立ち止まる。振り返る。歩く。掴む。抱き締める。
理解不能な行動。
そして、また、立ち止まる。 |
また泣いているのかと思った。
静まり返った病室内のベッドで横たわる少女の身体の曲線を浮かび上がらせる毛布の隆起は小さく、背は一人前の大人なのにまるで子供の様な華奢さはいつも男の首筋をざわめかせる。非常に薄い硝子で出来たグラスの様に扱いを少し間違えれば壊れそうな身体と、心はそれ以上に厄介な少女である。頑固かと思えばすぐに泣き、無風の温室育ちかと思えば意外と強い。
眠っているとは考えなかった。間違い電話にせよ相手を一旦呼び出しておいて何の補足もなく切ったままにする出来る気質ではなく、目上の異性を気紛れに呼び出す程の遊び心もなく、何もなければ恐らく自分を電話で呼び出す事などなかっただろう。最悪な事態を想像して自宅に帰り着く手前で折り返してきた男はとりあえず無事な姿を見て息を付く。だが無事だからと言って終わりではない。何かはあったのだろう、確実に。
「何があった」
病室の入口での遣り取りを巡回中の看護婦に見咎められるのを避けてベッドの脇へ歩を進めていた男は、棚の上に積まれている箱に気付き目を細める。この街にはない老舗デパートの包装紙に包まれた大振りな箱は帰る時にはなかった物であり、いかにも自分の不在時において最悪な事態を引き起こしかねない老害の選びそうな小道具に見えた。だが確定するには情報が不足している。
「あ……あの…、あの……、申し訳ありません……電話…繋がる前に切れたと思って……お仕事で疲れていらっしゃるのに」
寝たフリをしていた少女が慌ててベッドから降りて頭を下げ、そして男のコートに付いてる雨粒に気付いたのか床頭台の上にあったハンカチを手に取り、背を伸ばす。
「……」
ふわりと漂うのは甘い花の香りだった。
背伸びした少女が手にするハンカチが男の頬を撫でる。見舞いの花束のものとは違う、ボディソープのものとも違う、甘いが鼻腔を抜けるとふっと溶けて消える控え目な香りは何かの花の香料なのだろう、どこかで嗅いだ気がするがその花を男は思い出せない。駐車場から病院内への僅かな距離に傘を差さずに歩いた男を心配げに見上げる少女の繊細な美貌に似合う儚げで甘い匂いと、雨に濡れた頬を拭う柔らかに触れる感触。心配そうに至近距離から見上げる瞳がカーテンの隙間から漏れる光を受けて淡く反射する。
ハンカチを渡してくるのではなく、男に触れる事すら出来ないと言うのにこんな場面は大胆で、迷いも混乱もなく当然の行動の様な滑らかで優雅な仕草で異性の服を整える少女に、男は僅かに口の端を曲げる。母親が父親に行っている姿を見て憶えたのか、自然な動き過ぎて触れられる事を咎めるつもりになれない。
カーテンを閉めた状態の薄暗い個室で静かにだが甲斐甲斐しく動く少女をそのままに男は見下ろす。白い繊細なネグリジェを纏った腕や肩が息を飲む程華奢で、直前まで横になっていた為か腰までの豊かな黒髪は若干緩くうねり、やや伏せ気味の睫毛がとても長い。少女の動く微かな衣擦れの音と窓越しの雨の音。背伸びをしている華奢な肢体が腕で包める程近くでそっと静かに動く。腕の角度も身体の自然な反りも小さな仕草一つを上品な動きが身に付いており、美しかった。
医師として退屈しのぎの遊びで必要最低限の睡眠時間は削れないが、それでも個人の自由時間を注ぎ込んでわざわざ病院に戻って来ただけの価値は十分にある。
何があったのか。衣擦れの音さえはっきりと聞こえる静かな空間で、男の中が不快にざわめく。自分が帰ってからの短い時間にこの少女に何があったのか、何故連絡をしようとしたのか、そして問いにそのまま答えないのは何故なのか。どうでもいいと思う反面それが不愉快で堪らない。投げてこのまま帰ってしまおうかと考え、少女を嬲って洗いざらい白状させたい欲求が押し寄せ、このまま少女のしたいがままに振る舞わせてもいい緩やかな感覚が込み上げ、雑多な感情が寄り合わせた糸の様に浮かんでは沈む。
「――ああ…面倒臭いな」
「?」
自然とぽつりと漏れた呟きに少女が小鳥の様に小さく首を傾げる。さらりと流れる豊かな漆黒の髪が美しく、甘い花の匂いが男の鼻を擽った。
手を動かし、腰に手を回し抱き寄せた瑞穂の華奢な身体は簡単に男の腕の中に収まる。豊かな乳房が胸板の下で上質な葛饅頭の様な弾力で重なり、寝衣の胸元からたわわな白い乳房がいやらしく覗くが、腰も肩も簡単に手折れそうな程細い。
「舌を出せ」
