都合によりあらすじは省略します。
あかべぇそふとつうの新作はミステリー要素の高いアドベンチャー。
購入動機はシナリオに力が入っていそうだったので。
初回超重量特典版は同一チームの過去作の原画集とカレンダーを同梱。名前に違わずすこぶる重いです。予約キャンペーン特典はエロエロ小冊子。
ジャンルは特別なところのないアドベンチャー。
足回りは標準からやや劣るくらい。メッセージスキップは既読未読を判別して高速。ただし、一本道に近いシナリオなので活用する機会はそれほど多くはありません。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが戻れる量はかなり少ないです。特にシナリオ重視のゲームとしてはちょっと物足りないかと。また、ロード直後に使用することはできません。
ワイドモニターの場合、フルスクリーンにすると自動的に縦横比を固定してくれます。便利ではありますが両端においてはクリックが効かないのが玉にきずです。
残念なことに本作は要起動ディスクな作りになっています。おまけにインストール後もディスクを挿入するとインストーラーが立ち上がってしまい、いちいち終了させなくてはなりません。もうちょっと仕様に工夫が欲しいところ。
本作は基本的に可能な限り情報を仕入れずにプレイした方が楽しめる可能性が高いです。あらすじ程度であっても知ってしまうと楽しさが減ってしまう恐れがあるので今回は冒頭のあらすじを省略しました。パッケージ裏にも何気なく書かれているので要注意です。
シナリオは一本道に近い構成になってます。これがメインシナリオで異なる部分は言うなれば枝葉であり、名付けるなら途中下車方式。章ごとに進行していって2章以降は各ヒロインが順にクローズアップされていきます。それぞれの章でフラグを立てると各ヒロインの個別シナリオへ分岐(下車)してもうメインシナリオへは戻れません。立てなければ次章へとメインシナリオが続いていきます。
個別シナリオはメインシナリオに対してIFも同然の作りということなのか、不自然な点が散見されました。また、メインシナリオに比べるとかなりダイジェスト的な面を持っています。スタッフロールもなく余韻もないのでちょっと寂しいです。
ミステリーとしては大きな難点があります。ネタバレ要素なので詳細は伏せますが、ミステリーの鉄則を平然と破っているのでとても評価できません。工夫を凝らしているのならともかく、単純にルール違反を犯しているという雰囲気なのでフォローもしづらいです。
製作中にプロットが二転三転したのかシナリオ描写に矛盾する箇所が数多く見られます。これがシナリオ全体に悪影響を与えていて、機能していた伏線が効果を失ったり、人物関係が曖昧になったりと屋台骨が揺らいでいる感じです。テキストや設定によってライターとプレイヤーの間の信頼関係を構築しきれていません。
惹かれあう過程は昔から好きか、存在しているように見えないかの二択です。描写としてもかなり苦しく、明らかに説得力不足。期待してはいけない要素です。
Hシーンは各ヒロイン3回ずつ。ただし、途中下車の3人はひとつがバッドエンドルートなので2回+1回といったところ。エロ度は期待しない方が賢明。物語的にはなくとも問題ないシーンが多いです。
CGはシリアスな世界観に対して可愛さが勝ち過ぎている感があります。学園の日常描写では問題ありませんが、一歩でも外に出ると違和感が付きまといやすいです。
立ちCGはポーズ変化は多くなく表情の多様さで勝負する方向性かと。意外とシリアスな場面用のカットは少ないです。
エロ度はテキスト同様に高くはありません。
音楽はクラシックアレンジと本作オリジナルの二系統を用意。題材に沿った作曲と活用ができているので問題なく作品世界に引き込んでくれます。ただ、私の環境ではなぜかクラシックアレンジの曲だけボリュームが小さかったです。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は問題なく、男女とも有名どころが揃っています。
まとめ。作りの荒い作品。設計図の段階の完成度が低かったように感じられます。またシナリオにおける丁寧さの不足がそのまま作品全体の出来に繋がってしまっていてもったいないです。
お気に入り:三輪椿姫、浅井花音
評点:65
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、三輪椿姫
良い意味でこの作品らしい特殊さが出ていたと思うのだけれど、一方で決定的に欠けているのが動機にあたる部分。敬遠していたはずの主人公をなぜ見直すようになったのか。それどころか好きになった理由はなんでしょうか。どちらかと言えば悪印象だった訳だから理由がないはずはないと思うのですが。
