「美波さんが怪しいと思いまーす」
緊急ホームルームの最中唐突に響いた揶揄う様な声に教室が凍り付いた。
修学旅行の集金予定だったその日、学級委員が集めていた額は振り込み以外で件数が少なかったとは言え十万円を優に超えていた。『疑う訳ではないが』と担任が始めた事情聴取の気拙い最中、大声を上げたのは私立高校での権力者である理事長の孫娘でありPTA会長の娘である香奈である。校則ギリギリの派手な髪に短いスカート、どう見ても品行方正とは言えない傲慢な彼女が指定したのは、奨学生の美波だった。
「美波さんち貧乏だし。ほら体育の授業で美波さんだけ遅れて校庭に来てたし…ねえ?」
「あー怪しい。美波さんいつもおどおどしてて後ろめたいの?」
「普段から怪しまれる態度してるのが駄目なんだよねー」
香奈の取り巻き達が同調するのを聞き美波の顔から血の気が引いていく。一人だけ着替えが遅れたのは体操着が見つからなかった為であり…女子更衣室ですらなく女子トイレのゴミ箱に捨てられているのを見た瞬間泣き出しそうになってしまった辛さが蘇り膝の上に置いている手が小刻みに震えだす。
学園は香奈の王国。ここでは香奈の言葉が法律。――実際に母子家庭であり公立高校ですら母親の負担になる為に進学を諦めかけていた美波にこの学園の奨学生を薦めてくれたのは中学時代の担任だった。中学時代から容姿端麗成績優秀で周辺中学でも有名だった美波は試験にも通り、贅沢としか思えなかった私立学校への進学が叶った…だが待ち受けていたのは学園の女王による妬みの冷遇だった。
体操着が隠されるなど日常茶飯事で、だが探せば見つかるギリギリの範囲の苛めは常に美波の間違いとして処分されてしまう。教師も生徒も美波への仕打ちは誰も声を上げてはくれない。孤立している美波は遠回しに命じる香奈に促された教師の指示に従い教壇に立つ。
「じゃあボディチェックー。そうだなぁ…斎藤君、やってあげて?」
「え?」
唐突に指定されたのは美波をいつもいやらしい目で見ていた男子生徒だった。香奈の獲物である美波には誰も親切に出来ないが、同時に香奈の指示なしでは悪戯も出来ない。学園内弱者である事が明白な美波を劣情の目で見る男子生徒は多かった。それが不意に機会を得た。ごくりと男子生徒が生唾を飲む音が聞こえる気が、美波にはした。
「じゃ、じゃあボディーチェック…いきまーす」
「あれー?美波さん逃げようとするなら即犯人確定ー。ほら、きっちり立って」
既にはあはあと息を荒らげながらにじり寄ってくる斎藤に僅かに後退りかけた美波は香奈の声に凍り付く。身体検査と言うのはよくテレビ番組で見る様な軽くぽんぽんと身体を叩く感じで隠し持っているかを探すだけであり…そう思いかけ、美波は再び凍り付く。今日隠されたものは体操着と、そして……。
汗ばんだ斎藤の手が制服の上から美波の身体を這い回る。それは軽く叩く感じでもなく身体の曲線をなぞるでもなく、まるで痴漢の様に撫で回すものだった。ぞくりとする執拗な手の感触に全身が震え、同級生の前で異性におかしな動作で身体に触れられる生理的嫌悪感と恥ずかしさに顔が真っ赤に染まる。
今日隠されたのは……。
「あれ!?」
斎藤の驚きの声に奇妙な気拙さが漂っていた教室の空気が変わった。
「斎藤君、何か見つけたー?」
「……。見つけたと言うか、ない、よな…これ……」美波の胸を制服の上から撫で回す斎藤の手がゆさゆさと豊満な乳房を揺さぶる。「すげぇ……エロいや……」
ぼそりと呟く斎藤が美波を見下ろしながらにやにやと嗤う。
体育の授業で頭から水をかけられた美波が身体を拭いている間に隠されたのは、下着だった。着替えがなく密かに下着のないまま制服を着ているのだが当然下着を隠した犯人はそれを知っている。何を狙っていたのか判り涙ぐむ美波の乳房を斎藤の手がゆさゆさと揺さぶり、消えたくなる程の恥ずかしさに少女の身体ががくがくと震えだす。
「何を見つけたのー?」
香奈の楽し気な問いかけに斎藤が美波の後ろに回り込み、そして背後から回された手が学園一の美少女の乳房を制服の上から大きく掬い上げ、揺さぶった。
「――ひ……ぁ……っ!」
微かに漏れてしまう悲鳴は弱者の性的な響きを漂わせ、同級生全員の目の前で背後の男子生徒に荒々しく乳房を揉まれる美波に憐憫と嫌悪と劣情の視線が絡みつく。ゆさゆさと揺さぶる度に強烈な羞恥に全身が熱くなり、鋭く刺さる視線から逃れようと顔を逸らす程度しか抵抗の出来ない少女の乳房を揉む男子生徒の荒れた息がしなやかな髪にかかる。
「へー…美波さん何を隠してるのかしら。斎藤君しゃべってくれないからさ…出席番号順に男子全員で美波さんのボディチェックしてくれないかしらー」
