Philip Aaberg
Philip Aaberg
High Plains
(Windham Hill,1985)WD-1037
フィリップ・アーバーグの最初のソロ・アルバム。ハーバード大学
でピアノを専攻していた経歴から、クラシックのカテゴリでの仕事
をしてきたピアニストだが、ロックな仕事も多くのバンドのキーボー
ディストとしてこなしている。その後自作を演奏する活動を、ウィ
ンダム・ヒルという理想的な場所を得て続けている。
非常に確かな技術を持っているだろうことは、ピアノの素人である
筆者にもすぐに分かる。そういう演奏家が自作を弾くとどういうこ
とになるか、というのがこのアルバム。自身の演奏スタイルと作曲
が不可分であるというその関係性が非常に良く分かるのだ。演奏家
としての美点が、完全に発揮されるのはオリジナル曲なのだから。
彼のオリジナル曲の特質は、リズム指向であること、ひとつのフレー
ズを繰り返される度に厚みを持たせていくという一種の変奏に基づ
く作曲、それに静と動のコントラストである。リズム面では非常に
ソリッドなビートを刻みながら、次のリズムへと移っていく時の流
動性による、後からはっとさせられるようなマジックを持っている。
それは作曲と演奏技術の双方の意味で言えることなのだ。
もうひとつ、ミニマル的というよりヴァリエイション(変奏)にむ
しろ近い、フレーズの繰り返しと変形。1枚のディスクの中にそん
なアーバーグの音楽語法が溢れる。
しかし、彼の最大のキャラクターは、音色だ。数年前ライヴで彼を
見たが、会場を満たしきる大きな音に驚きつつ、それが「完璧」と
言いたいコントロールされたリズム(音楽の骨格)の上に成り立つ、
決してうるさくならない響きであることにはもっと驚いた。その後
で弾かれた映画『ディーヴァ』のテーマのよく通るピアニシモと静
寂が、嘘のようなコントラストを成していて素晴しかった。
もちろんCDでも彼の音色は明確に伝わる(ライヴでうれしいのは、
CDで聴いた音色が再現される時である)。決してカラフルではな
い。しかしモノクロームと言うわけでもない。よく響くピアニシモ
とうるさくないフォルテシモの対比は、ダイナミックレンジが狭い
とかフィルターのかかったような音色とか表現されるものでもなく、
これは「つや」と呼びたい何かなのだ。艶が強奏の角を丸くし、小
さな音は離れていても見える光を帯びる。
後のアルバムではヴァイオリンとのデュオによる真っ当な室内楽、
そしてサントラのテーマをソロでカヴァーしたりと、大きな振幅を
見せることになるが、彼のオリジナルな音色が通底していることに
依然として変わりはない。
1999 shige@S.A.S.
・h o m e・
・Windham Hill・