Interiors
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Interiors
(Windham Hill,1982)
80年代前半のひとつの到達点、といった歴史を介した聴き方はこ
のディスクに対しては特にも避けたい。時間軸に基づく、エレクト
ロニクスの進化の過程との関係による「評価」(なんと傲慢な言葉
だろう)などは場違いであるほどに、当時の環境とは別のどこかで
極度に練り上げられた音が記録されている。一聴したところ簡素な
印象に隠されたある種の緻密さと言うか、ひたすらに響きの質感を
追及した形跡が鮮明に、音それ自体とそれらの間に存在する。
ひとつひとつの音素材の存在感は、その音量や音色の特徴とは無関
係に、常に明瞭である。この見通しの良さは音の配置が全体にゆっ
たりとしていることに加えて(引き算の発想でデザインされたよう
な印象だ)、濁りのない個々の音それ自体の集合によるはずである。
確かに空白が多い。そしてそれは時間的沈黙というよりむしろ、空
間的なそれであるように聞こえる。響きの配置に対する意識が素晴
しく行き届いているために、音は非常に視覚的に捉えやすく、両ス
ピーカの間には澄んだ空間が拡がる。そういった意味からも象徴的
なタイトルを持つトラック、「Luft(独、空気)」は、前後に重な
り合う多層の音楽である。メンバー再編後のセカンドにあたる『デ
ザイン』(下項参照)で導入された「イメージャー」というエフェ
クター同様に、音を前後に定位させる効果がすでにここでも明らか
で、このことが音のプレゼンスを高めていることは間違いない。
1分30秒の短く、柔らかな音色が美しいサックス・ソロのトラッ
ク「リプライ」を、このディスクに通底する響きの探究の原点とし
て聴くことができないだろうか。ここまでシンプルな、またそれだ
けでも音楽的である音の質感を楽しみたい。
Interiors
Design
(Windham Hill,1987)
メンバー再編後のインテリアズ(野中英紀・日向大介。ウィンダム・
ヒルからリリースした現在でもなお唯一の日本人ユニットである)
のセカンド。国内盤ライナーノーツには音質を劣化させないための
使用ケーブルの選択に至るまでのさまざまな経過がレポートされて
いる。フレットレス・ベースのリアルな低音の重み、ハイファイで、
それでいてくぐもったピアノなど、鮮烈である。
演奏にギター、ピアノなどアコースティック楽器だけでなく、シン
セサイザーもコンピュータも使われているだけにデジタルな印象が
もちろんあるのだが、その音色はとても生身の皮膚感覚に近く、エ
ロティックでもある。テクノロジーを使うのは端末操作をする人間
なのだから、そのオペレイターが自身の持つ音への微妙な感覚によっ
て望む音を機械にダイレクトに要求できるという、その手法を熟知
しているのなら、結局出力される響きは生の感触を持つのだ、の好
例と言える。音の色彩や重量感、それに密度といったものの変化の
豊かさについて考える時、シンセサイザーやコンピュータがどれほ
どの可能性を持ったものとして認知されるかは、制作時点で援用さ
れたその技術の問題だけではないという自明の事柄を確認しておき
たい。ピアノを弾くように、人間が響きを決定するのである。
例えば「N.Y.1904」。くぐもったピアノ、おそらくはタイトル通り
1904年製ニューヨーク・スタインウェイで演奏されているのだ
ろう懐古な響きだが、素早いミニマル・パターンの演奏にはライヴ
だけではなくシーケンサーも使われている。テクノロジーとヒトの
境界上にある、この完全にコントロールされたリズムとどこか暖か
いアコースティック・サウンドの融合が、彼らの技術との関係性を
よく示していることは前作のいつくかのトラックと変わりない。し
かし「Shadows of You」でのエレキ・ギターがアコースティック
の艶やかさをもってリスナーの間近で繰り返されるのを聴くと、は
じめから増幅・加工と生という二項対立にこだわりすぎることに反
省を余儀なくされもする。
収録曲は深いアンビエンスを持った広がりのあるトラック、ミニマ
ル、アブストラクトなサウンドスケープなど、多岐にわたる。それ
らがアコースティックとデジタルの融合という共通項で統一され、
アルバム全体を覆う明らかにインテリアズ独自のトーンを形作って
いる。リリースからすでに10年以上経ていながらそのことを全く感
じさせない。「欲しい音がなければ作る」(ライナーより)という
音楽上の欲求と時間の経過はそれぞれ別のことがらなのだから。
1999-2000 shige@S.A.S.
・h o m e・
・Windham Hill・