「え?んなのない……」
「斎藤変われよ」
目をぎらつかせながら立ち上がった井上が美波から視線を放さないまま教壇へと向かってくるのを、生贄の少女は絶望の瞳で見るしかなかった。
気拙げに軽く叩く様にスカートのポケットだけを調べる男子生徒はすぐに香奈の一声で交代させられ、そして美波の身体を同級生の前で弄ぶ男子生徒にはたっぷりと時間を与えられる…ホームルームは既に放課後に突入しても続いていた。部活動を理由に教室を離れたのは半分程の女子生徒だけであり後は香奈の機嫌を損ねまいと視線を逸らしたまま着席したままであり、彼女達が早くホームルームが終わるのを望んでいるのは痛い程美波に伝わってきている。だが誰も香奈には逆らえない。
背後から乳房を揉まれるだけでなく、制服の上から、いや、セーラー服の脇のファスナーを密かに引き上げ乳房を直接揉みしだく猛者までおり、公開恥辱に少女の全身が火照っていた。スカートのファスナーも引き下ろされ、時にはスカートを捲り上げられ、香奈の許しが出るまで男子生徒達が代わる代わる美波の身体を愉しんでいた。修学旅行費など隠せる場所はない、それなのに、全員が判りながら誰も止めはしない。
美波の呼吸が、詰まる。同級生の3/4が眺める中の性的恥辱は当然少女の身体を弄ぶものであり、不感症などではない美波の身体は徐々に性的な刺激に反応していってしまう。梅雨前の窓が全開になっている校庭からは楽し気な部活動の歓声が届く中、息を詰めた様な教室に、確かに美波の微かな声が漂っていた。
びくっと、美波の身体が跳ねたのは男子生徒の指が既にしっとりと濡れてしまった処女地に差し入れられた瞬間だった。
「もう……もう許して下さい……っ」
悲痛な声で鳴く美波は俯き首を振りたくる。
「あらもうギブアップ?つまんなーい。自首するの?」
「わ、私は…取っていません……っ」
気を緩めればその場に崩れてしまいそうな感覚のまま必死に美波は訴える。――母親を悲しませたくないからこの学園には通いたいがこのままでは犯人にされてしまう、それだけは避けたかった。
「じゃあさ…斎藤君が何に気付いたのか皆に判る様に言いなよ」
「それは……」
斎藤の後も男子生徒達に乳房を揉まれ続け全身を弄ばれてしまった美波は自分の性的被害を口にするなど出来ずに口籠る。
「やっぱ退学?それとも窃盗犯で通報?奨学生一発失効よねーこれまでの学費払えるのー?」
「で、で……も……っ」
「寄付金も収めてない屑だもん。入学金に授業料に教材制服その他一式どうやって払うの?」
「わたし……は…、やっていません……っ」
「じゃあさ、ぺろっと捲ってみてよ。同級生が証人」
何を捲れと言われているのかを察し美波の顔が真っ赤に染まる。膝ががくがくと震えだすが香奈は名案を思い付いたと言わんばかりににやにやと笑うばかりだった。夜遊びが激しいとの噂の香奈にとっては軽い悪戯のつもりかもしれないがそれは美波にとっては絶望的な行為である。だが既に「下着をつけていません」と口で言うだけでは残酷な女王が満足するとは思えない。項垂れ、そしてセーラー服の裾へ手を伸ばす美波を信じがたいものを見る目で同級生たちが見ていた。当然だろう。元の公立中学でも成績トップだった上、一流私立ですら奨学生の条件を維持する為にそれを保っている上、香奈に虐待されてもなお挫けずに健気に学生生活をおくる香奈は品行方正な優等生そのものだった。そんな彼女が自らおかしな行動をする、させられる。これが緊張感を生みださない筈がなかった。
「はーい皆注目ー。身の潔白を証明する美波さんを皆よーく見て下さーい。あと証明写真も証明動画もあると美波さんとーっても心強いと思いまーす。――美波さん、証明写真なんだから俯くのなしね?普通の顔して、やりな?」
男子生徒達がスマートフォンを取り出すのを絶望の瞳で見るしか出来ない美波は、やがて静まり返った教室内の教壇で、裾をゆっくりと捲っていった。
恥辱の撮影の後、漸く終わったと思いながら膝から崩れ落ちそうになった美波は、香奈の言葉に凍り付く。
「他にも隠せる場所があるでしょ? 全部調べないと終わらないわよ?当然じゃない。――男子全員協力してくれるわよねー?先生も、どうぞ?奥の奥までじっくり調べる大人のチェック…見たいなぁー私」
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136『懐いてる娘』
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