驚いた表情で男を見上げていた少女の頬が薄桃色に染まり、薄暗い室内で長い睫毛が切なげに震える。嫌なら嫌と言えばいいだろうにとどこか適当に考えながら、男は少女の腰を更に引き寄せ爪先立ちに上げさせながら軽く身体を傾け、頬に唇を当てる。温かく、そしてまるで乳幼児の様なしっとりと柔らかな感触だが脂肪は薄い。ぴくりと華奢な肢体が震えるのも構わずに頬だけでなく額や鼻筋等にも唇を這わせ、そして漸く怖ず怖ずと差し出された舌を男は舐り上げる。
綺麗な娘だと医師は率直に思う。今までの女との情交で噛み跡やキスマークを付ける事は多々あったが、ただ柔らかく唇を当てるだけのキスは思い返せばあまり行っていない。肉欲や劣情を煽り発散する為の行為にそれは必要がなかった。今もそうで、少女の舌先を執拗に舐る男に、腕の中の華奢な身体が徐々に淫らな熱を帯び舌にかかる息が切なげな甘いものに変わっていく様子が男を愉しませている。唇でなぞりもどかしい刺激を与えるのとも違う、ただ純粋に、この少女の顔に口吻けてみたかったのだが、その行為の動機が男自身判らない。化粧をしていないからなのだろうか?だが処女相手も素顔相手も初めてではない。
ハンカチの花の香りとは異なる少女の甘い香りは、シャンプーやボディソープだけでなく少女自身の身体の匂いも混ざっているのだろう、穏やかだが甘く心地良い。細いウエストを引き寄せている腕を撫でる長い髪と手触りの良い白い寝衣と、踵を浮かせ不安定に揺れる華奢な肢体、拙く揺れるちいさな舌。ぞくりと荒々しい劣情が腹腔に蟠り血流が下腹部に流れ込み牡を猛らせる…この女を支配したい、組み敷いて貫きよがり狂わせたい、何度も膣内射精して自分の精液だけで染め上げ、牝である実感の全てを自分だけで刻みつけ、自分の事だけしか考えられない女にしたい。面倒臭い。何故、今抱けばいいだけの女ではないのか。他と何が異なるのか。
「ぁ……」
寝衣の上から乳房を緩やかに撫で上げる手に少女の唇から悩ましい甘い声が漏れる。戸惑いと羞恥と隠し切れていない官能の響きと、指先にかかる小振りな乳首のしこり。西洋画の妖精の様な細く繊細な身体だが乳房は男の手が掴んでも余る淫らがましい豊かさで、布の上からでもずっと揉み続けたくなる絶妙な柔らかさと弾力だが、直接触れ、舐め、歯を立てると頭の芯まで陶酔しそうな程にしっとりと滑らかな柔肌と鴇色の乳首は男を病み付きにさせる。男の欲望を現実化させた様な妖しく初々しく危うい牝の身体。だがそれよりも更に中毒性があるのは少女の反応だった。感度が良いのに貪婪になれず何時までも快楽を隠したがる頑なな羞恥心と、甘く澄んだ美しい鳴き声、全身でよがり狂いながら男に縋り付く事を恥じ畏れる貞操観念。上手に壊さなければ完全に失われてしまうだろう、薄い硝子細工の様に儚い、だが牡を獣にさせる存在。
舌を舐られながら喘ぐ少女の身体が腕の中でびくびくと跳ね、その胸元の釦を幾つか外し細い肩から布を滑らせると上品な寝衣は胸の下まで簡単に落ちていく。少女の腕にかかる袖と男の腕だけが支える布に、上半身が露わになった少女が恥ずかしげに身体を引こうとするのも構わず男は白い乳房を手で包み指の股で鴇色の乳首を挟み込む。
「ぁ……んっ」
少女の膝がかくんと崩れ、舌と舌が糸を引いて離れる。薄桃色に頬を染め蕩けた表情の少女の乳房ごと乳首を捏ねると甘く鳴き気恥ずかしげに身体を竦め、男に縋り付くでも拒むでもない腕の微かな揺れに寝衣が更に落ち腰近くまでが露わになった。惚けながらも恥ずかしいのか布を押さえようとする指の動きに、男は細いウエストに回していた手を背筋をなぞりながら上げ、支えを失った寝衣が床に落ちる。布の落ちた軽やかな音に細い身体がびくりと震え、薄暗がりの中、少女の瞳に浮かぶ怯えの色に男はゆっくりとベッドへ白い身体を組み敷く。
