『誘惑〜Induction〜改訂版 STAGE-12』

表TOP 裏TOP 裏NOV BBS 11<12>13

 無防備な寝姿を照らす月明かり。
 発熱の為かどこか苦しげな寝息に、頬をなぞる指先に伝わる温もり。
 柔らかな唇と、甘い舌。
 些か温くなった蒸しタオルで拭う柔肌。
 白い背筋と、小振りな尻肉。
 軽く力を込めるだけで難無く屈する細い四肢。
 軽く汗ばんでいた身体を拭い、触れる。
 細やかな悪戯の後の、寝息。
 下着も寝衣も新しい物へ変え、ベッドの縁に腰を下ろし、目覚めないままだった少女を時折視線を注ぎ、月を見上げる。
 静かな、水底に漂う様な時間。
 それは睡眠と引換にして惜しくないだけの価値はあった。
 ――それを咎められる憶えはない。
 例え、少女自身からであっても。

 怯えている。
 細い。腕力のある男が手荒に扱えば簡単に折れてしまいそうな華奢な骨格の娘が、身体のすぐ下にいる。下着一枚を残して全て剥ぎ取られている身体は発熱の為か夜目にも淡く艶めかしい薄桃色に染まっていた。涙を流してばかりの黒目がちな大きな瞳は潤みきり、今見下ろしている間にも大粒の涙を零しているが、男にはその意味が判らない。――理由をつけて追い出すつもりならば素直に言えばいいものを、何故悲しげに、訴えかける様に、切なげに、自分を見上げてくるのだろうか。
 この少女の考えが何かを口にしようとする前から手に取る様に判る反面、厚い硝子越しに体温を探している様な気がする程全く判らない場面もある。怯えている。それと同時に、待っている。何をか。判らない。思考にもならない言の葉の断片が波に舞う薄い硝子の欠片の様に頭の中で瞬間光を弾いて消える。それが尊い何かに思えると同時に居心地が悪く、男は少女の乳房を乱暴に掴む。
「――あ……っ」
 痛みに微かに歪む整った細眉に、男の腰骨の辺りから首筋へとぞくりと凶暴な衝動が這い昇り、スラックスの中で牡の性器が更に腹へと反り返る。別であるべき医者としての患者への不満が欲望の火に油を注ぐ。
 逃げる様にけしかけたのは自分だった。実際に屋上では確かに少女は逃げた…それは異性に触れてしまった驚きと恥じらいによるものだと男は認識している。だが、今のはそれとは異なる。配慮で表面を飾った拒絶。たかが十七歳の処女の小娘に狂い纏わりつく、TVで面白おかしく報道される情けない中年男の程度にまで自分が堕ちた気分に少々苛立ちを憶える。
 どうすれば、微笑む。
 汗ばみかけている火照った柔肌はまるで指に吸い付いてくる様だった。豊かな乳房は華奢な身体に不似合いな程淫らがましく、指を食い込ませ揉みしだくと、揉まれ慣れていない十代の少女特有の弾力と柔らかな餅を捏ねるねっとりとした手応えを絶妙なバランスで両立させ男の指を受け止める。
「舌を出せ」
 些か手の力が強過ぎるのか至近距離でびくっと跳ねる少女が男の言葉に一瞬惑い、そして、大粒の涙を零しながら長い睫毛を伏せ、小さな舌を差し出してくる。口ばかりの拒絶には慣れている…少女の話ではない。貞淑な人妻や身持ちの硬そうな女は大体少なかれ最初は拒み、最後は腰に足を絡ませてくる。この少女もそんな生き物の一人に過ぎない。はぁっと漏れる甘い吐息はまだ怯えの余韻を含んでおり、男はゆっくりと甚振る様に小さな舌先を舐め回し、指で小振りな乳輪を撫でる。
 睡眠時間等より興味深い書籍を読み耽る方が楽しく優先してしまう事は誰にでもあるだろう。男にとってこの少女がそれだと自覚するのは吝かではない。女との情交は愉しんでいる。面倒になれば止める。ただそれだけの話だった。
 華奢な内腿のその奥が熱い。発熱のある身体よりもはっきりと火照った下腹部と、牝のいやらしい甘い匂いがベッドの上に漂い、牡の鼻腔と肺の奥だけでなく五感の全てに牝の発情を灰めかしてくる。乳首を軽く抓るだけでくうんと愛らしい鳴き声を漏らし、男の下で身を仰け反らせる少女に、舌と舌の間に唾液の糸が垂れた。
 犯してしまいたくないと言えば嘘になる。
 だが、この少女を食い荒らすのには躊躇いがあった…完璧な据え膳であり、そして男の性的嗜好としてはこの上なく嗜虐心を満たす女だが、だからこそ男は苛立つ。臆病で恋愛も知らない小娘が快楽に負けて見ず知らずの男に身体を許そうとしている姿は、屈辱的ですらあった。
 面倒極まりない。
 それなのに、何故自分はこの少女を弄ぶのだろうか。
 ぞくりと腰骨の奥がざわめき、牡に血液が集中する。十分過ぎるまでの、限界点近い勃起。今すぐにでも女を犯して狂った様に突き上げたい衝動。嗜虐的な精神故に簡単には射精しない性質である為、大抵の女は先に勝手に屈して勝手に果てるが、貪婪な女は際限なく強請り続けてくる…犯したい、犯さないと収まらない渇き。肉体の欲求を完璧に満足させるレベルの女ならば何人かいる。呼び出せばすぐに抱ける。
