人の想いは永遠なのだろうか。3年前に最愛の妻を亡くした中里光一(変更不可)は悩んでいた。だとしたら残された者はどうしたらいいのだろうか。今が不幸せな訳ではない。一人娘はこの上なく元気に育っているし、環境にも恵まれている。しかし、幸せだった過去の思い出だけを抱いて残りの人生を生きていくのは辛い。この苦しみに答えが出る日は来るのだろうか。 
  
 「水月」以来のFC01タイトルは奥さんを亡くしていて、3歳の娘と二人暮らしという異色な設定のアドベンチャー。その設定が醸し出す雰囲気と年齢層高めなところが気に入って購入しました。 
 初回特典は「すめらぎ入居案内」という小冊子。内容は原画を担当している結城みつる氏の16ページ漫画と設定資料。これがたいへん素晴らしい出来で絵買いする人は必見だと思います。ただ、冊子の表紙の紙質が良くないようなのが残念です。 
  
 システムはいつもの通りのアドベンチャー。わずかな違いは一年のゲーム期間が春夏秋冬の4つの章に分けられていること。各季節は1ヶ月前後。それも毎日ではなく飛び飛びで進行していきます。もちろん続くことも。 
 足回りはいつものF&C仕様。安定しています。メッセージスキップは既読未読を判別した上で非常に高速。問答無用で飛ばすことも可能です。 
 メッセージの巻き戻しは別画面で行います。ボイスの再生も可能ですが意外と戻れません。他の作品もそうですけど、改善して欲しいところです。 
 セーブがたいへん充実してます。クイックセーブ&ロードに通常のセーブ&ロードはもちろん、20個までという限定ですが毎日自動でセーブされるのはなかなかに便利です。おかげで通常のセーブをほとんど使いませんでした。 
  
 シナリオは意欲ある設定がうまく機能しています。主人公が子持ちである、という描写がこれでもかと描かれており、他作品との差別化に成功しています。有り体に言えば娘のさくらが実に魅力的です。間違いなく父性本能を刺激される可愛らしさ。各ヒロインとの交流もしっかりと用意。このあたりライターの思惑は確実にうまくいっているかと。 
 ヒロインの描写も1年という期間を利用して丁寧に描かれてます。互いが惹かれあう様子も割と自然です(雪桜息吹は除く)。要所要所に奥さんとの想い出が挿入されるのが良いアクセントになっています。 
 難点は奥さんに対する気持ちに整理をつけるきっかけが全てのシナリオで同じだということ。奥さんを未だ愛している、そしてそのことで苦しんでいる主人公があっさり他の女性を抱いてしまうのはどうかと。まして全シナリオでそれでは流されやすいにも程があるのではないでしょうか。 
 一風変わった設定であるのだから、再婚をしないで奥さんを想い続けて娘と二人で生きていくシナリオがあっても良かったように思います(バッドエンドではなく)。ゲーム的にはその場合は奥さんがヒロインになればいいのですし。選択肢として再婚しかないというのはもったいなく感じます。 
 1年という長い期間の物語なのに結ばれた後の話が短めであるのは残念なところ。バッドエンドルートに複数のHシーンを盛り込むよりも本編を充実させた方が良かったように思います。 
  
 CGは柔らかいラインがうまく作品の雰囲気に合致しています。中でも愛娘さくらの可愛らしさはただごとではありません。モニターの前のユーザーを見事な親バカに仕立て上げるほどの破壊力を秘めています。ヒロインもそれにけして引けをとりません。 
 ただ、中には同一人物に見えないものも散見されます。特に人物を真横から描いたカットはちと厳しいものがあるように思います。 
 イベントCG上での表情変化が少ないのは原画が良いだけにもったいないように感じて仕方ありません。 
 立ちCGは一年の物語ということで、各ヒロインに対して季節に応じた4種類プラスアルファのカットが用意されてます。デザインにもかなり気合いが入っていることが窺えて好印象。 
 背景もイベントCGや立ちCGに負けていません。地味すぎず派手すぎず落ち着いた配色でまとめられています。 
  
 音楽は全体的に穏やかな曲で構成されています。悲しい部分を多く持ったゲームではあるのですが、曲からはあまりそうしたイメージを感じません。 
 ボイスは主人公も含めてフルボイス。声優さんはあまり聞かない名の方ばかりですが演技のレベルは申し分ありません。ただ、主人公の声は賛否が分かれるように思います。個人的には性格や顔に負けている声だと感じました。 
  
 まとめ。親バカ養成ゲームという名の意欲作。望むところは色々とありますけど、全てが高い水準でまとまっているかと。FC01が残り2チームに差をつけ始めたようにも。 
 お気に入り:真崎楓、中里未来、さくら母娘 
 評点:77 
  
 以下はキャラ別感想。ネタバレかなり注意。 
  
  
  
  
  
  
  
1、雪桜姫乃 
 何事においてもいかにもあからさまな所が姫乃の最大の魅力ではないでしょうか。さくらにまで光一のことを好きだと気付かれてからかわれる。や、絶対に悪いことが出来ない人間ですわな。 
 二人だけのデートの立ちCGはなかなかいい感じ。姫乃の気合が見えるかのようで。 
 Hシーン時の光一の反応はすごいなぁ。処女膜に気付いてからやめても遅いんじゃないでしょうか。しかも、そのあと朝帰りしてからやっとさくらに会えるとか言われても。説得力なさ過ぎ。 
  
2、雪桜息吹 
 このデリカシーのなさはどうにかならないものか。プレイ中はずっとそんなことばかり考えてましたよ。残念ながら彼女に惹かれる理由は見当たらないなぁ。個人的に、だけでなくシナリオとしてもちょっと納得いかないですよ。 
  
3、綾瀬紫苑 
 やっぱりねぇ、未来の部屋でってのは趣味が悪いと思うのですよ。それもかなり。あとから相当な自己嫌悪に陥るのではないかと。 
 後半の仲違いが明暗を分けるポイント。あそこまでに何があっても彼女をフォローする、という気になっていないと厳しいです。互いにナーバスになっている時に未来のことを悪しざまに言われてはもういいやってことにもなりかねないですから。 
  
4、真崎楓 
 彼女は素晴らしい才能を持っていると思います。あごを立て肘で支えて机で3〜4時間眠れるというのは他の人にはちと真似が出来ない芸当ではないかと。 
 基本的にひめらぎ部外者である楓が馴染んでいく様は色々と面白かったです。紅葉の激しい牽制球とか姫乃のバレバレな反応とか。楓本人のさくらに対する態度は女ロリコンの疑惑さえ持ち上がるほど。 
 そういや、たこ焼きが思い出になった具体的なエピソードはないんですかね。気になってるんですけど。 
  
5、中里未来 
 完璧な奥さんなんですが、その完璧ぶりを示すエピソードが少なかったのが残念。まぁ、あんまりあり過ぎると他のヒロインが霞んでしまうし、光一が整理をつけられないから難しいところなんでしょうけど。 
 Hシーンが一つしかないのはあまりにももったいないです。七村に用意するくらいなら未来に増やしてくれれば、と思えてなりません。 
 彼女が大事であるから椿の死があまりにも痛かったですよ。4年なんて犬の寿命にしては短すぎますよ。しかも、原因不明だなんて。 
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