暗い病室のベッドの白いシーツの上に横たわる少女の桜色に上気した柔肌が艶めかしい。まだ水滴が付いたままの漆黒のコートを脱がないまま男は華奢な肢体に覆い被さり、細い首に歯を立てる。病室は二十四時間暖かいが裸では寒いかもしれない上に、外から来た男の服はか細い身体を冷やしてしまいそうだが不思議と抑制の意識が強くはならず、ただこの少女に触れたい衝動が酩酊の靄の様に漂っていた。首から鎖骨へ、徐々に頭を下げて行きながら男は白い乳房をゆっくりと手で捏ね回す。布の上からでも触り心地の良い乳房だが直接触れると陰茎から腹腔にぞくりと来る程いやらしく手に吸い付いてくる…恐ろしく肌理の細かい肌は白い粉を纏っている様な滑らかで、嗜虐心のままに指を食い込ませると深く沈み込むが従順な柔らかさと指を愉しませる弾力が最上の果実を連想させ、男の指の動きを執拗にさせる。白い乳房もいいが、その先端の淡い鴇色の乳輪から乳首は更にいい。初々しい色の乳輪を片手で撫で回しながらもう一方をゆっくりと唇で掠ると、少女の堪え切れない甘い鳴き声が漏れる。静かな病室の中、抱える華奢な身体の高鳴る鼓動がはっきりと伝わって来る気がした。寝衣の落ちた白い身体はもう下着一枚しか残っておらず、コートの上からでは内腿の奥の熱は伝わってはこないが少女の愛液のにおいは既に漂い始めている。
やや口を開き喰む様な形で乳輪だけを唇で擽る…だが唇の間にある乳首は擽りも舌で舐りもせず、熱く緩い息だけをかけ、もう一方の乳房も乳首だけは避けて触れるか触れないかの愛撫を繰り返す。まだ弄び始めて数日だけだが執拗な愛撫と少女自身の敏感な身体で開発はかなり進んでおり、たかが乳輪を弄り回すだけで堪らなくもどかしくなるのか、上気した柔肌が更にいやらしく薄桃色に染まり細い身体が腕の中で密やかにひくひくと震える。乳首を舐め回され噛まれ抓られる事に快楽を覚えているがそれを強請るのは恥ずかしいらしく、シーツの上で細い指がシーツをもどかしげに掻き、甘い嗚咽がひっきりなしに小さな唇から零れていた。
少し胸を突き出すなり男の頭を掻き抱けば黙ったままでも乳首を押し付けられるものを、自ら求めようとしない少女の涙で潤み焦点を結ばない虚ろで夢見心地な瞳に男が映る。夢と言っても悪夢やはしたなく穢らわしい淫夢の類なのだろう。どうせならばいっその事このまま犯して膣内射精まで行って最低な悪夢を味わわせてしまってもいい気がした。どうせこの少女は誰にも言えないだろう。誰に何時何処で犯されようと一人で抱え込み圧し潰されていく…そう、誰とであっても。まだ愛も恋もよく判らない小娘である。人妻でも知らない男を好いている女でも別にどうでもいい、その場の征服欲が満たされて性処理が済めばどうでもいい。
雑音が混ざる。
静かな病室で身体を絡める微かな音と少女のちいさな喘ぎ声だけが篭もる中、不慣れな女の身体を玩具にして愉しむ精神の表層を細かな鑢が撫でて曇らせる。いや鑢の傷の曇りではないのかもしれない、まだ残る雪と氷の様に冷たい水溜まりを照らす早春の日差しの乱反射や、春風の中で低木の小さな木陰で寝転がり見上げて微睡む薄目の視界に映る一面の緑と柔らかな日差しの万華鏡…微かな音を伴う美しい光景が何故この少女との時間には過ぎるのか。
「――ぁ……っ!」
少女の喘ぎとは異なる小さな悲鳴に、男はいつの間にか細い左手首を強く握り込んでいた事に気付く。まるで子供の手首の様に細く華奢で指を回してもあっさりと余り、手足の長さを考えればもっと太さの欲しい細い骨と醜悪にならない限界の薄い肉付きに、男は一瞬息を飲む。捕まえた稀な蝶の翅を毟りかけてしまった焦りに似た気まずさに手の力を抜きかけ、そして男はどくりと男性器に一段と血液が送り込まれる感覚に動きを止める。
間違いではない。この手の力加減は決して間違いではない、そう牡の本能が荒々しく訴えている。少女に明らかに痛み与えた筈だが、暴力による野蛮な征服欲とは異なる異常な高揚感に男は僅かに眉を顰めた。もしもこれが抽挿の最中ならば射精に向けての呼び水になっていたであろう愉悦だが、たかが組み伏しただけの状態のそれに男は屈辱感を覚える。童貞の餓鬼でもあるまいし。
「呼び出したのは何故だ」
男の問いに白い身体がびくりと震え、竦む形で少女の顔が男の追求から逃れる様に横を向く。暗い病室の中、薄く開いたカーテンの隙間から差し込む弱く細い明かりが照らす少女の顔は、かなりの美女でも見慣れている男でも見惚れる程美しいが儚げで、支配欲や獣欲と言った牡の劣情を酷く煽る。自分でも信じられない手加減をしている白い肌には人目に付きにくい場所に幾つもの唇の痕が薄薔薇色に残り、唇や歯にはその極上の感触が今でも生々しい。
たった数時間で何があったのか、特別室のあの男が関係しているのは間違いないだろうと悍ましく確信しているのは、特別室で嗅いだ怪しい香りが少女の身体に仄かに漂うのを無意識で感じた為だったが、それは問いに答えない少女への苛立ちへとすり替わる。何を隠しているのか、何も説明する価値もないのか、何も心にないのか。
面倒臭い。