 だが、それらは欲しくはない。
 欲しいのは、この少女だった。
 まだ犯していない希少価値なのか、今、舌を舐め回し、甘い鳴き声を漏らし、頭の芯をもどかしくも思わせぶりに蕩かす甘い匂いを漂わせている為なのか。あの老害がこの肌を舐めてまさぐった為なのか。
 苛立ちが指の動きを荒々しく執拗にさせる。全てを上書きする様な快楽で、穢したい。小振りで初々しい鴇色の乳輪を優しくなぞり、爪で掻き、搾り上げる。小さな果実の様に硬くしこった乳首を、指の腹で触れるか触れないかの力加減でゆっくりと掃き続け、強く摘まんで乳房が歪む程引っ張り、至近距離からの甘く痛々しい鳴き声を聞きながら、抓る。先刻蒸しタオルで隅々まで清めた柔肌がしっとりと汗ばみ、華奢な身体中から発情しきった牝の匂いが漂い、男の頭を痺れさせる。酒よりも強い酩酊感と、不快な焦燥感。今まで嗅いだどの女よりも、少女の香りは密やかで清楚そうでいて甘く、どこまでも男を煽る。
 くちゃりと舌が鳴る。注がれた唾液を、この少女は素直に、飲む。拒む男の煙草のにおいのする唾液など吐き出すか垂れ流せばいいものを、まるで親鳥から与えられる糧の様に、それがどれだけ卑猥な行為かも知らないのか、こくんと白い喉を動かし、男の唾液を受け入れる。舌を絡ませている意識のある時も、眠っていて唇だけでなく舌と口内粘膜を貪られている時も、まるで拒む理由などない様に、自然に、だが慎ましく。
 まだ言うのだろうか、帰れと。
 それとも求めるのだろうか、快楽ばかりを、ふしだらに。
 男は少女の細いウエストに腕を回してぐいと引き寄せる。火照った華奢な肢体が身体に密着し、服越しに熱がじわりと伝わってくる。決して寒くはない病室の中に於いてもそれは温かで、無防備な動物の仔を抱えている様な脆い感覚だった。恐らくは捨てられた子猫や子犬の様に易く喪われるであろう印象が強まるのは、哀しげな瞳をする機会が多いからであろう。死にはしない、だが深く傷つきやすい壊れ物。笑顔からは程遠い。
「瑞穂」
 小さく名前を囁き、舌を舐る。
 くちゃくちゃと病室に舌をまさぐる水音が籠もり、少女の鼻にかかった甘く上擦った鳴き声が男の耳をくすぐり続ける。小さな舌が震え、至近距離にある唇が揺れていた。
 視界の隅に偶に映る長い豊かな三つ編み。無防備だった。恐らくこのまま一線を越えこのベッドの上で処女を奪われる事になっても、はっきりとした抵抗はないだろう…一方的な搾取。何度も達する様に犯す事は出来るが、結局は男の一方的な凌辱に過ぎない。ただ傷をつけるだけの、男が膣内射精をするまでの性欲の発散。
 不快な感覚がじわりじわりと込み上げ、少女を抱き締める男の腕に力が籠もる。
「せんせ…ぃ……」
 上擦った嗚咽の様な、細いほそい声が小さな唇から零れ、微かに指が動く。何を考えて呼んでいるのか、男には判らない。耳に届いた瞬間には空気に溶けてしまう甘く澄んだ声音と、涙に濡れた黒目がちな大きな瞳は、狙ってではないだろうが男の支配欲を刺激して愛撫をせがむものだった。
 華奢な身体を抱き締めたまま、男の指が細い腰へと滑り、白い身体に一つだけ残された小さな布と双丘の谷間に滑り込んだ途端、汗とそれとは異なる淫らな潤滑液が指先に絡み付く。先刻執拗に愛液を掻き出し啜り体裁を整えておいたにも関わらず、たかが舌を弄り胸を愛撫する程度の他愛もない悪戯で簡単にまた濡れそぼついやらしい処女肉。清楚で可憐な顔立ちと優美な肢体をしながら、この少女の身体は牡を愉しませる為にだけ生まれたかの様な淫蕩な牝の資質を潜ませていた。ただ居るだけならば妖精画を思わせる繊細な美貌が、一度その喘ぐ姿を見せた後は無意識な時点から加虐を唆してくる。
 ぞくりとざわめく身体に、男は眉間に皺を寄せた。
 非凡と感じるのは何故だろうか。この少女が美しいのは認めるが、男のやや奔放な女性遍歴の中で突出している程ではない。この少女の何処が自分の興味を掻き立てるのかが男には判らない。
 ただ、あの老害にもテラスの若造にもくれてやるつもりにはならなかった。
「賭けをするか」
 抱き締める腕をほんの僅かに弛め、男は少女の瞳を覗き込む。
「かけ……?」
「これ以上は脱がさない。そして最後までお前が脱がして欲しいと望まず、最後まで我を失わなければお前の勝ちだ。お前の望みを叶えてやろう」賭けの先の願いは完全な拒絶の言葉かもしれないと思いながら、男は目を細める。それが蔑むものか笑みかは男自身には判らない。「お前が願わなければ脱がさないのだからさほど感じはしまい。――負けた場合は、明後日のお前の時間は全て俺のものとなる」

 びくっと少女の身体が大きく跳ねた。
