女だけしか乗船することを許されない巨大学園船ハンギング・バスケット・ポーラースター。進水式から一度も陸を知らない船で起きた連続レイプ事件。物的証拠もなく、普段の素行のみで犯人扱いされた主人公、杏里アンリエット(変更不可)。
どうにか拘束監禁は免れたものの、3週間以内に真犯人を見つけなければ、やはり犯人として下船させられてしまう。果たして杏里は冤罪を晴らして夢のような学園生活を守れるのか。
ライアーソフトの第四弾は耽美推理アドベンチャー。相変わらず何かに挑むような姿勢は健在。パッケージはどう見ても白泉社の単行本です。やはり古き良き時代のイメージなんですかね。花の咲いている感じがそんな風です。
「行殺新選組」、「ぶるまー2000」と凝ったマニュアルだったのですが、残念なことに今回はいたって普通。ソフマップの特典は生徒手帳がついていたようで、そういうのはソフトの方につけて欲しかったですね。
ライアーといえば避けて通れない、と言われているのがバグ。前作、前々作のそれほど強力ではありませんが、やはりあったりします。プレイ前に必ずダウンロードしておきましょう。
プロローグを終えると、まずはヒロイン選択を行い、3人の中から1人を選びます。当然ですが選択したヒロインのルートにしか進むことは出来ません。
システムは場所選択型のアドベンチャー。手っとり早く言えば「とらハ」タイプです。しかし、今作は好感度のようなものがないので、ヒロインにストーカーよろしく張りついていればいい訳ではありません。
週末には親友にして安楽椅子探偵である、天京院鼎の推理タイムが設けられています。この時点までに必要な情報を収集していないと即ゲームオーバーです。
一見すると厳しいようですが、エンディング間際まで来て、唐突に終わるよりは遥かに親切だと言えるでしょう。まぁ、どのみち難易度はあまり高くないので心配する必要はありませんが。
シナリオは各ヒロイン毎にそれぞれ別のシナリオライターが担当。
前作までも、こういった複数シナリオライター制が取られて来ました。そしてそれはひとつの世界観の中に綺麗にまとまっていました。しかし、今作は少しばかり様相が異なります。
はっきり言えば同じシステムを用いているのに、ゲームの雰囲気や進行がシナリオ毎にかなり違うんですね。これを是とするか、非とするかは人それぞれでしょうが、個人的にはあまり良い印象としては残りませんでした。戸惑うほうが先に出てしまって。
さらに決定的なのは、犠牲者候補(ヒロイン)はどのシナリオでも常に同じ3人でありながら(当たり前ですが)、犯人は同じではないこと。
これによって、すでに出ている被害者など設定が各シナリオで微妙に食い違ってしまって(もちろん、犯人が異なる訳ですから必然的に変わってきます)、不自然な感じがしてしまいます。
よって各シナリオでそれぞれの死角を補うといった、マルチサイト型ゲームには可能なことが出来なくなり、プレイヤーには常に微妙な違和感がつきまといます。
シナリオが1本ではないゲームなので仕方ないかもしれませんが、推理モノとしてはややしんどい作りになってしまっています。
こういった構成上、どこかで妥協しなくてはならないでしょうが、それでも登場人物の立ち位置やポリシーといったものは変えないで欲しかったです。
CGはなぜかハイカラー推奨なんですが、ゲームの内容に則した幻想的なものが多く描かれています。なんせレズものですからそのへんこそが命ですし。
背景にも気合が入っているのが前作からの大きな飛躍でしょうか。かなり美しいです。
立ちCGは実に多彩。見ていて楽しいものが多く、作り手のキャラへの確かな愛を感じました。
音楽は今回は今一つでしょうか。制作スタッフは同じ雑音工房なんですけど、なにかパワー不足という印象です。舞台に合わせ過ぎたせいでしょうか。
オープニングテーマは学園の校歌プラス登場人物たちの語り。着眼点は面白いんですけど、映像、音響面共に繰り返し見るほどの魅力がないんですよね。「行殺」、「ぶるまー」の両オープニングが実にセンス良い出来であっただけに残念です。
ボイスは今回、初の試み。ライアーソフトも成長していくのねぇ、としみじみ聞き入っておりました。
声優陣は手堅いというか、大御所が揃っているんで安心して聞けるかと思います。ロックンバナナと言えば、あとは多くを語る必要はないでしょう。
まとめ。よくまとまった佳作でしょうか。ただし、ライアーソフトに私が求めるものとしては、かなり不満な出来。他メーカーとは一線を画す、とんがった所がライアーの魅力だと考えている私にはツライです。ギャグが少ないことも、主人公が魅力薄なところも。
お気に入り:アルマ・ハミルトン、ヘレナ・ブルリューカ
評点:62
以下はキャラ別感想。ネタバレの嵐にて要注意。
1、杏里・アンリエット
シナリオによって各登場人物に対する態度がわりと違う。特にソヨンシナリオには本質的な部分でキャラが違うような。