「――ならば続きでもするとしようか」
「え……?」
戸惑った声を零した少女が顔を向けるのも待たず男は細い腰に纏ったままの白い布を一気に引き下ろして脱がせた。下着と下腹部の間でねっとりと重く糸を引く愛液を確かめるまでもなく、熱く湿った下腹部へと無造作に手を伸ばし男は潤みきった谷間に指を這わせる。くちょくちょと可愛らしい音を立てるものの少女の粘膜の谷間は既に充分過ぎるまでに愛液を湛えており、膣口を指がくじると窄まりへととろりと卑猥に潤滑液が伝っていく。男の腕の中で華奢な身体がぎこちなく震え、情感豊かな黒目がちな大きな瞳が悩ましく揺れ、大した愛撫もないままゆっくりと膣内に男の指が沈み込んでいくだけで美しい鈴の音を思わせる柔らかな甘い声が恥ずかしげに溢れる。まだ牡の性器も知らない処女の膣が拙くも卑猥に指を喰い締め、清楚な風貌に似合わない…逆に清楚故に淫らこの上ない牡に従順な感度のよい身体から甘い匂いが漂い男に絡み付く。
ベッドに腰を下ろし枕元の鉄柵に背を預けた男は黒いコートを着たまま少女の裸身を乗せ、両脚で白い脚を開かせる。
「あまり濡らすな。愛液が俺のコートに付く」
「ぁ……っ、だめ……ゃ…あっ……は……ぁぁ、ぅ……だめ……よごして、しま…ぁ……あ……んっ」
感度を知っての上での無粋な言葉に少女が男の上で健気に何度も首を振る間も男の指は熱い膣内をゆっくりと捏ね回し続け、とろりとろりと溢れる愛液が伝い広がりやがては男のコートにねっとりと広がっていく。まだ男を知らない膣は柔らかだがやはり不慣れな緊張が残り男は指先や節で少しずつ抉られる感触を与え、男の上で華奢な身体がびくびくと妖しく跳ね、細いが女性的な丸みは充分に兼ね備えている腰が淫猥にくねり、華奢な背が仰け反る。正面に鏡でもあれば美しい身体がよがる所が見れるのだが、乗っている事で身体中でその反応を感じ取るのは堪らない愉しさがあった。指の一突きで驚く程処女肉が指を締め付け身体が震え、指の腹で膣奥を擦り続ければ苦悶の様な悩ましい声を零しながら全身を強張らせ牝肉が膣口から膣奥へとぐびりぐびりと波打つ様に扱き立ててくる。あまり運動をしない筈だが締まりはかなり良い。じわりと滲む甘い汗が柔らかな肌を湿らせ、男はしなやかな黒髪の合間から細い首筋に唇を這わせ、ゆっくりと噛む。堪えようとしてはいるらしい甘い嬌声が溢れ、指が一段と強く男の指を締め付け全身がびくびくと痙攣する。
頭の芯までを揺らす深い酩酊感に男は少女の首筋を噛みながら舌先で肌を舐めた。指を根元まで埋めて味わう少女の絶頂は繰り返し波が寄せては引く様に長く、清楚さと裏腹に淫らな身体は恥辱や責めや凌辱を糧に更に快楽に耽り溺れていく性質らしい。
ゆっくりと男は指を動かした。最初はゆっくりと、そして徐々に緩急をつけ、節を使い、膣内のあらゆる場所を暴く動きで弄り、擦り立て、突き上げる。
「まっ……ぁ、ぁぅっ……はあんっ、まって……せ…あんっ!ゃ……こわぃ……あぅんっ、いゃ……こわ…あん、ぁん!せんせ……ぇ…こわい……んう!」
ぶるぶると震えながら訴える少女の口を片手で封じ、男はぐちょぐちょと救いようもないいやらしい音を立てさせながら膣を指で責め続ける。絶頂にまだ慣れていない身では休みを与えられない連続の絶頂は怖くて仕方ないのも判り、そしてまだ事故後の検査中の身に与える負担が否めないのも判っている…検査結果を見ている限り危険はないが医師失格だと判っていても強い衝動が少女を求めさせた。がくんがくんと全身を痙攣させる少女に恐怖と快楽で自分を刻み込みたい、処女を奪わないだけ生温いと言われてもおかしくないだろう、紳士的か腑抜けか。少女に憎まれたくないのか、いや違う。この少女は憎みすらしないだろう。だが喜びもしない。処女雪の様な無垢な精神に泥塗れの足跡も破瓜の血も残らない。
面倒だ。ああ、面倒だ。
男は少女の首筋に立てた歯に力を込める。口を封じている手を少女の涙が濡らす。泣くほど嫌なのだろう、だが何も残らない。
「ん……っ!んっ、ん……んぅ……っ!」
しっとりと汗ばむ裸身の胸元でギプスの右腕と無傷な左腕を重ねるだけで自分を玩具にしている男を拒みもしない少女に男は薄く嗤う。口先だけの拒絶で膣はどうしようもない淫乱さで男の指に馴染み与えられ続ける連続の絶頂に翻弄され、ぎちぎちと指を喰い締めだらしなく愛液を溢れさせている。淫乱な性分なのだろうか、いやそうではないと判っていた。実際に怖いのだろう。快楽に不慣れな処女の怯えに男の腰骨から背筋へとぞくりと牡の征服欲が這い上っていく。首筋に歯を立て、吸い付き、構わずに跡を残す。始めの絶頂から休みなく貪り続ける指の動きに男の上で瑞穂の身体は痙攣し壊れた人形の様に跳ねては沈み、やがて男の手の中で甲高い悲鳴が幼女の様な無力な啜り泣きに変わり、そして気付けば途切れていた。