 汗に塗れた乳房を舐りあげながら男の指は先刻から執拗に布の上からクリトリスを捏ね回し続けている。シーツを濡らさない為に少女の腰の下辺りに溜めたしなやかな寝衣は少女の汗と露で湿り、少女の唯一身に纏っている下着はその大半が愛液でぐっしょりと濡れ、指を滑らせると濃い粘液が布地の上に更に染み出してきた。
 甘く乱れた呼吸を繰り返し華奢な身を捩る少女が快楽に耐えているのは一目瞭然だった。懸命に声を堪えようと首を振りたくり、白い喉を見せ付ける様に仰のく度に少女の匂いが立ち昇る。処女にも関わらず、男の腕の中で淫らに身をくねらせる少女の柔肌には幾つもの唇と歯の痕が付いている。乳房、腹部、内腿…虫さされや打撲と誤魔化すにはあからさまな、上気し桜色から少し色付いた肌に濃い紅色の印が艶めかしい。処女を奪ってもいない小娘を相手に印を付けて何の意味があるのかと馬鹿らしくもなりながら、自身の歯や唇の痕も生々しい少女の痴態を見下ろす度に男の腹腔の底や頭の芯が低温のまま沸き立つ。検診衣ならば隠せる場所を意識してはいるが、心電図などの生肌を晒す検査ならば技師に見られてしまうだろうが構わない。
 少女の羞恥心を煽る為にカーテンを全て寄せた病室は月明かりに照らされ、華奢な少女の白い肌が震え、整った清楚な顔立ちが苦しげに歪み、高い澄んだ声が鳴く。
 考えていた以上に頑なな抵抗だが身体は既に全身がよがり鳴いており、ただ言葉にして赦しを乞うていないだけでしかないが、男にはその脆弱な抵抗がこの上なく心地よい。豊かな乳房をその裾野から強く絞り上げ、ゆっくりと乳輪を柔らかに舐め上げながら、男は身悶える少女を見る。大した男性経験もないが軽く舐めしゃぶるだけでもたっぷりと濡れるいやらしい身体、懸命にシーツに縋り付く細い指、びくびくと小さく跳ね続ける薄い内腿の付け根…そしていつまでも堪えようとする往生際の悪い、羞恥に染まった、顔。
 早く貫けと強請る女の顔は見慣れているが、この少女は快楽に溶けながらまだ理性の欠片を手放さない。だが拒絶の表情とも違う、何かを訴えかけようとしている情感豊かな大きな濡れた瞳に、男の背筋をぞくりと痺れに似た妖しいもどかしさが這い昇る。
 青白い月明かりの下、消えそうな程頼り無い白く華奢な身体と繊細な硝子細工の様な顔に、男は少女の乳房を押し上げ重ねた口で柔肌を強く吸う。汗の微かな味よりも唇に触れている肌の柔らかさの方が頭の芯を甘く深く揺さぶり、病室にはっきりと響く吸引の音が長く続く。荒々しい激しい情交を連想させる幾つもの唇の痕に彩られ、喘ぎに似た浅い乱れた呼吸を繰り返す少女の瞳からまた涙が溢れる。
 それ程、嫌か。
 神経を一瞬鑢が撫でた様な不快な感覚に男の眉間に皺が寄る。貞操観念が強いのならば自分を拒むべきものをこの少女は何故拒まないのかが男には理解が出来ない。快楽に耽らない、駆け引きを楽しまない、視線まで合わせない、何が楽しいのか理解出来ない。今この瞬間にでも身を剥がしたい屈辱感に臓腑が苦く焦がしながら、男は少女の甘い匂いに酔う。
 一際濃い唇の痕を付け、男は顔を上げる。
 美しい白い肌に付いた、幾つもの唇の痕。しっとりと汗ばんだ肌を照らす月明かりと、青い陰影が際立てる簡単に手折れそうな華奢な身体と豊かな乳房と、桜色に染まる鳴き顔を隠す小さな手と、割り込ませた脚に伝わる内腿の火照り。こうも儚げで脆い少女が、何故折れないか。壊そうと思えば簡単に壊せると男には判っている…上手く犯す事も出来るし今までも幾人かにそうして肉欲を発散しているが、何故それを躊躇うのか。
 男はそっと少女の手首を掴み、顔を隠す手を剥がし頭の脇のシーツの上に押し付ける。
「顔を、隠すな」
 涙に濡れ羞恥に染まった整った繊細な顔を横へ逸らそうとした少女が男の声にぴくりと強張り、細い顎を引き凍える小動物の様に震えながら正面へ向き直る。だが、長い睫毛に縁取られている大きな瞳は閉ざされたままで男を映さない。
 僅かに身を伸ばし、男は少女の瞼に接吻ける。身体の下で、そっと口が触れる度に華奢な身体がぴくりと震えるのを感じながら、男は少女の瞼に、頬に、額に何度も繰り返し短く接吻け続ける。手の中の細い手首の震えが堪らなく脆弱で、壊さない様に、だが捕らえ逃さない強固な力で握り締めシーツに縫い止める事が、どこか厳かで重要な行為に思え、青臭くこそばゆく苦々しい。
 壊したい衝動とこのまま手で包み温めたくなる奇妙な歯痒さの落ち着きのない感覚が、男の思考速度を落としていく気がした。身体の震えのせいだろうか、小動物や動物の仔の様に無条件の庇護を求めるそれは卑怯ですらあるし、男は得意としていない…回避したくすらあるそれに少女の様は近いと思う。
 どれだけ続けていただろうか、不意に、少女と視線があった。
 呼吸が止まり、そして男は顔を寄せる。
