百瀬裕一(変更不可)は憂鬱だった。小市民たるを自覚する彼としては厄介事からは少しでも距離を置いておきたいと常々、思っていた。実際、この数年間はたゆまぬ努力によって実に平穏なものだった。
しかし、それは泡沫の夢。気がつけば裕一はあまりにも大きな巣に捕らえられていた。巣の名はオカルト研究会。待ち構えるは八乙女維月という名の歩く理不尽。良くも悪くも裕一の生き方を決定づけた女であった。果たして裕一の明日はどちらであろうか。
BeF解体という事実により新たに発足した新ブランドHERMITの第1弾。初回特典かはわかりませんが、サントラが付属しています。商売するメーカーが多い中でありがたいことです。
購入動機は丸戸史明氏というライター買い。個人的にはすっかり信用のブランド。
修整ファイルの類は出ていないんですが、私の環境では困った症状が出てました。終盤になってセーブしようとしたらそれは起こり、以降セーブ、ロードアイコンをクリックする度に強制終了するようになりました。幸いクイックセーブ&ロードだけは継続使用できたのでクリアはできましたが。まぁ、修整ファイルが出ていないことからも私と同様の症状が出る可能性はかなり低いと推測します。
ジャンル的には不条理系・オカルティックADVなんて名前がついてますが、基本的にはいつものアドベンチャースタイル。一応、聞き込みシーンというのがあるものの、昔の総当たり式ゲームを見ているようで目新しいなんてことはかけらもなく、懐かしい気持ちで一杯になりました。
足回りはよく考えられてます。メッセージスキップは既読未読を判別した上で高速。設定によって未読スキップも可能です。
メッセージの巻き戻しは別画面で行います。ホイールマウスに対応していて、ボイスのリピート再生も可能。戻れる容量は程々といったところ。
画面構成、デザインといった部分がSEなども含めて非常に凝っています。ゲームが始まる前から雰囲気作りができているかと。
シナリオは全6話構成。各話は基本的に1話完結のオムニバス形式。アニメを意識したようなオープニングとエンディングが用意されています。もちろんスキップ可能。ここまで体裁が整っていながらサブタイトルや予告がないのは実に不思議です。もったいない限り。
シナリオ構造的に問題なのは1〜4話が完全な一本道であること。各話にあっても細かい分岐は一切ありません。1周目はいいとして、2周目以降はフラグを立てるためだけにやり直しをしなくてはならず、プレイ意欲が微妙に下がりがち。まして、非常に内容の詰まった作品であるだけに余計に落差を感じやすいように思います。4話終盤で分岐させてはならない理由でもあったんでしょうか。
本作は学園ものであって学園ものではありません。オカルト研究会として活動する以上、学園が舞台のひとつであることに間違いはないんですが、エロゲーにおける学園ものの要素が完全に欠落しています。すなわち起床、登校から始まって放課後にまで至る一連の通過儀礼的イベントはどこにも見当たらないのです。恐らくはわざとかと思いますが、慣れきった身には一部物足りないと感じながらも、なかなか新鮮でした。シナリオを無用に間延びさせないためにも正しい判断かと。
私が感じるところの丸戸史明節は健在。キャラが立ちすぎるくらいに立っていて、ネタものに頼ることがなくとも面白い日常会話を実現しています。業界でも稀有な才能ではないでしょうか。
シナリオの中身は驚くほど詰まっていて息つく暇もないほど。1周目ではあまりのテンションの高さにどうやってHシーンを挟むのかと余計な心配をしたぐらいです。古都シナリオであったということもありますが(他のヒロインに比べてHシーンが遅い上にあまりそういう雰囲気にならない)。
シナリオ全体の微妙な点は個別シナリオの伏線が全てごちゃ混ぜで共通シナリオに放り込まれていること。結果としてどのシナリオを終えても、プレイヤーはともかく主人公的には「あれはどういうことだったんだろう」という思いが残ることになり、筋としてはあまりスッキリしない感があります。まぁ、好き嫌いのレベルかもしれませんが。
CGは原画家の持ち味を活かした塗りがなされていて好印象。ただ、デザイン的には微妙なところも。
オカルト研究会の活動は制服と私服の双方で行われます。その境は言うまでもなく学園内かそうでないかで区別される訳ですが、行動理念が変わる訳ではありません。にも係わらず私服と制服時で髪型どころか、顔まで違うのはどうかと思います。ちょっとフットワークが鈍すぎるんじゃないでしょうか、この同好会。
つまりはデザインの問題かと思うんですが、なぜこういうことになったのか本当に疑問。あまりにも決まり過ぎていて芸能人かコスプレかというノリなのですが。エロゲー的視点で見てもこれが喜ばれる衣装だとは私には思えません。特にお嬢さまである古都の衣装は性格から考えてもなぜそういうチョイスになるのかわかりませんでした。
立ちCGはポーズ変化は少なく表情変化で勝負という趣があります。衣装もそれほど多くはありません。
音楽は単独で聞くにはやや厳しいかもしれませんが、場面に応じた曲がしっかりと用意されています。ただ、会長のテーマ曲だけは妙に穏やかな曲で正直、同じゲームの曲とは思えず。
ボイスは高いテキストレベルに負けることのない声優陣が揃って熱演しています。明らかに相乗効果が起こってキャラクターに魂がこもっているかと。
まとめ。隠れた秀作。売れ行きや注目度を考えるとやはりこういった評価に。総合レベルは非常に高く欠点らしい欠点はほとんど、見当たりません。個人的に遭遇した不具合によって素直に誉めきれない感じは残りましたが。
お気に入り:メイドさん1〜3(え?)
評点:73
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、八乙女維月
正直言って苦手です、こういうタイプ。「GS美神・極楽大作戦」の美神令子が苦手なのと全く同じ理由で。ポジション的なものとしか言いようがありません。主人公が横島とかなりキャラが被っているのも、それを助長しています。
2、木乃内ひなた
ネコ耳ドクロな格闘家。この姿の半脱ぎHがなかったのは僥倖というべきだと私は信じています。個人的にはあまり人当たりが良くなった、とかいう気はしません。あまりにもあっさりだったんで。
3、神応寺古都
なぜ、普段は髪を結んだままなのか。同棲後は激しくそう思ってましたよ。無駄に可愛らしさを下げているとしか思えませんよ。あの私服とか。
4、水篠碧衣
本来苦手なはずのメガネな会長さんなんですが、青山ゆかりさんのボイスの効果かそれとも苦手な維月のライバルキャラであるせいか非常に好感度は高かったです。HシーンのメガネON/OFF機能も微量ながらそれに貢献しています。
5、若色遙香
丸戸史明氏のシナリオではこれまで初めての訳ありの女性というのはかなりのキーパーソンだったのですが、今回は微妙な役回り。まぁ、キーパーソンといえばそうなんですがあれではねぇ。伏線的にもたいそう厳しかったような。
6、メイドさん1〜3
キャラクターとしては彼女たちが一番好きです。見かけはともかくとして。本作のヒロインたちは良くも悪くもキャラが立ち過ぎていて個人的にはあまり入れ込むほどの魅力を感じませんでした。結果として出番はそう多くないながらも要所要所で記憶に残るセリフと役回りの彼女たちが良かったかな、と。
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