長湯の後の様にふやけた指を引き抜き、男は目に留まったバスタオルをベッドに敷いたその上にそっと少女をベッドの上に横たわらせる。病室に籠もる濃密な牝のにおいに窓を開けるべきかと手を伸ばした男は、黒いコートの袖口にべったりと絡み付く愛液に苦笑する。下を見れば少女の腰が乗っていた部分は広い面積が濡れそぼっていた。コートを脱いでもシャツの袖口にも愛液は染み込んでおり、指でなぞればねっとりと糸を引く。呆れた溜め息は自重しない自分へか淫らな体質の少女へか…恐らく両者だろう。
シャツの袖口を洗うべくベッドから降りた男は脱いだコートを失神している少女の裸身へ掛けかけ、そして思い直した様にそっと静かに少女の小さな頭の左右に手を突き、無防備な寝顔のその唇に口吻ける。甘い舌よりも更に甘い。柔らかく小さな唇が薄く呼吸をする為に開いている所をゆっくりと舌を差し入れ、口内を舐る。まだ好きな異性もいなければ誰かに許してもいなかったであろう唇を密かに奪う惨めさに自嘲する反面、どこか崇高な行為をしている錯覚もあった。卑怯さをこの少女は詰るだろうか、いや、出来ないだろう。内に抱えて鬱ぐのだろう。ならば教える事はない。いつの間にか片手で頭を抱き濃厚に唇を貪っていた男はゆっくりと顔を離し、少女の唇の端を指で拭う。誰に身も心も許しその笑顔を向けるのか…自分には関係がない。
静かにベッドから降りた男はユニットバスで手と袖口を洗い、そして数時間前にはなかった箱に手を伸ばす。一度開封した跡のある老舗デパートの包みを無造作に解き、そしてネグリジェを見て目を細めた。病院宛の配送は病室への直の配送でない限り事務受付の時間内での受取で夕方には締め切られる。ゴミ箱に配送用梱包紙も配送伝票もなく、直接渡された可能性が高いが、家族からならば箱から出さずにおく理由がなく、普通の見舞い品としては高額過ぎる。ネグリジェがやや華美だがセンス自体は悪くない事が不思議と苛立たしい。これが電話の着信の理由だろうと考えればこのままゴミ箱に放り込んでしまいたいくらいだが、受け取ったと思われるのもまた苛立たしい。煙草を吸いたい気分の男は髪を掻き上げて壁に背を預けて少女を見る。
裸身にかけた黒いコートから覗く細い足と白い繊細な顔立ち、コートの色に負けず劣らずのしなやかな漆黒の髪。今日日珍しいよく出来た市井の娘…いやそれなりに富裕層に属する可能性は高いだろう、良くも悪くも富裕層特有のゆとりを感じさせる。男の身内ならば興信所に調べさせるのは得意だがそう言った煩わしさは家を出た時に捨てている。家にいる間は身元調査は一般的なものだと考えていたが『普通の生活』では縁遠いものだと今では判っている。――何故その考えが浮かぶ?つまりは自分はこの少女の身元を調べたいのだろうか?たかが入院患者の小娘を?捨てた生活のやり方そのままに?馬鹿らしい。
どうとでも出来るこの娘が悪い。無防備で脆弱でどう扱っても内に秘めて抱え込むとあっては男に食い荒らしてくださいと言っている様なものである。そう、今この場で犯して孕ませても、この娘は必死に隠すだろう、父親が誰かが判っていても判らなくても、そして、恐らく堕胎はしまい。馬鹿な娘である。無性に自分の手で全てを壊してしまいたい衝動。このまま連れ去りたい欲望も些かならず存在するもののそれは流石にこの病院の医者として自制が働く。
薄闇の中、狩りの獲物を見る様な感覚で男は少女をじっと見つめる。微かに雨音が聞こえる中、まるで透明な砂に埋もれている様な空気の重さを男は感じていた。指を動かすのに何十キロと負荷が掛かり、肺の奥に空気を送り込む事ですら身体の軋みを覚える様な錯覚…重圧に圧し潰されるなどではなく、時間が異常に遅くなる感覚。切れる寸前まで張りつめた弦か、粘度の強い油の中で大きな気泡がぶくりと緩やかに浮かんでいく様な……。
白い顔の傍にある細い指がぴくりと揺れた。
「せんせ……」
小さな、とても小さな寝言が可憐な唇から零れ、男の耳をくすぐった。
知ったものか。この小娘が無防備なのが悪い。
