好き。好きだった。
幼馴染のモノがゆっくりと、膣口から奥へと身体をこじ開けていく痛みに私の身体がベッドの上でびくっと跳ね上がって、そして硬直する。痛い。泣き叫びたくなる位に痛い。裂ける。裂かれる。――それでも叫ばないのは、つまらない意地だった。本当は叫びたい。止めてと言いたい。
でも言えない。
私は、所詮、売春婦なのだから。
唇を塞いで、直前までの甘過ぎて蕩けそうな接吻をしてくれながら処女を奪ってもらえるかと思っていたのに、公孝は挿入の直前から唇を離して私を見下ろしている。とても穏やかな、微笑んでいる様にすら見える顔。ずっとずっと愛撫を繰り返してくれていた手が私の手を握り、所謂恋人繋ぎの状態で、私の抵抗を奪っている。
「は……ぁ……ぅ…っ…!ぃ……た…っ……たすけ……て……っ」
本当に、本当に、この青年はじっくりと私の身体を解き解してくれた、と思う…嘘でなければ童貞の筈なのに乳房も背中も何もかもを時間をかけて撫でて舐めて弱い場所を探し続けて、抱き締めて、接吻を繰り返してくれていた。何時間ベッドの上で幼馴染に身体を可愛がって貰い続けていただろう。夕食を食べていないなとふと気付くけれど、空腹は憶えていない。ホテルの上層階のスイートルームから見える月の位置が変わっている。月明かりが照らしていた。引き締まった、精悍な身体。解れた漆黒の髪、整った顔立ちで紳士的な微笑みで、どこか辛そうに、だけれど幸せそうに、見下ろしている…彼自身のモノで貫かれる処女喪失の痛みに苦しむ私を。
太いと思う。私の手首よりも太い…それは挿入前にそっと触れさせられて知っている。他の男を知らないから比較は出来ないけれど、私を解そうと少しずつ増やしてくれた指の、三本分より確実に太い。最初の一本からどれだけ掻き混ぜられ続けただろう。奇妙な異物感がもどかしさに変わり、少しだけ慣れてからそれが気持ちよくなるまでずっとずっと、執拗に、根気強く私の中を掻き混ぜて擦り立てて解してくれて、指が二本に増えて、三本に増えて…少しずつ、私は女になる準備を整えられていった。優しかったと思う。紳士的だったと思う。気持ちがいいと、思う。
でも、彼を感じれば感じる程、胸の底で氷の欠片が育っていった。
小さな頃からの幼馴染。優しくて、頭が良くて、いつも困った様な笑みを浮かべて我侭を聞いてくれた人。でも、私は、今、彼に買われている。援助交際で、自分を売ってしまった。つまり、そこに、愛情は無いのである。俗に言う筆下ろしには最適だったのかもしれない。没落した私と違って彼の家は順風満帆、そんな環境でおかしな女を買う訳にはいかなかったのだろう、私ならば脅迫したり何か問題を起こす可能性は低い。それは判る。判るけれど…それならば、せめて、優しくしないで欲しかった。処女を捧げるのだから優しくして欲しくはあるけれど、あくまでも娼婦として扱って欲しかった。
じわりじわりと、彼のモノが私の身体を裂いていく。怖い。直前まで蕩け切っていた身体が嫌な汗でびっしょりと濡れている。痛い。裂かれていく。ぎゅっと公孝の、私の身体を裂いている男の手を握る手が汗ばんでいる。指一つとっても、私よりも幼馴染の方が大きい。肩幅も胸板も腿も首筋も何もかもが、私より大きくて力強くて、気圧される。男の人なんだ…この人は昔から知っている幼馴染ではなくて、もう、大人の男の人なんだ…。嘘でなければ、今、この人は初めて女の人を貫いていて…そして、私が初めての女の筈だった。それなのに、嬉しくない。結ばれた、と思えない。いや、実際に違う。私は、買われてしまった。仲良く庭園で遊んでいた負い目のない間柄ではない。私は、好きと言う事も出来ない、売春婦として、彼に抱かれてしまった。
「公孝……っ!」
手術が必要なのではなかろうかと思える程の、裂かれる痛み。処女喪失に縫合手術など要らないのは判っているけれど、痛みで涙が溢れる。シーツの上でぎゅっと縮込まっている身体が本能的に逃れようと上へ逃げようとしているのに、男の手に手を握られて、指を絡められて、私は動けない。
