ありがちな出だしながら時は未来。ネットワーク技術はかなりの進歩を遂げていました。そのぶん、若者の引きこもり度も鰻登り。今関勇太郎(変更可能)も例外ではなく兄妹揃ってネット三昧の日々。親を悲しませたくない、そのためだけにいやいや通学だけはする日々。
そんなある日、勇太郎の許に謎のメールソフト「こころナビ」が送られてきます。勝手に起動までしてしまう恐ろしいソフトは中身まで驚異的。何の媒体も必要とはせずに自身の情報全てをデジタル化してネット世界に入ることが出来てしまうのです。さらに肉体は現実に残したまま、五感は正常に働いてネット世界を満喫できるという優れモノ。
言うまでもなく、この日を境に勇太郎は変わっていくのでした。
Q−X第2弾。第1弾は2001年というまるで最近の傾向を実践するかのようなロングスパンメーカー。実際、ホビボックス系列であるならまだしも、そうでないここが生きていられるのはどうしてなのか、本当に疑問。なんか小金を稼ぐ方法があるんでしょうか。
ま、それはともかく個人的には初Q−X作品だったりします。ってここしばらくはこの文句をよく書いているような。
たしか初回版だと思うんですが、初回特典らしきものは見当たらず。二次生産からはケースが変わるとかそんな感じでしょうか。
7月4日現在、サポートページはあるものの、修整ファイルはアップされておりません。細かいバグはあるようなんで気になる人はアップを待ちましょう。重要なバグはなさそうなので細かいことが気にならない人は特に問題ないようです。
システムは従来通りのアドベンチャー。現実もネット世界も別段、違いはありません。あまり検証はしていませんが、ある程度は同時攻略ができるようです。
足回りはあまり誉められない出来。メッセージスキップは既読未読は判別してくれるものの、実行速度がかなり遅いです。こういうケースはCtrlキーでは早かったりするものなんですが、本作品ではそんなこともなく。選択肢間が長いこともあるので2周目以降は暇潰しの道具が必要かと。
メッセージの巻き戻しは別画面で行います。容量はかなり戻ることができ、ロード直後にも使用可能です。ホイールマウスにも対応。ボイスのリピート再生は残念ながら不可。
シナリオは長所短所がハッキリしています。
この世界のネットに触れている人間はみな、ラウンダーと呼ばれるキャラクターを持っています。基本的にこれと本体の関係はプライバシーとなっていて、自ら明かさない限りは外見上から誰であるかはわかりません(例外あり)。つまり都合、1ヒロインに付き2つの姿があることになります。当然、キャラが被ることはありません。
これを踏まえた上でシナリオを書いているので、現実とネットでしっかりとメリハリがついて飽きにくい構成になっています。
キャラクターも魅力的な設定をしっかりとテキストで実践していて読んでいるだけで楽しくなる印象を受けました。
と、ここまでは名作にもなりうる条件を満たしているのですが、残念なことに良くない続きがあります。
まず全体的にボリューム不足。文章量が少ないにも係わらず共通シナリオが長く、個別シナリオが短いのは痛恨。
よってキャラの魅力を語るイベントが極端に少なくなってます。他にも終盤の展開がかなりあっさりというか、中にははしょっているものさえありました。エンディングとエピローグの間に問題が解決という投げやり具合。
ボリュームの少なさを補うために「色々な話をした」という表現を多用しているのもマイナス。
他にも個別シナリオ分岐後に準共通のシナリオがあるのも手抜きっぽく見えます。加えてここでスキップが作動しないという、まるで追い打ちのような仕様。他にも誰が相手でもクリスマスプレゼントが同じなんてところも。タイガージョー@「Only you」に教育してもらいたいくらいです。
ただ、厳しいシナリオ陣容の中で今関凛子のシナリオだけは別格。これのためにプレイする価値がある、とは言いませんがかなり良い印象を残したシナリオでした。
CGはこれを目当てに買う人間(私のことですが)がいるくらい個性的で可愛い原画に魅力を損ねることのない彩色がされています。
ただし、枚数は部分違いなしで72枚とちと少なめ。これで複数回Hを実現するものですからかなり苦しいことに。対象はラウンダーも含まれる訳ですから。実際、初登場時、Hシーン、エピローグのカットを除いたCGは各キャラ1枚あるかないか。これではロクなイベントがないのも道理です。
立ちCGはほどほどにポーズ変化があり、表情も変わってくれます。魅力あるカットも多数ありますが、全体的にはイベントCGに負けている感じです。ただ、セリフを挟むことなく表情が移り変わる演出は複雑な心情を表現していて好感が持てます。
