柳川千夜(変更不可)は天才である。それも掛け値なしの。しかし、天才といえど収入がなければ生きていけない。それはとても大事なこと。早い話が彼は無職だった。
困窮した千夜が手にした1枚のチラシ。そこには怪しげな誘い文句の数々が乱舞していた。普段ならダストシュート直行。しかし、ただひとつの魅惑的な一文がそれを許さなかった。
「住み込み可」
それは冷静な判断力を奪うに充分な条件。気がつけば千夜は連絡を入れていた。就職先の名は悪の組織ヴァルキル。これこそまさに天佑。彼にとって運命の出会いであった。
いつも同じ出だしのような気がしますが、私にとってAVG以外のジャンルを出してくれるメーカーは実にありがたい存在です。まして、その重要な素材である原画がお気に入りとあればなおのこと。「真昼に踊る犯罪者」以降、デフォルト買いの対象として少しも揺らいでおりません。
毎度のように初回特典かは不明ですが、ラフ・設定資料本と2004年1月から2005年12月までのカレンダーがついてます。今回はあまりネタバレといった趣ではないのでプレイ前に閲覧してもほとんど問題ありません。誘惑に弱い私としてはありがたかったです。お馴染みのパッケージラフ集も掲載されています。
今回のジャンルはそのものズバリ悪の組織SLG。征服活動の傍らいつものアドベンチャースタイルの小イベントが挿入されゲームを盛り上げます。
ゲームの目的は街の征服度を上げることと、特定の条件を満たすと提言されるファイナル作戦を発動させること。するとそこまでのフラグによって複数のエンディングに分岐していきます。
基本行動は怪人制作、戦闘員育成、臨時会議、臨時分配、休憩、資金調達、出撃の7つ。このうち臨時会議と臨時分配は実行しても時間が経過しません。
怪人を制作し、街に出撃して征服活動を行います。この結果として便宜上、コインの名を借りた資金、資材、人材、技術が獲得できます。この際、敵対する正義の味方(SAFE)との戦闘も頻繁に発生。敗北すれば出撃の成果はほとんど失われます。時にはゲームオーバーになることも。
無事に帰還すると組織内の各部署にコインを分配します。これによって戦闘が楽になったり、戦闘員が補充されたりと様々な効果が目に見える形で起こります。ただ、これらは効果が発揮される度に消耗するので継続した投入が必要です。また、各部署の長はヒロインが務めている場合が多く、ぶっちゃけ攻略には各ヒロインが欲しがるコインが必要になります。
戦闘は3手先行入力のコマンド選択方式を採用。複数の攻撃方法がありますが、大まかに言ってこれらはジャンケンのような三すくみの関係にあります。とはいえ、大きな実力差があれば三すくみを覆せる上、この三角形はあまり綺麗な形をしていません。バランス的には序盤がやや難しいですが、そこを乗り越えればまず敗北することはない、という程度。実力的に苦しくとも上述したコイン分配によって、さながら脱衣麻雀のイカサマ技のように相手の手を知ることも可能なのでそれほど苦労することはありません。いわゆるエロゲー難度と言っていいかと。
残念なのは必殺技やそれに則したボイスの演出がないこと。せっかく正義の味方がいるのですから、このへんはなんとか考えて欲しかったです。そういった点もひとつの醍醐味でしょうし。
ゲームの進行は戦闘も含めてかなりスピーディに進んでいきます。いわゆる止め時に困るテンポの良さを実現しているかと。
足回りは少しばかりの進歩が窺えます。メッセージスキップは相変わらず、Ctrlキーによる強制のみ。戦闘がほんのちょっとでもスピードアップすれば、さらにテンポが良くなるであろう点も残念。確実に2周目以降をプレイするゲームなので。
メッセージの巻き戻しは別画面で行います。ボイスのリピート再生は逆上っても可能になりました。戦闘シーンなどを挟んでもイベントでシーンであれば問題なく戻ることができます。ここは重要なところ。
シナリオは本作最大のアピールポイント。行政に敵対し、市民に味方する悪の組織はただただ、その日常が綴られているだけで楽しめます。きっちり裏(悪の組織)と表(株式会社)の生活が描かれているのも見逃せない点。零細悪の組織というのはそれだけで興味を引かれます。
さらにヴァルキルに敵対する組織(SAFE)のドラマが同じくらいのボリュームを持って描かれているのも見逃せません。特にセーフスターと呼ばれる4人の正義のヒロインたちは個性も際立って強く、物語を盛り上げる一翼を担っています。
各イベントが「短い」〜「やや長い」程度の尺で収まっているのも地味ながら良いテンポを保つ役に立っているのではないでしょうか。
Hシーンもなかなか頑張っているかと。ここも設定の勝利という気がしますが、各キャラクターの役割(役職)が特別なのでそれだけでかなり印象が違って見えます。ここでもセーフスターは大活躍な感じ。これが悪の組織の醍醐味とは偏見でしょうか。
