この国には神様がいる。全国民の中のほんの1万人ほど。その身分は実のところ公務員なのだけれど、小さな奇跡を起こせるという。春日井祐也(変更不可)の住む街にもその中のひとりがやってきた。生徒会副会長である彼は商店街の人々とともに出迎えることに。ところが、祐也が出会ったのは「しましま」だったのです。
ぱれっとの新作は「さくらシュトラッセ」を製作したチームのちょっと不思議なアドベンチャー。
購入動機はブランドというより製作陣買い。
初回特典は特になし。予約キャンペーン特典は恒例のサウンドトラック。ただし、前作のような豪勢な2枚組ではなく、およそ半分を収録した1枚となっています。ボーカル曲もオープニングとエンディングしか収録されていません。なにやら商売の匂いがします。残念。
ジャンルはごく普通のアドベンチャー。
足回りは進歩が見られません。というか、ぱれっとは製作チーム間で技術(プログラム)を共有していないのか、別チームではできていることができなかったりします。よって発売される作品ごとにプレイ環境が大きく異なります。
メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、作品の構成上、使用機会はほとんどありません。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。ロード直後には使用不可。バックログを起動するとボイスの発声が停止してしまうのも相変わらずです。
オールクリアで立ちCG鑑賞モードが開放されます。こちらは使い勝手も非常に良くなりました。ただ、任意で背景は選べません(正確には選べなくもありませんが、そのためには対応するキャラを記憶しないといけません)。
シナリオはよそのブランドでも時折、見かける途中下車方式を採用しています(勝手に命名)。一本の大きなシナリオが用意されていて、章ごとにヒロインが順にクローズアップされていきます。そして、その章の終盤で選択肢が発生し、それを選べば当該ヒロインの個別ルートへ入ります(下車)。選ばなければそのまま次の章へ進みます。これを繰り返すことでゲームは進行します。どうやら先に分岐が現れるヒロインほど個別は長くなっているようです。すごく差がある、というほどでもないようですが。本数はぱれっとでもすっかり定着してきた感のある全4本。
本作の途中下車方式には意外と無視できない欠点があります。それは選択肢直後に恋仲が決定してしまうこと。すなわち惹かれあう過程が共通シナリオに配置されているのです。よって個別シナリオに入らずそのまま進行した場合は互いに高い好感を維持したままシナリオが進むことになります。生徒会内という狭いにもほどがあるコミュニティの中でこれを繰り返すさまはちょっとすごい光景ではあります。選ばれなかったヒロインたちが漂わせる哀愁はただごとではありません。主人公はあまり気にしませんが。
構成上のためでもありますが、いわゆるパートというものがかなり偏っています。SDカットを使用するような呑気なイベントは序盤も序盤に集中していて、選択肢以後はシリアスが基本線で、笑いがあってもどこか自虐的な要素が強かったりします。恋仲になった方が笑顔が見られる率が下がっていくように感じられてしまうのは仕方ないにしても悩ましいところです。
本作は神様がいる世界観ということでそれぞれのヒロインのシナリオにも超常現象的なものが絡んできます。それは良く言えば設定を活かしていて必然性も十分ですが、悪く言えば主題が曖昧になるような側面を生んでいるようにも。
基本的に丁寧にしっかりと書かれているシナリオですが、要所で動機やきっかけなどがやや苦しいと感じるものが散見されます。どうにもならないというより工夫が可能なように見えるだけにもったいなく感じました。
日常の掛け合いはテンポも良くキャラクターの個性がうまく引き出されています。笑いもしっかりとあり、作品中で完結するネタがメインとなっていて好感が持てました。
惹かれあう過程はきちんと用意されていますが、主人公のアクションに対してヒロイン側の好感度上昇が半端ないという印象です。理由はわかれど、もう攻略されちゃいましたか!? くらいの効果が認められます。
Hシーンは各ヒロイン3〜4回。シナリオの長さや設置ポイントで考えると少なく感じられるヒロインも。エロ度というよりヒロインに淫乱疑惑があります。特に神様2人は単語まで出現して疑いが濃いです。
余談ですが本作は「もしも明日が晴れならば」と世界観が同じです。タイトルが似ているのもそのあたりが原因だと思われます。同作のヒロイン湊川珠美がサブキャラとして登場しています。
CG。クオリティはそのままに大幅増量を実現。差分抜きで95枚と原画家のファンとしては感無量の数字です。まさかここまで増えるとは正直なところ予想していませんでした。
