177   てとてトライオン!(PULL TOP)
 
 やはり罠にはめられたのだ、と鷲塚慎一郎(変更不可)は諦めた。あの人でなしの父親がまともに学園に通わせてくれるなどおかしいと思ったのだ。それでも、慎一郎は一縷の望みにかけて獅子ヶ崎にやって来たのだが、目指す学園はどこにもなかった。途方に暮れていた慎一郎の耳に愉快な歌が飛び込んできた。その声の主と出会った時、新しい人生が始まったのだ。
 
 PULL TOPの新作は未完成のハイテク学園を完成へと導く生徒会の活動を描いたアドベンチャー。
 購入動機は前年の「遥かに仰ぎ、麗しの」の出来が予想以上に良く、このブランドに興味を持ったのでもう一つのチームも試してみようと考えて。
 初回特典はサントラと豪華ゲストイラストブック。予約キャンペーン特典はプレミアム・マキシ・シングル。
 
 ジャンルは基本的なアドベンチャー。選択肢総数が3つしかないのでいつもに増してゲーム性はありません。もちろん難易度は果てしなく低いです。
 足回りはちょっと貧弱です。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが、各種演出をあまり高速化してくれないのでスピードはそれほど速くありません。また、フラグ違いの同一文章は既読扱いにならないのでちまちまと進める必要があります。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻ることはできません。戻るにもやや使い勝手が悪いので戻りにくいです。ロード直後でも使用できます。
 毎日の日付告知演出はスキップできません。数秒単位とはいえ、全ヒロインのシナリオで、となると馬鹿にならない時間となります。それくらいの裁量はプレイヤーに預けてくれても良かったのではないでしょうか。同じようなことはトライオン演出にも言えます。
 
 シナリオは全4本のシナリオ間の変化に乏しいです。トラブル発生→トライオン(端末にアクセスすること)→トラブル発生という作業そのものなイベントの繰り返し構成であるため、先が読みやすく飽きやすくなっています。また、それがメインであるためにヒロイン毎の特色も出にくくなっているように感じました。また、どこまでいっても学園を正常に稼働させる、という話でしかないので盛り上がりに欠ける嫌いがあります。
 本作では日常の授業風景などは一切ないといっても過言ではありません。学園ものというには少しばかり語弊があるかもしれません。それほど普通ならあるはずのイベント群が見当たりません。
 キャラクターデザインは一見すると非常に優秀で、掛け合いも賑やかでテンポも良く楽しかったりします。しかしながら、キャラクターの厚みに乏しく、幾らシナリオが進んでも似たようなやりとりを繰り返すので次第に飽きてきてしまう可能性が高いです。
 惹かれあう過程は、あると言えば辛うじてあるかもしれない、という程度。基本的にはないものと思っていた方が無難です。
 Hシーンは各ヒロイン2〜3回。いずれも終盤に集中している上にどうにか押し込んだというような印象があります。尺、テキスト共にあまりエロ度には期待しない方がいいかと。
 
 CGはこと雰囲気作りにおいて最高クラスの仕事をしています。立ちCG、イベントCG、背景CGと全てが渾然一体となって獅子ヶ崎学園の空気を生みだすことに成功しています。特筆なのは立ちCGで、これでもかとばかりに表情、服装、ポーズが投入されてきて圧倒されてしまうほどです。それだけに立ちCG鑑賞がないのは本当に残念。
 Hシーンは立ちCGの出来が良すぎることが思わぬ不幸を呼んでいます。見慣れた出来の良い立ちCGの方がエロく見えてしまうという難しさ。
 
 音楽はCGとの相性が非常に良く、このCGにこの音楽という組み合わせの妙を感じました。CGともども獅子ヶ崎という舞台に不可欠な構成要素になっています。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。男女共に演技レベルは高めです。中でも織原夏海の声は特徴的で耳に残りやすかったです。
 
 まとめ。良くも悪くも雰囲気ゲーな作品。楽しげな空気はとてもよく伝わってきますが、雰囲気の向こうに確かなものが感じられないのもまた確か。終わった後で強く残るものが少ないのがもどかしい。実にもったいないです。
 お気に入り:織原夏海、藤ヶ峰芹菜
 評点:65
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
 
 
 
 
 
 
 
1、織原夏海
 なんと言っても印象に残るのはボイスですね。久しぶりに個性的な声の声優に出会ったと感じましたよ。普通だけれど特徴ありというデザインの方向性はうまくいっているのではないでしょうか。ただ、そのまんまの効用の鍵をつけているのはちょっとどうかと。せめてどんな考えでつけているのか教えてくれればね。
 サニーサイドの制服は二の腕の部分がちーさんのとは違っているんですが、これの意味はなんなんでしょうね。
 
2、十倉手鞠
 てまー、という掛け声(?)がどうも喜ばしく感じることができず、プレイ中はずっと微妙な表情でおりました。よって鷹子先輩とのやりとりはむしろ見えないところでやって欲しいという感じでした。正直に言えば見ていて面白くもないし、あまり関わりたくもないという感じ。鷹子に嫉妬できるくらいの方が楽しめたんでしょうけどねぇ。
 
3、蓮見一乃
 どう見ても芹菜の方が魅力的であるのがツライ。格好良いはずの箇所が全て外しているので、抜けているところがギャップを生むことなく単純な短所のようになってしまっているのがいただけない。有能に見えないせいであの白ランも恥ずかしさばかりが際立つという切なさ。実際、隣に立つことを考えただけでも精神衛生上よろしくない。
 
4、胡桃沢鈴姫
 なんかイメージとして一人だけ蚊帳の外という感じがします。部署も違うから仕方ないんですけど、シナリオもなんだか傾向が違います。


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