232   FEARLESS](アクティブ)
 
 静原安純(変更不可)と七桜は幼き日に従兄弟同士から兄妹になった。それから間をおかず家族は二人きりになってしまう。その日から互いの存在だけが全てになった。
 安純が一人で七桜を守れるかどうか、それくらいの月日が経ったある日のこと。安純は一人の不穏な空気をまとった少女から助けを求められる。最初は当然の選択として無視したものの、少女の境遇が自分たちと酷似していることを知り、放っておけなくなるのだった。
 
 相も変わらずどんなソフトを出そうとも定格というものを崩さないアクティブ。初回特典もなければ箱の大きさも同じ。CDも1枚ぽっきり。小さめの箱とゲームのボリュームのイメージが被るせいか、どうも寂しい感じが拭えません。
 デモを含む事前情報では不安一杯であったにもかかわらず購入を決意したのは「Hello Again」、「ねがぽじ」の枕流氏がシナリオを担当していたから。正直、デフォルト買いをするほど信頼している訳ではなく、期待株という感じ。
 
 システムはアクティブのいつもの。それで通用しそうなほど代わり映えのないアドベンチャースタイル。まぁ、完成されているということでしょうか。アクティブにはシステム(デザイン含む)に凝ろうという発想はないようですし。
 足回りも上に同じく。
 メッセージスキップは非常に高速ですが、既読の自動送りがCaps Lockが必要とやや面倒。しかもタイトルに戻るたびにキャンセルされてしまうので、せっかくの機能も使い勝手がやや悪いです。
 メッセージの巻き戻しは申し分なし。ロード直後も可能。選択肢をまたいでも問題なし。分量もかなり戻れますし、ボイスの再生機能も既存のタイトル同様に備えてます。加えてホイールマウスにも対応と死角なし。足回りは間違いなく業界トップクラスですね。願わくばその他の要素もトップクラスになって欲しいものですが。
 他にも、やはりこれまで同様に立ちCGや背景の鑑賞モードなどが用意されています。この充実ぶりは他メーカーも見習って欲しいです。
 
 シナリオは珍しいことに探偵モノのホラーかミステリーか、という入り口から和風ファンタジーバトル路線へと様変わりしていきます。超能力大戦と言い変えても可。
 物語が始まった時の主人公を取り巻く設定の数々がどうも不自然なように思います。結末を作ってから用意したという感じでしっくりきていないというか、首をかしげる箇所が多いです。
 最近にしては珍しくヒロイン単位のルート制ではない作りになってます。一応はマルチエンディングになってますが、その幅は一本道と呼んでも差し支えないほど狭いです。
 ヒロインも二人と近年、他に類を見ないほどの省エネ設計(「With You」以来?)。定価は同じですけれども。
 シナリオの本筋以外の部分ではこのヒロイン二人の冷戦状態が売りになっている模様。主人公を巡っての嫌味な言葉の応酬はどちらかに肩入れしたりといったことが出来ないので、人によって評価がかなり分かれそうな感じ。シナリオは初っぱなから緊張状態にあるため、日常的な会話はほとんどなし。よってこのようなパートが作られたのではないかと。
 Hシーンは複数回であるものの、最初から最後まで唐突に発生するのものがほとんど。静かだからとか、片方とやらないからとか、そんな理由でばかり発生するのでプレイヤーはかなり置いてきぼり風味。なにより柚の方には主人公に惚れる理由が全くわかりません。あえて言えば調教されたからでしょうか。
 話はほとんど一本道であるのにHシーンは分岐させているあたり、出し惜しみという言葉が浮かんできます。ましてエンディングにはほとんど関係ない訳ですから。
 シーン数のわりにやけにマニアックなシチュエーションが多いのも今作の特徴。やはり話の流れには沿っておらず無理矢理に原因を作っているように見えます。
 本筋に絡む要素として見過ごすことが出来ないのは主人公の存在があまりにもご都合主義に過ぎること。それはもう、ってくらいであらゆるシーンでその効果が遺憾なく発揮されてしまっています。主人公とはいえあまりにもな大活躍。
 高校生にしてFBIかCIAかというスパイ能力。暴力のプロ5人に囲まれても平然と素手で撃退。死霊の暴れ馬を乗りこなす。空き巣なみのピッキング技術にキーのないバイクを数秒で走行可能状態にする。訓練もなく三節棍に変化する槍を使いこなす。
 ここまでは妹と二人だけで生きていこうとしていたら自然と身についた技術だとか。公にはできない資格学校でも開いたら大儲けできそうです。
 この上、血筋に関わる特殊能力ありとどうにも手がつけられない無敵設定。ところが都合のよさは弱い方にも発揮され、容易に敗北することもしばしば。プレイヤーの気分はすっかり氷点下に。
 どうもシナリオライターの得意分野(ほのぼの系学園恋愛ストーリー)はさっぱり姿を見せず、苦手あるいは初挑戦の芳しくない箇所ばかりが目立ってしまっているように感じました。
 
