ずん、と膣奥を何かに突き上げられ、ベッドの上で私の身体が跳ね上がる。
「あ……ぁ…ぁぁぁぁ……っ」
痛い。苦しい。全身が嫌な汗でびっしょりと濡れている私の唇から戸惑った様なおかしな苦悶の声が零れる。処女喪失と言うのはこれ程痛いものなのだろうか、母親や成人女性の全員がこの苦痛を経験しているとしたら生物は何か間違えた肉体的構造で発生している気がしてならない。腰の下に敷かれているバスタオルがどうなっているかは考えたくない。
無意味に声を零す私を、幼馴染が見下ろしている。月明かりの下の、とても穏やかな、でも幸せそうで、辛そうな顔。
「ごめん。彩音」
指を絡めて私の身体をベッドに押さえつけていた手がそっと解かれて、私の頬を撫で、そして涙を指先で拭う。
綺麗だな、とふと思う。広い肩に厚い胸板に逞しい…でも筋骨隆々と言う程ではない脂肪の少ない引き締まった身体。見知らぬ中年の小父様に初体験を捧げるよりは絶対にいい筈なのに、心は晴れない。昔から良く知っている間柄だからこそ、援助交際の相手として抱かれるのが辛い。没落して身売りをする自分が幼馴染を穢している気がして。
「少し、話をしようか」
「え……?」
「すぐ動いたら辛いだろうし、少し話して気を逸らして萎えさせた方が…その、抜いて着け易いだろうから」
「え……」
その言葉にそれまでの行為を思い出し私の顔全体が熱くなる。確か挿入の前に公孝のものに私は触れて、そして…その後避妊具を着けた間がなかった気がする。つまり今私の膣内にみっちりと収まっているものは避妊具未装着で、初体験で生と言う社会人の公孝はともかくまだ学生の私が許していい状態ではない気がする。いやそもそも夫になる人以外に身体を許している時点でもう貞淑などを口にする権利はないのだけれど。
男の人はそう言う慎みはないのかもしれない。でも公孝の家柄なら出来ちゃった婚狙いの人が現れてもおかしくない、その意味でこの前までその階層にいた自分は騒ぎ立てない無難な性欲処理相手なのだろう…。ちくん。胸が痛い。何なのだろう。私がもしも何かあって誰かと結婚する時には非処女だと判って失望させるのだろうけれど、公孝は童貞を適当な相手で捨てたのは負い目にはならないのだろう。それは多分悔しい事だった。
「……。え…えー……えっと……、そ、その……あの…、多分、だいじょぶ」
「?」
「今日、多分、その……安全日」
一応にも自主的に援助交際をしてしかも処女喪失なんてオプション付きの身としては怖くて色々調べた結果選んだ日付なんて言うのもある。もしも相手に無理強いされても妊娠の可能性が低い様に警戒して対策を講じるのは決して悪い事ではなかった筈なのに、なのに。
公孝の気配が、貫かれて痛い状態なのに逃げたくなる位に、怒気を孕んだ。
「彩音……。そんな馬鹿な事は二度と考えるな」
いつも穏やかな声が低くなって軋んでいる。ぞくっとする程怖くて、いつも困った様な笑顔で私の我侭を聞いてくれた幼馴染が知らない男の人みたいで身体が竦み、そして膣奥を突き上げたままのモノが更に大きくなってぐいと角度を変えた気がして、まだ処女喪失直後の激痛を更に酷いものにした。それなのに、何故、魅入ってしまうのだろう。
数瞬の怒りの後、公孝は気まずげに一瞬目を逸らし、その後目を閉じて深く息をつく。
「困った事があるなら全て言って欲しい。こちらでどうにか出来る事は全て手を打つ」
そう言い私を抱き締める公孝に、私の胸の底が少し冷えた気がした。私が今必要なのは母親の入院代であり、それは今月だけの話ではなくて、それは恐らくずっと続く…それを公孝が埋めてくれると言うのだろうか、つまり、それは一時の、この場合は三日限りの援助交際ではなくて愛人契約だと考えるべきなのではなかろうか。一時だから何も持たない小娘でも愉しめるのであってそれが続けばこの人は釣り合いの取れなさに気付くだろう…それとももう気付いていて哀れんでいるのだろうか。でもそれは他の人に身体を売りたいとはもう考えていない私にとっては有難かった。
「うん…、ありがとう……」
「背負い込むな。頼むから」
「うん……」触ってくれているのに、今はっきりと貫いているのに、私の処女喪失の相手がとても遠い気がする。「続けて、いいよ……もう平気……」
朝日、いや、もう昼近くの日差しが差し込んでいる。泥の様に眠っていた私は軋む身体を緩慢に動かして隣を見た。
よく眠っている。
あれからずっと抱かれ続けていた。やっぱり避妊具なしは魅力的なのか装着しないままずっとずっと貫かれて、膣奥で射精されて、抱き締められて、痛みで泣きじゃくる私をあやして宥めて…最後は憶えていない。でも幼馴染が何度も射精する度に満足そうで、だけどどこか申し訳なさげで、それなのに痛み以外が心地よくて自分が判らなくなる。とりあえず三日限りの関係でないのは確実なのだろうか?確認しないといけないのに怖くて口に出来ない。
クイーンサイズのベッドの脇にあった下着を手に取り身に着けようとして、腰の下に敷かれていたバスタオルが血に染まっているのに気付いて私は耳まで熱くなる。この人に抱かれたのだと言う肉体以外の証が堪らなく恥ずかしくて、かろうじて出血が収まっている下腹部をバスタオルの端で拭って急いでパンティを身に着け、そしてブラジャーのホックを留めかけて、視線に気付く。
「おはよう」
「もう、昼くらいだから」
ベッドの中で頬杖をついてこちらを見ている初めての人に、私は慌てて顔を背ける。
「シャワーを浴びたら食事に行こう」
「え…でも外に出るの……」
周囲の人には私が昨晩処女喪失をしたと判らないだろうし相手が一緒にいるこの人だと判らないかもしれない。それでも恥ずかしくてまだ外出をしたくない。第一、少し身動きして判ったのだけれど身体中が、特に腰と内腿がとても痛くて動作が怪しい。
「買い物もしたいし、その間に清掃に入って貰った方がいい」
盛大に乱れてシーツに皺が寄りまくっているベッドを指差して苦笑いを浮かべる人に、私は少し唇を尖らせる。
男の人は、ズルい。
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36『処女を奪われた後の少女』
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