剥いだ黒いコートを椅子の背凭れに放り出し、男はベッドの上に乗り少女の膝を割り脚の間に身を割り込ませる。ねっとりと濡れて貼り付いている濃い柔毛がいやらしい。範囲は広くはないが豊かな髪と同じで細いが密度が濃く、白い肌と初々しいが淫らがましく濡れて開ききっている鴇色の粘膜の対比が強い。腹部は薄く身体中が儚げで脆い印象だが乳房は仰向けのままでもさほど形を崩さずぷるんと突き出したままで、だがその僅かな撓みが堪らなく卑猥だった。そして目立たない場所を選んで付けた男の唇の痕が夜目に意外と目立つのは乳首と柔毛と桜貝の様な爪以外は少女の身体は白い為だったが、その白い肌は連続の絶頂の余韻からまだ抜け出せずに薄桃色に上気して酷くいやらしい。清楚な印象が強いが、だからこそ無防備に失神している姿は淫らさで強烈に嗜虐心を煽り立てる。
甘い。しっとりと汗ばむ全身とたっぷりと溢れている愛液のにおいは密やかに咲く花々に顔を埋めている様に甘い。入院見舞い用の香りを抑えた花々の中、薔薇や百合と言った自己主張の激しい切り花でなく、温室の片隅でひっそりと咲く花か地に生えた無数の白い花か小さな花が今を盛りと咲き誇っている低木を少女の匂いは連想させる。ボディーソープやシャンプーの香料が少女自身の体臭と重なり独自の匂いは甘く男を包み込むが意識をすると余韻が穏やかに消える…残り続ける強い匂いよりも常習性が強く、ある意味魔性を感じさせた。
男はゆっくりと身体を沈めて少女の頬に口吻ける。十七歳。もう成長期は終わっている身体はとても華奢で顎も首筋も鎖骨も簡単に折れそうな程細く、頭も軽く抱え込める程小さい。腰まで届く黒髪は細く癖がないが豊かで細い首が支えるには重いのではないかと思えるが、少女に似合っているのもまた事実だった。頬や額に軽く唇を重ねる口吻を繰り返し、細い顎に軽く歯を当てる。汗や愛液でコートとシャツの袖口だけではなく全て濡れてしまうかもしれないと考えるものの服を脱ぐつもりには何故かならない。華奢な身体を潰さない様に片肘を付き、男は少女の乳房に指を這わせる。肌理細やかな柔肌がしっとりと汗ばみ男の手に吸い付いてくる感覚が悩ましく、僅かに指先で押すと薄暗がりの中淫猥な影が浮かび上がり、男はゆっくりと豊かな乳房を撫で回す。
「ん……」
微かな声が小さな唇から零れ、白い身体が揺れる。
眠っている女の身体を弄ぶのは珍しいかもしれない。相手に恥辱を味わわせると同時に肉欲を発散する事が多いのだから、眠っていては意味がない。乳首かクリトリスを抓って起こせばいいのだが何故かその気にならないのはこの少女の華奢な身体のせいだろうか?あまり体力がある様には見えない細く白い身体は連続の絶頂に疲弊しているのか力無く弛緩している。たかが指で弄った程度でこの様では牡を受け入れさせて夜通し犯し抜けば暫く起き上がれないのではなかろうか。だが、だからこそ犯してみたい衝動に男は駆られる。この細い腰を抱えて奥を突きまくるのはどれだけ嗜虐心を満たすだろうか。
細い鎖骨にゆっくりと舌を這わせながら乳首を避けて乳房を撫で回す男に、甘い声を漏らした少女が緩く首を傾げ白い首筋が伸びる。吸血鬼物の映画のヒロインを思わせる耳から肩への細く美しい曲線に、男の腰から背筋までぞくりと妖しい劣情が這い上り、男は白い首筋にしゃぶりつき舐め上げ歯を当てた。男の脚の左右で細い脚が揺れ、眠ったままの呼吸が乱れ心地良さげな上擦った吐息を溢れさせた少女がうっすらと瞳を開く。状況が判らないのかぼんやりとしている蕩けた顔が乳房を柔らかく捏ね回された瞬間、淫らで美しい鳴き顔に変わり、甘い喘ぎ声が零れた。
掌の中央に乳首を当てられる形で遅々とした動きで乳房を転がされるのがもどかしいのか、眠った状態で身体を弄ばれていたのが恥ずかしいのか、精一杯身を縮込まらせようとする瑞穂に、守崎は首筋に当てた歯に力を込める。感極まった様な甲高いいやらしい声が小さな唇を割り、男は首筋の薄い皮膚を歯でこそぎ落とす動きを何度か繰り返した後、少女の首筋と鎖骨の間に鋭い音を立てさせつつ吸い付き痕を付けた。襟刳りの深い寝衣を纏えば露出してしまう場所にはっきりと付けた印は他の場所のものより濃い紅色で紅梅の花弁が乗っている様に見え、男は口の端を歪める。
「せんせい……?」
顔を上げた自分の表情に気付いたのか戸惑った様な声を漏らした少女に、男は掌が触れていた乳首を指で挟みやや強く擦り立てた。
「あの箱が俺を呼んだ理由か」