 CGはこれまたいつものアクティブらしく、けして多くはありません。特に戦闘シーンにおいて不足を感じることが多かったです。曲、効果音、テキスト、背景、いずれの要素でも補うことは出来ていないように思います。
 立ちCGはメインキャラの少なさを考えるとバリエーションは少ないように感じました。唯一、感心したのは一度しかない、それも本筋に関わりのないシーンで専用の立ちCGが2枚用意されていたこと。
 背景はかなり寂しいです。最近は他メーカーの作品において一様にレベルアップの傾向が見られるので今作のレベルではかなり見劣りします。やたら正面からの(角度のない)カットが多いのも工夫がないというか、手抜きのように見えてしまいます。
 お寺の玉砂利はそうとは見えず、ファミレスのテーブルにはあるはずの椅子がなく、旧校舎の割れたガラスには立体感がまるでなく、路面電車には異常な数の吊り革があり、「ねがぽじ」からの使い回しありと問題だらけ。スタッフの奮起を期待します。
 
 音楽においてもやはりいつものアクティブ的。さほど印象には残らず。一応シーンによって緩急はつけられていますが、もっと激しくした方が良かったように思います。ホラー的な内容だけに「月姫」くらい強く印象に残る曲が必要ではないかと。
 ボイスは主人公も含めてフルボイス。演技は及第点ではあるものの、こちらでも強い印象は残らず。もう少しボイスの意義を考えて欲しいところ。ぶっちゃけボイスなしでも特に特に困らないように思います。
 
 まとめ。シナリオライターの長所が存在しない作品。やはりライターにはひとりひとり適性というものがあり、それに沿った作品作りをした方がよろしいのではないかと。新分野に挑戦する場合はなんとか長所を含ませた企画を立てるべき。
 次からは舞台及び初期設定で惹かれるものがなければ、枕流氏の作品とはいえ買いません。
 それと「アクティブだから」という言葉で短所に対して全て納得できてしまいそうなのが気になります。今作品だけでなく、どうも小さくまとまってしまっている傾向があるのではないでしょうか。
 お気に入り:……静原七桜かなぁ?
 評点:48
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、桜井柚
 正直なところ、どうにもよく分かりませんなー。近親相姦を望むほど兄を想っていたのに、主人公にちょっといじられただけで宗旨がえというのは。説得力なさ過ぎというか。
 説得力と言えば桂木からもらった爪で戦闘力があるというのはわかります。でも、気配を察したりとか格闘能力とかは一体どうやって修得したのでしょうね。アイテムをもらっただけで変わるというなら柚以上に七桜の方が戦力になると思うんだけど。
 あと柚子と七桜は一緒に写真を撮りあうほどのクラスメイトのハズ。しかし、二人の会話はまるでそれまで話したことがないんじゃないかと思うほどよそよそしい。どうも初期設定に疑問が多いような気がします。「Hello Again」や「ねがぽじ」ではそうした点は見受けられなかったんですけどねぇ。
 
2、宮原佐夜子
 ノット ヒロイン。それだけで諸手を挙げたい気分です。役回りには激しく疑問点あり。狂言回しにすらなっていないような気がするのですが。こいつも謎の中途半端戦闘力を持ってます。
 
3、静原七桜
 この作品のオアシス。彼女がいないとこのゲームはあまりにも散文的に進行するでしょう。動いているのだかいないのだかわからない奴らばかりだし。
 個人的には義妹と従姉妹の間に全く差が見えないのが残念。いくら目先を変えても内実が伴わなければ無意味かと。
 「Master of Doll」のエンディングがお気に入り。これ1本でアナザーストーリーが楽に書けますよね。ただ、あの効果音は不可。なんか虫の羽音のようにも聞こえるし。
 ゲーム中、ただ一度のシーンのためにネリチャギの立ちCG(それも2種類)があるのにちと感動。あれが一番エロいような気がしないでもなかったり。
 
4、静原安純
 ご都合主義の権化。強い方にも弱い方にも。ただでさえ、「痕」あたりとネタが被るだけにしんどさも倍増。少なくとも全部の設定はいらないと思われ。
 上でも書きましたが、死霊の馬を乗りこなすシーンはさすがにたまげました。未だかつてここまでのスーパーマンぶりを発揮した主人公がいたでしょうか。


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