背景は2003年製ソフトとしてはかなり弱いです。MS−DOS時代と同様、そう表現しても過言ではありません。さらにそこに描かれているモブキャラはあまりにもお粗末な出来。同人クラスでもここまではなかなかないような。
音楽はかなり多彩な曲が用意されており、魅力的な曲も多数あります。単体でも聞けそうですが、このゲームならでは、という曲はないように感じました。
気になる点として無音の時がかなり多い、というのが挙げられます。そのうちのほとんどのケースが演出とは思えなかったのでどうもスッキリしませんでした。
ボイスは一部のみ採用。具体的には初登場時とHシーン及びエピローグのみ(ラウンダーはなし)。これが結構問題で、ゲームのほとんどの期間は無音状態で進めることになります。いかに最初に聞かされるとはいえ、その後はない訳ですから自然、次に聞くであろうHシーンまでにプレイヤーの脳内でイメージが形成されてしまいます。結果として長い間隔をあけて不意に喋られることで違和感を感じる可能性が大きいです。
キャスティングが容姿や性格から予想しやすいものであるなら違和感もそれほどではないのでしょうが、本作は残念ながらそうではありません。レベルも一部を除いてあまり高いとは言えません。
まとめ。2年ぶりとは思えない小さくまとまった作品。勝手な思い込みですが、ここのメーカーは開発期間の長さが大事に作っているのだと思っていたので残念。スタッフに実力があるだけに余計に。
お気に入り:今関凛子
評点:69
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、ルファナ
キャラが魅力的なだけに馴れ初めを後から思い出すだけというのは残念。本体が出ないのはさらに残念。どっちかというとそういうシナリオの方が好みなので。ネット恋愛って訳ではないですが。ちと昔のゲームですが、「Sense off」の隠しシナリオも設定こそ違えどそんな感じで好きでした。
未だにわからないのは現実世界の存在となれた理由。私が何か読み逃しているんですかね。
2、倉持小春
変化球型幼なじみってことなんでしょうが、どうもアピールがイマイチ。良いところは目立たず、悪いところばかりが目立つというのがどうにも。「Canvas〜セピア色のモチーフ〜」の橘天音も同じように変化球型幼なじみですが、中身は実に対照的です。目先を変えるのはいいことですが、基本を忘れては逆効果です。ラウンダーである舞耶の方が魅力的というのもなんだか複雑なものが。
3、仲手川夢
夢ですか、いいですよね。ドリーム。そんな名詞を冠したコンシューマーハードもありましたね。でも、名前につけるのはどうでしょうね(もしこれを読んでいる中に、いないとは思いますが、夢という名前の方がいたら申し訳ありません)。
誰が見てもそうとは見えない、なんちゃって不良ってのはあまりにも寒いです。ナチュラルに親父ギャグを連発しているようなものですし。
ま、メガネなんでコメントはこれくらいで。
4、アイノ・ペコネン
やっぱりフィンランド製ということ以外に取り柄(?)がないのが泣きどころ。けしてマイナスではないんですが、プラスもそれほどではないんですよねぇ。イベントはもちっとオーソドックスに神社仏閣巡りとかにした方が良かったんじゃないですかね。それでアイノがマニアだったりしたらなおのこと。少なくともラミューの尻尾に興奮するくらいならその方がまだしも。
5、初瀬みまり
関西弁使いの巫女さんというのは個人的にかなりツボなんですが、あまり活躍しないのが残念。ラウンダーの忍も本人とあまり関係ないですしねぇ。少ないシナリオでさらにアピールする機会が少ないという本作を象徴するようなキャラ。はぁ、ホント年上なところとか好きなんですけどねぇ。
6、今関凛子
いや、恐れ入りました。このシナリオには惜しみない賞賛を与えたいです。それぐらい優れていたと思います。説得力も一番だと感じました。
実妹だということももちろんですが、シナリオの進め方もかなり巧妙だったと思います。展開が巧いのでプレイヤーの興味は義妹かどうかという部分からは逸れていたと思いますし。ネット上ならというアイデアも危険ながら感心しました。
他にも説得力に繋がる凛子の性格も見事なデザインだと思います。割り切り方も完璧で違和感は少しも感じませんでした。「親を悲しませてまでやることじゃない」というセリフが良かったです。や、凛子の存在でこのゲームはかなり救われたような気がします。彼女がいなければ不満度は相当に高かったのではないかと。
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