 舌が重なり、男は小さな舌を舌で捏ね回す。互いの微かな呼吸が唇を湿らせ、少女の小さな声が至近距離で溶け、男の肺の奥に静かに密やかに染み込んでいく。ねちょりと唾液が絡まり、少女の口内へと伝い落ちる。飲め、と思い、そして、少女の喉がこくんとそれを迎え入れる音に、牡が更に猛りスラックスを内側から押し上げた。今日の入浴が適っていない為シャンプーや石鹸の匂いではなく二度の清拭を経た少女自身の淡い体臭なのであろう、常とは僅かに異なる甘い匂いがフェロモンの様に男の劣情を煽る。舌を舐るだけでなく唇を思うままに貪りたい衝動に、男は手首を掴むもう一方の手で少女の細い顎を僅かに上げさせた。
 びくりと、はっきりと、少女の身体が強張る。
 長い時間をかけて蕩けさせ刺激に反応するばかりだった無防備な少女が、餓鬼染みた行為の衝動にだけは背き身を硬くする様に、男の息が詰まる。
 顎に指をかけたまま僅かに顔を引いた男の目に、少女の瞳が映る。咎めているのでも怯えているのでもなく、責めているのでもない。涙に潤んだ大きな瞳が何を訴えているのかは男には判らない…ただ、少女の精神の糸が切れてしまいそうな程思い詰め追い詰められている事だけは伝わってくる。ちりっと肺の奥が焼ける様な痛みを憶え、硝子細工が指先から落ちそうな感覚に男は次の動きを見失う。
 もし強引に奪えばどうなるのだろうか。他の女と同じで肉欲に溺れた淫乱な仕草で求めてくる様になるのだろうか、それとも、罅割れ砕けて二度と穏やかに微笑まなくなるのだろうか…何が悪い?微笑まなくなる事の何が悪い?この少女の唇の甘さは判っているし、たかが指の挿入だけではあるが膣の具合も想像が付く、性欲を発散させる為の道具としては十分な価値があるのならば堪える必要はない。一晩で壊しても探せば換えは見つかるだろう。
 まるで焼けた細胞が死滅する様に、肺の奥が冷えていく。
 理解が出来ない。
 何を自分は躊躇っているのだろう。何故面倒臭いと放り捨てないのだろう。いつでも貫ける程に性器を漲らせたまま、泣く女をただ呆然と見下ろしているのだろう。堪らない居心地の悪さと同時に、目の前の少女を壊すまいとする奇妙な意志と、そしてその気になれば壊せる少女との距離感への僅かな満足感。
 僅かに離した顔の下で胸板に重なる豊かな乳房、脚を割り込ませている細い腿、簡単に折れそうな華奢な手首。組伏すのではなく、膣奥まで貫いて強く抱き締められればどれ程満たされるだろうか…全裸で、肌を重ね合い、頭の芯まで蕩かす甘い匂いを肺の奥まで吸い込み、感じ易い淫らな熱い牝肉に猛るモノを突き立て、喘ぐ唇を塞ぎ舌を捩込み音を立てて唾液を啜り、白い身体を力の限りに抱き締められれば。
「――悔やんで、いらっしゃるのですか……?」
 不意に少女の声がした。
 微かに揺らせた鈴が鳴る様な、密やかな澄んだ音は耳に心地よいが、それはどこか悲しげだった。
「何……」
「本当に望まれている事への時間を…不要な事に使われておられませんか……?」
 この少女は何を言っているのだろうか。まだ睡眠時間を削るななどと余計な事を考えているのだろうか?この、男に犯されかねない状況下で。
 今も壊れそうだった少女の瞳から次から次に涙が溢れ、悲しげな思い詰めた瞳が勇気を振り絞る様に男へと向けられていた。月明かりの下、濡れた大きな瞳が清浄な光を弾く様は美しいが、それが男の精神に爪を小さく立てる。
 そして男の自尊心を些か損ねるのは、汗塗れで身悶えていた少女にまだ逆らう理性が残っていた事だった。確かに恥じらうだけの理性は残る様に手加減はしていたが、それは快楽と羞恥の為であり男の睡眠時間を不安視させる為のものではない。男の身体を心配しての言葉ではあってもそれは管理能力を疑うに他ならず、二重の意味で屈辱的である。
「生温いとでも言いたいのか」
 違うと判っていても男の口からは少女への攻撃的な言葉が零れてしまう。案じている事は決して悪くなく、逆に好意的だと認識していても一度不用と断じたものに囚われ続ける少女が苛立たしい。優先順位は男自身が決めるのであって、それが不服なのだろう…愚鈍なのだろうかと考えかけ、男は一々少女の言動に反応する己を再認識し眉間に皺を寄せる。
「ちが……」
 恐らくは違うと言い掛け今にも泣き出しそうな少女を見下ろしながら、男は顎にかけていた指を滑らせて喉をなぞる。簡単に締めてしまえそうな細い首はいかにも無力で、だがこの身体が発する言葉が自分を操ろうとする不快感とも憤りとも異なる奇妙な感覚に、何度か指を這わせた後、そっと喉元に軽く歯を当てる。薄く白い美しい肌を削ぐ動きで歯を滑らせ、ゆっくりと喉に吸い付く。桜の花びらの様な白い肌に凝視しなければ判らない程度の唇の痕を幾つも付ける男に、吸う音の度に華奢な身体がびくっと震えた。