自らの落ち度でアルマが犠牲になってもなにも感じないのは主人公として問題があるように思う。あと子猫ちゃん’Sよりもソヨンが格上と言っているような言動も気になります。これはアイーシャシナリオの終盤でも言えることですが。
「ぶるまー2000」の主人公、常葉愛と違ってどう頑張っても感情移入できないのはツライ。激しい生きざまというか、姿勢が見えないのもね。
2、天京院鼎
基本的にすごくよく出来たキャラ設定なんですが、大きな欠点も。
ひとつは言うまでもなく犯人の一人だということ。ポートピアじゃないんだからさ。
ミステリーものとしてはこのゲームの犯人は変化球ばかりですよね。キャラゲーとして見た場合は失敗な気も。私が天京院のファンなら泣きが入ったことでしょう。
もう一つは杏里が好きであるということ。いえ、それ自体は構わないんですけど、それによってゲーム内の価値観が崩壊してしまっているのがどうも。登場人物のほとんどが、主人公のことをほぼ無条件で好きというのはあまり正常ではありません。たたでさえ、閉鎖空間なのですから。
アルマシナリオが後味は一番ましというのもどうなんでしょうかね。
3、アルマ・ハミルトン
箱入りというよりほとんど隔離されて育ったヒロイン。それだけにレズの王子様の対象としては最も向いた人材のように思いました。
付き人のクインシーウェルズはあまりにも適当な扱いで残念。
ソヨンシナリオでの強姦イベントはあまりにも悲惨(犯人が犯人ですから)。他のシーンと違ってずいぶんと克明に追い込まれていく様が描かれてるし。主人公の態度はほとんど追い打ち。
ライアーはどうもヒロインを粗雑に扱う傾向があるようです。惚れ込むな、ということでしょうか?
目覚めたアルマの凛々しさは必見。ヒロインの中で「成長」が強く感じられるのはアルマくらいだからなぁ。
驚いたアルマの立ちCGとエンディングカットのむくれたアルマがお気に入り。
4、ファン・ソヨン
通称デコ助。広いです、かなり。加えて妙に指が細いです。
ソヨンのせいではないのだけれど、シナリオのせいでどうも印象が良くないです。アルマ、アイーシャ共に酷い目に遭っていますからね。
エンディングでは二人のことは無視。アルマシナリオとどちらを良しとするかは、やはり個人の好みでしょうか。
ソヨンのHシーンのカットは実に印象的。♀×♀でなければこうはいかないですよね。
5、アイーシャ・スカーレット・ヤン
えーと、なんともコメントがしにくいです。プレイ前にアイーシャ派であった人の心中は複雑なのではないでしょうか。
笑った顔はかわいいんですけど、オチがあれではねぇ。入れ込めば入れ込むほどしんどいような気がします。
やっぱりキツイですよ。ヒロインが犯人というのは。おまけに正直に罪を告白出来るようになるための、勇気を持てるようになるための時間を下さい、ですからね。
ミステリーの雰囲気としてはこのシナリオが最もいいかと思います。しかし、愛を平等に注ぐ杏里がポーラースターから降りるのは無理があるように思います。特にニキを見捨てて行くのは信じられないんですけど。
6、ヘレナ・ブルリューカ
委員長と呼びたくなるタイプ。堅苦しいところも、結局は杏里に逆らえないところも実に可愛いです。小さなメガネも素敵です。
小話のオチにも使える便利な方。携帯ゲームのイベントは大笑い。
立ちCGの「お母さんごめんなさい」なヘレナがお気に入り。
残念なのはシナリオにイライザのような深みがないこと。どこかギャグ担当の雰囲気があるから仕方ないのでしょうか。
7、アンシャーリー・バンクロフト
本来なら、ライアー節炸裂なキャラなのでしょうが、ゲームゆえか今一つ出番がなくて残念。
どうもシナリオライターが持て余している印象があります。どう見ても子猫ちゃん’Sには見えないし。
おまけシナリオもアンシャーリーとは関係ないような?
8、ニコル・ジラルド
どのへんがギャンブラーなのか不明。賭場に行っている、という表現だけではねぇ。
おまけシナリオはいっそのこと、どれかひとつに特定したCGのほうが良かったように思う。あの中では「新選組」ネタですか。
9、クローエ・ウィザースプーン
充分、主役級の背景を持っています。それがさほど活かされていないのが残念ですが。
10、イライザ・ランカスター
最も設定が話に生きています。性格設定も実に巧み。おまけシナリオは杏里との出会いとか、初Hの話が良かったなぁ。無念。
11、ニキ・バルトレッティ
アンシャーリー同様、シナリオライターが扱いに困っているように見えます。本編とおまけシナリオで話が同じというのもどうもね。正直、がっかりかと。
ニキは全キャラ中、最も立ちCGが可愛いです。白目で慌てふためく姿と、無言でコローネを抱える姿は最高。
ようやく終わりました。キャラ多過ぎ。これで書いてない人がいるんだから。
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