九条貴之(変更不可)は女に縁がある。そのせいで男友達が目立たないほどに美女に囲まれている。まるでそんな体質であるかの如く。幼少時代からすでに能力は発揮されており異世界の姫2人とも知り合いであった。今、その集大成とばかりに主人公の住む向こう三軒には異世界の姫君2人、アイドル、幼なじみ、従妹が揃っているのでした。貴之がつかむ明日とは。
MOONSTONEの新作は主人公の造型が前作と180度異なるアドベンチャー。
購入動機はメーカー買いになるかどうかの試金石と言ったところでしょうか。
初回特典はサウンドトラック。予約キャンペーン特典はフルカラーブック。
ジャンルはいつも通りのアドベンチャー。
足回りはMOONSTONEにしては進歩が感じられる仕様。メッセージスキップは既読未読を判別して平均程度のスピード。ルート決定部が集中しているのであまり気になりません。
バックログはウインドウ単位と別画面の2種類が用意されています。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も用意されていますがそれほど戻ることはできません。また、シーン切り替えでリセットされてしまうことがあります。ロード直後にも使用できますがエリア単位での扱いなので実質、戻れないこともしばしばです。
ワイドモニターに対応したウインドウサイズの詳細な設定が可能ですが、通常の設定画面からは入ることができません。タイトルバーから右クリックで専用のものを呼び出す必要があります。
通常のメッセージウインドウの他に本作では吹き出しによる表現が用意されています。モノローグだけでなく、通常のセリフにも活用されます。主な用途はメッセージウインドウのセリフなどに対する同時ツッコミ。
シナリオはヒロインルート毎に異なる特色を打ち出しています。バリエーション豊かと表現して問題ないと思いますが、反面シナリオ毎の出来不出来、分量に違いが出てしまっている格好です。率直に言えばライターの気合の差が見えるかのよう。また、変わった構成を採用していて、各個別ルートの序盤はサブキャラにスポットを当てたミニシナリオのようになっています。
ちょっと意地の悪い書き方をしたあらすじからもわかるように主人公とヒロインたちはほぼ同居している状態です。にもかかわらず、その地の利を活かすことがありません。帰宅後の描写はほぼないと言っていいでしょう。生活感はとっても希薄です。
日常の掛け合いは先へ進めば進むほど弱くなっていきます。特に個別シナリオに入るとまるで絡まなくなります。これだけ身近に暮らしていながら不自然なほど登場しません。もうちょっと潤いが欲しいところです。
テキストはボイス込みで異常なほど割り切りが激しいです。重要でない(=ボイスがない)キャラは事務的なセリフしか喋らず、名前の欄には役名の後に「モブ」と思い切り書かれています。台本ではないのですからさすがにその表記はどうかと思います。
イベントにも似たようなことは言えて、ひとつひとつの濃度が薄いです。CG付きのイベントであっても描写は実に淡白。ノルマ制とばかりに必要なことだけ書くと少しの遊びもなく次へ進んでしまいます。
惹かれ合う過程は基本的にありません。というのも物語が始まった時点で主人公とヒロインの好感度はすでにマックス。これ以上は上げようがないからなのか、それらしい描写はなく、適当なイベントが発生するのを待っているように見えます。
Hシーンは各ヒロイン3〜4回。尺は短めで純愛系としてはほどほどのエロさ。ただ、Hシーン間が狭く駆け足な印象があります。
CGはHシーン偏重の傾向あり。スタッフロールで使われるイベントCGがそればかりという珍しい純愛系ゲームです。
原画家が複数ということで、異なる系統の絵柄が混在する構図についてはギリギリ違和感なくまとまっています。あまりイベントCGでは合作にならない、ということもあるかと思いますが。しかしながら、原画家によっては立ちCGのレベルが安定せず純粋に可愛さ不足と感じるものも。
イベントCGは原画家として表に名前の出るメンバーがヒロインを担当し、いわば裏方の原画家が奮闘してヒロイン以外を担当しています。あまりに極端な配分にいびつに見えることも。