 繰り返し付け続けている為に少女はこの音と行為の結果を知っている筈にも関わらず、拒否の言葉を男は聞いた事がない…それは行為を許していると考えていいのだろうか?何故? 思考しかけ男はそれを投げ出す。どうでもいい。
 小さく零れる震える吐息が甘く男の耳を擽り、男が柔肌を吸う度にびくっと跳ねる度に豊かな乳房が淫らに揺れる。処女の分際で淫らに硬くしこった乳首の艶やかな鴇色と、その周囲にはやや赤黒い唇の痕と歯形。ここまで遠慮なく付けるのは初めてかもしれない、新雪に踏み荒らす様な子供染みた愉悦。抱き締め指を滑らせながら更に執拗に唇の痕を残しながら、男は薄い汗を舐めて味わう。

 ベッドの上で華奢な身体を転がせ、腰を高く上げさせると少女は小さく嫌と鳴き、身を縮込まらせた。後背位すら知らない身でも獣を思わせる体勢が恥ずかしいのか、腰を突き出すのが嫌なのか。だが辱めれば辱める程この少女が濡れるのを知っている。
 まだ気付いていないのであろう、唯一身に纏っている白い下着は少女の物ではない。一見やや面積が小さな下着ではあるがその大部分は緻密な刺繍で布と呼べる場所は性器そのものを隠す極僅かな部分のみ、窄まりから尻肉の谷間の辺りは男の指位の帯状でしかなく尻肉の上に添う形でまた刺繍が広がる、恐らく少女は選ばない優雅だが淫靡な意匠の下着。前は性器を隠す布以外は同じ緻密な刺繍で、だが茂みを隠す様な密度ではない為に狭いが濃い柔毛は透けて見えている。一揃え購入したのはあの特別室の男への対抗意識だろうか、眠っている間に着けさせたのは自分でもどうかとは思うが、別に気にし続ける程ではない。
 華奢な身体に覆い被さる形で薄い項から背筋を舐め、軽く唇で啄みながら乳房をねっとりと揉みしだく。下を向いている体勢の乳房は男の手から溢れる豊かで淫らなもので、餅よりも弾力のあるそれに指を食い込ませると、少女がびくっと震え、僅かに痛そうな鳴き声を漏らす。まだ揉まれ慣れてもいない未成年の乳房は優しく扱うべきだと判っているが……。
 乳首を軽く爪で抓ると、少女の背筋が妖しく反り、びくびくと身体が跳ねる。痛みも快楽になる淫蕩で被虐的な資質。そのまま爪で乳首を捏ね回すだけで追い詰められている様な甘い鳴き声が零れる。もしも指を挿入していればぐびぐびと卑猥に締め付けていただろう。嫋やかな美しい白い花の様な姿でありながら、性的な空気に変わった途端に男の劣情を、それも嗜虐的な凌辱を唆す淫らな身体と反応の女。このまますぐに貫いて荒々しく膣奥を突き上げてしまいたい衝動に、腰骨から背筋へ炭酸の泡の様な痺れが這い昇る。
 執拗に、飽きる気配のないいやらしい乳房と乳首の感触に抓り、揉み、なぞり、掴む愛撫を繰り返している間に少女の全身が汗に濡れる。身体の隅々から立ち昇る甘い匂いに、男は薄い肩に歯をたて、強く噛む。痛みを咎めるのではない甘く感極まった鳴き声と重ねた腰の内側でびくびくと跳ねる小さな腰。噛み、乳房を強く掴んだまま、しばし動きを止めていた男の下で、少女の腰が小刻みに跳ね続け、やがて収まり、そしてくったりと力が抜けていく。
 肩に男の歯形を付けられた汗塗れの肢体を再度転がし、涙と汗と唾液に濡れる紅潮した顔を隠そうとする少女の弛緩した腰を引き上げ、男は両腿を肩に乗せる。
「や……ぁ…っ」
 まだ男が身体中を拭った事と換えられている下着に気付いていないのか、ベッドの上で男の肩に腿を乗せ半端に逆さ吊りにされたのが嫌なのか、首を弱く振る少女の声音は無力な幼子の様に舌足らずだった。何をされても抵抗が出来ない位に蕩けた身体にびくびくと内腿が男の頭の左右で震え、そしてねっとりと濡れている下ろし立ての純白の下着は少女の性器を透かしきっている。白地が濡れきっているが故に透ける初々しい肌色の丘と微かに谷間から零れる小振りな襞と既に膨れきっている谷間の上端の小粒な突起。布地が濡れて透ける肌は元の色より濃く見え、幼女の様な生白い丘の奥に潜む鴇色の粘膜が陰影の如く覗き、全てが布地の表面までを覆う粘液質な愛液でぬらぬらと月明かりの下、男を誘う。
「おねがいします…ぃや……ぁ…、シャワーを……」
「安心しろ。脱がしはしない」
 首を傾げ、まだびくびくと痙攣し続けている白い内腿の付け根近くに吸い付き、男は濃い唇の痕を一つ付ける。少女がいつも着けている下着はどれもレースなどで装飾された上品で清楚な物だが、暇潰しで眺めた男性用ファッション雑誌で紹介されていたのを思い出して男が購入した扇情的な下着も少女には似合っていた。欧州の有名ブランド製の気品のあるデザインだが基本は男を悦ばせる要素を過分に含んだ物であり…他の誰にも見せさせはしない、いやらしい無防備な姿に男は目を細める。