気になる点は2周目以降。1周目で大方のイベントを見ることが可能であるため、モチベーションが下がりやすいのが難点。作品の規模にも絡むので微妙なところですが、ヴァルキル寄り、SAFE寄りといった感じで大きく二つの流れがあった方が良かったのではないでしょうか。その結果として多少、ヒロインの個別イベントが減ったとしても。少なくとも現状ではエンディングの数を支えるほどのイベント数はないように思います。
あるいはゲームシステムをシナリオ抜きでも楽しめるレベルのものを用意するか。このへんは今後の課題かも。
CGは前作と比べても丁寧さが光ります。彩色だけでなく原画の構図もかなり工夫しているのが伝わってきました。リアル、デフォルメのメリハリもうまく差がついているかと。
立ちCGはポーズ変化は少ないながらも表情及び衣装は多彩でそれを感じさせません。またSAFE側に限っては戦闘シーンもあるので立ちCG的なものは意外と豊富だったりします(変身前、変身後とか)。
オーピニングムービーは必見モノのセンスの良さ。システム的なものを除けば本作がどんなゲームを指向しているか一発でわかる秀逸な出来に仕上がっています。
音楽はかなり聞けるようになってきたのではないでしょうか。まったりした曲、シリアスな曲、戦闘シーンの曲、Hシーンの曲と緩急自在な仕上がり。「レベルジャスティスの曲」という意味でもよく特色が出ているように思います。残る課題は相変わらず弱いボーカルですか。
ボイスは恐らくフルボイス。もしかしてソフトハウスキャラ初でしょうか。だとしたらかなりめでたいことです。ボイスをつける以上はやはりフルボイスが効果的です。本作で言えば脇役であるコゾーンたちやSAFEの正義の味方(男)なんかがフルボイスの恩恵として良い味を出しているかと。
メインキャラクターたちは有名どころが揃っているのでほぼ問題なし。充分に立っているキャラクターたちの魅力をさらに高めてくれています。ただ、ヘルオー様の声だけはちょっと幼女キャラらしくないように感じました。
まとめ。小気味よいテンポで進む秀作。プレイ中に不備らしい不備がなかったのでストレスなく楽しむことができました。SLGにしては1回のプレイ時間がそれほど長くないのも良かったです。
お気に入り:ラブリーホワイトスター、ラブリーピンクスター
評点:72
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、魔将キリッサ
最初は実にじつ〜に私好みのキャラかと思ったんですが、その正体がメガネとは大層ガッカリでした。正体がすぐに察しがついてしまうのもマイナスかと。それ以外は本当に申し分ないくらいなんですけどね〜。
2、冥将シアシア
いつでもヘルオー様が最優先なところは好きなんですけど、共通部分であまり活躍してくれないのがなんとも残念。参謀らしさがイマイチ足りないといいますか。
3、冥界神帝ヘルオー
なんつーても気になるのはパッケージイラストですな。一見へルオー様が素晴らしくカッコ良いんですけど、実はロゴの下でパンツ丸見えという微妙な点が。個人的に威厳を大事にして欲しい方なんでちょっと。
一部のエンディングで妙にゴージャスになったヘルオー様もなかなかお気に入りです。あの重そうな髪がなんとも。
イベント的にはデパートの屋上ショーが一番です。空にご尊顔が大写しになるのも捨て難いですけど。
4、ラブリーレッドスター
レッドでありながらリーダーでないというのはかなり微妙なポジションのような気がしないでもないです。4人のマスコット的存在だから別にイエローでも問題はないような。
彼女の場合、変身前と後であまり衣装が変わったように見えない(本当は結構違うんですけど)のが無駄に損をしているように感じられます。
5、ラブリーグリーンスター
4人の中では印象薄め。ルトやんとキャラが被っているのが原因でしょうか。密かな実力者でありながらゲームシステム上は大差ないというのも悲しいところ。
6、ラブリーピンクスター
どっちかというと正義の味方というより魔法少女の方が近いようなデザイン。一応、リーダーではあるものの、ほとんどそれらしいことをしないのは残念。
7、ラブリーホワイトスター
どう考えても彼女だけ贔屓されてます。登場も早いし、イベントも群を抜いて多い上に役回りも複数。それだけにきっちりとお気に入りになるくらい思い入れがあるんですが。
強引な押しに弱いところがポイント。いくら憎まれ口を叩こうともいつも敗北。ひどいめに遭うばかり。そこがいいんですけど。使えない超能力も素敵ですよ。彼女個人のエンディングがあったらねぇ。
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