聞いて。聞かないで。直前まで、本当に、気持ちよかったの。初めて乳房を撫でられて、揉まれて、甘噛みされて…とても気持ちよかったの。お互い初めての筈なのに、少しも焦らずに私の身体の隅々まで幼馴染が可愛がってくれた。クリトリスも…あんなに気持ちいいと思わなかったし、膣も、そうだった。もしかして、少しは、可愛いと思ってくれているのかもしれないと期待してしまう位に。
それなのに、今、幼馴染は、私を見下ろしている。涙と汗でどろどろになっている私を、とても幸せそうに、苦しそうに、じっと、見下ろしている。
痛い。痛い。――身体も、胸も。
私が処女を捧げた人。私が買われた人。
月明かりの中、堪え切れず私は泣き出して首を振りたくる。少しの振動でも膣に伝わるみたいでより一層激痛が酷くなるけれど、もう自分が判らない…絶対に甘えられないのに、私はただの売春婦なのに、求めてしまう。ほんの一瞬でも、可愛がって。私を、ただの売春婦だと思わないで。気紛れでいい。道具としてでもいい。瞬きの間でもいいから、愛して欲しい。
叫び声が、溢れる。
「彩音……」
繋いでいたまま硬直している指が優しく解かれ、男の指が解れて私の顔にかかっている髪を梳いた。
何故、苦しそうな顔をしているの。ゆっくりと挿入しているのが辛いのだろうか?それとも勢いよく挿入するのは辛いのだろうか?そういう知識に疎い私にはその苦痛の意味が判らない。私がどれだけ辛くてもこの人が愉しければせめて救われるのに、処女相手だと満足は出来ないのかもしれない。お金で買われたのに役立たずなのが嫌で、そして、この人にこんな顔をさせる自分が嫌だった。
幼馴染の唇が、私の唇に重なり、そして何十回…もしかしたらもう百回を越えたかもしれない接吻が始まる。ぬるっと舌が唇を撫でるだけで、今まさにつけられていて、もっと悪化する筈の下腹部の傷を癒してくれるみたいな優しくて甘い動き。眩暈がしそうな位に、この人の接吻は、上手だ、覆い被さっている肌は薄く汗ばんでいて、入浴で上品なコロンの匂いがなくなって感じる男の身体の匂いに、私は泣きじゃくりながら、唇を深く重ね舌を絡めながら、息を吸う。嫌じゃない、男の人の匂い。それは甘い匂いじゃなかったけれど、この数時間で嗅ぐだけで不思議と胸の奥まで染み渡ってぎゅっと切なくて苦しくて…幸せだと感じるものだった。身体の全てが、この人に作り変えられていく。少し怖くて、恍惚として、そして、胸が痛む。何故抱き締めるのだろう。何故、こんなに愛しそうに、宝物みたいに、優しく、力強く、まるで壊れ物みたいに。
私を、今、裂いているのに。
自分の肩の両脇に落ちている手の行き場が見つからなくて、私は迷う。彼にしがみつきたい、気がする。
ずっとずっと接吻が続き、その間中、膣内のそれは全く衰える事はなく…逆に更に大きくなっている気がする。痛過ぎて、判らないけれど。何度も名前が呼ばれる。優しい響きで呼ばないで欲しい。誤解したくない。期待したくない。落ちぶれた身だけれど、もう他の人に身体を許すつもりにはなれないから。どうにかして、この身体以外で働いてどうにかお金を稼ぐから。だから、勘違いしないで、この人の全てを憶えておきたい。
鼓動が身体を揺さぶる。繋がっている部分はまだ途中までで動いていないのに、全身がこの人を感じて溶けていく。
はぁっと息を僅かにつく度に、唾液が糸を引く。至近距離で見つめられて、恥ずかしい。この人には私はどう見えているのだろう。落ちぶれた、昔の、幼馴染は。
彼の胸板に軽く押しつぶされた乳房が汗に塗れていて滑る。全身が汗塗れで、恥ずかしい。部屋に籠もる、におい。
「彩音。――あと少しだから、我慢して」
そう言い、彼の指が私の額を撫でた。
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29『再会』
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