 閉じたいのであろうが間に入っている男の頭を挟み込むのも逃れる事も叶わない白い脚が微かに揺れ、羞恥を堪え縮込まろうとする少女の瞳から涙が零れた。全身が汗で濡れているのは直前の愛撫の為か発熱の為か。
 何時になれば気付くのか、恐らく男が全身を拭っていると知れば少しは安心するのだろうが、教えてやる必要を男は見いだせない。いや眠っている間の清拭を恥ずかしがるだろうがその上でも感謝すると予想出来るし、安心するメリットはあるが、それ以上に余計な事に固着する少女を辱め甚振りたい気持ちの方が勝っていた。
 涙を零しながら力の入らない身体を懸命に捻り少しでも羞恥から逃れようとしている少女を見下ろし、男はゆっくりと布地の上に指を乗せる。白い布地の表面まで染み出して層を成している夥しい愛液は生温かく、そして布とその奥の丘と谷間は熱い。ぬるりと指を滑らせる感触は愛液の中を泳ぐ状態に近く、布の上端から下端のクリトリスから窄まりの手前をじっくりと撫で回すが、指はまだ沈み込ませない。指先に感じる布の奥の起伏を崩さない様にその形をなぞり続けると、徐々に少女の腰がぴくぴくと震え、甘く切なげな吐息が溢れ始める。
 子供の様な色合いの下腹部と異なり白い刺繍の奥の茂みは黒く、色の対比が激しい。肩の上で揺れる脚も汗塗れの肢体も細く頼り無いが、十分に男を受け入れられる女の身体なのだと主張する豊かな乳房と茂み、そしてねっとりとした愛液を溢れさせている処女地の牝肉。
 表面だけをじっくりと撫で続ける男に、時折少女が視線を一瞬だけ注いでくるのが判る。もどかしげな表情は他の女でも見慣れている哀願のものだが、少女のそれはほんの一瞬で、次の瞬間には男に求めかけた己を恥じるものへと変わってしまう。まだ余裕がある証拠だが男自身がそう手加減をしているのだから不満はない。じっくりと時間をかけて蕩かすのを好む男だがそれに応えられる女は意外と多くはなく、すぐに挿入を求める女を捩伏せて飼い慣らす事は多かったが、この少女は捩伏せる必要もなく、馴染みきった道具の様に男の手に吸い付く様だった。どこもかしこも甘く弱く、程良い手応えで腕の中で身悶え、簡単には墜ちきらない。
 あん…と甘く小さく鳴く声よりもはっきりと、愛液を掻き混ぜる淫猥な音が個室に籠もり、少女の腰が不安定にくねる。愛液の層と布地の上から触れるか触れないかで下腹部の丘と溝をなぞり続ける男と、耳まで赤く染まっている少女の視線が、一瞬、合う。
「目を、逸らすな」
 再び恥ずかしげに視線を逸らした少女が男の命令にぴくりと身を強張らせる。ねちょねちょと淫猥な粘液質な水音が緩慢に鳴る度に白い身体が震え、そして長い間の後、少女が泣き出しそうな顔で男と下腹部へ瞳を向けた。少し刺激を与えれば逃げ出しそうな表情に、細い硝子の管を両手で持ち別方向に力を込めようとしている感覚が過り、どこか甘くふつふつと腹腔の奥が低温で滾る。今にも折れて砕けそうに怯えていながら、少女が男の言葉に従い身を任せるのは、男と女の戯れに過ぎないが支配に他ならない。手荒に扱い間違えれば一生精神的外傷に残りそうな処女雪を穢す行為を許されているかの様な愉悦に、男は目を細める。
 紛らわしい。何故身を委ねている様なフリをするのか。誰にでもその表情を見せるのか。――あの青年や老害にも。
 不意に湧き上がる屈辱的な苛立ちに男は奥歯をぎりっと噛み締める。嗜虐とは別の凶暴な衝動が揺らめき立ち昇るのを感じながら、男は少女の手を捕らえる。
 泥か茨の様に絡み付いてくる雑念が疎ましい。
 細く長い美しい指に愛液塗れの指を絡め、ぐいと引き、男は少女の下腹部へと指を招き、布の左右へと当てさせた。性器を隠す布地の端の刺繍は細り、下腹部の丘全てを覆い隠せてはおらず、布から露出しているその子供の様に白い柔肉に乗せさせた中指と薬指を押し付けつつ、左右に広げさせる。
「や……っ、せんせ…ぃ……ゃ……」
 ねちょっと卑猥な音を立てながら少女自身の指が下腹部の丘を左右に割り、白い下着から小振りな肉が露出し、鴇色の谷間と薄い襞だけが濡れた布の内側に留まった。びくっと細い腰が跳ね、豊かな乳房が揺れる。華奢な指で自ら開かせているいやらしい谷間は愛液に濡れて透けた下着の奥で艶やかな鴇色の襞も突起も丸見えになり、その下隅の窪みを中心に、ぐびぐびと妖しく物欲しげな蠢きを繰り返す。
 羞恥に耳まで赤く染まり啜り泣きながら男の命令と指に逆らう事も出来ず見上げる少女の嗚咽は悲痛で、甘い。恥じらいながら、牝肉はひくひくと淫らな蠢きを止められず、夥しい愛液の微かな匂いと下腹部全体からの熱気が男の顔をねっとりと撫でる。
「随分な眺めだな」