椿姫に限らないですが、主人公の見せ掛けの態度に対する評価が高すぎるような気がします。女遊びの激しいキャラという評価なのにねぇ。言動もクセがあって積極的に好感を得られるとは思いにくく違和感がありました。
弟の問題は難しいなぁ。愛情を受けて育った子は強いというけれども、一方で反省するまで全く叱らないというのも、却って不安を感じます。椿姫本人がそんな資質の人物でも弟もそうだとは限らないしケースバイケースとしか、ね。ただ、公園のシーンは悪意に対して鈍感すぎてちょっと怖かったですね。ひとつ間違えば笑顔のまま死んでしまいそうで。
ヒロイン描写としてはもう一歩たりない、というところでしょうか。シナリオ優先の部分しか書かれていないのでヒロインとしては中途から負の部分ばかりがクローズアップされてしまったようでアピール不足のような気も。主人公が魔王でない以上、2人の間で揺れたようにも見えてしまうし。
2、浅井花音
「この青空に約束を−」よりは年齢相応な演技に聞こえてホッとしてました。やはり基本は芸達者な声優さんなんですよねぇ。甘える声が特に良かったと思います。
シナリオの筋は悪くなかったと思いますが、やはり母親の描写がねぇ。クローズアップされている感がなくて気がつけば3章の重要人物じゃないですか、という感じで。花音の抱える悪魔の件といい、ホントに本作は後出しジャンケンが得意ですな。転倒のシーンなんかは特に際立っていたと思います。せめて花音の危うさなんかはもっとアピールできたと思うんだけどなぁ。別段、隠すことでもないだろうし。
ライターがフィギュアに入れ込んでいたらしいですが、描写としてはやはり難しかったのか演技シーンのテキストは特に光るものは感じませんでした。むしろ、詳しくない人向けにもうちょっと説明があっても……、というシーンがあったように思います。せっかく物語の進行とともに主人公も学んでいくのだから。
3、白鳥水羽
正直ユキのインパクトが強すぎますね。対抗させるために年数を経過させるしかなかったという事実が全てを表しているかと思います。
好きになった契機も弱いしねぇ。本作は「人間は幻滅することがある」という点を完璧なまでに失念していると思います。あんな態度をとられてよくもまぁ好意が持続するものだ、とまさしく当人ではない私は思ってしまう訳で。主人公に至っては本気で不明だし。まさかユキが懇願したからとは思いたくないですが。
4、宇佐美ハル
えーと、あの幼児はそんなにも魅力的ですか、とごくごく普通に思います。葬式の一件にしてもやたらとタイミングがいいのとあんなことをできる度胸をどこからとか、やたら流暢に喋っているんですけどとか、疑問の方が多かったです。少なくともあのやりとりを交わした上に思い出したら即、俺の女とかのたまうほど甘美な思い出と相手ですかね。だいたいこの時に特定の相手がいたならどうするのですか。恨みが消えた訳ではないし、ちょっと問答無用すぎるような気がします。
主人公のことを魔王でないと確信しておきながら1章から4章まで猜疑の視線を向けるのも相当に酷い。主人公が自身のことを魔王であるかもしれないと(不思議なことに)少しも悩まないので目立ちませんが、むごすぎる仕打ちです。相手が凶悪犯罪者と疑う素振りを好きな相手にしょっちゅうするんですよ? どんな嫌がらせですか。
この一件なんかもそうですが、やはり書いている間にプロットが二転三転しているように思えます。結果のわりには過程があまりにも断定調すぎるんですよね。全て計算の上ならもうちょっと書きようがあるように思うのだけれど。各所の描写が全くというほど突っ込みに耐えられないのが出来の甘さに見えてしまいます。
バイオリンがあまり意味がないのももったいない。弾けないシーンがあるなら、弾けるようになるシーンがあるべき、と考えるのは私だけでしょうか。正直バイオリンよりもフィギュスケートの方に力が入っているように感じます。
4、魔王
もうなんか色々とがっかりな人。目的に対して行動がとても駄目すぎる。本末転倒を地で行く世界のエース。自業自得すぎてかける言葉が見当たりません。
父親を救うなら他に方法は幾らでもあるのでは? とか思えてしまうあたりがどうにも厳しい。合法的に救おうという訳ではないのだから刑務所をどうにかした方が遥かに簡単というか合理的な近道に思えます。弟を恨んでおきながら母を見捨てる理由も全くもって不明。母を支えながら復讐計画を練るではどうして駄目だったのか。
そもそも本質的にハルと遊ぶ理由が謎。獄中の父は確かにハルが犠牲にならなければ、と書いていたが母親には何も触れていないだけにやはりよくわからない。母は即座に殺して娘を生かしておく理由はどこに? しかも、最終的にはどうでもいいと思っていたあたりがさらに彼の思惑をわからなくする。「都合」に優先されていたようにしか見えないあたりがね。
|