森林警備員の父が恐らく死んでもうすぐ一年。まだ手に馴染みきらない大弓を背に巡回路を馬で駆けていたアーシャは不意に手綱を引いて止まらせた。森が妙に静まり返っている。実りの季節であり森が静まりかえるにはまだまだ早く、大型獣が巣篭もりの為に餌を集めだすにももう少し余裕があるだろう。ぞくりと何か嫌な感覚がして逃げ出したくなった娘は踏みとどまり、大弓を手に持つ。実りの多い森に近い町は規模の割に裕福で小規模な盗賊の襲撃が少なくはない。だがその父はいない…実際に死体は見つかっておらず、森林警備員が一人消え二人消え、領主への陳情で都会から軍人の駐留が予定されてはいるけれど、それもいつか判らない。アーシャが弓を持つ様になったのは、もう村に武器を持てる男がいなくなった為である。
唐突に、馬が嘶いた。アーシャを振り切る様に前脚を跳ね上げられて飛ばされ、木の幹に背中を打ちつけて息を詰まらせた娘が気付けば馬は巡回路の遥か先へ姿を消していく所だった。
『何か…いる……』
直前まで静まり返っていた森がざわめいている。木々の葉擦れの音、何か重いものが動いている重い音。枝が折れる音。耳を澄まそうとしても急速に膨れていく音の洪水に娘の全身が鳥肌立つ。何かがいる、だがそれ以外がいない。弓に矢を番え、どこに向けるでもなく引き絞ったアーシャの足首に、不意に何かが巻き付いた。罠で足を取られた様な勢いで娘の身体が宙を舞い、そしてそれは落下する事なく他の何かに手足を絡め取られる。気味の悪い濡れた感触と熱さよりも骨を砕かんばかりの力で絡め取るそれの色と形に、娘は悲鳴をあげる。
男性器に似た、赤黒い長大な触手。その先端は、アーシャの知っているそれに余りにも似通っていた。鳥の卵に似た傘と、ぼこぼこと歪に隆起した筋を浮かび上がらせている幹。だがそれはアーシャの知っている男性器ではない。知らない…何メートルにも及ぶ長くうねる幹など、人の手足の様に器用に蠢き森林警備員の服を無造作に破り、アーシャを全裸へと剥いていく、生殖を考えているとしか思えない魔物など。
「嫌あ!」
何十何百もの大小の触手が枝を折り、幹を砕き、豊かな森を悪夢に染めていく。昔話で聞いた魔物。何十年かに一度人里だけでなく領地の殆どを破壊し尽くす魔物。
白い服が引き千切られ、娘の裸体が陽光に照らし出され、だがそれは赤黒い触手に巻き付かれ柔肌の半分は覆われていく。むっと息が詰まる青臭い臭いに娘の歯がかたかたと鳴り、下着を引き千切られたばかりの下腹部から温かな尿が恐怖のあまり迸り、足の届かない地面に落ちていく。どうしてこんなに男のモノに似ているのだろう、触るな、触るなと念じる娘の口と膣口と窄まりを粘る樹液を垂らしながら撫で回し、そして強引に孔をこじ開け貫いていく。
「――!!」
太い。アーシャの知ってるただ一人の男のものよりそれは太く、そして異常な動きで三箇所の孔を同時に犯す。人間の血管と違う無数の瘤をぼこりぼこりと浮かび上がらせ脈打つ度に前戯も何もなく犯される娘の中でおぞましい熱い汁を迸らせる。まるで子供の指の様な細い触手も、アーシャの腰に巻き付く大蛇の様な太い触手も、全てがどろどろと熱い汁を垂らし脈打ち娘の身体を穢し犯し抜いていく。膣奥で何度もなんども脈打ち汁を吐き出す触手に、人間の娘はそれが自分を孕ませるものだと直感し、太い触手に口腔を犯されながらくぐもった悲鳴をあげる。
ずるりと動く。そう、同じ場所で犯され続けてはいなかった。森の奥にある本体の存在を、意識のどこかで感じる。――だがそちらへと引き戻されているのではない。向かっているのは、町の、女子供しかもういない町の方角だった。巨大な本体ごと進んでいるだけだった。アーシャが何か特別なのではなく、進路の途中で捕まった牝の一匹。守るべき町は恐らくこのすぐ後に襲われて、そして誰も助からない。
まるで森が主に道を譲る様に目の前の木々が薙ぎ払われていくのを虚ろな瞳に映しながら、アーシャの腰がびくんびくんと妖しく淫らに前後に宙で揺れる。痛い筈の太い触手が無限の様な汁をごぼりごぼりと幹全体をうねらせ膣奥で迸らせる度に、娘の理性が削られていく。全裸に千切られた布切れを僅かに纏わせただけの姿で無数の触手に犯されている娘が、まるで船のヘッドフィギュアの様に化け物の侵攻の最前で、絶頂に激しく全身を仰け反らせ痙攣する。
あの昔話の魔物はどうなっただろう。
朦朧とした意識の中で、娘はただ一人の男を思い出す。父さん。昔話の続きを教えて。
――そうだ、大国の軍と英雄に退治されるまで、ずっとずっと、増え続けていくんだった。
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28『気遣うような優しみを感じる行為と痛み』
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