 ゆっくりと咎める男の声に、少女の腰がかくんと跳ねた。丘を左右に割らせる白い指から男が指を離しても、その位置から逃れようとしないのを薄く嗤いながら、男は両手でねっとりと少女の両乳房を揉みしだく。あっあっとか細い鳴き声が小さな口から零れ、少女の内腿がやわやわと男の頭を挟み込みくねる。白い身体が熱い。月明かりが照らす少女の裸身が汗に滑り、命じられるままに男へ視線を注ぎ続けている大きな瞳が揺れていた。
 淫らな姿を指摘され涙を流す繊細な顔立ちが愛らしく、そしてこの上なく嗜虐心を煽る。もう止めてほしいと訴えている顔が乳房を揉みしだく度に拙く甘く切なげに揺れ、男の間近で濡れそぼつ布のすぐ内側で鴇色の膣口が淫らに蠢く。細い指が震え、離れかけては留まる動きと腰の卑猥なくねりに、じわりじわりと布が谷間に食い込む度合いが増し、下着の大部分を占める緻密な刺繍の両端から面積は小さいが濃い柔毛が露出した。
 随分なと言いはしたが色素の沈着もない幼児染みた秘所はまだグロテスクさからは程遠く、だが鴇色の粘膜と夥しい愛液は十分に情交可能な牝としての成熟を訴えてくる。身長は一般的だが平均より華奢な骨格は強く抱き締めれば折れてしまいそうな程危うく、しかし一度犯してしまえば手荒な衝動に耽らずにいられないであろう淫らな身体と…何より少女の反応が男の嗜虐心を凶暴なまでに激しくさせた。組み伏して荒々しく貫きたい獣の様な直情的な衝動も否めないが、燻り続ける薪か熱をまだ籠もらせた炭の様な欲望が男の腹腔の底で煮え続ける。
 ゆっくりと舌を差し出し、布の上から鴇色の粘膜を一掃きする男に、少女が引き攣った可愛らしい悲鳴をあげた。大した愛撫も無しの状況で少女の愛液は濃厚なとろみのある葛の様で、舌に絡み付いてくるのを掻き分ける形で、男は布の上から少女の形を舐って探る。ねっとりと絡む愛液と滑らかな布の下で谷間の薄く小振りな襞を舌先で捏ね回すと、男の頭の両脇の白い内腿がびくびくと震え、舐る下腹部全体が妖しく跳ねた。
 十分に犯せる。未成熟な幼女ではなく、男を迎え入れられる機能は有していると感じる度にこめかみと牡がどくどくと脈打ち荒れた熱い息が零れそうになるのを感じながら、逆に息を潜めて男は更に執拗に舌と手を這わせる。手に馴染む豊かな乳房、蜜壷を思わせるとろみのある愛液を湛えた窪み、華奢な、身体。
「ゃ…あ……っ、シャワー…を……っ」
 男の舌が小さな布の上から谷間の底に出来た窪みに捻込まれる度に少女の唇から哀願が零れる。小振りな丘を左右に健気に広げる指がびくりと震え、細い腰がくねる度に小さな布は谷間に食い込んでいく。布と刺繍の両端から鴇色の粘膜が露出し、男が舌を強く差し入れると膣口へ届いてしまう。ねちょりと淫猥な音が病室に籠もり、少女の引き攣った熱い吐息が内腿と腰の震えで伝わってくる。舌を戻せば膣口を隠そうと直る布を掻き分け、男は膣口に舌を捻込み、そして溢れかえっている愛液を音を立てて啜る。
 声にならない、それでも必死に堪えようとしている鳴き声を微かに漏らしながら少女が首を振りたくった。ねっとりと濃い愛液を嚥下し見下ろすと、泣きながら首を振りながらそれでも時折男を見上げてくる少女と目があう。羞恥に今この瞬間にでも逃げ出しそうだが、恐らく腰が蕩けて出来ないであろう淫らな鳴き顔が嗜虐心を煽り立てる。じゅるじゅると愛液を啜っては膣口に舌を突き立て、いやらしく蠢く熱い蜜壷を舌でこじ開けながら執拗に乳輪を柔らかに撫で回し続けると、熱から逃れようとしている様なぎこちない腰の動きに徐々に変化が現れた。――上下に、男の穿つ動きに合わせる、牝の腰遣い。尤も、舌を捻込んでいるからこそ判る程度の僅かで拙いものではあるのだが。
 乱れる甘い囀りに戸惑いともどかしさが含まれ、増していく。まるで抽挿している最中の様に腰から背筋へと血潮がうねり発散を求めると同時に、男の頭の芯が冷え主観が消え機械仕掛けの様に肉体から乖離する。性欲処理をこなそうとする自分を見下ろす自分はいつも感じるものだった。
 ちりっと、肺の奥、腹腔の中心で、オイルライターのフリント・ホイールを掻いた様な火花が散りかけている気がした。
 豊かな黒髪を結った三つ編みが細い首を振る度にシーツ上で重く揺れ、大きな瞳から溢れる涙が頬を濡らす。月明かりの下の、しっとりと汗ばんだ桜色の肌と頼り無い華奢な身体。鳴いて許しを乞う、清楚な美貌。
 乾きに似た物足りなさに、男の眉間に皺が寄る。まるで指の間をすり抜ける水を追う様な、もどかしい思い。

 不意に、男の五感に人の気配が届いた。
 廊下を歩く足音は少し離れた場所のものか、すぐさま看護婦の巡回と察して身を離しながら濡れた口元を手の甲で拭った男に、暫くぶりにベッドの上に腰を下ろされた少女が戸惑いと不安の混ざった情欲に潤みきった瞳で見上げてくる。今病室を出れば看護婦に見られる確率は高い。ならば隠れるしかあるまい。少女に布団を被せ、ユニットバスに隠れようとした男は、少女を一瞬見、そして、寝衣ごとその身体を抱き上げる。