立ちCGも当然イベントCGに引けをとりません。後ろ姿もちろん健在な上、前を行くキャラが後ろを向きながら話すカットが追加されていてより自然になりました。車椅子のヒロインのカットに合わせる素材として見ても違和感を感じさせません。各カットそれぞれの出来も申し分なく、全員集合させればあるシナリオのラストCGにも負けていないと思います。
素朴な背景がキャラにマッチしていてとても落ち着きます。よく見るとしっかりと描き込まれて感心します。画一的でない、デザインが感じられるのが好印象です。
Hシーンはかなりの頑張りが感じられます。エロさを意識して描いているのが各原画から伝わってくるようです。
音楽は「もしも明日が晴れならば」のアレンジ曲も入ってバラエティ豊かな曲が揃っています。シーンに合わせた曲作りは相変わらず見事です。曲そのものだけでなく、どんなタイミングで使うかという演出にも光るものを感じました。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。見た目通り、イメージ通りの声優キャスティングには毎度、驚くばかりです。サブキャラにもそれが行き渡っているあたり賞賛ものかと。活き活きとした演技はただ聞いているだけで楽しくなります。唯ひとつ、佐倉水希役の星咲イリアさんのHシーンの演技がちょっと拙いように感じました。
BGV(バックグラウンドボイス)の演出は今回も入っています。ただし、従来に比べてそれを聞くことの重要性は一段、下がったように感じました。
まとめ。長所と短所がせめぎ合う作品。どちらがより心に残るかで評価が変わってきそうです。
いつも思うことですが、ぱれっとの作品はシナリオの主題が終わった後の第二部的なものがあればぐっと良くなるのではないでしょうか。Hシーンが複数回と言っても結ばれたのがゴールとあまり変わらないですからね。終わった後のヒロインの笑顔や生き方を問うような展開があれば深みも出そうですが。
お気に入り:山上絢音、春日井なずな
評点:73
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、稲乃神香奈恵
基本的な性格が結構、困った神様。無能だが役に立ちたがり、しかもレベルの高いお役立ち度でないと納得しない。加えて呆れるほどに根性がない。ひとつひとつはよくても全部が揃うとかなり厄介です。しかも、このあたりは最後の方まであまり成長しないんですよねぇ。娘の件でも見事なほどにグダグダぶりを露呈。想像力を駆使しないこと甚だしいです。
水希との恋の駆け引きはとても微妙な感じでついていくのが大変でした。水希の願いをかなえるつもりなのか、それとも自分の恋を優先させるのか、最も重要と言えるところでモノローグがなかったこともあってやや消化不良の感がありました。その他の場面と香奈恵の姿がどうも重ならないんですよね。
結局、みんなから弄られるシーンが笑いもとれてらしい姿という感じでした。前作のヒロイン、マリーと同じで本来の姿で笑っている様子が少ないのが気になりました。
2、佐倉水希
属性的に問題あり。幼い頃から主人公の家に入り込むほど親しい間柄、それに相応しいくらいの理解者なのにツンデレって意味不明レベルですよ。さもなきゃツンデレを勘違いしているとしか思えません。
意外と(?)性格が悪いので要注意な娘さんです。お父さんに泣きつかれても家でHしちゃうところにも表れてます。なずなシナリオでもフォローしがたい言動が見受けられました。
災害クラスのバカップルぶりも正直、勘弁です。本気で引くほどっていうのはかなりどうかと思います。小姑なずなが家出したくなるほどですからね。
3、山上絢音
こちらもちょっと浮き沈みが激しすぎて本当の姿ってのがよくわからないです。そういう意味では確かに面白くはあるんですけどね。でも、なんか頭を撫でただけで惚れられてしまったように見えるのは微妙なところ。
シナリオ的に半分なずなシナリオっぽいのはちょっともったいない気もします。焦点が絢音からちょっと逸れているようにも感じられてしまうので。この展開(エンド)なら3人エンドがあっても良かったような気がします。
ところで、香奈恵シナリオを終えた後だと個別シナリオに入ってあまりにもあっさりと、しかも速攻で好きと言う主人公の姿がもはや笑える領域です。こんな主人公なのに香奈恵にはいっさい言わないって不自然だよなぁ。どんだけ運が悪いんだか、あの神は。
4、春日井なずな
戦慄のマジックハンド遣い、と思ったら最初だけで拍子抜けでした。これをエロに応用すると思ったのは私だけではないと思います。
すんげーセクハラマシーンなんですけど、実は強がっているだけ、というのはおいしいかもしれないけど被害者(主に香奈恵)からすると納得いかないものがあるでしょう。口だけでなくて手も出されてるしなー。
実妹シナリオとしてはなかなか頑張っていたと思いますが、結局のところ両親とか近所の人々とか実際に日々暮らす上で避けて通れない人たちはスルーなんですよねぇ。まぁ、それだけ妙案はなかなかないということなんですけど。
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