悲鳴に近い喘ぎを堪えようと更に縮込まった少女が男の問いにぴくりと身を震わせる。
だがおかしな話だった。事故の加害者の雇用主からの贈り物が高額で戸惑ったのならば未成年である少女はまず両親に相談をするであろう。そこに医師が介入する必要はない。特別室でのあの老害の悪戯を思い出してしまったのならばもっと塞ぎ込む上に…恐らくこの少女は自分に相談はしまい。
不愉快な確信に男は僅かに眉間に皺を寄せ、指で挟んでいた小振りな乳首を引いて仰向けの状態でも形良く突き出ている豊かな乳房を上下に軽く揺らす。
「答えろ」
乳房を弄ばれながらの詰問に羞恥に身を縮込まらせる少女の瞳が複雑に揺れる。何か言い辛い事があるのだろうか、黒目がちな大きな瞳が一瞬男に向けられ逃げる様に逸らされそしてキツく閉ざされた。
「あ……の……、先生…、先生は、先生の……」
何度も口篭もった少女が思い詰めた様な瞳で男を見上げてくる。自分は何かを聞き出したいのだろうか、いや本当は興味がないのかもしれない、全て何もどうなろうと構わない。ただ目の前の少女を弄ぶ事が愉しい。新しい玩具で遊ぶ餓鬼と大差がない、くだらない興味。だがだからこそ厄介な程手に負えない。愉しいのだ、この少女を弄ぶのは。
雨が降る。雨音が聞こえる。遠い足音。職場である病院で患者を組み伏す…患者でも看護婦でも抱いていて後ろめたさも何もない、自分は医師としての職務は全うしており支障を来す事はない、ある意味の日常。善良な医師ではないのだろう。人妻でも何でも女としての許容範囲内かつ向こうから欲情して求めてくるものと自分の気分が一致していれば抱くだけだが清廉潔白とは言い難いだろう。だがそれのどこが悪いのかが判らない。倫理は認識しているが知識と実感は同一ではない。何も感じない排泄行為に似た行動。この少女も同じで表層意識の遊びに過ぎない、しかし極上の玩具である。滑らかな白い肌と妖精の様な華奢な肢体の未完成な完成品。怯えた様な思い詰めた様な情感豊かな美しい瞳で見上げ、何度も口を開きかけては黙り込む。何を迷うのか何があったのかを推測する手間さえ遊びとして許容出来そうなのは今目の前にこの少女がいるからだろうか。不愉快さと愉しさが絡み合う。相反する自己分析。雨音が疎ましく、小動物の様な動悸を密やかに包み込む。冷たいであろう雨と柔らかく温かな柔肌。
「……。私の服装は家族を辱める様な見窄らしいものなのでしょうか?」
僅かな間の後の妙に深刻で苦痛を感じさせる声に、男は一瞬問いの意味が判らず少女を見下ろした。そもそも今の少女はギプス以外は一糸纏わぬ裸身だなどと的外れな事を考えてしまったのは、少女の問いが予想外のものだったからだろうか。いや老害からの贈り物がネグリジェだったのだからそれに関しての話でおかしくはないのだが、奇妙な違和感が男の思考に引っかかる。
衛生上の問題等でアメニティと寝衣のリースは全入院患者に課せられているが、揃いの浴衣にせよパジャマにせよ着こなすだろうが少女には白い寝衣の印象が強い上に、凝った寝衣はどちらかと言えば贅沢な品だと一目で判る。
「爺からの贈り物に目が眩んだか?」
「……。い、いいえ!」問いへ返した問いに僅かに首を傾げかけた少女が驚いた様子で首を振る。「ただ、服装に…問題があって配慮をされたのかと……」
男女の行為のそれとは異なる羞恥に悲しげに身を縮込まらせ小声で話す少女に、男はくっと嗤いながら少女の乳首を舐め上げそして強く吸い上げる。吸い付く音と同時に甘く切なげな声が聞こえ、白い腿が反射的に男の身体を挟み込みびくびくと跳ねた。唇が重なる乳輪も小豆程の乳首もまだどこか幼げで初々しくありながら感度は十分な上に乳房は男の手で掴んでも余るたわわさで、そしてその柔らかさと張りは絶妙な淫らさで男の愛撫を唆してくる。舐っていないもう一方の乳房を捏ねる指にゆっくりと力を加え、男は少女の限界を探る様に徐々に乳房に指を食い込ませていくが、悲鳴をすぐに上げるかと思っていた白い身体は強張りながらもびくびくと淫らに跳ね、僅かに悲痛さを増した鳴き声は悩ましい艶を帯びていく。
「――痛い思いをするのが好きか?」
「そんな……ぃえ、そうでは…なく……」
顔を上げての問いに、涙を浮かべ明らかに苦痛よりも快楽に翻弄されている切なげな表情の少女が困惑した様子で更に縮込まろうとし、びくんと跳ねる。痛みに悲鳴を上げてもおかしくない指の力加減のまま乳房を大きく捏ね回す男の下で細い腰ががくがくと震え、鳴き声を堪えようとする甘い吐息が病室に溶け、少女の匂いと淫らな熱がベッドの上に漂い震える華奢な身体がそれを揺らす。
