隔離街。そこは閉じられた世界。人の情など鼻紙ほどの価値もない弱肉強食の世界。そこは生まれた時から呪われた街。歪み、狂った街に住むものもまた同じ病を抱えた忌み子たち。 
 世界は何のために生まれ、何のために続いてきたのか。執行者、中傷者、魔を冠する存在と救世主。遙かな過去に謳われた預言が成就する時、何が起こるのか。 
  
 lightの2004年第1弾はエロゲーとは思えぬ世界観を持ったアドベンチャー。そのまんまそこに惹かれて購入しました。 
 初回特典はサントラCD。商売することなく特典につけてくれる姿勢は非常にありがたいのですが、肝心のエンディングのボーカル曲が収録されていないのはあまりに痛恨。ダメージ大。 
  
 システム的には別段、珍しいところのないアドベンチャースタイル。章仕立てになっていてアニメのようにオープニングと予告が用意されています。2周目からは章単位で遊ぶことも可能になります。ここらへんは親切でいいんですが、最終章はそこまでのフラグによって完全に二つに分かれるので微妙な面も。 
 足回りはほどほどに優秀。メッセージスキップは既読未読を判別した上で高速ですが、既読フラグはそれほど徹底されておらず、明らかに同じ文章(最終章ビルへの突入など)ながら全てのルートで読まされるといったことも。 
 メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。戻れる量はそれほど多くありませんが、ボイスのリピート再生は可能です。 
  
 シナリオは良い意味で非常にシンプル。世界観に合わせてか意図的に難しい言い回しや漢字を使用していますが、反面その構成は難しい題材の割にわかりやすくなってます。余計な贅肉というものがついておらず物語を楽しむことに集中できるかと。ただ、その弊害として一部のキャラの存在意義が非常に低いものになってしまったのは致し方ないところでしょうか。 
 各章の引きやシーン転換がかなり巧み。中弛みすることのない展開は止め時に困るほど。 
 Hシーンは禁句といっても過言ではない内容。シーン自体の少なさもさることながら必要性はさらに少なく、エロ度を求めるなんてもっての外。実際、プレイ中は本作がエロゲーであることをしばしば忘れておりました。Hシーンが現れて思い出すくらい。 
  
 CGは確固たる世界観を主張することに成功。男性キャラは格好良く、女性キャラは可愛くという基本ながら大事な点が見事にクリアされています。イベントCGは欲しいと思われる箇所に適切に用意されている印象を受けました。構図もそれぞれ工夫されているものが多く見応えありかと。 
 立ちCGはイベントCGに比べると若干、統一性に欠ける感があります。またキャラによって出来に差があるようにも。ポーズ変化は少ないですが、表情が多彩に変化してくれます。 
  
 音楽は作品の方向性に相応しい曲が多数用意されています。パイプオルガンなどエロゲーとは思えぬ楽器の音色がCGにも負けないほど世界観を訴えているかと。 
 ボイスは重要なキャラにのみ用意されています。そのレベルは高く、中でもアスト役の西田こむぎさんの演技は必聴もの。しかし、それだけにボイスのないキャラが多いのは残念。緊張感という一点を考えても名のあるキャラには全て欲しかったです(声の有る無しでキャラの重要度がわかってしまいますしね)。 
  
 まとめ。一遍の映画のようにすっきりとまとまった作品。色々な意味でエロゲーにおいては稀有な作品かと。失礼な言い方をすればlightの作品とは思えません。今後も原画の峰岡ユウキ氏とシナリオの正田崇氏には注目かと。 
 お気に入り:アスト 
 評点:91 
  
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。 
  
  
  
  
  
  
  
1、ライル/ナハト 
 返す返すもボイスのなさがもったいない。あのキャラならば主人公とはいえ、ボイスがあった方が効果的だったのではないでしょうか。ヒロインとボイスによる掛け合いが成立するってのは結構、大事だと思うんですけど。 
  
2、リル 
 彼女がメインヒロインなんですかね。正直、エンディングの少なさを除いてもパワー不足は否めないような気がします。中盤以降は出番もそれほど多くないですしねぇ。何よりアストとは違って彼女がどうして変わったのかという契機がイマイチ描かれていないのがどうも。経過は描かれているんですけど。 
 気になるのはやはり2章最後。結局、最後まで触れられることはなかったですけど、あの後に何があったのか。最終章の様子からするとソフィアと接触することはなかったんでしょうか。 
  
3、カーマイン&エニス 
 切ないほどににぎやかし。ヴェーラとシグマには負けるものの、存在意義は相当に低い。特にカーマインは意味深なシーンがない訳ではないので余計に痛い。 
  
4、ノウ 
 感情移入要員。ノウ君なくしてこのゲームに引き込まれることはなかったでしょう。実際、面白いと感じるようになったのは2章からだし。超人すぎる主人公はよっぽど他にアピールポイントがないとねー。 
 3章の最後にあまりにもあっさり負けるところがいかにもノウ君らしくて素敵。世の中甘くないですな。 
  
5、ソフィア 
 リルと同様にちょっと色々な意味で押しが足りないんじゃないかと。アストのライバルというには物足りないですよ。彼女の存在自体が隔離街では貴重である、という点があまり感じられない(カーマインもエニスも案外、普通だし)のが厳しいところかと。 
  
6、ジューダス・ストライフ 
 彼だけはフルネームでないとなんとなくわかりにくい。 
 サタナイルを除いては唯一のボイスあり男性キャラということで獅子奮迅の働きといった感あり。エフェクトかけた乗っ取られかけの声も良い感じ。 
  
7、リリス 
 狂言回し。彼女なくして物語は円滑に進まない。 
  
8、アスト 
 もう本作は彼女が全て。アストのためにシナリオがあるといっても過言ではありません。徐々に芽生える感情によって振り回される彼女の姿はこのゲーム最大の見所。自己矛盾に苦しみノウ君に狂おしいほどの感情を抱く過程は実にうまく描かれていたと思います。それだけにエンディングは物足りない感じ。ようやく辿り着いたのですからもう少し描写が欲しかったところ。ツォアルにはそれだけの価値があると。 
  |