹かれ合う過程はルートによって大きな差があります。しっかりしているものは十分すぎるほどの描写がされていますが、そうでないものはかなり薄味です。
Hシーンはメインヒロインは3回ずつでサブヒロインは1回ずつ。セリフ主体で構成されているのでエロさの方はもう一歩。
CGは原画家の得意不得意が鮮明な感じです。むりりん、こぶいち両氏ということでやはり小さな娘さんはとても安定していますが、大きな娘さんは描き慣れていないのか不安定に見えます。
立ちCGはイベントCGと同じ丁寧な仕上がりで好印象。ポーズはそれほどでもありませんが表情は多彩に変化します。
背景はしっかりと世界観の構築に貢献。地味ながらも素材として確かな存在感があります。
音楽は様々な場面に応じた曲がきっちりと用意されています。単独で聞くにも十分でサントラが付属していないのが惜しまれるほどの出来です。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は隙のない声優陣で全く問題ありません。安心して聞くことができます。
まとめ。心意気は買うが力量不足な作品。これ1本で見るといただけないところが多いですが、ゆずソフトの今後を見据えると期待したくなる経験を積んだように感じられます。個人的にも次作に期待したくなりました。
お気に入り:上御霊円、野宮悠
評点:62
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、野宮悠
普通の生まれと普通の育ちであったなら九分九厘ツンデレになっていたであろうヒロイン。正直、描写には物足りない部分もあるんですが青山ゆかりさんの演技は描かれていないところまで見えてくるほどの存在感なのでほとんど気になりません。
バーコードやパイロキネキスの設定はもう一工夫、欲しかったところ。特に前者は最初だけなんで終盤に入る頃にはすっかり忘れてしまっています。もったいない。
恋人描写が十分でとても満足しました。他のヒロインもこれくらいあれば良かったんですけど。徐々に素直になっていくあたりが演技とも相まって素晴らしいです。ただし、エピローグはどのキャラもまだまだ不足している感じですが。
デザイン的には私服と制服がやや被っている感であるのが残念なところ。確かにパンツとスカートではあるけれどパッと見はかなり似たイメージです。
2、籠夏希
ネビュラチェーン! とは誰もが思わず口にするところでしょうか。あまり奥義っぽいものがなかったのが少しばかり期待外れでありました。
個人的には変身してしまうのがなんとも痛い。物珍しく思えたのも最初のうちだけ。態度が変わってしまうこともあって慣れてきた頃にはもう見ていて辛くなる程でした。なぜそこまで依存しなくてはならないのか、と。たまーに見える目や照れた様子、ぶっきらぼうなところが良かったのになぁ。
3、貴船未緒
チャンバラお姉さん。しかし、剣を持っているのはもらったのがそれだからで剣の腕は誰に師事した訳でもなくただの我流。色々と台無しな気がするなぁ。というか、アレがどうなったらこうなるのやら。悠もそうですが全然違いますよ、という。
両原画家はやはりちびっちゃい娘さんが得意なのかHシーンのイベントCGはかなりばらつきあり。なんかカット毎にスリーサイズが違うのでは、という感じ。
4、白峯沙耶
格闘する姿にものすごい違和感があります。よりにもよって素手ですか。なんかバッドエンドのようにも見えるルート分岐が切ない。というか夏希エンドその2って感じですしね。
主人公に人生賭けて依存しようとする理由はよくわからない。
5、上御霊円
普通の恋愛ゲームならメインヒロインを鉄板で張りそうな造型です。なんかありそうに見えて実は何もないという肩透かし系キャラ。寿士の件もあって名前からしてどうやっても何かありそうだがやっぱり何もない。
描写は丁寧ながら不思議なことに動機は全くの不明という片手落ち。本人視点とかでちょっと語ればいいだけのような気もするんですが。昔からの知り合いってのも結局どのくらいなのか最後までわからない。まー、少女漫画にありがちな円の方は周囲から丸わかりってパターンだと思いますが。
6、加茂寿士
この男の正体こそが最大のサプライズか。しかし、驚かせておいて物語的にはほとんど意味がないという切なさ。一体、何のためにという疑問が。
下着抜き取りの奥義が素晴らしい。何が素晴らしいってちゃんと2パターン分の立ちCGが用意されていること。これがなければあんまり感銘を受けなかっただろうしなぁ。
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