「きゃ……っ」
 悲鳴にもならない小さな声を漏らす少女を抱えたまま男はユニットバスの扉を開けて中へ滑り込み、扉に背を預ける。
 照明を灯していないユニットバスは扉にある小さな窓から漏れる暗い病室からの明かりしかなく、月明かりに慣れている目には暗闇に近い。巡回の看護婦の気配を感じようと耳を澄ます男は、腕の中の少女の温もりに僅かに唇の端を歪めた。軽く、温かい。状況を察したのか抵抗もせず大人しく腕の中に収まっている少女の身体は、抱えられるままに男に委ねられており、無防備に男へとその上半身を捻らせている。胸板に重なる豊かな乳房と大きく広げる必要もなく腕に収まる薄い肩と両膝で少女の体勢は判った。腕の中で、ただ抱き上げられているのではなく、向き合う形に重なる上半身…まるで抱き合う様に。
 鼓動が早い。発熱のせいか、直前までの悪戯の為か。震える吐息が男の首を擽る。
 微かな足音と間の後、背後の扉が軽く叩かれた。
「室生さん、いますか?」
「は、はい……っ」
「大丈夫?」
「はいっ…だ…何も…問題はありません」
 上擦った細い声で懸命に答えた少女に男はすっと首を傾ける。
 唇が重なった。
 声と抱き上げている感覚で大凡の見当を付けた位置だったが思いの外上手く重なった唇に、腕に中で少女の身体の動きが止まる。柔らかに肩に添えられている華奢な手が、胸板に重なる乳房が、至近距離にある顔が、温かい。
「何かあったらナースコールで呼んで下さいね」
 扉一枚隔てた場所にいる看護婦の声に答えられずに固まっている少女の柔らかな唇をそのまま貪りたい衝動に駆られながら、男は暫し唇をただ重ね続けた後、そっと離す。
 固まったままの少女を下ろさないまま扉を軽く開け、ユニットバスの照明を点灯させて再び扉を閉じた男は、腕の中の少女が耳まで真っ赤に染めて自分を見上げているのに気付き、口に端を歪める。
「どうした?」
 呆然としているとも夢見心地ともとれる少女が男の言葉にぴくりと身を跳ねさせた後、自分が異性に身を寄り添わせていると気付き慌てて身を縮込まらせた。少女の上半身が離れた胸板が、何故か急速に冷める感覚を奇妙に思いながら男はユニットバス内の椅子に少女を下ろす。
「ついでだ。身体を拭いておく」
「は…、はい……」
 近い距離に居ながら男の耳に届くか届かないかの細く頼り無い声に息を吐きながら男はタオル掛けから真新しいタオルを取り、熱い湯に浸す。意識のある少女に接吻けたのは初めてだが、気付かなかったかもしれない。いやそれを狙ったのは否めない。どうせこの少女には年齢相応の恋愛感情もなければ男との交わりを愉しむ悪戯心も存在しない。ならば砂糖菓子の様な子供の夢であろうファーストキスの幻想は壊さないでおくのもいいだろう…無意識下では既に何度も貪っているが。
 手に火膨れが出来そうな程熱い未調整の湯を絞りながら洗面台の鏡をふと見た男は、背後でそっと唇に指を添えて赤面している少女に気付く。羞恥と戸惑い、憂い、そして…幸福感。何故その表情になるのかが判らないが、どくりと男の身体の奥が大きく脈打つ。照明の灯ったユニットバス内で下着一枚の姿が恥ずかしいのか、華奢な身体で綺麗に座りながら胸元を片腕で隠しながら唇を意識している姿は清楚でありながら匂い立つ程艶めかしい。
 湯を止めた瞬間、少女が慌てて唇から指を離し男へ視線を向け、そして鏡の中で視線があった。
「どうかしたか?」
 もしも少女が接吻の理由を問うてきたのならば、自分はどう答えるのだろうかと思いながら男は口を開く。――唇を重ねたかった、そんな簡単な答えだが、男にもその理由は判らない。向き合い手を当ててくる、まるで男を信頼して寄り添う様な体勢の温もりが接吻に自然と繋がっていたのかもしれない。恋人同士ならば確かにおかしくはないかもしれない。だが。
 少女が首を振る。
 どこか悲しげな、傷ついた表情に男の胸が小さく軋む。馬鹿らしい。つい先刻の腕の中の温もりが抜け落ち、タオルを絞った手だけが物理的に熱く、肺の奥が冷えていく。
 何なのだろう。
 この少女を弄ぼうとする衝動に混ざる、小さな痛みの不快感に男は熱いタオルを手に少女へと向き直る。
「お前のいやらしい匂いが籠もっているからオナニーでもしていたと看護婦は思っただろうな。――拭われたいのならば、脱いで、俺の前で広げろ。掻き出してやる」

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改訂版1901290356

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