「この程度では痛くすらない、と?」
熱に浮かされる様に首を振る少女の肌は既にしっとりと汗ばみ、漆黒の髪が淡い桜色に上気した肌に絡み付く風情が酷くいやらしい。雨音とベッドの上の衣擦れが混ざり、男の背筋をぞくりとざわめかせる。まだ犯し抜いていないからこその愉しさなのだろうか、犯してしまえば他の女と同じになるのだろうか。同じである。どの体位でも何処でも誰でも肉棒で貫いて焦らして突いて女が乱れる様を愉しんでから射精して満足する。作業染みた性欲の解消。この少女はどう喘ぐ?何時間保つ?何度失神する?膣内射精される瞬間は鳴きながら誰かに許しを乞うのか、牝の獣の様に自ら腰を振りたくるのか、腰に脚を絡めてくるのか…。乳房を荒々しく揉みしだき、乳首を吸い上げ転がし噛むだけで既に甘く蕩けて処女を喪失する準備が整ってしまう淫らな小娘。
「胸を掴まれるのと膣内を指で掻き混ぜられるののどちらがいい?」
まるで破瓜の痛みでも堪えている様な苦痛と快楽の混ざった鳴き顔の少女が男の問いに息を詰まらせる。卑猥な行為のどちらかを選ぶなど出来ようもない女だと判っている上での問いの愚かさに男は小さく嗤い、硬く突き上げている鴇色の乳首を軽く噛む。びくりと跳ねる身体に腕を絡め、ベッドの上で細い裸身を抱き締めて男は僅かに顔を寄せただけでおずおずと差し出された舌を舐め上げる。
堪らなく嫌になる。面倒臭い。肺腑の底に蟠る無性に嫌な燻りを感じる。女を抱く事はもっと楽でどうでもよい軽さがある筈だが、おかしな違和感があった。愉しさと混濁する不自由さ。
少女の汗がシャツに染み込み肌触りが重くなる感触と鼻腔を満たす甘い香り。差し出される舌の震えと滑らかな唾液と薄く目を開ける度に見える少女の涙。恋愛感情のない男に抱き締められ舌を舐られるのはどれだけ恐ろしいのだろうか、そう考えた男は先刻の問いに近い無駄な思考に自嘲する…快楽は確かにあるのだからそれ以上に何が必要なのだろう、少女が逃れようとしないのは結局の所快楽が目当てであり自分と違いはない、だがならば何故自分はこの少女を犯して射精をしないのか?患者を犯すリスクの問題で意識に上らないだけで何かの不都合があるのだろうか?例えば検査結果のどこかに密かな異常があり気付けていないのか?不意に掠めた可能性に男の意識がすっと醒めていく。
「――男が女に服を送るのは脱がす為だ」
「……。――?」
抱き締めていた腕を解き少女から身を離した男はベッドの端に腰を下ろす。全裸に腰まで届く漆黒の髪を絡ませた少女が心細げな表情で自分を見つめるのが視界の隅に映り、男は軽く乱れた髪を掻き上げる。
「車の内装と大差ない。自分の居住性を向上させる行為だ。ペットのトリミングもそうか。対外的にも所有権を主張する意味合いもあるかもしれない」
「私は香取様の親族ではありませんが……?」
「……。事故の加害者側として施してみたい気紛れかもしれないが、俺の知った限りではない」特別室での悪戯を知っている男はそれが牡から牝への御機嫌取りの飴玉だと判っているが少女に伝えるべきではないと何故か認識していた。「俺が爺に返しておこう」
よろめく様に裸身を隠そうとする少女がびくりと身を強張らせる。
「先生は…香取様とお知り合いなのですか?」
「良い面識ではないがな」
自宅へ帰る前に診察室で検査結果を再確認しておく必要があるだろうと考えつつ立ち上がった男は贈り物の箱とコートを手に取りそのまま病室を後にした。仰々しい箱を抱えて夜の病棟を歩く姿を見咎められるのは面倒だが、偶然にもナースセンター内は出払っており、そのままエレベータに乗り込んだ男は行先ボタンを押す時にこのまま面倒な箱を特別室に放り込むべきかを考え、そして僅かな間の後、階下へのボタンを押した。
腕だけでなく、身体中からあの少女の香りがする。汗を掻いた身体を抱き締めたのだから服に香りが移っても当然であるが、不思議と疎ましくはない。シャツの湿り気や微かな抵抗感が柔らかな肌を思い出させ、ふと男は上を見る。
帰り際の少女の声音の不安定さが今更ながらに気にかかる。
もう少し抱き締めておくべきだった様な気が、した。
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『STAGE-10』
改訂版1703042303