SDカットは数も少なく、出現頻度も低いので効果は薄めです。加えてSDならではの可愛さがあまり感じられずほとんど意義が見出せません。
音楽はヒロイン毎にテーマ曲が設定されていることでイベントによってかなり雰囲気に差がありました。個別シナリオに入ってからは区別が上手くできていると感じましたが、共通シナリオにおいては落差が大きすぎるようにも感じました。それ以外の状況に応じた曲はしっかりと用意されていたように思います。
ボイスは主人公を除いたメインキャラはフルボイス。名前のないキャラはそこそこ重要なキャラのみ用意されています。演技はメインヒロインは問題ありませんが、サブキャラには怪しいキャラがいました。
まとめ。長所がそのまま短所になってしまったような作品。毛色の異なるシナリオを用意する意欲的な試みは買えますが、こういった作りは割り切っただけにより高いレベルを求められやすくなります。ちょっとシナリオが似てしまうだけでも通常の作品よりも非難されやすいですし。ただ、やるとしたからには用意してしかるべしなのも確かです。個人的には宮崎由紀菜シナリオ以外は可もなく不可もなく以下でした。
MOONSTONEに対する期待は少し下がってしまったかな、と。
お気に入り:宮崎由紀菜
評点:60
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、シェーラ=エル・エリス
姫だけれどももう一歩、存在感に欠けています。共通シナリオや他ヒロインのシナリオで影が薄いのが原因でしょうか。見た目は華やかなのにねぇ。自分のシナリオでもギメルスとアリスの2人に完全に食われています。
これは主人公もですけど設定と状況にあぐらをかいている状態。それ以上の加点がないのでどうしても印象が薄くなってしまう。主人公は万能すぎる上に嫌ボーンまでついているからねぇ。
2、ニースライト・ヒースラヴァー
こちらはあくまで元なのでいいのかもしれませんが、姉以上に姫として弱い。実際、雰囲気以外に何かあるんだろうかと真剣に考えてしまうほど。終わってみれば姉のシナリオに絡まないのは当然、という結論が出るあたり切ない。振舞いってのは重要ですねぇ。
ゾイの魔法は本当に身も蓋もない。無意識に発動する上に発動しても気付かない。その上で勝手に望みをかなえてしまうあたり、たちが悪い。何かちょっとでもあればすぐに発動しかねないあたりが痛いです。ウサギが逃げただけで、だもんなぁ。人が行方不明になったり、死亡したらと思うと。
3、御狭霧かなで
大変うっとうしいカスタネット娘。発作が起きた時のために、とおっしゃってますけどどんな動きをしても鳴ってしまうのではないでしょうか。いつも決まった鳴り方をするとは限らないのでは。
4、天津冬子
せっかく良いキャラなのですが、一にも二にも活用の仕方が悪いです。良いところよりも悪いところばかりを引き出してしまっているように見えるのは頂けません。アイドルというのもプラスの価値を打ち出せていないような。ユニットなのに他の2人の意味がないってのもねぇ。
5、宮崎由紀菜
最も呉氏らしいというか毛色の異なるシナリオ。実際のところはわかりませんけど、一番気合いが入っているように見えます。読み応えもありました。ミステリー仕立てになっているのがより効果を生んでいます。
伏線の活用も十分。他のシナリオはスルーされても気にしないような伏線ばかりでしたからねぇ。
キャラ的にも一人だけ目立った看板がない中を健気に頑張っています。作中でのモブキャラの評価にまるで由紀菜の名がないというあたり差を感じます。
本作は全ヒロインとも選ばないとちょっとなぁ的な設定を多かれ少なかれ抱えています。主人公が関わるか否かでその後が違いすぎるんですよね。中でもダントツなのは由紀菜でしょう。なにせ主人公が選ばなければ消えてしまう訳ですから。これはさすがに無下にはできません。次は主人公のせいで持病を持っているかなでですかね。シェーラは結婚、ニースは性格とゾイの魔法、冬子は……別に平気そうな気がしますね。ニースも結構、重要ですが、あれだけこじれるのも主人公が相手だから、という気もしますしね。シェーラは5月以降に帰って来なければ責任を感じてしまいそうですけど、主人公が選ばずともあっさり帰って来てしまいますからね。
|